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日本におけるワーク・ライフ・バランスの考察と提言
〜ホワイトカラーの生産性向上のために〜

日本におけるワーク・ライフ・バランスの考察と提言
〜ホワイトカラーの生産性向上のために〜

ライフスタイルとワークプレイス研究部会
<ナビゲータ>
小田 毘古  ワークプレイス・リサーチ・センタ 代表
<メンバー ※氏名50音順>
氏家 聡 株式会社ウジケ 取締役
遠藤 勉 株式会社三技協 取締役
大塚 裕章 株式会社HOWS 取締役会長
岡田 正志 NECソフト株式会社 生産革新アドバイザリーエキスパー
串田 昭治 クシダ経営研究所 代表
後藤 隆二 株式会社エフ・エム・ソリューション 営業企画 部長
菅野 文恵 東京理科大学 工学研究科経営工学専攻スピンクス研究室
坪本 裕之 首都大学東京 都市環境学部 助教
林  賢 コクヨオフィスシステム株式会社 ソリューション開発室 室長
古阪 幸代 明豊ファシリティーワークス株式会社 執行役員
松原 卓朗 株式会社エフ・エム・ソリューション 顧問
2008.5.31

< 目 次 >

  1. 巻頭対談
    創造性を生み出すワークスタイルを求めて
       -人生を豊かにするワークライフバランスを実現するために -
    倉重 英樹
    (BPIA会長/RHJインターナショナル・ジャパン 代表取締役会長/株式会社シグマクシス 代表取締役 CEO)
    寺山 正一
    (日経ビジネス編集長)
  2. はじめに
    1. 日本の労働生産性の国際的低さ
    2. ホワイトカラーの生産性とは?
  3. ホワイトカラーの生産性になぜWLBが必要か?
    1. グローバル・ポジションニング
    2. 予想される具体的な効果
  4. 提言
    国・個人・企業の役割
    企業への提言
    1. 世の中の変化に即したビジネスモデルの転換
    2. ダイバシティの推進
    3. 働く人を育てる人事の仕組み構築
    4. 業務プロセスの見直し
    5. 働きやすい職場/ワークスタイルの追究

< 付 録 の 目 次 >

※付録は別紙
PDF996KBこちらをPDFダウンロードしてください

●2007年5月8日の朝日新聞
1.はじめに (1)日本の労働生産性の国際的低さ

日本の労働生産性の国際的低さは、先進主要7ヶ国では最下位
業務プロセス(仕事のやり方)に問題あり!

2006年12月に発表されたGDP労働生産性の統計によると、OECD(経済協力開発機構)30カ国中第19位、先進主要7カ国中では最下位という結果でした。
労働生産性の低さの背景には、ものづくり大国である日本の第二次産業の高度な生産プロセスに比べ、第三次産業の生産性の低さが、全体的な生産性を押し下げていると考えられます。ホワイトカラーは特定できないというものの、第三次産業の業務プロセスに問題ありと指摘されています。ここでいう業務プロセスとは、簡単に定義すると「仕事のやり方」です。

日本企業の優れたものづくりやきめ細かなサービスを提供する力がホワイトカラーの生産性には結びついていない実態をこのデータは暗示しています。

日本の労働生産性
(財)社会経済生産性本部データより

この報告書では、次の流れでまとめています。

BPIAの論点を理解していただくために、付録として下記の資料他を添付しています。併せてお読みください。

1.はじめに (2)ホワイトカラーの生産性とは?

ホワイトカラーの生産性とは?
ホワイトカラーの生産性はモチベーションの高さによって実現される成果

生産性を高める環境

  1. 組織レベルでのコミュニケーションが活発
  2. 人々の信頼感が強い
  3. 組織的に柔軟性に富む
  4. 人々は革新的で、常に新たなことに挑戦しようとする
  5. 帰属している組織へのコミットメントも高い
ホワイトカラーの生産性とオフィス環境

 古川先生は、オフィスで働く人を「ホワイトカラー」と定義し、オフィスにおけるホワイトカラーの生産性についての調査を継続的に行ってきました。2003年度、2004年度の調査に加え、その結果の分析検討を踏まえ、基本的には過去二回実施したアンケート内容を踏襲しつつ、さらにオフィス環境(ハード的な設えや什器)などの新たな項目を追加し、2005年に三回目の調査を実施したものです。

