企業活性化研究会は、2012年まで「働き方革新研究会」という名称で活動してきました。働く側と経営側の両面で、イノベーション、生産性、モチベーション、従業員満足度、ワーク・ライフ・バランスなどの観点から調査分析し、その結果をベースに代表的な理想の働き方(ワークモデル)を提案提言することを目指してきました。しかしながら、平成不況やリーマンショックからの企業業績の低迷、年金積立不足などが問題となり、リストラせざるを得ない企業が続出、さらには、東日本大震災が追い打ちとなり、日本経済および働く場所の確保には大きな打撃となりました。こうした状況から、労働者が安心して働けるためには、働く場となっている企業が活性化し、利益を出すことで従業員満足度につながる施策を展開していけることが重要であるとの認識から、名称を「企業活性化研究会」に変更し、主として活力ある企業を分析研究することで、企業の元気要因と働き方を明らかにし、日本企業の活性化に貢献することを目指してきました。
近年、働き方改革に関する議論が盛んになり、働き方改革法も成立しましたが、生産労働人口の減少、主要都市への人口集中、地方の疲弊と働く場のなさ、AIやIoTの進化による仕事内容の大きな変化に加え、イノベーションやインキュベーションのさらなる活性化など、日本の成長や生き残りにかかわる大きな課題があり、こうした課題の解決という観点から、働き方のあるべき姿を検討することが重要と考えてきました。ここでは、まず、働き方に関連する項目の現状を列記し、海外との比較等で、日本での働き方の課題を明確にします。そして、我が国が目指すべき未来社会の姿として内閣府の科学技術政策で提唱された「Society5.0」の新しい時代に対応した働き方に言及します。なお、政府の「働き方改革実行計画」では、日本を活性化するための企業側の対応についての検討が不十分と思われ、そうした観点での施策について言及したいと思います。
1.働き方に関連する事象の現状認識
高齢化社会および生産年齢人口減少への対応
高齢者の活躍の場を確保する必要性に迫られています。また、組織内の年齢構成が上昇しているケースも多く、組織の活力をいかに維持するかが重要な課題となります。若手の活躍の場が阻害または制限されることのないよう注意する必要があります。
定年延長や再雇用により働く年齢は延びても、役職から外れ、収入も大幅に減るケースが多いため、働き甲斐や働く意欲に課題があります。また、高齢者自身も健康寿命を延ばすように努力する必要があります。企業にとって、高齢者雇用がリスクにならないように健康管理が必要になります。高齢者自身の意識改革も迫られます。
地方の高齢化はさらに深刻であり、シャッター街の増加、空き家や耕作地放棄が問題となっており、地方での働く場の確保やにぎわいの創出が課題です。過去に進出した工場や施設の縮小や閉鎖は、地域の急激な過疎化に結びついています。
中小企業の後継者問題は深刻で、その企業の存続だけでなく、高度な技術や部品部材の供給がなくなることは、最終製品の出荷停止や品質低下に直結します。後継者が決まっていない中小企業は100万社以上にのぼるといわれ、廃業か売買による存続が模索されているのが現実です。
人手不足への対策
景気低迷からの脱却に支えられ、募集しても人が集まらないという企業が多くあります。労働力不足が深刻となっています。そこで、社内環境の改善や残業削減のアピールによる退職防止、外国人の採用枠の拡大などの施策がなされています。すでに、日本での外国人雇用者は2016年に100万人を超え、年々増加しています。ただし、制度上の課題のほか、近年は外国人雇用で他国との競争が始まっており、必要数の人材確保が難しい状況です。一方、将来、不況になったときのリスク(人あまりの発生等)については語られることが少ないようです。
非正規職員の増加と社会構造の変化
人材育成や中長期的な展望などの観点から、時代背景などやむを得ない事情があるにせよ、非正規従業員の増加は経営(組織)側にも働く側にも課題となっています。(雇用形態で、正規雇用 3,467万人、非正規雇用 2,104万人となっています)
国の研究機関の若手研究者の多くが非正規(任期付き就労)の状況であり、高学歴研究者の育成や就職、研究予算のあり方を検討する必要があります。大学教員も任期付きや非常勤が増えているのも問題でしょう。
非正規での低収入により、奨学金やローン等の返済が不可能となるケースが多発しており、さらには自己破産の増加などが社会的な問題になっています。貧富の二極化の原因にもなっています。長寿命化が進むなかでの低収入は、将来の社会に大きな影響を与えます。
