bpia_logo

【 提 言 】
「全国民が楽しく意欲的に働ける国家」の実現を目指して

働き方革新研究会/2010 年 10 月


本提言についてコメントやご意見等をお寄せください。→ コメント
pdf 447KB BPIA 働き方革新提言(11 月公表版).pdf

目 次

1.提言の趣旨

2.日本における働く環境の現状と課題

  1. 労働意欲の減少
  2. 労働機会の縮小
  3. 高齢化少子化問題の深刻化(年金等の関連問題を含む)
  4. 優秀な人材の活躍機会の減少

3.“全国民が楽しく意欲的に働ける”環境とは

  1. 労働意欲がわく環境であること
  2. 労働機会が開かれていること
  3. 高齢者でも積極的に社会の一員として貢献できること
  4. すべての人に活躍の機会、知識や能力向上の機会が与えられること

4.「全国民が楽しく意欲的に働ける国家」を目指した施策の案

4−1 長期的な観点
4−2 中〜短期的な重点施策
  1. 専門性を活かせる就業形態、専門性の高い人の働く場所の確保、専門性の高い人材の流動化による就業転職支援、自国優秀技術の海外流出防止
  2. 時間や場所の拘束のない就業形態の普及(流れ作業型工場を前提とした時間拘束型管理形態の変革)
  3. 世界で活躍できる人材の育成
  4. 地方(都市周辺地域を含む)での就労支援や事業の優遇制度の実施
4−3 その他の施策
  1. 若年層の労働意欲の高揚
  2. 高齢者(定年となった人を含む)の就労の支援
  3. 起業の活性化、新しい職業の開拓、有効な投資の促進
  4. ものづくりの中核となる中小企業への支援の強化(中小企業での労働の確保)
  5. 組織のコスト構造変革(高コスト体質からの脱却)の啓蒙と支援施策
  6. 全国民での働き方改革の推進

5.さいごに

参考

ページトップ

「全国民が楽しく意欲的に働ける国家」の実現を目指して

1.提言の趣旨

ビジネスプロセス革新協議会(BPIA)『働き方革新研究会』では、「全国民が楽しく意欲的に働ける国家」の実現を目指して、「働き方」に関連する施策を提言すべく、現状の分析と改革の方向性について鋭意検討してきた。一方、平成21年12月30日に閣議決定された新成長戦略〜輝きのある日本へ〜に基づき、各省庁や団体がそれぞれ、成長戦略と政策をまとめている。これらは、各組織の立場からの戦略であり、現在のところ、一貫性や論理性に関して、また、観点を変えて異なる視点で、これらを横グシで検討されてはいない。そこで、これらの成長戦略とわれわれの提言をマッピングして考えることにより、また、われわれのこれまでの事例研究や討論で得られた見識を加えることで、より具体的な提言が可能になると考え、研究会として、働き方に特化した範囲での提言をまとめることにした。

本提言においては、“閉塞感のある日本”から“将来に夢と希望をもてる日本”に変えるため、働き方をどのように変えなければならないかについて言及する。まず、働き方の観点で、現状の課題を明確にし、その解決にあたって、どのように社会、企業、個人が変化しなければならないかを言及する。そして、長期的なビジョンを前提に、官および民で短中期的に実施すべき施策を提言する。

目次

2.日本における働く環境の現状と課題

日本における労働環境の変化として、考慮すべき重要なポイントを述べる。経済的成長の鈍化、急速な高齢化と少子化、地方の疲弊、アジア諸国の台頭、欧米諸国の経済不安と長期的円高傾向などの要因が、日本の労働環境に大きな変化をもたらすとともに、そこからもたらされる閉塞感が働く意欲と活力を低下させるという悪循環が多方面で見受けられる。これらに関して、以下に述べる@からCの4つの観点を重要なポイントと捉える。