 当初は「オフィス環境と生産性には相関性があるかどうか、あるとしたらどうオフィス環境を整備すべきか」が狙いでした。しかし、クラーク的な事務処理をこなすホワイトカラーとオフィス環境の相関性はある程度認められるものの、創造性を期待するホワイトカラーとは相関性はそれほど高くないとの結果が出ました。

 関西学院大学古川靖洋教授は慶応大学佐藤助教授の協力により潟Gフエム・ソリューションと産学協働にてオフィス生産性に関する基礎調査を行いました。その分析から、次のことが明らかになりました。

 この調査では、研究の前提となる「ホワイトカラーの生産性はモチベーションの高さに関連する」という仮説を証明するものでした。
前提の仮説を証明するために広く多くの方へのアンケートを実施する必要があり、毎回約5000件のアンケート配布をビジネスマンに対して行いそのなかから750件から1200件の有効回答を得たものから分析したものです。

  1. オフィスの生産性向上に直接関係すると考えられている3つの要因「社員のアイデア創出度」「情報の交換度」「ワーカーのモチベーション」が確認できました。また、これらの3項目についてそれぞれどんな因子が貢献しているのかをQAQF分析(=慶応義塾大学経営力評価グループによって開発された定性要因を定量的に分析する手法)により抽出し、三項目の要因の特性を確認しています。
  2. さらに 1. の3つの項目を元に因子分析をしたところ、組織に関する因子と個人に関する因子がそれぞれ2つ抽出されました。このことにより、組織風土や、個人の特性を数値で比較することができることとなりました。

<組織関連>

 古川先生は、オフィスで働く人を「ホワイトカラー」と定義し、オフィスにおけるホワイトカラーの生産性についての調査を継続的に行ってきました。2003年度、2004年度の調査に加え、その結果の分析検討を踏まえ、基本的には過去二回実施したアンケート内容を踏襲しつつ、さらにオフィス環境(ハード的な設えや什器)などの新たな項目を追加し、2005年に三回目の調査を実施したものです。

<個人関連>

 革新性」→この因子の得点が高いと個人の革新性が高く自立した性格であり、その逆は保守性が強く変化を好まない傾向にあると言えます。
「組織への帰属性」→この因子の高いと所属する組織・企業などへのコミットメントが高いことを表しています。

これらの結果から組織について二軸で4象現、個人についても二軸、4象現に区分することが出来ました。実際には調査対象となった該当する企業にこれら二種類4主成分のうち、どんな項目が不足したり必要だったりするのか、さらに詳細の分析を行うこととなります。4主成分全てに作用する施策を打つことも考えられますが、一口に個人の革新性が不足しているといっても何で不足しているのかが分からないと施策は有効な手段とはいえません。また、全ての施策を実施するとなると大変な努力を要することにもなります。施策はなるべく集中して効果的に実施することが望ましいと言えます。

ホワイトカラーの生産性は
モチベーションの高さによって実現される成果です。

例えば、ビジネスプロセス変革、プロジェクトマネジメント、システム設計など、ホワイトカラーといわれるオフィスで働く人の成果は、その出来栄えや期限内の完成、そしてその付加価値が次への能力、技術の蓄積になるなど、多面的に評価する必要があります。
モチベーションを高めるためには、「ホワイトカラーの能力開発や組織の柔軟性の向上を促す施策がより重要であり、その上でオフィス環境の改善が寄与する」がこの研究成果の骨子です。そして成果をあげている環境には次の要素があることがわかります。

  1. 組織レベルでのコミュニケーションが活発
  2. 人々の信頼感が強い
  3. 組織的に柔軟性に富む
  4. 人々は革新的で、常に新たなことに挑戦しようとする
  5. 帰属している組織へのコミットメントも高い

2.ホワイトカラーの生産性になぜWLBが必要か?
   (1)グローバル・ポジショニング

グローバル・ポジショニング

人的資源の移動

ワーク・ライフ・バランス(WLB)
老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態(男女共同参画会議 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会【「ワーク・ライフ・バランス」推進の基本的方向報告】)。