社会経済環境の変化やビジネスモデル変化への対応
オフィス業務のICT推進により、スタッフ要員の削減が進んでいます。大規模な事例としては、低金利による業績悪化への対応とネット化の進展による業務内容の変化により、銀行職員などの大規模な職員削減や職種転換が実施または計画されています。どの業種でも、スタッフ系の事務や定常的な単純作業は減り、人員配置の見直しに迫られます。
管理職の古い意識が弊害となるケース
ピラミッド型の組織構成の崩れや組織のフラット化により、中間管理職の役割や職業意識の変化が求められています。また、部下を持たない管理職も増えており、年齢的に管理職対象者が増加することへの対応と役割の見直しが必要となっています。
一部では、物理的に把握できるところに部下がいることを求め、時間や雰囲気で評価し報酬を決めるケースが見受けられます。成果で判断するという概念がまだ未定着の状況といえ、こうした状況はテレワークの普及や働き方改革の阻害要因となります。
地方での雇用の減少、首都集中の課題
地方創生の政策に基づき、地方ごとに施策を作成していますが、画一的な施策となっているため、地方間の競争になり、顕著な成果があがっていないのが実情と思われます。一部に、地域が活性化した事例も報告されていますが、局所的な展開にとどまっています。
地方は企業の工場を積極的に誘致してきました。しかし、工場の生産設備の自動化により雇用が減少しています(生産工場の多くは、機械のメンテナンス要員以外に人がいらなくなっているのが現実です)。雇用の面からは、従来の工場誘致方式に限界がみえており、IT系のブランチオフィスやコールセンターなど、確実に雇用が増加する企業の誘致に転換している地域が増えています。
企業の首都圏集中により、通勤の長時間化と混雑、生活費(特に住居費)の値上がりなどのほか、精神的疲労の増大などが課題となっています。BCPの観点からも、首都圏集中の解消が求められ、一部の省庁でもサテライトが短期的に試行されていますが、まだ検討の段階で実際には進んでいるとはいえない状況です。(まち・ひと・しごと創生本部では、平成28年に“政府関係機関の地方移転に係る対応方針”として、地方からの移転の提案をまとめていますが、具体的な検討状況は不明です。)
企業の働き方改革の試みのいくつかは進展
有給休暇の取得推進、残業制限、副業の許可または奨励、テレワーク適用、ダイバーシティなど、先進的な企業では種々のアプローチが実施されています。テレワークをサポートするマネジメントツールなどもいくつか開発されています。
オフィス環境の改善(例:共有作業スペースや共創空間およびフリーアドレスの採用によるコミュニケーションの充実、大画面マルチディスプレイによる職場間の交流、さらにはフロア内の階段設置やスロープ方式によるフロア間でのコミュニケーション強化、早朝出勤の奨励と朝食の無償提供、社内保育所設置、リラックスできる空間の設置、自然環境との融合など)も一部の企業で進んでいます。また、異業種のマッチングやサテライト的に使える共有オフィスも不動産関連企業などが主に首都圏を中心に開設しています。
地方においても、使われなくなった保養所などの施設や廃校校舎を活用してオフィスとして整備し、企業を誘致して成功しているところがあります(例:和歌山県の白浜町ITビジネスオフィス)。
定型的業務の自動化推進、IoTの活用、セキュリティ対策、ビッグデータやAIの活用など、業務プロセスやプラットフォームの改革、ビジネスモデル革新なども一部の企業では進んでいますが、多くの企業で、取り組みが遅れているのが実情です。
イノベーション発揮や競争力強化に関するアプローチは試行錯誤レベルが多いようです。大企業のR&D投資は一部を除き、まだまだ抑制の傾向が続いており、創造性のある人材の発掘と活用が進んでいないと思われます。
企業に属さない働き方の課題
個人で仕事をする人、自由な働き方を求める人に対するサポートも広がっています。クラウドソーシングの活用、起業サポート、個人でも利用可能な会員性オフィスなど、働く環境は整いつつあり、大きく飛躍できるチャンスもあります。しかし、収入や社会保障、信用力の面での不安定性、企業が個人と取引をする場合に制限を設けているケースがあることなど、課題の多い働き方でもあります。それでも、フリーランス人口は日本でも世界でも増加しています。
2.海外との比較
平均労働時間の長さ