  1. 労働意欲の減退
    • 非正規職員(低賃金労働)の増加、社内失業者(業務非適応者)の増加、こころの病の増加
      将来の希望や生活の安定への展望が描けない人が増加している。仕事への意欲の減退は本人ばかりでなく、組織への影響も多大であり、組織の生産性低下の一因ともなる。
    • 増えない賃金、正規職員と非正規職員の賃金格差
      経済成長が低下し賃金の上昇が望めない状況や、正規社員と非正規社員の賃金格差は、モラル低下ばかりでなく、社会不安の要因にもなりうる。
    • 成果主義の弊害の顕著化(不透明な評価、被評価側と評価側の感覚の格差、報酬への反映プロセスの不明確さ、短期的な成果の強調)
      多くの組織で成果主義を導入したが、実行面で、関連する既存制度との矛盾や管理者の意識改革の遅れなどにより、不平等感の拡大など種々の問題をかかえている。また、評価との関連で、結果的に短期的な成果を重視する傾向になり、目標が小さくなって大きな成果と結びつかず、長期的な戦略事業ができないなどの弊害が起こっている。
    • 労働格差の拡大(企業間格差拡大など)
      同業においても企業業績に格差がひろがっており、それが労働条件の差を生み出している。業績の低迷は従業員のモチベーションに影響し、負の連鎖をおこしている企業もある。
    • ワーク・ライフ・バランス(WLB)の掛け声倒れ(日本人の仕事意識、仕事の仕方を変えようとする改革意識の未熟)
      日本では残業削減や有給休暇消化の推進、育児制度などの施策がWLBととらえられることが多いが、生活(人生)と仕事との関係に対する意識改革はほとんど進んでいない。このことが、メリハリなく働くことによる生産性低下や働き方変革が進まない一因ともなっている。
    • 魅力があると感じられる仕事の減少(新規事業や研究開発への投資の減少、非効率なプロセスがもたらす中間管理業務や制約の増加)
      社会への閉塞感などの要因もあるが、最近、やりたい仕事が見つからないとして、フリーターやとりあえず派遣社員として働く人が多く見受けられる。企業などの組織内においても、研究投資の減少、ものづくりの海外移管、業務プロセスの複雑化、管理的な仕事の増加などにより、仕事に魅力を感じない人も増えつつある。
    • 若者のどん欲さの減退
      豊かでゆとりのある世の中で育った世代は貪欲さに欠ける傾向がある。「自己の我儘とやりたい仕事」の勘違い、「働く意義や努力で生活を確立する」意識の欠如などが問題となるケースも多い。企業はその再教育に多大なコストを使っている。
    • 女性のキャリヤーパスの未整備
      近年、性別に関係なく働く社会になってはいるが、出産子育て後を含めた女性のキャリヤーパスが確立されている組織はまだまだ少なく、その整備が課題となっている。
  2. 労働機会の縮小
    • 働く場所そのものの縮小
      グローバル化による製造開発組立の海外移管の増加、海外部品の購入による製造部門の縮小、景気低迷等による地方工場の閉鎖、グローバル企業のアジア拠点の日本撤退、日本企業の本社機能等の海外移転、不況による業務縮小や支社支店の統廃合による従業員の削減等により、働く場所や機会が縮小している。
    • 消費低迷、購買力低下による産業の縮小
      将来の社会不安から消費より貯蓄への傾向の増加、少子高齢化による消費行動そのものの減少、景気の低迷などにより、産業が縮小。製品の低価格化傾向により、製造部門の海外への移管がますます加速している。
    • 中小企業の疲弊、地方のシャッター街化
      大規模SCやインターネットショッピングの普及により小規模商店の売上が減少し、シャッター街化が進んでいる。部品加工などの中小企業や町工場の仕事はますます減少し、閉鎖や倒産が増加している。こうした状況は、街のさらなる衰退を引き起こす。
    • IT 化や自動化による職種の減少や職種転換の必要性の増大
      従来は人が行っていた作業がIT化(自動化)されることで、職場を失うケースも多いが、その場合の職種転換がかならずしもうまくいっていない。
    • 日本での基幹機能の衰退(ハブ空港や港湾、金融関係)
      アジアでの中心的機能がシンガポールや香港に移り、日本の地位は大幅に低下している。外資系の日本オフィスを縮小または閉鎖するところも多く、職場が縮小している。
  3. 高齢化少子化問題の深刻化(年金等の関連問題を含む)
    • 急速な高齢化による経済活動全体の低下
      国の人口も高齢化しているが、組織の年齢構成も高齢へシフトし、中間管理職の増加、企業収益や賃金体系への影響などの課題がクローズアップされている。右肩上がりの経済成長は限界であり、経営の考え方も変えざるを得ない段階になっている。
    • 年金制度の不安定化による高齢者生活保障の課題
      多くの企業で企業年金基金の運用の失敗から年金積立不足となっており、企業年金の制度変更や見直し(年金額削減、終身から有期制度へ)が行われ、年金での生活維持が困難になっている。また、公的年金への信頼性欠如等により、将来の生活不安要因が増加している。
    • 高齢での収入確保が困難、生活保護世帯の増加
      年金の 65 歳支給にともない、65歳までの雇用が要請されているが、実際には、60歳以降は定年延長でなく再雇用で一年契約更新とする企業が多く、雇用が継続されたとしても賃金は大幅に減少する。高齢での雇用形態での仕事はほとんどなく、年金だけが頼りとなる。一方、年金に比較して生活保護の金額が見劣りしないことから、働く意欲を持たない人たちがいるという現実もある。
    • 一人暮らし世帯増加による社会不安、街の活気の低下
      世帯構成の少人数化は消費行動や経済活動を減少させるばかりでなく、周囲とのコミュニケーションを低下させ、街の活気をなくすという社会不安の要因でもある。
    • 人口減による優秀な人材の絶対数の減少(研究開発における他国との競争に試練)
      人口が多いということは、優秀な人材の絶対数も多い。決して人数比の問題ばかりではないが、優秀な人材をいかに育てるかは重要な課題である。産学官が連携した人材育成の議論の不足が感じられる。
  4. 優秀な人材の活躍機会の減少
    • 製造、研究開発、管理技術の空洞化、研究開発力の低下
      短期的な経営指標達成の重視、研究費削減による基礎研究放棄、国の予算削減などの影響で高度な技術者や科学者が適切な職につく機会が減っており、海外に職を求めるケースも見られる。また、製造技術の海外流出(日本企業の定年退職者が海外企業にスカウトされることによる技術の海外移転等を含む)による日本国内の技術の空洞化も問題である。
    • 新産業、新ビジネスの芽生えの少なさ
      新しい産業やベンチャーが育つことが少なくなっている。ベンチャーが失速するケースも多く、日本のVCが短期の資金回収にはしり、中長期の育成や経営基盤確立に力を入れていないことも一因となっている。
    • 研究事業に対する国の支援の減少
      アジア諸国にくらべ、国が重点分野にまとまった資金を提供することが少ない。最近は、企業単位では扱えない基礎技術研究や基盤技術も重要であるが、こうした分野では他国の後塵を拝すことも多い。専門コーディネータのような調整役が不足していることも原因である。また、事業の推進が確保されなければ、人材も育たない。
    • 規制等によるアイデアのビジネス化の困難さ、イノベーションの低迷
      各種の規制や審査スピードの遅さが新産業や新技術、新ビジネスの発展の妨げとなっているケースがある。こうした制約がイノベーションの動機づけを阻害している。
    • 大学教育の大衆化、ゆとり世代入学による基礎力不足、学生の絶対数減少
      日本の大学は国際的にみると評価が低い。研究や教育の実力を向上させるには、全世界から優秀な学生が留学して来るような大学にするという大学側の意欲が求められる。
目次

