bpia_logo
SaaSサービスの展開モデルについて
〜目からウロコの「新ビジネスモデル」研究会 第26回報告

新ビジネスモデル研究会(第27回)

テーマ: SaaSサービスの展開モデルについて
日 時: 2010年3月30日(火)16:00〜18:00
場 所: アーク情報システム
講 師: 登坂 忍 氏

会場

ファイブテクノロジー株式会社 代表取締役 登坂 忍 氏

 はじめに

従来のSE派遣、受託開発、パッケージ販売とは異なった、SaaS(Software as a Service)というビジネスモデルが現れてきました。わが社は、SaaSの中でも競争の激しいオンラインストレージサービス(ネット上でファイル保管用のディスクスペースを貸し出すサービス)を提供しています。
 現在、オンライン・ストレージサービスの主流は、低コストもしくは無料で、容量の少ない数ギガバイト(GB)もしくは数十GBです。大手キャリアのNTTコミュニケーション社やソフトバンク社、KDDI社といった著明企業が中心となって、そうしたオンライン・サービスを提供しています。 しかし、そういう中で、当社は確実に顧客を獲得してきました。例えば、ミクロ情報サービス(MJS)、清水建設、住友化学、マツモトキヨシホールディングス、メディアファクトリーなど大手企業を中心としたユーザ様が当社を支えてくださっています。

 営業スタイルの変化

設立当初と比べると当社の営業スタイルは、Push型からPull型に変化したと思います。つまり売り歩くのではなく、お客様の方から来てもらうことです。もちろん、何もしないでは来てくれません。Pull型にするためには、いくつかのポイントがあると思います。
 一つめは、お客様が興味を示すような圧倒的なサービスを提示することです。 二つめは、お客様のニーズに合致すること。三つ目は、当社を支持してくれる会社1社に販売できれば良いことです。すべての企業を対象とすると疲弊しますし、実際のところ、それは無理でしょう。四つ目は、信用ある企業から紹介をうけることです。

 わが社のスタート

わが社は、資本金570万円、社員は4名です。ブランドなし、お金もなしでスタートしました。ないないづくしであるために、結果的にPull型の販売モデルになったと思います。ネット上で、当社のオンライン・ストレージサービス(名称=ファイル交換安心君)が一人歩きしてくれることを念頭において、Webサイトは、会社のホームページと「ファイル交換安心君」のページをあえて分けました。会社を始めたころ、まだ数年前ですが、人脈頼りの営業活動をしました。それからテレアポや委託営業もしましたし、パートナー展開もしました。ネット広告も出してみました。ありとあらゆることをしました。何とかなると思ったのです。しかし、殆ど契約に至りませんでした。そこで、営業に行くのを止めました。正直なところ、新規企業を紹介してもらうことにも疲れました。一週間くらい何もせず考えました。そのとき巡らせた考えは4つのことでした。一つは、幸いなことに何社か契約をしてくれた会社があったので、そのケースを見直しました。2つ目は、自分にできることはないか。3つ目に、通常契約以外でお金をいただく方法はないか。最後に、机に座っていて連絡が来ないか考えました。それらを具体的にお話します。

<契約ケースから考える>
 原点に戻って、どんな企業に使ってもらうために開発したのか考えたのです。まず、契約した企業の中に国際会計事務所がありました。そこから紹介をうけると簡単に受注に成功しました。キーワードは、“アジア”でした。アジア進出企業への導入は可能性が高いと思いつきました。海外で、それもアジアですぐに使えるインフラを提供したいと考えました。日本語だけでなく、英語も中国語も使えることを強みにしました。

それ以降は積極的にあちこちに出かけました。NPO法人アジアITビジネス研究会に出席したり、アジアビジネス交流会にも出席しました。昨年10月には、ベトナムにおけるIT活用セミナーにも出かけました。国際会計事務所の利用実績を強みにして、アジア進出を目指す企業に向けて、日本語、英語、中国語が使えるサービスを提供すると、必然的に中堅以上の企業がターゲットになりました。

<自分にできること>
 自分にできることを一生懸命やることに関して言えば、アジアへの進出支援のコンサルタントをしています。弁護士や弁理士、税理士、社労士など「士」業と専門コンサルタントから構成される「経営サポーターズ」に、私も経営コンサルタントとして参加しています。 こうしたコミュニティにいると、中国のパートナーを探しの依頼をうけます。「士」業の方は一人当たり数十社と関わりをもっていますから、大変な数になります。逆にこちらからも仕事をどんどん紹介するようにしました。
 IT企業様向けにBtoBマーケティング支援もしています。そこでは、顧客管理や、Webサイト構築、メルマガ発行など基本的なことが実行されていないケースが以外と多いことがわかりました。また、最近では経営コンサルタントとして、Pull型にするためにどうしたら良いか、グローバルビジネス展開方法や、大手企業への販売するにはどうしたら良いかなどアドバイスしています。

<お金をいただく方法>
 当社のサービス利用は月額をベースとした契約です。回収は、前金払い方式を採りました。4月からご利用の場合は3月31日までに入金がないと利用できない仕組みです。また、年間契約については11か月分の料金で1年間利用できるようにしました。また、OEM契約をすることで定常的な収益を確保できると思い、数社との契約を果たしましたが、契約の権利関係で苦労したので、月額ベースのレンタル契約へと契約内容を変更することにしました。料金支払いのバリエーションを変えると、ベースの売上が向上し経営が少し楽になりました。