ドイツでは、平均労働時間は1,366時間(日本1,729時間)で、日本と比べると20%短くなっています。労働時間あたりのGDP=国内総生産は、日本の1.5倍です。短時間労働で高い生産性を実現しているといえます。労働時間貯蓄制度(残業時間を口座管理し、その時間を他で使うことができる)があり、実質的に残業時間を減らしている事情もあります。
欧米の一部では、残業を「悪」とみる発想があります。こうした発想の企業では、残業手当よりも評価が下がる影響が大きく、それが残業の抑制にもなっています。
時間や休暇の使い方
北欧等では、1日6時間労働制を導入する大手企業があります。休暇は連続で3~4週とるのが一般的となっています。オランダでは週休3日制がかなり普及しています。(ただし、北欧等は、日本とは社会構造や制度などが大きく異なり、ひとつの項目だけで比較すると、誤った判断をする場合があります。税制についても、消費税25%などのように税率は高く給料は高くても手取りは少ない実態があります。考え方としては、高負担高福祉です。)
ノルマが終われば、早く休める制度(時間管理からタスク管理へ)を採用する企業もあります。
海外では、連続で長期の休暇をとるのが一般的です。一方、「世界28ヶ国有給休暇・国際比較調査2016」では、日本の有休消化率が最下位となっています。
日本の労働生産性(就業1時間あたりの名目付加価値)の低さが顕著とのデータ
時間あたりの労働生産性は46ドルで、OECD35か国で20位、先進7か国で最下位の状況が続いています。米国(69ドル)の67%です。一人当たりの労働生産性は、81,777ドルで21位となっています。
労働生産性の年平均伸び率は、OECDの平均より多少低い状況です。(なお、比較する数字の扱いなど、これらのデータに対し異論もあります)
人口減少対策や失業の実態、人材教育等
フランスでは、充実した家族手当給付(制度は1932年からスタート)や育児支援(育児休暇、時短)制度など手厚い家族政策で人口を維持してきました。一方で、失業率は10%と高く、特に若者の失業は危機的状況です。公務員の比率が高く、終身雇用を前提としており、平均勤続年数が長いのは日本と同じです。ドイツを除き、総じてヨーロッパの失業率は高いのが実態です。
ドイツには、Ausbildung(アウスビルドゥング)という若者の職業教育の制度があります。座学と職業体験で構成され、多少の給料ももらえます。3年間でプロフェッショナルを育成する制度は失業率の低下に役立っているようです。
専門性への認識や扱い
欧米(特に米)では、自分の専門について定められた役割分を働くことが責任となっています。専門性を重視するため、働く側にも大きな裁量権が認められます。一方、日本では、一般に総合的に能力を発揮することが重視され、評価も高くなる傾向があります。こうしたことから、今後必要となる重要技術で他国に後れをとる可能性があります。
オフィスと業務
海外企業では、企業の属性や特質に応じた多様なオフィスが展開されています。遊びの要素を取り入れたオフィス、家庭的な雰囲気のオフィス、個人エリアを自由にデコレーションしているオフィスなど、企業のカラーに応じて組織ごとに特徴のあるオフィスを演出しているケースが見受けられます。オフィスに対しては、コストでなく投資と考えて、レイアウトや設備備品を工夫します。
海外企業での会議時間は全般的に短い(1回あたり10~30分)のが一般的です。会議時間を削減し、意思決定のスピードを向上させています。日本でも、資料の事前掲載や配布、立ち会議の採用などで時間の短縮を図るケースも多くなっていますが、まだまだ工夫の余地があると思われます。
3.日本の働き方の課題と解決
やる気を損なわない働き方、働き方の多様化の必要性
寝食を忘れて仕事を楽しむ、いわばオタクのような人は、特定の分野で非常に高い生産性と専門性を発揮し、高度に集中したときに素晴らしいアイデアが生まれ、製品化商品化に結びつけることで、企業に大きく貢献することがあります。こうした自律型で働く人達にも時間の概念を適用するのかについては疑問がありますが、一方、不適切な裁量労働や長時間労働の現実をなくすこととの調和をどのようにするかが課題となります。価値観の多様化や仕事の内容の変化に対応した多様な働き方を認めていく必要があります。
生産性と評価の関係の明確化
日本では、生産性で仕事を評価することは少ないのが実情です。定型業務以外では、生産性の定義が曖昧で、明確な評価尺度をつくるのが難しい点が課題となっています。特に、付加価値の成果に対する判断尺度の不明確、評価に対する管理職の教育訓練の不十分さなどを解決する必要があります。目標設定シートなどを利用して達成度評価をしている場合、設定される目標が、確実に達成できるような能力に比べ低いレベルの目標や抽象的で評価に結びつかない目標となっているケースが多々あり、運用が課題となっています。