3.“全国民が楽しく意欲的に働ける”環境とは

楽しく意欲的に働ける環境や条件とは、前述の現状の課題を解決することであり、以下の4つに整理することができる。少子高齢化社会、経済状況の悪化、グローバル化による外部要因の影響の受けやすさなど、厳しい面も多いが、4つの環境の実現をめざした政策を打ち出す必要がある。

  1. 労働意欲がわく環境であること
    • 中長期的な事業戦略が明示され、それを実現する具体的な施策が共有され、全員がその実行を目指して仕事に向かえること。事業戦略では、全員が誇りを持てる目標が明示されていること。
    • 正規職員、非正規職員問わず、仕事内容に準じた給与が支払われること。組織の全員が楽しく働け、また組織内の課題がオープンに話し合え、生産性向上などの意識が全員で共有されるように、コミュニケーションが活性化していること。組織はシンプルであり、オープンであること。また、業務が“見える化”され、業務のプロセスが明確になっていること。
    • 労働に対して正当に評価されること。評価および給与決定にあたっては、決定のプロセスを明確にし、全員の納得性をあげるよう努力すること。プロセスは全員の意見を反映して、常に改善されていること。
    • メリハリをもって働けること。時間労働から付加価値労働へと仕事に対する意識を変え、積極的に休暇を取得活用できること。
    • 創造性に対して高いモチベーションがあること。仕事に付加価値を与えることに価値観を共有していること。
    • 仕事の効率化や生産性向上によって得られた余裕分をライフ側に転換できるかライフに役立つ投資として活用されるように制度化されていること。
    • 働く姿勢や意欲を高く評価するような社会風土となっていること(日本社会そのもののモラル低下が起こっていないこと)
  2. 労働機会が開かれていること
    • 年齢等に関係なく、スキルに応じた仕事が見つかること。
    • なんらかの事情で失職した場合でも、生活の基盤を失うことなく、引き続いて職を得ることができる仕組みがあること。また、それを支援する制度が充実していること。
    • 起業に対する支援が充実していること。
    • 育児、介護などと両立して、無理なく働けること。また、それを支援する託児所保育所や介護等の施設や制度が充実していること。
    • ダイバーシティの考え方が定着していること。
  3. 高齢者でも積極的に社会の一員として貢献できること
    • 画一的に年齢で差別するのではなく、健康、経験、スキルに応じて働けること。
    • 将来を心配することなく働けること。特に、シニア(60歳以上)でも社会に貢献して働けるように50歳代で準備できるような制度などがあること。または、早い年代から準備できるよう動機付けとなる仕組みや制度があること。
  4. すべての人に活躍の機会、知識や能力向上の機会が与えられること
    • 産業の変化、IT化の進化、社会の仕組みの変化に対応できるよう、組織内で教育が充実していること。転職にも対応できるスキルを身につけることを国や企業の組織が支援すること。
    • 知識獲得や能力向上に関心のある人には、それを実現できる環境があること。たとえば、大学等での社会人入学の機会が開かれていること。また、所属する組織が能力向上等に便宜をはかること。
目次

