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第38回経営サロン BPIA会員・三井物産ビジネスパートナーズ社長 吉岡 亮 氏と語る

テーマ:
:「三井物産ビジネスパートナーズにおけるダイバーシティの現状とシェアードサービスとしての課題、並びにPMIの現状」

日 時: 2010年4月15日(木)
場 所: コクヨ霞が関ライブオフィス
会場風景

三井物産ビジネスパートナーズは、2009年10月、三井物産ビジネスサポートと三井物産ゼネラルサービスが合併してできた三井物産の人事総務系の業務受託会社(シェアードサービスセンター)である。また同社は「障害者の雇用促進等に関する法律」に基づいた特例子会社でもあり、約80人もの障害者が健常者と同じ職場で働いている。しかも社員の構成は正社員、嘱託、パート、派遣社員と多様。しかしながら、一人ひとりが尊重され自由闊達でチームワークの良い職場環境と現場重視を目標とした会社運営が行われているという。
現在、PMI(Post Merger Integration、経営統合)の真っ只中であり、ダイバーシティマネジメントやシェアードサービスなど、様々な取り組みにチャレンジしている三井物産ビジネスパートナーズ代表取締役社長・吉岡亮氏が、その現状と課題について語った。

吉岡氏の講演は以下の通り。

三井物産ビジネスパートナーズは三井物産のシェードサービスセンター

三井物産ビジネスパートナーズの主な業務は3つある。第一の業務は「人事系」。具体的な業務内容は、給与計算や福利厚生、海外勤務者給与・フリンジ(その周辺業務)対応、企業年金窓口といういわゆる給与に関する処理業務のほか、人事諸手続きのためのワークフローの管理、社宅や寮の入退去手続き、借り上げ社宅の手配、社員証作成、社内での購買物の給与差し引き処理、海外店や社員向けの日本食・書籍などの手配、送付、ヘルスケア(マッサージ)や診療所の受付、レセプト(診療報酬明細書)および人間ドック検査データなどの管理、湯河原研修センターの運営、保守営繕、研修補助などである。

第二は総務系の業務。コピー・製本、名刺や挨拶状の印刷といったDTP業務のほか、郵便物や宅急便の館内配送ならびに対外発送手続き、館内引越し、レイアウト変更のサポート、厚生施設保守の営繕、固定資産データベースの作成などの業務がある。

第三はその他の業務で、国内出張チケットの手配や出張旅費精算、館内売店の管理および自販機の商品補充や代金回収、各部のホームページの作成、取引先財務情報のシステム入力などの業務に携わっている。

このようなサービスを親会社である三井物産に提供することで、業務受託料収益23億円を上げている。

シェアードサービスセンターとしての課題

吉岡氏

昨年の10月に2社が合併し、シェアードサービスセンターとして現在の形となって半年が経過し、課題も見えてきた。第一は幹部候補生を育成することである。従来から当社には幹部養成を意識したキャリアパスがなかった。また、三井物産の業務受託会社という性格もあって部長以上の職に就いている大半は三井物産からの出向者。プロパー社員(生え抜きの社員)の部長は現在9人中3人しかいないというのが現状だ。しかし今後はプロパー社員からのさらなる登用を検討していかねばならない。そのためにもローテーションの促進や部署を超えた特別組織である、タスクフォースに携わる「場」を提供。広い視野や親会社の社員との交渉力を見つけていってほしいと考えている。

第二は女性の活用である。現在、当社の女性社員が携わっている仕事はほとんどがデスクワーク。女性比率も高いため、現在は小規模チームのリーダーはいるが、今後はより経験を増やすなどして、リーダーや準リーダーという中間管理職層として育てていかなければならない。

第三は、ビルの保守や清掃などの一部を除いた人事・総務業務において、都度、親会社の承認手続きが必要になること。親会社の内部統制上の制約もあり、最終承認まで当社でできるという完全な形での業務受託には至っていない。それを可能にする為にも、今後、内部統制環境の整備などを通じてさらに信頼性を上げていくことが求められている。

第四はシェアードサービスセンターとして、親会社が遵守する米SOX法の統制環境と同等の環境の維持が必要であるが、業務フローチャートなど形式知化が部分的にしかできていないこと。今後は業務プロセスの見える化や職分離の徹底、社内の内部監査の実施をしていかねばならない。

また先述したように現在は親会社からの出向者が当社の管理職を兼務しているが、委託業務の検収までできるようプロパー社員の管理職を育成し、親会社からの完全権限委譲これから目指していかねばならない。

第五は顧客満足度(CS)や従業員満足度(ES)を向上するための手段が整備されていないこと。例えばCSを測定するツールや場も用意されていない。冒頭でも述べたように当社の社員はプロパーと出向者という出身の違いに加え、働き方も正社員や嘱託、パート、派遣社員とさまざま、さらに健常者と障害者が同居している職場である。潜在的にパワハラなども起こりやすい状況にある。CSについては、測定するツールやそれらを社内で検討する場を設ける予定である。またESについては、社内小冊子の作成と毎年ES意識調査を実施している。

その他にも、経営指標の不在やルーティンワークが多い中でモチベーションを保つため、専門性をどう向上させていくか、既存業務の受注量が縮小傾向にある中で、世の中の動きに応じた業務内容へいかに変革していくかなどの課題もある。

