創造性を生み出すワークスタイルを求めて
-人生を豊かにするワークライフバランスを実現するために -
成果の評価項目は売上や利益ではない
寺山 一見、対極的な言葉として捉えられている成果主義とワーク・ライフ・バランス(WLB)ですが、これら双方の共通の土台となるのがホワイトカラーの生産性をどう捉えているかなんです。ホワイトカラーの生産性を日本の企業は数字として把握してきていないのではないでしょうか。だから、成果主義やWLBを論ずるときも印象論になってしまうのではないでしょうか。
倉重 そうだと思います。成果主義はプロ野球の世界が参考になります。プロ野球の場合は組織と個人の業績をきちんと分けて捉え、成果を考えているんです。組織の業績は勝率に基づいた順位です。一方、個人の業績は野手だと打率や打点、ホームラン本数、ピッチャーだと勝率やら防御率。そしてそれらの個人の業績がチームの業績にどれだけ貢献したかの貢献度。企業の場合、組織の業績は顧客満足度や品質、売上、利益です。一方、プロ野球で言う打率や打点、ホームラン本数に匹敵する個人の業績は、個人能力です。そしてプロ野球同様、個人能力を向上したことが組織の業績にどれだけ貢献したかという視点でみればいいんです。
寺山 なるほど。企業の場合は、成果主義の成果を売上や利益などを見ていることがほとんどですね。組織に対する業績項目を個人に採用しているから、混乱しているんでしょうね。
倉重 「あなたはどんなプロジェクトをマネジメントしたか」「どんなシステムを設計したか」「どんなビジネスプロセスをリエンジニアリングしたか」、このような点で評価していけばいいと思います。そして個人能力を上げたら、名目上の給料は上がるが、支払いはその人の貢献度と、その人が属している組織の業績を勘案して支払うという風にすれば良いのです。
寺山 これまでの日本の企業は、何事にも組織優先で考えていたように思います。例えば年次主義も個人を年次という記号の中に落とし込み、案配するためのものでしたから。それを見直すために成果主義を導入したのですが、個人の打率だけ見るようなあまりにも行き過ぎた成果主義にいってしまった。今、多くの企業がWLBといっているのは、その揺り戻しなのかもしれません。
倉重 階層型組織の採用も、組織優先を後押ししました。主たる情報メディアが紙で、主たる通信手段がFace to Face(F2F)の場合、各機能間をコラボレーションさせるには階層型組織は有効でした。しかしこの場合、上からの指示でみんなが動く。だからどうしても組織優先の考え方になってしまうのです。一方、現在の主たる情報手段は紙ではなく複合情報メディアで、主たる通信手段はインターネットです。このような時代になると、機能間のコラボレーションにはネットワーク型組織のほうがより効果的です。いろいろな能力をもった人が集まり、コラボレーションして、価値創造していくという働き方ができます。P.F.ドラッガーがいうプロフェッショナルな働き手が増える環境になる。階層型の組織にこだわる理由はないことを、意外に理解していない経営者も多いのです。
同質の人材だけでは創造性は生まれない
寺山 組織の上にいる人たちだけでなく、今の若い人たちの価値観も、意外に保守的ですからね。
倉重 同じような考え方、能力を持った人が集まっているのも問題です。確かに効率を求めるのなら、同質の人が集まった組織のほうがいい。だけど、同質な人が集まっているところには創造性は生まれにくいからです。創造性は異質の融合から生まれるんです。今の時代、競争力を維持するのは効率化ではなく、創造性なのですから。
寺山 準日本的な組織に聞くと、「異質が大事。だからいろんな人を採用しています」と言います。でもやっぱり同じように染まっていくんですよね。それはなぜでしょう。
倉重 日本が農耕民族であることがその一因だと思います。農耕民族はみんなが同じことができるようにならなければなりません。田植えや、草取り、稲刈り、脱穀という仕事を、みんなで共に携わるのです。だから朝何時に集まって何時まで働くというスタイルになります。それに対して狩猟民族は、それぞれ自分の出番があるんです。罠をかける人もいれば、動物追いかける人もいる。その役割が回ってきたときが自分の出番で、役割が終わるとフリーになります。この働き方そこは大きな違いだと思います。罠かける人と動物を追い込む人とでは、要求されるスキルが全然、違います。それぞれの仕事は誰もができるわけではありません。だから専門家ができるという社会がスムーズに確立できたと思うのです。専門家が必要なかった農耕民族だから、組織においても同質性が求められてしまったんだと思います。
