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第32回経営サロン BPIA理事・三澤智光氏と語る
「オラクルの企業成長戦略における、統合とM&Aの効果」

テーマ:
:「オラクルの企業成長戦略における、統合とM&Aの効果」

日 時: 2009年1月22日(木) 16:30 〜 18:20
場 所: コクヨ霞が関ライブオフィス
千代田区霞が関3-2-5霞が関ビルディング18階
会場風景

ピープルソフトにハイペリオン、BEAシステムズ・・・。過去5年にわたり、48社の専業ベンダーの買収を繰り広げてきた米オラクル。IBMやSAPといった競合ベンダーも買収戦略を強化する中、当時、一見すると“他に先を越されまい”という焦りの現れにも見えた同社の姿勢に、「闇雲に買収を繰り返しているだけなのではないか」という推測も多く生まれた。

実際のところはどうなのか。それに答えるべくビジネスプロセス革新協議会が2009年1月22日に開催した「第32回経営サロン」で、日本オラクル常務執行役員システム事業統括本部長の三澤智光氏は、米オラクルのM&A戦略を明らかにした。それによると冷静克つ緻密な事業ポートフォリオ分析と戦略立案、買収効果をスムーズに発揮させる情報システムの仕組み作り、買収プロセスを可視化した方法論などがあってのことだという。つまり「実態は上記の推測とまったく逆」というわけだ。以下、三澤氏の講演内容を示す。

さらなる成長のためM&Aへの取り組みを開始

M&Aに乗り出す以前のオラクルの製品ポートフォリオは、最強のデータベースに、中あるいは弱小のソフトウェアを複数抱える状態だった(図1 左)。データベース市場は安定しているが、急拡大は望めない。一方で周りを見渡すと、ERPパッケージで高いシェアを持つSAP、ロータスやラショナルの買収でソフトウェア製品事業を強化するIBM、そして様々な領域に進出するマイクロソフトという強力なコンペティターがいる。特にIBMやマイクロソフトはデータベース事業を拡充しようと動いており、オラクルとしては何らかの手を打つ必要に迫られていた。

M&A以前の製品ポートフォリオと買収評価基準
図1. オラクルの買収戦略以前の製品ポートフォリオと買収対象企業の評価基準

実は2000年頃までオラクルはM&Aには否定的な考えを持っていた。IT産業では過去、様々な規模のM&Aがあったが、成功例はほとんどない。それもあって、CEO(最高経営責任者)のラリー・エリソンを初めとする幹部は「他社の作ったソースコードを取り入れても、自社製品とうまく結びつくわけがない」と考えていたのだ。

しかしWebサービス、XMLといった標準技術、標準インタフェースの導入が本格化するにつれて、考え方は180度変化した。標準化された製品同士であれば、合併によるシナジー効果が出しやすくなる。このような技術の変化が、M&Aに対する姿勢を改めるきっかけとなった。

M&A成功のための緻密な企業選定戦略

三澤智光氏

「オラクルが様々なIT企業の買収に走るのは、見かけ上の売り上げ拡大、あるいは他社による買収を阻止するためでは?」などと見られることがある。しかしそれは間違いだ。オラクルが買収対象企業を選定する基準は明確で、(1)製品、(2)顧客基盤、(3)迅速な統合の可否、(4)財務面、の4点で買収する企業を評価している(図1右)。

(1)は統合後の製品戦略を円滑にするためのもの。オラクル製品を補完する製品群を保有しているかどうかや、製品の相性の良さ、また標準技術に準拠しているかを評価する。(2)では一定規模以上の共通した顧客が存在するかどうかを評価し、オラクルと買収対象企業両社の顧客にそれぞれ製品を販売する機会が増加するかどうかを見る。(3)では主にオペレーション面での親和性を評価し、メドとして6カ月以内の統合が可能かどうかを判断する。そして(4)では主に買収価格の妥当性を判断し、どんなに魅力的な企業であっても、財務面を考慮した結果、充分に安いと判断できなければ買収しない。

基準の明確化は、M&Aの効果の最大化に直結した。例えば顧客基盤の共通化を徹底したことで、自社の顧客基盤を広げることができるだけでなく、被買収企業にとっても顧客基盤の拡大につながる。例えばピープルソフトの売り上げは、買収前の4倍に上がった。それだけではない。買収企業が毎年費やしているコストにおいて、オペレーション費用、つまり人事関連や財務関連費用は、約3割を占める。買収後にこれをオラクルに一本化し、費用を削減することで、以前よりも多くの利益を生み出せる体質へとすぐに変化した。

もともとオラクルによる買収は、原則として現金。株式交換などの形はとらない。それでも、すぐに買収費用を回収している。そこには、こうした買収基準の明確化と買収効果を最大化する仕組みがある。オラクルではその仕組み、つまりM&Aプロセスの“テンプレート化”を推進してきており(図2)、今では「我々ほどM&Aのノウハウを蓄積している企業はない」と思っている。ここから少し詳細に説明しよう。

