日本版SOX法研究会(第20回)
| テーマ: | 日本企業における事業プロセスをどうとらえるか? ABC、ABM手法から考える |
|---|---|
| 講 師: | 森川勇一 (株)ウェッブアイ 代表取締役社長 柴田義孝 同 営業部産業ソリューション営業グループ |
| 日 時: | 2008年3月18日(火)15:00〜17:00 |
| 場 所: | 首都圏コンピュータ技術者株式会社 |
1 今回のテーマ
今回のメインテーマは、
「日本企業の事業プロセスをどう理解し、どうプロセスエンジニアリングの対象とすべきか」ということである。まず、企業で行われるプロセスを以下の2つに大別して考察する(図1)。
企業活動においてはこれら両方が確実に行われる必要がある。エンジニアリングプロセスばかりやっていると目の前の業務が進まず、会社の収益に影響が出る。一方、マネジメントプロセスの観点ばかりに注力すると長期的な視点が欠如し、会社の力が衰えるということになりかねない。両者のバランスをとる必要がある。最近は監査の視点から企業内のプロジェクトの状況を把握するために、プロジェクトマネジメントシステムの手法が利用できないかという相談が増えている。誰がどの段階の責任者で、いつ何を承認したのか記録をとる必要がある場合に、プロジェクトマネジメントの手法が応用できる可能性がある。これなど日本版SOX法関連で注目すべき動きである。
2 (株)ウェッブアイについて
当社は2000年設立のベンチャー企業であり、プロジェクトマネジメントに関する業務を行っている。具体的には、プロジェクトマネジメントに関するソフトウェアの提供、プロジェクトマネジメントに関するサービスの提供を主たる業務にしている。特に製造業とソフトウェア開発、建築、造船といった業種を中心に現在600社のお客様と取引をさせていただいている。創業者である私は以前は三井造船、アルティミスというソフトウェア会社に勤務していた。当時からプロジェクトマネジメントに関わっていたので、プロジェクトマネジメント分野で25年の経験がある。このようにプロジェクトマネジメントに関する諸課題の解決、改善に関するノウハウを豊富に蓄積していることが当社の強みである。
3 プロジェクトマネジメントの概要
「プロジェクト」とは、
活動と定義できる。
この他に、「ある品質を実現すること」を条件に加える場合もある。私はソフトウェア開発プロジェクトの場合は品質と仕様を分離しないという考え方をしているが、製造業のプロジェクト場合は、品質と仕様は別なものと考えられるため2つを分離して説明をするようにしている。企業には1つの事業の中に複数のプロジェクトがあり、各プロジェクトは階層化された成果物から構成される。各成果物は前述した、エンジニアリングプロセスで管理される。プロジェクトを成功させるために、これまでもいろいろなツールや、図表が作られてきた米国型のプロジェクトマネジメントでは図2の黒線のようなステップでプロジェクトのタスクを定義していく。
4 プロジェクトのコスト把握の難しさ
プロジェクトマネジメントにおいてコストを守ることは最重要項目である。プロジェクトのコストを把握する方法として、以下の2つの考え方が広く使われている。
これにより、注力する活動とそうでない活動を分析することができ、サービス向上とコスト削減の両立が可能になる。米国のプロジェクトマネジメントでは、プロジェクトを始める前にすべてのタスクを設計し、関係者間で合意することが求められる。そのためABC、ABMの実施は可能とされている。一方で日本ではこの手法が十分機能していないプロジェクトが少なくない。それはなぜなのだろうか。
5 日本のプロジェクトの特徴
一般的に日本企業のプロジェクトは「変更が多い」と言われている。またプロジェクト開始時点ですべての納品物が明確になっているプロジェクトの方が少ない。しかし、これは必ずしもマイナスなこととは言い切れない。それは、変更こそが日本企業の特徴だからである。つまり、日本人の良さは変化に強いことであり、プロジェクトに参画している各自が自律的にかなりの裁量を持ちながら必要に応じてタスクの調整を行っていける強さがあるのである。誰かが全体を俯瞰、把握しているわけではない。そのため、ABCやABMといった管理手法はなじまない。特に収益拡大のためのプロジェクトにおいては変更が随時発生するためほとんどうまくいかない。