もう一つの要因は、終身雇用制。終身雇用制は会社を家族化するような仕組みなんです。人口が増えるのは家族の場合は子供が生まれたときで、会社の場合は新人を採用したときです。人口が減るのは、家族の場合は死んだときで、会社の場合は定年退職したとき。その間は親父は親父だし、兄貴は兄貴という存在は変わりません。また家族は娘を嫁に出したり、嫁を迎えたりなど結婚はさせますが、家族同士がどんなに親しくなっても一つになることはありません。だから日本の企業は業務提携やジョイントベンチャーは好きですが、M&Aは嫌いなんだと思うのです。終身雇用制、つまり家族の中で異質な存在がいると、やはり嫌だと思うのです。だからそういう存在がいると出る杭をたたいたり、欠点直したりして、同質化を招いたんだと思います。
寺山 終身雇用制が崩れたことで、多くの会社がダイバシティに取り組めるようになったということもあるんでしょうね。でも多くの日本企業の場合、ダイバシティというと女性を対象としたものになっていますが、これからは外国人の対策も重要になると思うのです。
倉重 本当のグローバル戦略を立てるには、やはり外国人がいないと分かりませんからね。日本人だけの働き場所と考えてはいけないんです。
米ゴールドマンサックス社の東京のオフィスであるゴールドマン・サックス証券には49カ国の人が働いているといいます。同社足助会長に言わせると、このように様々な文化を持つ人びとが働いていないと、日本の組織はグローバル化しないよと言うんですよね。私が以前、代表を務めていたプライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(PwCC)でも、いろいろな国の人を意識的に採用し、結果29カ国にわたる外国人が働いていました。すると、日本の常識について日常的に質問が来るんです。
寺山 例えばどのようなことを質問されていたのでしょうか。
倉重 売上代金の回収サイトの場合、日本では90日が一般的ですが、彼らにしたら「それは長すぎる。45日で十分じゃないか」というのです。日本人だけの組織だと、世間が90日となっているのだから、これ以上縮めようという発想なんて沸いてこないじゃないですか。
寺山 先日、世界銀行の人事を担当している副総裁と話をする機会がありました。世界銀行では現在、80カ国以上の人を採用しているそうです。採用基準も変化しており、国境を越えた交流と調整ができるかどうかを重視するようになったといいます。
プロジェクト型採用で生産性を向上させる
倉重 もう一つ、ホワイトカラーの生産性を上げるための考えなければならないことがあります。それが仕事のプロジェクト化です。工場はベルトコンベアを流れる仕組みをセルという方式に代えて需給のバランスを採り、余分な在庫を持たないようにして工場の全体の生産性を上げていきました。これと同じで、企業活動のバリューチェーンは大きなベルトコンベアとして捉えることができると思います。一方ホワイトカラーの組織は冒頭でも話したとおり、階層型を採用しているので、プロセスがA部門からB部門、B部門からC部門へベルトコンベアが進んでいくたびに、その間でネゴシエーションが必要になる。だから効率が上がらないんです。ホワイトカラーの生産性向上について語る一方で、この構造を一向に変えることをしていないんです。工場がセル化したように、バリューチェーンのベルトコンベアもセル化すればいいのです。セル方式、つまりプロジェクト型を採用することなんです。プロジェクトチームこそネットワーク型組織の典型ですから。仕事とは結局はお客様を満足させる活動といえると思います。
寺山 階層型組織の会社が、プロジェクト型がいいということだけで何の改革もなく取り入れてしまうと、危険ですね。プロジェクトリーダーが部門間の交渉をやらなければならなくなってしまい、「プロジェクトリーダー=稟議を回す根回し役」になりかねません。
倉重 余談ですが、それを防ぐためにも私はプロジェクトオーナーを置くことを提唱しています。プロジェクトオーナーとは、プロジェクトのメリットを受ける人であり、最終評価者です。プロジェクトは進んでいくと、トレードオフが出てくるものです。オーナーがいれば、トレードオフが出てもプロジェクトリーダーは意思決定が仰げる。日本企業には、プロジェクトオーナーがいないところが一杯あるんですよ。
寺山 確かにいませんね。
倉重 だからリーダーは行き場がなくなるんですよ。誰に相談したらいいか分からない。だから問題が起きると「なぜ、起きたのか」を分析し、対策まで考えてから報告しようとする。まれに報告までに半年かかることもある。当たり前のことですが、経営者からすると、問題が起きたときにその場で言ってくれたほうがいいんです。止めるかコストかけても続けるか、その場で判断できるのですから。
寺山 プロジェクトオーナーは面白い仕事ですよね。社内でありながら、小さいながらも組織のトップとして経営の仕事ができるのですから。プロジェクト型で仕事をすることになると、経営陣の人数は今より減るかもしれませんね。
倉重 少なくなるというより、経営陣がプロジェクトオーナーになればいいのではないでしょうか。そうすれば、ホワイトカラーの生産性は上がると思う。今の日本の組織のままでは、どんなことをやっても生産性は上がらないと思いますね。