テンプレートドキュメンと群〜迅速な企業統合に不可欠〜
図2. テンプレート化した企業統合プロセス

買収組織の統合方法は大きく3つ
自社製品の置き換えも辞さない

テンプレートのイメージを把握していただくため、まず製品ラインや開発/技術部門の組織統合の一部を紹介する(図3)。オラクルでは、既存の製品ラインと被買収企業の製品の関係を(1)機能組込型、(2)機能付加型、(3)製品補完型の3つに分けている。(1)の例がインメモリデータベースの「TimesTen」だ。Oracle Databaseの機能を強化・拡充するものと位置づけ、TimesTenの開発部隊はオラクルの開発部隊の1部署に組み入れる。

各業務プロセス・組織統合の実際(R&D部隊の場合)
図3. 開発・技術部門の組織統合例

2)はオラクルのミドルウェア製品群「Fusion Middleware」に組み込んだID管理製品の「Identity Management」のように、既存製品に新機能を付加するケースである。この場合、買収した組織はそのままに、新部門として統合する。(3)は「E- Business Suite」に対する「PeopleSoft」や「Siebel」のように、既存製品と重なる製品の開発部隊の場合。この場合には買収した組織が既存組織と並列した形で統合し、場合によっては既存組織を買収組織の1部署とすることもある。自社の既存製品を、買収した企業の製品に置き換えることも躊躇しない。どちらの製品を残すかの基準はただ1つ、ユーザーがどちらの製品を求めているかだ。

グローバルでのプロセス統合がM&A戦略の基盤に

資金を注入して終わり、というだけでは、M&Aの成果を生み出しにくい。成果を生み出す大きなポイントは、情報システムはもちろん、組織面まで含めた包括的な統合だ。オラクルは買収後の業務統合をスムーズに進められるように、自社自体のビジネスプロセスを徹底して合理化している。鍵となるのは、グローバルでの業務プロセス統合と、シェアードサービスの利用だ。
オラクルでは、自社のすべての業務を競争力に直結する「コア業務」とそれ以外の「ノンコア業務」に分離している。コア業務のうち、製品の販売や導入、保守といった地域での取り組みが必要な業務は各国の環境に合わせた事業展開を行っているものの、研究開発業務(R&D)やマーケティングといったグローバル展開が必要な業務は、米国本社で行うほか、インドや中国でのオフショアを積極的に活用している。一方、人事や会計といったノンコア業務については、グローバルで共通のシェアードサービスを利用している。全世界の拠点で発生する経費確認プロセスなどを、インドのシェアードサービスセンターで一括して処理する仕組みであり、コストを大幅に削減している。

これを可能にしたのが、1999年に開始した全世界の情報システム統合、つまり「グローバル・シングル・インスタンス」と呼ぶ取り組みである。まず世界各国に散らばっていた約80のデータセンターを1カ所に集約した。情報システムを一つにすると、当然だが経費精算などの日常業務や受発注を含めた基幹業務のプロセスも統合される。もちろん、各国の現地法人から見れば、業務プロセスが変わるので、「勘弁してくれ」といった文句が出る。日本でもパートナーとの受発注プロセスを変えざるを得ず、クレームもあった。私自身、「今までのやり方で問題がないのに、どうして変更するんだ」と思った。

ところがあるとき、エリソンCEOが「この変更でプロセスが止まるはずがない。どうしても問題があるというなら、私に連絡しろ」という趣旨のメールを全従業員に送付。以降はピタッと反対が収まった。現在では何ら違和感もなく、全世界の拠点でE-Business Suiteを利用した業務プロセスの処理に共通化している。これで、コストは以前の3分の2になったし、被買収企業のシステム統合に悩むこともない。それまで使っていたシステムとの違いからか多少の難しさはあるが、基本はデータを移管するだけであるからだ。

グローバルでの営業組織体制も5年前に刷新した。間接業務はグローバルで共通化していたものの、業務の多くは、北米や欧州・中東・アフリカ地域、日本を含むアジア太平洋地域のそれぞれの責任で行っていた。刷新後はオラクル本社のコントロールを強化。マーケティングなどの専門性の高い機能は、地域横断で実施する形式に改めた。

買収企業の選定から、業務プロセスの基盤まで、オラクルのM&A戦略は確固としたものだ。多くの企業がM&Aを行ってきたが、必ずしもすべてが成功しているとは言えない。あまりうまくいっていない企業が、業務や組織にまで徹底的に手を入れ、M&Aを本当の意味で成功させる仕組みを構築してきたかどうかは疑問だ。ただし、オラクルの場合、買収してきたのは同業のIT企業であり、製品の開発から製造、マーケティング、営業、保守まで類似点が極めて多いことも大きい。