余談になるが、このような日本企業の特性は各自がかなりの多能工であるため実現できているといえる。今後の若者の姿勢、能力如何によっては上意下達が中心となる米国型のプロジェクトマネジメントスタイルをとらざるを得なくなるかもしれないと懸念している。
6 日本型のプロジェクトマネジメントの難しさ
日本企業のプロジェクトではWBS、OBS、TRMを作成せずに図2の赤線のように最初にガントチャートを作成するケースが多い。しかも日程表を大日程から書く人が多い。小日程から書くことが多い米国とは対照的である。これは米国人がプロジェクト構造を論理的に策定するのに対して日本人はイメージ先行でプロジェクトを考えるためである。元々変更が多い日本のプロジェクトでは変更が容易な管理方式が好まれるためこのようなスタイルになっている。その反面、詳細なプロジェクト管理が困難になっている。
7 日本型のプロジェクトにおける原価管理の方法
このように変更が多い日本型のプロジェクトでは、プロジェクト開始時にすべてのタスクを記述することはほとんど不可能である。そのため、ABCやABMといった原価管理手法を行う場合は工夫が必要となる。当社では、プロジェクトの原価管理を行う場合には、変化することを承知でWBSを記述する。そして、そのWBSの階層の上位に近い部分には通常ほとんど変更が発生しないことに着目し、これを「不変領域」と名付けている。そしてこの不変領域に対してABC、ABMを実践するという(図3)。
不変領域を設定するには以下の4つの軸を総合的に判断する必要がある。
不変領域とそうでない可変領域を明確にすることで実際にプロセス管理が可能になるのではないか。
8 プロジェクト管理のテクニック
ここで当社のプロジェクト管理技術からいくつか参考になりそうなものを紹介する。
8.1 プロジェクトの進捗遅れを取り戻す方法
プロジェクトの進捗が遅れている場合に、これを取り戻すには通常以下の2つの方法が有効である。
8.2 外注先の進捗管理
最近は工程の一部を外注に依頼することが多く、外注先の進捗管理が課題になりつつある。
外注先に納期を守ってもらうための1つのテクニックとして、外注先で特急扱いにするために納期ギリギリに発注することが挙げられる。そのためにも発注する方は必要工数を性格に見積もる必要がある。
8.3 ソフトウェア開発プロジェクトの難しさ
ソフトウェア開発は他の産業と比べてまだまだ歴史が浅いのでプロジェクトマネジメントを組織として行うというところまで到達している企業は多くない。過去に参加したソフトウェア開発のプロジェクトでは、管理者に連絡がないまま各自がタスク、スケジュールを変更してしまうことを経験した。また、ソフトウェア開発では工程管理が業務として認識されていないと感じる。この点から見ても他の製造業と比べて成熟度がまだ十分ではない。さらに、成果が見えないというのもプロジェクトマネジメントの観点から見ると難しさがある。状況が見えないと管理しようがない。そのため、いかに見えるようにするかがまずポイントとなる。まず見えるようにし、その後からマネジメントを考えることになるだろう。ソフトウェア業界は担当者によってスキルが大きく異なり、スキルがカバーできる範囲が狭く、陳腐化も早いため、スキルと案件が合わないことが多く、それがさらにプロジェクトマネジメントを難しくしている。しかし、基本的には、他の産業と同じようにきちんと工数を見積もり、実績を全員分チェックするなど単純ではあるが重要なことを確実に実施することに尽きる。
9 まとめ
日本企業の事業プロセスは、各個人がネットワーク組織を構成しながら複数の目的で構築された階層的な組織に所属して行っているため、プロジェクトマネジメントもかなり複雑なものにならざるをえない。そのため米国型のプロジェクトマネジメントを行おうとするとうまくいかないばかりか日本型の良さが生かされないということが発生してしまう。従来のプロジェクトマネジメントの手法の本質を理解しながらアレンジして適用する必要がある。今日は「WBSの不変領域」に着目する考え方を紹介した。プロジェクトマネジメントの成功の秘訣は「合意を形成する」ことにある。そのためにも様々な手法を利用しながらも常にプロジェクトの状況を「感じる」ように心掛けていくべきである。
(レポート大浦淳)