寺山 それをブレークスルーのも、ダイバシティということですね。いろんな考えを持つ人間を集めて、その能力を発揮させられるのがプロジェクト型組織ということですね。だからホワイトカラーの生産性が上がる。
倉重 長期的に見ればそうだと思います。ダイバシティの取り入れると、最初のうちは少し混乱するかもしれません。というのも先にも話しましたが、日本はこれまでユニフォーミティマネジメントだったからです。異質を嫌い、一つの理想に向かってみんなが一丸となって努力していく、そういう画一性マネジメントを実践してきたのです。ダイバシティマネジメントを取り入れるということは、画一性の中に閉じ込めていた社員を解放することなんです。出る杭は打つのではなく、強いところを伸ばしたり、言いたいところが言えたり、目標が選べたりという環境に解放してあげるんです。そうすることで創造性も向上します。
寺山 そのためにも制度的なところも整備しないといけないですね。
倉重 そうです。生産性向上に関与する要素の第一は、先にも述べたように能率や効率を上げることです。もう一つは創造力の向上。前者の手段にはTQCやABC、シェア・ド・サービスセンター、ERP、アウトソーシングなどがあります。後者の手段にはコラボレーションや情報武装、ナレッジマネジメントなどがあります。両方必要ですが、これからは後者の向上に焦点が当たりつつあると考えています。
でもこんな面白い例もあります。モダンデザイン家具の世界的メーカーである米ハーマンミラー社では、人事とシステムとファシリティを担当するチーフ・アドミニストレーション・オフィサー(CAO)という役職を設けています。CAOを設けている理由は、ベストな人材を採用するためだというのです。
寺山 人事とシステムとファシリティを一人で担当するのは面白いですよね。
倉重 求職者が企業を選択する際の流れに沿うと、そういう職種が必要になるという考えからです。面接などで会社を訪れたとき、まず求職者は、建物をチェックします。だから建物が求職者の目に魅力的に映るようにしなければなりません。そして次に求職者がチェックするのは、人事の人柄です。これも建物同様、魅力的でなければなりません。そして最後は、システムのサポートがしっかりしているか。この3つを求職者がチェックするからだそうです。
寺山 ハーマンミラー社の3つのインフラを一人が統括してマネジメントすることが一番いいという考えなんですね。
倉重 各企業が競争力をもって世界で生きていくために、どうすればいいのかを考えていけば、日本全体も変わっていくと思います。
ダイバシティで社員の意識構造も変革させる
寺山 組織の側が変わることも重要ですが、社員一人ひとりの意識構造を変えて行かないと、いくら環境は用意されてもうまくいきませんよね。
倉重 個人の意識構造の改革は、すごく大事なことだと思います。こういう個人の目覚めがあって初めてWLBを考えることができるのではないでしょうか。野球選手同様私たちも「仕事をする時間」だけでなく、「休息する時間」「トレーニングする時間」が必要です。野球選手はこれらを月単位でスケジューリングできるが、私たちは日単位もしくは時間の単位でしかできないんです。単位が細かくなればなるほど、メリハリがなくなってしまう。だから、個人ももっと自分の人生を豊かにすることに本気で取り組むべきでなんです。
寺山 そこは手をわざわざ組織が下してそうしなさいともいえないですからね。
倉重 個人が自分のやりたいことをはっきり持つことなんです。何をやりたいのか、何になりたいのかが分かれば、キャリアパスも明確になるんです。これは評価制度も明確にすることにもつながります。企業は各社員の目標達成を支援する環境を整備すればいいのです。
寺山 そうですね。会社を主語にして自分の人生を考えないことです。本来WLBは会社や役所が考えることではないはずですからね。どんなに縛られているように感じても、辞表を出した瞬間にその糸は切れてしまうのですから。会社はどんなことがあってもその人の面倒を一生見てくれる家族ではありません。生産性が落ちてしまった社員を一生懸命かばったり、養ったり、守ったりはしてくれません。それは歴史が証明している。自分の売り物は何か、どうやって社会に貢献してお金を稼ぐことができるのか、そういうことを考えられる個人を育てることが、会社にとっても大事になるんでしょうね。
倉重 そういった人たちが集まった会社のほうがパワーはありますから。
寺山 たとえ今いる会社がダメになっても、能力があり、モチベーション高く、社会に貢献できる人は、必ずその能力が生かされる場所が与えられるはずです。会社を外れたら何の力も発揮できない、というところに自分を置いてはいけないと思うんです。
倉重 従来とは違い、日本においても人材の流動性は高まっています。働く目的が従来の労働力をお金に換えることから、能力をパフォーマンスに換えることに変わってきているからだと思います。働く目的を、能力をパフォーマンスに換えることであると考える人は、自己実現志向が強い。だから労務・業務管理ではなく、能力評価や能力開発を重視する、目標選択ができるようにするなど、会社が変わらないといい人材がどんどん出てしまう方向に向かっているんです。経営者は今が考え時です。