(1)グローバル・ポジションニング
 本研究会は、他の国との競争の中で豊かさのポジションを維持発展させる基盤として、WLBを具体的に考えるべき時がきたと考えています。つまりグローバル・ポジションニング的視点でこれからの働き方と生き方を考えていくべきではないかと考えます。

 創造性の向上で重要なのは、組織の中で多様な人材と外部からの多彩な刺激得られるという環境があるということです。しかし現状では、多くの社員が毎日同じことの繰り返しや受動的な仕事で時間に追われているのではないでしょうか。

 歴史の流れを見ると、単なるモノツクリは次の新興国の出番なのです。需要はアフリカ、中近東などさらに拡大していくでしょう。それを支えるのは新興国であって、日本ではありません。日本の役割は前の章でも述べたように、モノツクリなら「日本ならではの高い技術の基盤産業」でしょう。「ジャパン インサイド」です。

 しかし、もっと大きな市場となるのはサービス産業です。これには、今までとちがった人材開発、育成のプロセスが必要です。新たなイノベーションを数多く生み出していく必要があります。それには金太郎飴的な人材開発ではなく、異分野間の知識共有や大学と企業の産学連携による新事業創出などで、ニュービジネスを活性化する仕組を作っていかなければなりません。ビジネスプロセス・イノベーションが欠かせません。

 人材もこれまでの大学や高校卒の新規雇用、社内育成に頼るだけでは不十分です。少子高齢化はさらに進み、2050年の20歳代の若者は、現在の半分の数しかいないと予測されています。若者だけに、日本の未来を頼ってはいられないのです。結婚育児で家庭に入ってしまう女性を何とか引きとめ、仕事を続けてもらう、子供を何人持っても仕事を続けられる環境を整備する。60歳で現役引退などとも言ってられません。この人たちも働けるだけ働いてもらわなければ、日本経済は成り立たないのです。そしてさらに重要なのは金太郎飴的な日本人だけの同質性を、ダイバシティによって外人も含めた多種多様な人材を活用して変えていく必要もあります。これからの創造性が重要視される世界には、異質な考えや行動が起爆剤になると信じます。

 このような産業構造・雇用構造の変革は、成長する分野に人的資源を移動させていくことが求められます。製造ラインで働いていた熟練工は、コンピュータの熟練ではないですから、再教育が必要です。医療分野や旅行などアミューズメント分野には旺盛なサービスマインドが必要です。これまで働いていた分野からシフトしていく、転職も必要でしょうし、それに応えられるだけのキャリアアップのための専門技術習得や自己啓発の努力も欠かせません。

 国として、企業として、成長分野シフトが容易になる環境整備が必要です。

 これまでの長期雇用を前提とした雇用システムから、個人が自己責任で多様な働き方を選択できる、自立した人材を育成していくことが必要です。また個人個人も「寄らば大樹の陰」から脱却していく技術を身につけ、学習する気構えが求められる時代になるでしょう。

 ワーク・ライフ・バランスの思想は、新たな働き方による、より生産性的かつモチベーションを高い「労働意欲」とより豊かな「個人生活」を実現する基盤になりうると考えました。