企業のあり方、企業と人の関係、個人と組織のパフォーマンス向上等の検討
チームやプロジェクトで最高のパフォーマンスを出すには、企業の組織のあり方、企業と従業員の(契約)関係、チームやプロジェクトでの人の集め方、個人との業務委託契約などに多様性が求められますが、このような柔軟さが検討されることはあまりありません。パフォーマンスの高い従業員の能力を最大にする組織のあり方についても考える必要があると思われます。(米グーグルでは、チームの生産性について調査する“プロジェクト・アリストテレス”が実施されたことが知られています。)
人の流動性の確保
転職のない日本的な終身雇用型の良いところもありますが、雇用の流動性の少ない社会では転職へのリスクが高く、本来の能力が発揮できないケースもあります。雇用の安定に加えて、転職でキャリアアップを目指す外資系企業のようなアプローチをとれるような施策も求められます。一方、転職先でうまくいかなかった場合に、どのような対応ができるかも課題となります。また、介護などの家庭の事情や本人の勉学等で一定期間、組織を離れざるを得ない場合にも、希望すれば復職や再就職ができる制度の普及も必要でしょう。
生産年齢人口の減少への対策
生産年齢人口(15~64歳)は今後も急激に減少します。建設や介護、製造などの現場では、現在でも外国人の登用なくしては立ちいかない状況です。外国人技能実習制度については、いくつもの課題が報道等で紹介されていますが、抜本的な制度の見直しをしてスピード感をもって実施する必要があるでしょう。研究や技術開発、スペシャリストのような高度の知的職業においても、もはや世界に人材を求める必要がありますが、こうした仕事に従事してきた人が年齢の制限だけで退職するのはもったいないと言わざるを得ません。一定の条件を満たした人に対する定年制度の見直しや高齢者の活躍の場の確保が必要と思われます。ダイバーシティ(多様性)の推進が叫ばれていますが、進んでいないのが実態といえるでしょう。海外との競争力強化のために、本質的には、人口増への対策を早急に具体化する必要があるといえます。
有給休暇取得の困難さの解消
有給休暇の制度を利用するための仕組み(仕事の代替ルールなど)がないため、長期の休暇取得が実質的に不可能な状況となっている場合が多く、長期の休暇を取った場合には、仕事の進捗や品質が不安になり、時々会社と連絡をとるようなことがあります。こうした心配をしないで休暇を有効に活用できる仕組み(業務内容の“見える化”と共有、スケジュール調整管理、代替制度、目標達成管理など)が必要になります。また、まずは管理職に対し、強制的に長期の休暇体験をしてもらうなどの施策も有効かもしれません。
業務プロセスの非効率性の改革
最近はあらゆるものを“見える化”しようとする試みが盛んですが、見える化した後の改革が進んでいないのが実態と思われます。改革に対する推進体制を経営者とともに確立する必要があります。また、多くの場合、本質的な改革ではなく、改善のレベルとなっています。トップダウンによるドラスティックな革新を必要とする場合もあります。また、主要先進国に対し、生産性が低い真の原因の追究も必要でしょう。
4.Society5.0時代の働き方へのアプローチ(施策)
AIの進展による定型的なオフィス業務や生産製造のさらなる自動化に対し、付加価値の高い仕事に移行できるように早急に職種転換計画と人材育成計画を立案すること
予想される業務の変化の例のいくつかを以下に示します。
オフィス業務
RPA(Robotic Process Automation)によるデータ入力や中間処理などの定型業務の減少、データ自動検索や自動生成によるデータ作成作業の減少、ロボット導入やワンストップ処理推進による窓口業務の減少など(これらの自動化推進により、パワーポイントやエクセルなどを使う作業も減少します)。
建築、土木、工場での組み立て現場、農業などにおける作業
IoT(種々のセンサーやLPWA(Low Power Wide Area)などの活用)による人的作業や監視業務の軽減、生産工程での自動化の進展による人的かかわりの減少、現場チェック確認作業の軽減、ドローンの活用による三次元モデルや三次元測量の省力化など(必要としてきた現場ベテランのスキルが、機械の制御や操作のスキルなどに変化し、それもやがて自動化されると想像されます)。
経営者や中間管理職の役割