障害者雇用特例子会社としての課題

特例子会社としての課題もある。第一の課題は障害者がより幅広い業務を担える体制になっていないことだ。当社には聴覚、肢体(上肢、下肢)、内臓機能、視覚など様々な障害をもつ社員がいる。例えば聴覚障害者に幅広い業務を担ってもらいたいと考えても、手話のできる健常者が少ないため、どうしても従事する仕事に偏りが出てしまう。また当社は昨年10月に2社が合併してできた会社だが、そのうちの1社はこれまで障害者との協働経験がなかったこと、さらに当社のあるビルはバリアフリーに対応していないことも、障害者が携わる業務の幅を狭める遠因となっている。

これらの課題を解決するため、手話教室を開催したり、就業時間後に車座になって話し合う時間を設けたりしたりしている。また、ボーリング大会など交流の場を企画していく予定である。

障害者が携わる業務の幅を広げるための手段としては、大学や国立リハビリテーションセンターとの関係を強化し、ペーパーワークやPC操作ができる若手障害者の採用をしていくことも検討している。そのほか、印刷や郵便以外の第三の事業の柱を育成すること、生産性の異なる社員を一つの資格制度で運用できるよう柔軟な人事制度、および再雇用制度や退職制度の整備が求められる。

PMI(経営統合)のためのこれまでの取り組みと今後の課題

経営統合のために実施してきたこれまでの取り組みについて説明する。まずは就業規則や諸規定類、福利厚生制度などの統一である。合併前の2社では福利厚生面での待遇がかなり異なっていたからだ。それらの制度を統一することはもちろん、就業規則や諸規定類を整備し、社員への個別説明を実施するなどして浸透の徹底を図った。

第二は新人事制度の導入である。もちろん専門性の高い人を遇するための新資格を定め、複線型のキャリアパスを設定するなど、新たな人事制度も導入した。同時に評価のフィードバックも導入、期首に目標を立てて、年度末にフィードバックする仕組みとした。

第三は類似業務を統合するため、組織改変を実施。第四はMVV(Mission:企業使命、Vision:目指す姿、Values:価値観・行動指針)の策定を行った。MVVの策定に関しては各部、支店から1人代表を選出し、タスクフォースチームを編成。社長への答申最終案は研修センターで合宿して作成した。又、事業部の組織改編についても社員から構成されるタスクフォースで原案を策定した。このようなタスクフォースチームで合宿することは、日ごろは接点のない人たちが会う機会となったようで、社員の評判もよかった。

第五は各事業部や視点で個別定例会議や車座を実施していること。これらの会には管理職だけではなく部員も適宜参加できるようにしている。

第六は各事業部や視点におけるリスクを把握することである。そして最後が社長メールの配信である。毎週原則月曜日に現場と経営との距離を縮めることを目的に配信している。

このような取り組みをしてきたが当社だが、まだまだ課題もある。これからは新しい諸制度を浸透させることやコミュニケーションの活発化、および組織としての一体感を醸成することはもちろん、当社としての新たなDNAを植えつけ、育てていくことが大事だと考えている。

ダイバーシティの深化に向けて

ダイバーシティとは多様性と訳されるとおり、すべての人が自身の力をフルに発揮し、組織に貢献できるような環境を作ることである。そのために当社では様々な対応をしてきた。出産休暇や妊娠休暇、時差出勤、家族看護休暇、介護休業、育児休業、休業補償などの整備、同じ部署に障害者がいることが当たり前となるような風土づくり、チームリーダークラスでの女性の活用などはその代表例である。

これからも女性を管理職へ登用できるような支援をはじめ、ワークシェアリングや在宅勤務のような従事形態およびフレックスタイムの導入、手話ができる健常者の数を増やすこと、多能社員の育成、障害者の担当業務の拡大、職場のバリアフリー化などについて、取り組んでいくことが求められている。

質疑応答

吉岡氏の講演の後、いくつかの質問が飛び交った。主なQ&Aは以下のとおり。

Q : 三井物産が貴社を設立して得られるメリットについて教えてほしい。

A : 一つは親会社の賃金体系ではない体系で、総務や人事における雑務に従事する人材を雇用できることである。2つ目は三井物産の社員は、2〜3年でジョブローテーションする。そのため、なかなか組織にノウハウがたまらないということがあった。しかしそれを私たちのような会社に外に出すすれば、そこにノウハウが溜まるというメリットがある。

Q : 親会社と、および健常者と障害者との賃金格差はどのくらいあるのか。

A : 半分、或いはそれ以下ぐらいだと思う。健常者と障害者の賃金格差はそれほどない。

Q : 新たな人事体系には職能という考え方はあるのか。

A : 職級はあるが、職能は意識した人事体系にはなっていない。同じ職級であれば年功制度に近い形となっている。

Q : シェアードサービスセンターの展望について。例えば出張手配という業務だが、外にはもっと手軽に使えるサービスがある。それら競合に対してどのような優位性があるのか。

A : 親会社傘下のシェアードサービスセンターの最大の優位性は、同じビル内に入るので、例えば切符の手配でも電話やメール一本すれば、オーダー先に届けることができるという点だと思う。しかしながらITがさらに進化していくと、需要は減ると思う。だからこそ、新しい事業の柱を作っていかねばならないと考えている。今のところ、親会社である三井物産が当社の面倒を見てくれることになっているが、いつまでもそのまま甘えていてよいわけではない。当社のサービスがきちんと評価されているのか、それをチェックできる仕組みを早急につくり、当社の競争力はどこにあるのかを把握し、シェアードサービスセンター、特例子会社としての地位や意義を確立していきたい。