2.ホワイトカラーの生産性になぜWLBが必要か?
   (2)予想される具体的な効果

予想される具体的な効果

WLBの定着により、下記のような具体的な効果をあげることができます。

  1. 産業構造転換がスムーズに進むようになる
    WLBが定着することにより、転職などが容易になるチャンスが増えます。働き方の多様性が認められ、いろいろな体験・学習の機会が増え、就業内容をスムーズに転換することができます。産業構造が転換するときに最大のネックは従業員の意識とスキルです。古いスキルのまま、新しい仕事に就業することはできません。モノづくり産業から情報産業への転換は必然です。また、少子高齢化も当然のこととして進展します。女性と高齢者の労働力は必要となります。その時、WLBの施策が能力開発や多様な雇用形態を支えることとなります。
  2. 自立してセルフコントロールの働き方が身につく
    WLBの定着により、自らの仕事の管理習慣が身に付きます。同時にライフの面でも自己管理的な能力が育ちます。従って、自立してセルフコントロールの働き方が身につくこととなります。終身雇用を前提とした雇用形態から転職自由の雇用が当たり前となってきています。その時、自らが、自立してキャリアアップしていくことが必要になります。WLB施策により、セルフコントロールができる人材が育つこととなります。
  3. 高品質なクオリティライフが実現できる(消費促進による経済の活性化)
    WLBの定着は、個人の積極的な「場」の利用が行われます。生活面での充実は、高品質なクオリティライフにつながります。その結果、消費が促進され経済は活性化します。
  4. 地域の活性化に繋がる
    これからの日本の繁栄を維持するには、地域の活性化は欠かせません。首都圏や大都市のみが経済的に発展しても地方の空洞化が進めば、日本の繁栄は継続できません。日本総研の寺島実郎理事長は、「2地域居住」と言う形で、都市部のビジネスマンが田舎にも一定期間居住すると言うことを提唱しています。WLBの施策により、そのような提案が実施可能となり、地域活性化に貢献できる状況ができます。
  5. 海外に対して新しい価値の提供ができる
    「場」の利用の実践と成果の検証により、付加価値が創造されます。日本的なものと合わせて、海外にも通用する新しい価値を生み出すことが可能となります。日本的なプロフェッショナルは“カイゼン”や“たくみ”の世界でした。それらの生まれる土壌は、集団でやりがいをもつことが前提となっています。“般若心経”では、個の中に全体があるとの考えを言っています。全体から離れた個は存在しないということです。WLBが定着したとき、自律した個人ができることとなります。しかし、個人がバラバラでなく、個人が全体を取り込んだ状態となり、ライフのため仕事の場から去った人がいても、相互に補い合う現象が起きます。このようなパワーは、カイゼンやたくみを超えたアンティテーゼを意味します。新しい価値観として世界中に通用するものが生まれてくると考えます。「出現する未来」の著者の一人、ピーターセンゲ氏は、そのような日本的な発想を評価して地球の未来を考えています。
  6. リスクマネジメント(又はBCP)の観点でも、システムが進化する
    WLBの定着で、多様な働く環境を個人が渡り歩くことになります。個人と組織の考え方が合わなくなったとき、個人は組織を去っていくことになります。そうなると組織は情報漏えいなど起きないよう防衛することとなります。自らの維持発展を求めて情報などのセキュリティを充実することになります。また、WLBの定着により、テレワークなどの働き方が当たり前となります。その場合も多様なアクセスから身を守るため、組織は情報のセキュリティなどシステムの進化をさせます。
    また、企業の立場でのリスクマネジメントは、BCPといわれる概念になりますが、災害や危機的な事件に対処する以上に中心人物のモチベーションを維持していくことが最重要なこととなります。中心人物が組織を去っていかないようにするには、WLBの施策が最も重要な施策となります。
  7. 世代を引き継ぐ教育的な効果が期待できる
    WLBの定着により仕事と生活の距離が短くなります。子供の教育環境にもビジネス的な親の発想が取り入れられ、影響を与えます。また、逆にWLB施策により親のライフ環境が増え、考え方を変化させる要因となります。そのことによって、次世代に引き継ぐ教育的な効果になると期待されます。2006年8月12日の日本経済新聞の前世銀副総裁の西水美枝子さんの記事は、1つの好事例です。 「“残業は生産性が低い証拠”と、夫が、仕事中毒気味だった私に示した結婚の条件は、退社時刻6時。約束は厳守したが、例外があった。感謝祭の前日やクリスマスイブと大晦日には、沈没寸前の船長だと夫に笑われながら職場を見回った。さびそうに残る部下を見つけると、もう帰ったらと話しかける。私生活が不幸では、よい仕事ができない。心底そう信じたから。ある小学生にそれを教わった。元気がなくなった部下に理由を聞くと、息子の成績が下がり、海外出張のたびに寝小便をすると言う。勘で“出張へ連れていったらいい”と補助金を出した。忘れたころ、その子から“出張報告”が届いた。“母が飛行機で飛び立った後のことがわかってうれしい。母はインドの貧しい人を助けている。僕みたいな子が学校へ行けるように立派な仕事をしている。母を誇りに思う。僕も母のようになりたいから一生懸命勉強します。”幼い文字をたどりながら、あふれる涙がとまらなかった。もちろん、おねしょはぴたりと止まり、成績は親子そろってうなぎのぼり。部下に明るい笑顔が戻った。恥ずかしかった。人は職場でも家庭でも同じ人間。どちらかで不幸せならもう一方に響く。こんな簡単なことが分かっていなかった。(中略)部下の家庭を対象に、人間としての幸せを考えるようになった。」
  8. 環境問題の改善に貢献する(サスティナブル社会への貢献
    WLBの定着は、例えば、企業の中で起こっているムダな時間外労働の減少があげられます。その場合電気の使用量の減少などにも繋がります。また、それ以上にWLBの定着により、一人ひとりの意識が環境問題について考えるようになることがあげられます。意識が変わることによる効果は、生活や仕事のあらゆる面で現れ、大きな効果が出るようになると考えられます。