情報共有とAIの適用による経営データ等の充実で経営判断が迅速化できること、フラット組織化の進展による管理職の削減と役割を変える必要があること(こうした変化は終身雇用にも影響を与えます)。
製造工場での作業員の役割
設備や施設の維持が主な仕事になり、自動化機器のメンテナンスや企画改良にかかわる要員への転換とスキル向上が必要です。機器が高度化するほど、ブラックボックス化が進み、保守方法の再検討が必要です。また、製造工場は、人の集めやすさや人件費の要因にとらわれなくなり、輸送コストの少ない場所が選ばれ、日本回帰と海外向けに対しては海外での現地化の進展を予想します。
データサイエンティスト、AIシステムアナリストなど新しい知識を活用できる人材の獲得または育成に留意し、自律的に働ける環境とすること
今後、直感的な判断による施策の策定ではなく、ビッグデータや客観的な事象を用いた判断がさらに重要になります。データをどのように採取するか、集積されたデータを有効に分析するかには、高度な知識を必要とすることがあります。この例のように、新しく生まれる分析や企画の業務にどのように対応かが課題となります。
仕事と労働者配分のミスマッチを解消すること。専門性が必要な業務では、外部の人材の活用なども考慮すること
ビジネスモデルの変更や業務プロセスやプラットフォームの改革などによる役割の変化に対応した人的配分が必要です。ビジネスの変化のスピードがはやくなると、必要となる専門分野にも変化がおこる可能性があります。こうした場合には、特定の分野で専門性の高い人を長期的安定的に雇用し続けることは、企業および雇用者両方にとって幸福とはいえない状況となる可能性もあり、高度人材の流動化に対するサポートがより重要になると思われます。また、専門性の高い仕事に対しては、組織外の人材のサポートを受け入れるような制度やルールも必要でしょう。
イノベーションを起こす自律型の働き方を推進すること(イノベーション主導経済を目指す働き方の推進)
自発的な行動や提案を促進する制度をつくり、そうした行動に対し高い評価を設定すること、外部(異
業種、同業を含めて)との交流や産学連携の推進し、外部の情報に敏感になること、一部のフロアを業界や競合の枠を越えて集まることのできる自由度の高い働く場として試行すること、社内外を含めた起業支援制度の充実や雰囲気づくり、研究開発投資の増額、スキルアップに対する支援を充実すること(副業を許可する場合、その目的を主にスキルアップとすることが理想)などの施策が考えられます。
地方での働く場の創生に自治体と大学が貢献すること(大学とベンチャーを核とした創造的な人の集積をめざした施策の推進)
地方都市の生き残りには、若い人が目的をもって集まることが必要です。施策のひとつとして、地方の大学を核とした新しい産業の育成、または大学および研究機関やベンチャー企業の誘致による働く場の創出も考えられます。大学も淘汰の時代となり、特徴特色を明確にすることが必要です。有望な新規技術やアイデアの実現などが出てくれば、必然的に人が集まります。この例としては、山形県鶴岡市の慶應大学誘致、そこから生まれたいくつかのベンチャーによる人の集まりがよく知られ、国際会議もその地で開催されています。その他、大分県別府市の立命館アジア太平洋大学など、地方の比較的新しい大学は外国との交流に特色を出そうとしているケースが多くみられ、外国からの学生や職員も多く受け入れ、地域の活性化に貢献しています。自治体の積極的な関与と中長期的な観点でのサポートが成功のカギとなります。
業界の常識や慣習にとらわれない経営判断で働き方改革の本気度を示すこと
働き方改革では、経営者と従業員が協調して推進することが重要です。そのためには、経営者は思い切った施策を提案し、ICTやAIの駆使も考慮して、その実現に向けた実行計画を全社で検討し、従業員の理解を得ることが必要です。大胆な改革ほど経営者の考えを浸透させることが重要となります。たとえば、サービス業では、顧客の極端に少なくなる日時の営業を見直し、その分を営業日の強化に充てることで、利益を増やしながら労働時間を減らすという代替手段を実現した企業もあります。
働き方の多様化に対応して、ルール(企業と個人の関係、勤務体系、評価等)を見直すこと。そして、働く目的や働きから得られるものについて全社で共有すること。改善から改革に転換すること