4.「全国民が楽しく意欲的に働ける国家」を目指した施策の案

個々の施策が個別に展開されるのではなく、大きな戦略のもとに、関連して成果がでるよう最適化されている必要がある。基本的には経済の活性化が必要であり、経済が疲弊していては施策が推進できない。経済活性化施策と組合せ、楽しく働くことでさらに経済も発展するという好循環をつくりだすことが重要である。
また、ここに提示した個々の施策に対し、すでに実施して成果を出している企業もある。国レベルで推進するにあたり、成功企業の事例の分析による成功要因の把握も重要である。

目次
4−1 長期的な観点

高度成長期には所得倍増など生活に結びつく具体的な目標があり、国をあげてそれにまい進した。これは、多少きつい労働にも耐える錦の御旗ともなった。現在は、夢や目標といえるものがなく、働くよりどころやモチベーションに乏しく、心の病などの遠因にもなっている。アジア諸国は成長政策により発展を続けているが、日本はすでに成熟した社会であり、国が策定している成長戦略は個別のテーマが中心で、大きな柱となる“日本の未来像”が描けているとは必ずしもいえない。

「全国民が楽しく意欲的に働ける国家」になるには、働くモチベーションとなる“国家の夢”、“希望のもてる国家”として“明るい未来像”を描くこと。その未来像を具体化して戦略的な目標をつくり、それをわかりやすい目標”として表現し、広く国民にアピールすること。そして、実現に向けた施策として、過去の慣例等にこだわらず、関係部門で十分に調整のうえ、政策を展開することが重要である。

ステップ1 国家の未来像を広く議論する場の設置
ステップ2 未来像の具体化と戦略的な目標の設定
ステップ3 関係省庁、関係部門による施策の具体化と自治体や企業による実践

4−2 中〜短期的な重点施策

以下に、中短期的な観点で考えられる施策のうち、“楽しく意欲的に働ける”という観点から重要と思われる施策を列記する。実際には、国の施策として実施すべきもの、企業などの組織として実施すべきものに分けられる。これらをさらに詳細に検討し、実施すべき施策を絞り込む必要がある。

  1. 専門性を活かせる就業形態、専門性の高い人の働く場所の確保、専門性の高い人材の流動化による就業転職支援、自国優秀技術の海外流出防止
    • 就業時間内での一定時間の業務外教育受講、外部組織での研究活動等の実施推奨、教育研究機関の社会人受け入れの促進
      専門性の高い知識の獲得やベンチャー精神の高揚は、通常の業務環境では達成できない場合が多い。創造性を重視する業務に対しては業務外の研究や活動を認めることで、さらに高い創造性を発揮できる可能性がある。こうした制度の採用の働きかけを組織に対して行う。この一環として、就業時間の一部を大学等の研究機関で学ぶことも可能とすべきである。このためには、大学等の教育研究機関が学生や研究者の受け入れを多様化するとともに、社会人学生の入学金免除や授業料等補助により、社会人受け入れをさらに推進すべきである。

      経営者は将来性ある人材の育成に注力する必要があり、こうした人材は流動化することで、さらに磨きがかかる。企業はお互いの切磋琢磨を促す流動化を是とした人事政策を検討する必要がある。つまり、自社の教育損の考え方ではなく、自社としても他社の人材活用も幅広く出来るという前向きな考え方と制度である。