3.提言
  〜「日本の企業風土を前提としたワークライフバランスの進め方」

国、企業、個人 三位一体の取組が必要

企業への提言

  1. 世の中の変化に即したビジネスモデルの転換
  2. ダイバシティの推進
  3. 働く人を育てる人事の仕組み構築
  4. 業務プロセス見直し
  5. 働きやすい職場/ワークスタイルの追究

私たちは、「日本の企業風土を前提としたワーク・ライフ・バランスの進め方」を提言します。 そのプロセスを次のように考えます。

  1. ホワイトカラー全体のレベルアップが個人、企業、国にとって急務であり、この環境を整備すべきです。
  2. 会社人間から脱却し、自立した人間への成長が鍵となります。
    「人財(Human capital)」育成です。レベルアップした“人財”が、チームという集団で、各人の特色を発揮して、力を合せて課題を仕上げていくことが、日本人の仕事のやり方です。WLBはこのプロセスを進化させるベースになります。
  3. そしてこの人財は帰属企業に貢献することが望ましいと考えます。
  4. しかしその枠では収まらない人を吸収する労働市場の充実と、転職を許容する労働環境も整備する必要があります。
  5. 「ついていけない人」を保護する社会としてのセーフティネットも整備する必要があります。これまでのようにすべての社員を企業が終身雇用する労働環境から、人財を企業で伸ばし、落伍者は社会全体が引き受ける仕組みが必要でしょう。

WLBを進めていくには、企業・個人・国三位一体の取組みが必要です。国と個人がやるべきことについては、下記の表にまとめました。産業界、特に企業は「働き方」に密接な関係があり、働く人にとってもっとも比重の高い企業が取り組むべき課題を詳述し、BPIAの「企業への提言」といたします。

日本におけるワーク・ライフ・バランスの考察と提言(国、企業、個人がやるべきこと)


産業構造の変革 自立した人材育成 「働く慣習」変革

(政府)
◆転換教育&補助
◆セーフティネット
◆グローバル視点の教育制度 ◆労働基準法遵守(残業・休暇)
◆労働基準法弾力的運用
産業界
(企業)
◆終身雇用見直し ◆多様な雇用システム
◆ダイバシティ
◆有給休暇消化プログラム
◆多様な働く場提供
国民
(個人)
◆語学能力強化 ◆「寄らば大樹の陰」意識脱却 ◆「村八分・周りを気にする」意識打破

価値ある生き方 地方の活性化 リスクマネジメント

(政府)
◆次世代育成支援法推進 ◆二地域居住推進 ◆勤務時間短縮(省エネ)
◆地方移転促進(環境、災害)
産業界
(企業)
◆多様な働き方導入 ◆柔軟な勤務制度、勤務場所 ◆世界を嗅ぎ取る嗅覚
◆社員を信頼する
国民
(個人)
◆地域活動への参加 ◆田舎暮らし、ニ地域居住 ◆コミュニケーション/ネットワーク

 この表は、問題提起、変革プロセス、WLBの役割などの観点から、BPIAとしての提言を、その項目ごとにまとめたものです。詳しい内容は、付録も参照してください。

 国・行政に対しては、WLBに関連する法律・制度をさらに整備するとともに、厳格運用や場合によっては柔軟対応など、フレキシビリティを求めています。また地方活性化や環境問題の改善にWLB推進が役立つことをわれわれは主張し、その促進策をリードしていただきたいとも提言します。

 WLBを享受する国民・働く人には、基本的には意識改革を求め、自らをレベルアップしていくための自己啓発を自主的に考えていただきたいと要求します。また視野の広い人間形成のために、会社を超えた活動に参加し、ネットワークを広げ、グローバルな視点で物事を見れる人財に成長されることを期待しています。