労働時間・賃金・役割などと、やりがい・幸福度・満足度などとの関係について、充分にすり合わせができていることでスムースに業務が進みます。このためには、前章の日本の働き方の課題で述べたことに関して、着実に解決していくことが必要です。業務プロセスや品質については、これまで“改善”をキーワードとしてボトムアップ主体の活動が展開されてきました。今後は、“改革”をキーワードとしてトップダウンでの実践を主体にすることが必要でしょう。
国際化のさらなる進展への対応も重視すること
外国人との接点(部下、上司、同僚、および顧客や業界関係者)が当たり前の状況となり、プロジェクトでの協同作業の機会も増加します。文化の違いの許容も重要ですが、コミュニケーションに対する気遣いがより必要になると思われます。中小企業のビジネスにおいても、海外の国際的な展示会への出展をきっかけに知名度があがり、ブランドとして認知され、売上に貢献した例が多数報告されています。失敗を恐れずに挑戦する姿勢が重要です。
先端技術を活用し、事業リスク対策や事業継続計画(BCP)を考慮した働き方とすること
東日本大震災の後には、各企業がBCPの策定に注力しました。この時からは、通信やシステムの環境は格段に進化し、オフィス系の業務はどこにいても可能となっていますので、事業リスクへの対応は今一度、見直すべき時と思われます。最近では、大阪北部地震が発生し、非常時対応の大切さが痛感させられています。大都市の通勤を前提とした業務では各種のリスクに対応できないことは明確です。セキュリティ対策を充実して、情報技術を最大限利用し、地理的分散や在宅での業務遂行も考慮すべきでしょう。これにより、地方都市の発展、サステイナブルな地方再生にも貢献することができます。地方の行政の誘致策、補助金制度などの活用も考えられます。
5.最後に
働き方改革について、マスコミ等で長時間労働やパワハラ問題が連日とりあげられています。これらは、早急に解決しなければならない課題ではありますが、ここでは、日本社会の活性化、国際競争力の強化、日本の成長を支える働き方は何かという観点で、現状の働き方の課題と企業が推進していかねばならない対応について考えてみました。まだまだ深堀や具体的な検討が必要であり、検討の途中の段階ではありますが、何かの参考になるかと思い、とりあえず、レポートいたしました。
検討の参考とした主な資料等を以下に示します。
働き方改革実行計画 2017.3 働き方改革実現会議
未来投資戦略2017-Society 5.0 の実現に向けた改革- 2017.6 日本経済再生本部
新産業ビジョン 一人ひとりの、世界の課題を解決する日本の未来 2017.5 経産省
日本経済2016-2017 好循環の拡大に向けた展望 2017.1 内閣府
第4次産業革命における構造分析とIoT.AI等の進展に係る現状及び課題関する調査研究 2017.3 三菱総研(総務省)
情報通信白書(データ主導経済と社会変革)平成29年度版 2017.7 総務省
情報通信白書(人口減少時代のICTによる持続的成長)平成30年度版 2018.7 総務省
未来投資戦略2017を読み解く(みずほOneシンクタンクレポート) 2017.7 みずほ
Society 5.0実現による日本再興~未来社会創造に向けた行動計画~ 2017.2 経団連
Society 5.0実現に向けた行動計画~WG報告書集~ 2017.2 経団連
産学官共同研究におけるマッチング促進のための大学ファクトブック 2018.5 経団連&経産省&文科省
テレワーク関連ツール一覧 第2.0版 2017.3 日本テレワーク協会
働き方改革事例集 2017.9 経団連
攻めのIT経営銘柄2018レポート 2018.5 経産省
このほか、当研究会で実施した企業訪問&経営者ヒアリングによる調査結果、協議会の他の研究会で実施された講演等の内容、働き方改革に関連するテーマでの企業の公表資料なども参考にしています。
以下に当研究会の検討メンバーを示します。
研究会コアメンバー
(座長) 岡田 正志 B&Tコンサルオフィス 代表
桐山 太一 ㈱アーク情報システム 営業部マーケティング担当部長
串田 昭治 ハンドリームネット㈱ 常務執行役員
椎名 清史 椎名公認会計士事務所 所長
仙石 泰一 ㈱三技協 代表取締役社長
坪本 裕之 首都大学東京 都市環境学部 地理学教室 助教
森本 俊彦 ㈱イトーキ 業務管理統括部 BPR推進室長
(所属は 2018年6月 時点)
*1 本レポートに対するご意見等は、以下にお願いします。
BPIA事務局 sec@b-p-i-a.com
または、岡田 masa2-okada@ae.auone-net.jp
*2 研究会への参加をご希望の方は、事務局までお問合せください。
(ただし、BPIAの会員になっていただく必要があります)