寺山 我々の周囲でも、インターネットの世界でやっていけるという自信をつけた人は出て行っています。会社が辞めてほしくない人から辞めるんですよ。社員に選ばれなくなれば、会社はこれから先、続かないですよね。社員に選ばれる組織にする一番のポイントはなんだと思われますか。
倉重 やはり、ダイバシティマネジメントだと思います。トップはこれから本気で取り組まなければならないと思います。
寺山 私も単一の価値観しか持っていない人間や組織はすごく弱いと思います。たとえば、優秀な女性であればあるほど、産休を取られたら組織としてはやはり痛い。でも目先の利益を追いかけるあまり、働く女性に結婚するな、子供を生むなといったとしたらどうでしょう。次世代の人口が減るため、長い目でみると会社の利益にさえならなくなってくる。単一の価値観で目先の利益だけを見て、それがすべてだといっている人は、会社の中でも人生でも道を見誤ってしまうと思うんです。会社から一歩外に出ればまったく違う価値観があるわけですから。倉重さんがおっしゃるとおり、いろんな価値観の人が会社にいれば、会社は強くなると思います。
寺山 実は一般的に「社員を大事にしている」イメージのある日本の会社より、外資のほうが人事の指標をちゃんと持っているんです。外資では従業員満足度調査を実施している企業が多く、その結果が上司の評価につながっているんです。日本の会社はこれまで、そういうことにまったく関心がなかったんですね。部下を満足させられないマネジャーは、マネジャー自身の成果が上げられないだけでなく、下手すると部下を失ってしまう。そんなマネジャーのところにいい人材を置くことはできません。こういう風に、人を大事にしていなさそうに見える外資の方がちゃんと、人を見ていて、「人は財産です」といっている日本の会社はまったく見ていなかったわけです。日本では情緒的な管理しかしてこなかったと思いますね。
倉重 日本は単に解雇しないだけなんですよ。米国企業はいらないと思った人材は確かに解雇します。その一方で、働いている社員にはものすごく神経を使っています。日本の企業のように解雇しないから、社員にとって暖かい会社というのは、正しい見方とはいえないと思うんです。
寺山 同感です。実際働いている人たちがいかに気持ちよく、かつ能力を発揮できるような場所を提供しているかどうかが、本来企業の人に優しいことなんです。日本の会社の場合、2割ぐらいは飼い殺しになっている社員がいるといわれています。そのような生活を続けていると、本来、能力のあった人でも使い物にならなくなる恐れがある。使えない人材の拡大再生産につながりますからね。
倉重 どこに行っても通用するように育てることが、本当は社員にとって最も暖かく感ずる会社の取り組みだと思います。そういう人事制度を持っている会社は、発展していっています。例えばリクルートや野村総研、かつてのIBMのように。
寺山 世間で人材輩出企業と呼ばれている企業ですね。ゼネラル・エレクトリックもそうですよね。
倉重 人材を輩出している会社が、外に出ても通用する人材を育てている会社といえるでしょう。当然、会社のパワーも強い。
倉重 今は、モノとサービスが同時に提供されるソリューションが全盛になっています。モノの品質は工場で決めたら安定しますが、サービスの品質は提供している人の能力とモチベーションで変わります。ソリューションを提供している会社は、社員の能力とモチベーションをいかに高い水準で維持するかと言うことが品質管理そのものにつながるのです。
寺山 これまでの日本では、サービス業に携わる人のモチベーションはあまり高くなかったような感じがします。だから品質も上がらない。
倉重 これからは社員のモチベーションをどう維持していくかということが、経営に課せられた大きな課題になってくると思います。それには人生が充実していて仕事も面白いからやっている実感を社員に与えることが必要なんですね。だからこそ、WLBが非常に重要な意味を持つのです。
寺山 海外では一年のうち、10カ月間必至で働き、残りの2カ月間を休みするという人も珍しくありません。先のプロ野球のように、メリハリがあり、人生が充実しているからこそ、モチベーション高く仕事ができるのだと思います。本当に充電していない人材はいざとなったら弱いと思います。というのも、何が役に立つかなんて分からないじゃないですか。私は歴史の本や哲学の本が好きでよく読むのですが、たまにそれが仕事に役立つことがあるんです。目先のことに役立つことだけしかやらない人は、だんだん短視眼になってしまいますからね。
倉重 その通りです。WLBはまだまだ時短だと思っている経営者が結構います。まずはこの考えを改めさせるよう啓蒙していくことから、取り組むことではないでしょうか。