 産業界については、「企業への提言」として5項目にまとめました。 特に中堅以上の規模の企業においては、取組みを加速させ、WLBの推進ひいてはホワイトカラーの生産性向上につなげていく必要があります。

企業への提言
  (1)世の中の変化に即したビジネスモデルへ転換

真に豊かな会社(&社会)とは何かの追求

付加価値の高いビジネスの追求

 これまでの企業は、売り上げを増やし、利益を最大限にすることが至上命題でした。会社としては、そうなって欲しいのは当然です。しかし最近は、企業の社会的責任が強調されるようになりました。利益だけでなく、環境や、コンプライアンスをベースにする経営をして、社会に貢献することが企業の責任と言われています。それには、成功企業の例で紹介したように、まず「社員を信頼し、大切にするオープンな企業風土」を作ることが必要です。「人財」が、より重要な時代になったのです。そこで働く人の働き甲斐を高め、企業のブランディングも守れます。そのような環境の中で、社員は伸び伸びと自らの力を発揮でき、創造性も培われていきます。 継続的に利益を上げるためには、どの会社にも負けない、製品やサービスを世の中に提供していかなければなりません。国内市場だけでなく、世界に通用する製品やサービスが繁栄には欠かせません。ITネットワークの普及で物理的にもソフト的にも国境の壁は一部を除いては薄くなりました。

 「規模の経済性」から、独創的かつ革新的な価値ある製品・サービスの「質の経済性」を求める時代です。そのためには、海を越えた協働による価値向上も必要です。これまでの日本企業は大量消費に支えられた大量生産の効率性を追求していましたが、これからは創造性あふれるユニークさに価値があります。多様な人材による多様なアイデアが求められます。「世界を嗅ぎ取る」感覚を経営者は常に持つ必要があり、同時に世界の共用語である英語は少なくとも社員全体に普及させる教育や研修も求められます。

企業への提言
  (2)ダイバシティの推進

意識構造を変える

育児女性、障害者、高齢者の活用

外国人によるカルチャショック

 新しい時代の企業にとって、「さまざまな人による、さまざまな発想で、さまざまな企画」が生まれ、それが実現することは、会社が成長し続ける原動力になります。
日本でWLB推進の主な対象は、育児の女性です。有能な女性が、子育てのためにそれまで蓄積した経験やノウハウを捨ててしまうのは会社にとっても損失です。WLB施策で、育児をしながら働き続けてもらうことは、会社べったりの生活から、別な視点で仕事を考える環境も追加され、貴重なアイデアも出てきます。高齢者、障害を持つ人もしかりです。健常者では決してわからない問題点を指摘できるのもこの人たちです。異なる視点からの意見、アイデアは重要です。

 グローバルポジショニングがこれからの企業には欠かせません。これまでの日本だけを市場にしていては、衰退していきます。外国からの労働力を積極的に取り込み、日本人だけの世界に風穴を開けなければなりません。WLB推進には、いちばん効果的だと思います。日本人だけの世界では、常識と思っていることが彼らにとっては非常識ということは多々あります。なぜ休暇をとるのにオドオドするの?など。オランダから来たインターンシップの学生の話でなるほどと思ったことがあります。「ある問題点を指摘し、改善提案を、それにいちばん関係ある部署の課長に直接したら、所属の課長を通してやってほしいと言われた。なんでこんなやり方を日本人はするのか?オランダでは該当部署に誰でも提案できる」まさに階層型の組織の弊害が生産性を落としているのです。ダイバシティとは異質な考えを尊重しつつ、現状を改革していく有効な手段になりうるのです。