    • 専門性の高い職種の優遇策、育成策の実施
      日本では経営管理者層や総合職に比べて、専門技術職、研究職、高度技能職などの処遇が高くないのが現状である。これは、技術の流出の一因でもあり、処遇の見直しが必要である。また、専門性の高い人材の育成についても組織として検討すべきである。これらについて、経済界、大学関係者を含めた検討ワーキンググループの設置を求める。
    • 企業が単独では実現できないような大規模な研究開発や事業の企画や調整役となる専門コーディネータの育成
      他国が国レベルで資金を提供して実施する事業に対抗するには、成長性のあるテーマを早期に把握し、関係組織や企業にアプローチし、資金のめどをたてるなどの調整役が必要となり、その能力が成否に大きく影響する。産学連携コーディネータが大学に設置されたこともあるが、一部の大学を除いて機能しているとはいえず、行動力と権限(政治力)のあるコーディネータのあり方を再度検討し、育成・活用すべきである。
    • 中小企業やベンチャーでのノウハウの伝承に対する補助制度
      熟練技術者や研究者等が退職すると事業の遂行に大きな影響の出る企業に対し、技術や知識の伝承、後継技術者育成等のために熟練技術者や研究者を再雇用する場合、その雇用を支援補助する。また、大中企業と中小企業の専門技術者や研究者の交流事業、人材バンク構築と活用推進などに対する民間組織への補助などを実施する。
    • 日本企業の高い技術やノウハウが M & A 等により海外に流出することの阻止
      技術の海外流出を防止するうえで、海外企業(特にアジア系企業)による日本企業の買収は脅威であり、日本企業側に圧倒的に不利な条件での買収の防止、およびそれをできなくする経済政策に注力すべきである。学術研究者の頭脳流出はいずれ社会や広く世界の企業に還元される可能性が大きいが、企業内の専門技術者や研究者の海外流出および技術そのものの流出は、日本企業の競争力の弱体化を早期に招く可能性が大である。それらの流出を止めるには一企業の待遇では限界があり、法的制限や見返り制度(ロイヤリティなど)の考え方を導入する必要がある。
  2. 時間や場所の拘束のない就業形態の普及(流れ作業型工場を前提とした時間拘束型管理形態の変革)
    • 就業形態の多様化の促進支援
      従来の工場勤務型時間拘束勤務に縛られず、事業形態に適した多様な勤務形態を推奨すべきである。すでに、スタッフ業務ではノンコアタイムで勤務を実施している企業もあるが、生産現場等を含め、さらに多様な働き方を実現すべく、プロセスの見直しを推進する。また、ワーク・ライフ・バランスを推進する観点からも、現在の時間管理を前提とした労基法を含めて見直すべきであり、労働組合等を巻き込んだ総合的な検討を開始する。

      まず、国の組織機関および企業のスタッフ部門は、プロセスを徹底的に見直し、非効率なプロセスを排除するとともに、時間や場所にとらわれない業務形態を戦略的に採用し、事例として広く公表する。とくに、国の組織が率先して実施し、その成果を公表すべきである。また、あらゆる状況(大事故や天災等)でも業務を遂行する必要のある国の機関等では、危機管理の観点から、職員が分散していても業務遂行が可能な状況を作り出す必要がある。そこで、多様な働き方を導入する必然性があり、モデルケースを作れる可能性が高い(ネットワーク社会における就業のあり方に関するモデルづくり)。