 ファイル交換安心君

「ファイル交換安心君」は、果たして圧倒的なサービスといえるでしょうか。まずユーザー数は無制限で、100GB(ギガ)で月額5万円、500GBで20万円、1TB(テラ)で30万円、3TBで40万円です。 このサービスで利用しているサーバの耐用年数は36ヶ月と想定していますが、できれば、その前にサーバ入替を実施したいと思っています。実施すればレスポンスが速くなるので、利用率も高まり、利用ユーザーも増え、収益アップが望めます。サーバ入替によるコストメリットをお客さんに還元すべく価格も既に見直しました。大いに利用していただければユーザの利用容量も増え、他社へ移動(浮気)しようにも同じようなサービスが他にないので、浮気の防止にもなっています。また、大手になると相当な容量を使うので、サービスの対象は結果的に中堅以上になっています。

ファイル交換安心君

 新サービス

今、新しいサービスを考えています。「情報貸金庫安心君」という名前も決まっています。用途はバックアップのバックアップです。破棄しているデータが沢山あります。例えば監視カメラのデータは1週間分とっておくそうですが、あとは棄てています。監視カメラのデータでお客さんの動きを分析し実際の購買履歴をとっていますが、こうしたデータを1年間分くらい溜め込めます。自動的にデータを転送するソフトも用意できます。数TBから数10TBのサービスを考えています。商標登録もしようと思っています。

 当社サービスを使った成功事例

ある船舶系の会社の例をご紹介します。
 ネット上からサービス利用申込みをされた後、2ヶ月ごとに契約を増やしてくれました。どんどんと利用容量が大きくなり、ついには、その会社専用のサービスを作って欲しいと依頼をうけるまでになりました。何にお使いかというと写真管理です。中古車の船輸送を手がける同会社は、日本で仕入れた中古車を仕向地のバイヤーまで責任を持って輸送しなくてはなりません。各拠点で中古車の写真を撮って、それをアップするのです。一台つき16枚程の写真を撮ります。何か傷がついていても、何による傷かがわかります。そのことによって何か事故がおきた場合に保険が適用されます。盗難の場合も写真を添付すると保険がおりるのです。また、日本国内で写真をアップした時点で仕向地でのビジネスが可能なのです。写真をアップするとバイヤーがネットで閲覧できるので、中古車の輸送中に買手が見つかるのです。海外のディーラーからは、ロシア語やアラビア語もやってくれと言われているそうです。
 その会社は、写真添付サービスを無料で行なうことを自社のセールスポイントにして、同サービスを強化しビジネスを拡大してゆきました。その結果、当社のサーバ利用容量も増やしてくれたという図式です。

このシステムを自前で作った場合の費用を、その会社が試算したところ、10倍はかかることがわかりました。その会社は約1000億からの売り上げがありますから、それに対応した独自のシステムを発注したら大変なことになります。当社のサービスを使うことはコストパフォーマンスが良いということです。当社とのサービス契約は基本3年です。写真がバイヤーとつながっているので、このビジネスを止めるに止められないはずです。ネットでの申し込みがご縁でしたから、全く知らないお客様でした。単独企業として当社では最大のお客様です。こうしたケースは、今後も出て来ると思います。
 メールがたまって棄てるに棄てられないという企業からの相談もいま来ています。また、当社のサービスをトライアルで利用中のある製薬メーカーから期間延長の依頼もあり、本契約につながる可能性が高まっている状況です。 SaaSはいま生き残りの時代になっています。

 おわりに

最後になりますが、やはり、社員、役員、顧客そしてパートナーに感謝したいと思います。当社の女性はすべて在宅で仕事をしています。社外取締役も二人いて、毎月定例でお話しています。顧客企業にも本当に感謝しないといけません。清水建設さんから、英語と中国語のヘルプに関してチェックが入りました。たくさんのダメ出しがありました。うるさいなと思うこともありますが、やはり大手企業はすばらしいと思いました。その点では住友化学さんも同じです。
 SaaSは、2〜3ヶ月で更新できますから、アイディア次第で成長できます。自分のアイディアが10であっても、お客さんのアイディアを入れると100にも200にもなります。これは大切なことです。マツモトキヨシホールディングスさんからは、「ファイル交換安心君」のロゴを、有償でも良いので外してほしいとの要望がありました。消費者はブランドを信用しモノやサービスを選ぶので、当然ですが、大手企業はブランドを大事にされます。当社は、ありきたりなベタなビジネスです。お金やブランドがなくとも、大手企業が市場を作ってくれています。 大手大手といいますが、我々にはブランドがないので、良いお客様、トップ企業の会社を持っていることが我々のブランドにもなるのです。

現在、BtoBオンラインストレージのナンバー1はどこだといわれても、明確ではないでしょう。“ここがいい”という尖ったところがあれば、チャンスは十分にあります。

私達も小さな会社ですから、「会社がなくなったらサービスどうなるのか」といわれます。しかし、これは実績で示すしかないことです。セキュリティ対策についても良く聞かれますが、必要なことは最低限しておりますし、それについての情報も提供しています。しかし、ものすごく信頼性の高いもの要求される場合は、大手に任せます。それよりも、大容量化、使いやすさに重点を置いています。あらゆる会社にではなく、10社に1社だけ相手にしてくれればいいと思っています。
 やはり、Push型からPull型にすることが大切です。お客様から来ていただくことです。もちろんPull型にするのに何もしないのではダメです。それでも、ネットがありますから、無名でお金がなくとも大手企業と契約できます。情報がオープンになって、みんな見えるようになっていますから、それで大手と契約ができるのです。チャンスがあります。当然、サービスを充実させてゆかないと飽きられます。信頼と安心を買ってもらっていると思っています。したがって、むやみな安売りはしないつもりでいます。最低価格の月5万円は守ってゆこうと思います。

“売り歩くのではなく買いに来てくれるようにサービスを成長させてゆく”、これが大切だろうと思います。
 ご静聴ありがとうございました。

記録者 丸山有彦