企業への提言
  (3)働く人を育てる人事の仕組み構築

新しい働き方に対応する成果・評価指標の開発

プロフェッショナルの育成

次世代育成支援法・労働基準法の遵守、

 BPIAの主張するワーク・ライフ・バランスは、「ホワイトカラーの生産性・創造性を高めるには、WLB思想を企業に普及させるべき」という考え方です。これまでの働き方を変えようと言っています。ということは、人事管理の仕組みにもメスを入れなければなりません。「専門性のある自立した人材」かつ「グローバルに通用する人材」育成がKeyとなります。そして若手だけでなく、高齢者、女性、外国人、障害者など多様な人材を活用し、多様な働き方をサポートする仕組みを作らなければなりません。会社に必要な人材は長く勤めてもらいたいのは当然ですが、これまでの社会保障を肩代わりしているような終身雇用制度とは決別し、他で能力をもっと発揮できると思う人は自由に会社を去ることができる環境も整備する必要があります。去った人でも、会社にとって必要な人材は、再び戻ってこれる仕組みも必要になるでしょう。
単なる成果主義での人事評価はうまくいかないことも歴史が証明しています。在宅勤務やテレワークなど、オフィスから離れて働くワークスタイルの人も、客観的に評価できる制度を考え、成果だけでなく、その人の熟成レベルや年功も加味した仕組みを作る必要があります。またそれをきちんと判断、評価するための管理者教育も充実させなければなりません。また残業を前提とするような仕事のやりかた、人員配置、休暇をとることをためらわせるような風潮や人事評価への反映など、悪しき労働慣習を断ち切り、健全な「働く環境」を整備することは喫緊の課題です。

企業への提言
  (4)業務プロセスの見直し

ITを積極的に活用

人員代替を考慮したプロセスと要員の確保

付加価値創造を重視したプロセスへの転換

 多様な人材の多様な働き方を、「さまざまな人が、自分の好きな働き方」でやることがワーク・ライフ・バランスではありません。「自立できる能力を身につけた人が、会社のルールを守り、許容される範囲で学習やライフを楽しみながら、自律的に働き、自己実現を図ると同時に会社の業績に貢献する」ことが、ワーク・ライフ・バランスです。このためには、これまでの仕事のプロセスを見直す必要も生じます。きちんと作業手順を整備し、誰がやっても同じ仕上がりができるよう教育する必要もあります。ITネットワークなどで、離れたところでやっている作業を連関させるには、コミュニケーションのとり方やつなぎ方など、ビジネスプロセスを変える必要があるかもしれません。BPRを実現する良い機会です。

 多様な働き方、生活を促進することは、産休や休暇でいない人が常に発生することを前提に考えなければなりません。そのときの代替要員やプロセスの変更など、これまでとはちがった発想(ギリギリではなく余裕人員を考慮)も必要となるでしょう。「コスト高になる」と言うのはWLBを理解していない経営者です。必要な休息と家庭への配慮は、会社への帰属意識を高め、付加価値を会社に創造してくれることは、実践例の企業が証明しています。これまでの慣習を打破し、社員の視点に立ったビジネスプロセスを構築することが結果的には会社も社員も幸せになります。「この会社に働くことが楽しい」と思わせることが重要なのです。

企業への提言
  (5)働きやすい職場/ワークスタイルの追究

オフィスを経営改革の場として位置づける

画一的で効率のみを追求したオフィスからの脱却

創造性を発揮できる場、仕事をしやすい場の提供

 ワーク・ライフ・バランスだからと言って、みんながみんな在宅勤務やテレワークでオフィスに来ないというわけではありません。大半はこれまで同様、オフィスで働く時間が圧倒的に多いでしょう。働き方を日によって、時間によって選べるフレキシビリティがWLBにはあると言う方が適切でしょう。 外資系や日本企業で社長を勤められた倉重英樹 BPIA会長は、オフィスについてこう述べています。 「会社経営でいちばん重要なのは人、Human Capitalである。社員のモチベーションを高める要素として、オフィスは大切な役割を持っている。自分のオフィスを友達や家族に自慢でき、“見に来て”と言ってくれたら、その社員はそこで働くことに喜びを感じ、会社への帰属意識も高まっている証拠だ。経営改革の中で、それまでのやり方を変える必要に迫られたとき、オフィス移転やレイアウトチェンジのタイミングで、働き方などビジネスプロセス変革にチャレンジするのが、もっとも効果的だ」

 オフィスは単なる仕事の場所ではありません。一日の少なくとも3分の1を過ごす生活の場所になっている人も多いでしょう。そのオフィスを経営改革のツールに使うことはWLB推進の観点からも、とても重要なことなのです。 古川先生の「ホワイトカラーの生産性」研究では、「働くモチベーション向上の絶対条件ではないが、必要条件」とも言っています。