    • 評価制度および賃金体系の見直し
      同一業務同一賃金に近づける努力をすべきである。このためには業務内容や作業プロセスの見える化が必要になる。同時に、その評価に対する基準とプロセスを明確にし、評価の透明性を確保しなければならない。とくに、前述の就業形態が多様化した場合、このアプローチが重要になる。このような事例またはサンプルを作成し、企業等が導入を検討できる資料を作成し提供することが必要である。また、この事例を参考に、管理職の啓蒙のための教材を用意する。
  3. 世界で活躍できる人材の育成
    • グローバルビジネスのあり方の転換(日本人主体のグローバルビジネスへ)
      コスト重視の海外事業の展開(海外下請け発想)から、付加価値重視で活躍できるビジネスモデルの創造による海外展開に転換し、日本人が中心となって活躍できるグローバル化をめざす。それに対応できるグローバル人材を育成する必要がある。また、大型ビジネスにおける政治(国家)的サポート強化も課題となる。海外展開可能なビジネス分野を研究会等により官民で共有し、日本の得意分野に育てあげ、戦略的に売り込みを図る必要がある。
    • 大学と社会との連携強化、人材交流の実施、大学教育の充実
      前述した社会人学生への優遇に加え、大学と企業等との連携による教育研究の強化、実社会の変化に対応したカリキュラムの導入促進を検討するための広い分野の人が集う人材交流の実施、教員の教育意欲向上(研究による評価ばかりでなく、教育への貢献度を評価する)などにより、学生の質を向上し、大学の社会的役割を強化する。また、学生への奨学金制度を充実し、優秀な学生に対する給付型奨学金制度を創設し拡大する。
    • リーダシップやコミュニケーションの実践の場の提供
      グローバルビジネスにおいて、最も重要な資質は、リーダシップとコミュニケーションである。そのような教育は一企業では困難であり、経済界および大学等が連携してコース開発するのが適切と思われる。また、国際化へ向けた語学教育等の見直しは必須である。
      また、大学における多国籍人材の活用や入学者の増加を促す、魅力あるカリキュラムや受入れの仕組みを創り(奨学金制度など)、日本からグローバルな人材を輩出できる環境づくりやプロジェクト創設をすることが重要である。
    • ダイバーシティの推進(推進企業の表彰制度創設等による啓発)
      典型的なタテ型社会の日本企業の行き詰まりは、同じ考え、同じ行動を無意識的に求める日本人だけの体制にも起因している。これからの世界で活躍する人材には、多様性ある思考、行動を認めることも大切である。そのためには日本人単一主義から脱却し、女性のみならず、外国人の積極的な採用、登用を図り、彼らの日本人にはない特性を理解し、良い点を吸収し、日本人自ら換骨奪胎していくことも必要である。ダイバーシティはワーク・ライフ・バランス推進にも有効である。このようなダイバーシティを推進し、進化している企業を国や経営団体が表彰する仕組みも有効である。
  4. 地方(都市周辺地域を含む)での就労支援や事業の優遇制度の実施
    • 地場産業の育成補助、新しいビジネスモデルの構築と育成への支援、農畜産業等への転進または農畜産業を含む地場事業の継承への支援、
      地域における特色ある産業の育成を優遇する。地方での起業に対して、事業が軌道に乗るまで、ビジネスモデル、経営問題のほか、生活面を含めた行政の指導支援を実施する。地域が指定した特定業種での起業や規模拡大に際しては、経営面やIT活用の低コストでの指南などの支援を実施する。税制面での優遇措置やコンサル導入時の補助制度などが考えられる。また、家業や事業の継承時の支援(税制、行政相談)を手厚くする。
      農畜産業については、採算向上に向けた経済モデルを分野別地域別に構築し、ビジネスモデルの醸成と育成、拡大を施策する。
    • 観光資源を活用した総合施策の立案と制度改革
      地方には特色のある観光資源が豊富にあり、日本人にはありふれたものが、外国人にとっては魅力的なものも多い。観光資源を産業振興、地域活性化に結びつけるには、現在の市町村単位の観光振興策では不十分である。県をまたいでのエリア単位の振興策などを考えるべきである。例えば、スキーなら新潟と長野をひとつにして「スーパー信越」としてくくり、リフト券の共通化、シャトルバス運行などでスキー客の利便性を高めることによって、急増しているアジアのスキー客にとって、ウインターリゾートとして日本をより魅力的にする。このようなテーマ別の振興策を地域の枠を超えてやることにより、観光資源は地方経済の活性化につながり、雇用の拡大も期待できる。
    • BCP 対応等で企業が地方進出した場合の特別優遇制度
      企業等における事業継続計画の危機分散や本社機能分散の一環として首都圏以外に本社を設置した場合、オフィスの一部を大都市から地方に移した場合、オペレーションセンターや事業所を地方に設置した場合、テレワーク等を利用して地方に分散オフィスを設置した場合等で、あらたに、その地域の人を採用した場合に税制優遇や移転補助等を実施する。
    • 生産拠点を国内に設置した場合の優遇制度
      品質やブランドを重視して国内に生産拠点を設けることを推奨する。海外生産とのコスト面での不利さを補てんする施策を実施する。国内にあらたに生産拠点を設置した場合、または海外の生産拠点を国内に移した場合で、一定以上の従業員を雇い入れた場合に、法人税、固定資産税、雇用助成金などで優遇する。
    • 企業の工場等が地方を撤退する場合のその地域での雇用の確保
      地方に進出した工場が海外移管などで閉鎖された場合、現地で雇用された従業員やその下請け企業の従業員の多くは失職となる。地域の活力を失わないためにも安易な撤退を阻止することが必要であり、最低限、撤退企業に対し雇用確保の対策を要請する。また、市町村が撤退をやむなしと判断した場合、跡地への進出を検討する企業がある場合には、そうした企業への国レベルの優遇策を検討する。

4−3 その他の施策

  1. 若年層の労働意欲の高揚
    • “何をしたらよいかわからない”“やりたいことが見つからない” 若者に対する動機づけ支援
      若年層で、何をしたらよいかわからない、やりたいことが見つからないのが原因でフリーターになる人が多い。本来は、自らの行動によって見つけるべきことではあるが、自己認識をさせる教育カリキュラムが必要である。まず、関連部門による検討会をスタートする。また、学校教育の基本として、小学校から人間性や人間力の大切さ、働く意義や喜びなど、実習を通じて小、中、高で一貫して醸成する改革教育カリキュラムを検討する必要がある。
    • 入社して短期で退職する若者の増加防止
      従業員満足度向上計画の策定、長期的スキル獲得計画の実施、コミュニケーション活性化風土の醸成などの組織内部での施策を充実する。また、就職先の情報獲得手段としてのインターン制度の普及拡大(学生の面倒を退職者がみるなどにより高齢者の活用の場の拡大にもなる)、現状の体験雇用制度の改善、ボラバイト(ボランティアアルバイト)の活用による適性判断実施など、既存の制度の改善拡大を図る。
    • 大学における就職活動の改革
      就職への動機づけを明確にするため、実習企業の紹介(または企業実習の必須化)、採用時期の通年化、試用期間後の転職や復職がしやすい仕組み、就業上の公的相談窓口の設置などの施策を検討する。
  2. 高齢者(定年となった人を含む)の就労の支援
    • 定年のない企業への変革のチャレンジ促進(地場企業の一部がターゲット)やアメリカ型制度(年齢差別禁止法とそれへの対処方法)等の研究
      日本における定年のない企業や70歳定年制企業、諸外国での高齢者雇用の現実等の事例研究を実施し、広く公表、啓蒙する。また、こうした事例に基づき、定年制度見直しにチャレンジする企業への税制優遇制度などを検討する。
    • 特殊技術保持者の定年後雇用の促進、高スキルシニア層によるベンチャー&中小企業への助言育成制度の創設
      高スキルを保有している高齢者の雇用確保により、若手のスキル獲得へのモチベーションの高揚、若手の育成教育の充実、地域地方企業等の活性化などにつながる。また、海外企業への人材や技術ノウハウ、管理技術等の流失阻止にもつながる。
    • 研究開発者、経営者等の高齢有能人材の海外流出阻止
      就業の多様性を確保し、高齢有能人材向けに正規職員とは別枠の雇用制度、給与補填制度、または、個人事業支援制度等を創設する。
  3. 起業の活性化、新しい職業の開拓、有効な投資の促進
    • 挑戦的事業に対する規制緩和や補助金拡大、税制の特別措置、複数年予算の保障
      ベンチャーや中小企業が新分野で事業化する場合の問題として、既存の規制による制約や申請等の処理時間の長さがあげられる。挑戦的な事業分野では、従来の制度の別枠を設定して事業化を支援する必要がある。また、国の予算等を使用する先進事業では、単年度の予算執行の制約で、実質的な実施期間が短く制約されたり、中長期の計画が確定しないなどの弊害がおこっている。制度面での改善が求められる。
    • 起業活性化、新産業育成事業の推進によるモチベーション・アップ
      起業を活性化させる施策として、起業コーディネータ制度の創設、起業教育の実施、産学連携の成功失敗分析、複数の業種に関係した事業を立ち上げる場合のコーディネータの役割をする人材の育成、既存企業が新ビジネス参入においてベンチャーとの連携する場合の優遇策などを検討する。
    • (緊急性に応じた)国の投資事業の見直しと民間を加えることによる公共投資等の活性化による雇用創出
      たとえば、ここ数年、天気などの自然現象は大きく変化し、既存の公共設備では災害の発生するケースも増加しており、公共設備の再構築が必要になりつつある。このような自然との共生にむけた投資事業に対し、個々の事案に対応するのではなく、総合的な施策のもとに、官民総合で系統的に無駄のないように実施できないかを検討し、立案後は、早急に事業の促進(すなわち雇用も拡大)を図る。
  4. ものづくりの中核となる中小企業への支援の強化(中小企業での労働の確保)
    • 中小企業が国内で生き残るための支援(税制、人材確保、相談窓口設置)
      部品や金型産業などは、受注減少対策やコスト削減のため東南アジア等への海外移転を考えざるを得ない現状ではあるが、海外でも競争激化、急激な賃金アップなどのコスト増、現地要員との摩擦などがおこり、厳しい状況となっている。日本での雇用確保、技術の海外流出防止のためにも、優良中小企業への支援を充実させる必要がある。高齢者雇用(60〜働ける人まで)のモデル事業の実施など、政策的な対応と支援が求められる。
    • 大企業の下請けから脱却を目指す企業に対するビジネスモデル変革の支援
      国内工場で利益を出し、ユニークな経営で話題となる中小中堅企業は、大企業の下請けばかりではなく、独自のビジネスモデルを構築しているケースが多い。また、独自の製品開発に力をいれ、ビジネスモデルを確固たるものに発展させている。このようなモデル変革への相談やモデルの実現に対する補助を検討する。
  5. 組織のコスト構造変革(高コスト体質からの脱却)の啓蒙と支援施策
    • スタッフ(ホワイトカラー)業務の生産性アップ(組織変革)の支援
      日本企業はスタッフの生産性が低いといわれることが多い。スタッフの業務プロセスが複雑で非効率であるために事業現場の労働意欲が減衰していたり、社内手続きのために生産プロセスにタイムロスが発生したりすることは、従業員満足度の低下とともに、企業の競争力低下にもつながっている。このような事象の分析や改善を目指す企業に対し、業務やプロセス革新の実施事例を紹介するサービスや、コンサルを導入する場合の補助制度を設ける。また、高生産性企業の定義を明確にし、高生産企業の表彰制度や法人税優遇措置などを検討する。
    • 付加価値を生まない作業や制度の洗い出しとその削減、現場作業の戦略的見直しなどを実施し、組織の競争力を高めようとする企業等への支援
      自らでは改革の進まない組織に対し、組織が希望すれば、低価格でコンサルを紹介する制度などを検討する。たとえば、海外企業に対抗してコスト競争力をつけるために改善活動を展開しても成果のあがらない企業や、情報漏えいなどに対するコンプライアンスの過剰強化等によって生産性低下が生じている企業などに対し、改革方法の紹介やコンサル、事例に基づく啓蒙、新しい技術の紹介や技術開発支援などのサポートなどが考えられる。
  6. 全国民での働き方改革の推進
    • 働き方改革につながる施策導入企業の表彰や法人税優遇の制度の創設と発信
      これまで述べてきた施策のなかのいくつかで、優良組織の表彰や法人税優遇の制度に言及した。こうした制度および成果についてマスコミ等を通じ広く発信することで、改革への啓発を図る。
    • 働く人の意識改革をバックアップする啓発活動の実施
      働くうえで重要なことは、労働と生活にメリハリをつけ、ワーク・ライフ・バランスを実践し、心身ともに健康な状態を保つことである。コミュニケーションの重要性を認識し、仕事のしかたを工夫し、各々の立場でモチベーションを維持しながら、楽しく働く環境を作り出すことが生産性向上にもつながる。組織長および経営者は、こうした状況にするための具体策を策定し、働く人の啓発に努める必要がある。働くことの楽しさと重要性を認識させることのキャンペーンを実施する。
目次

6.さいごに

日本を取り巻く環境は大きく変わった。グローバル化の進展、特に、アジア諸国の台頭は日本の経済活動に大きな脅威を与えている。これまで日本の発展を手本として成長してきた近隣諸国では、一部の面においては問題を残しながらも、すでに日本を凌駕した面もあり、さらに今も発展を続けている。一方、日本では、多くの人が、未来に対して明るい希望が持てないという印象をもち、雇用問題など現実の問題解決に振り回される状況となっている。求められるのは、発想の転換、創造性、価値観の転換である。すなわち、従来の延長で物事を考えていては、もはや発展はありえず、衰退の道しかない。少子高齢化、空洞化、社会保障制度などの問題も山積している。こうした要因は、働き方と密接に関連し、総合的な検討により解決策を見出していく必要がある。本提言には、これまでに政策として検討されてきた項目もいくつか含まれているが、“全体の未来像を示し、戦略的に政策を進めること”が提言の大きな趣旨である。今後、さらに議論が広まり、到達すべき未来像が明確となり、具体的な政策に展開されていくことを期待したい。また、その実現にあたっては、継続的で強い意思を示す戦略戦術と組織化が国家として策定されることを期待したい。

参考

ビジネスプロセス革新協議会 働き方革新研究会 検討メンバー

役職等は本提言検討時のものです。
岡田 正志 BPIA 常務理事(NEC ソフト)
大久保 光一 ㈱竹中工務店 ワークプレイスプロデュース本部主任
岡田 明浩 ㈱竹中工務店 ワークプレイスプロデュース本部課長
小田 毘古 ワークプレイス・リサーチ・センタ 代表(元 日本 HP)
桐山 太一 ㈱アーク情報システム 取締役
串田 昭治 クシダ経営研究所 代表(元 富士通)
後藤 隆二 ㈱エフエム・ソリューション 部長
白井 秀幸 ㈱岡村製作所 マーケティング本部
仙石 泰一 ㈱三技協 専務取締役
坪本 裕之 首都大学東京 都市環境学部 助教
林  賢 コクヨファニチャー㈱ ソリューション企画部部長
古阪 幸代 WFM (ウィメンズ・ファシリティ・マネジメント)代表
ページトップ

本提言についてコメントまたはご意見等が御座いましたらお寄せください。
今後の活動の参考にさせていただきます。

* は必須です)
氏名 *
所属  
電話  
E-mail *
コメント *
ページトップ