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第6回 『21世紀型情報システムを考える』研究会
─20世紀型アプローチからいかに決別するか──

テーマ:
:「フレームモデル」の共通認識を図るワークショップミーティング

日 時: 2008年12月11日(木) 16:00〜18:00
場 所: アーク情報システム(市ヶ谷)大会議室

「21世紀情報システムを考える」研究会ではこれまで6回会合を重ねてきた。そのうち5回は情報システムにおける「情報の海」の概念とその必要性の有無、さらに構築のアプローチについて議論。共通理解として「データ一元化にかかわる10か条」を策定し、いったんデータの一元化に関する議論を終了した。そして前回(2008年9月17日開催)から議論の軸足をフレームモデルに移した。会の冒頭で研究会のナビゲータである山田博英氏が、なぜフレームモデルが必要なのか、またフレームモデルとはどのようなものなのか、図を用いて解説した。山田氏の解説は以下のとおり。

21世紀の情報システムにフレームモデルがなぜ必要か

フレームモデルはなぜ必要か。その理由は価値観が多様化し、社会が大きく変化しているにもかかわらず、我々の意識改革ができていないために日本の企業情報システムはその変化に対応できていないと考えているからだ。
企業は、これまでは部門業務の効率化を図るためにシステムを導入してきた。情報処理の方式はバッチ処理。処理が早くなればなるほど、経営効率も上がるという、効率や合理化重視の経営だった。しかしネットワーク技術が発展したことで、いつでもどこでも欲しいときに、経営陣をはじめ誰もが正確な情報を手に入れられるシステムが構築できるようになった。それが情報の海である。それにより経営陣はもちろん、従業員も今までは手に入らなかったその情報の海からのリアルタイム情報を活用することで、業務のミッションの遂行ができるようになったのだ。「21世紀:後輪駆動から前輪駆動経営へ」の図を見ても分かるように、21世紀の今、20世紀の後輪駆動経営に決別し、前輪駆動型の経営に切り替える時期である。

21世紀:後輪駆動から前輪駆動経営へ

米国は1997年1月の大統領教書で「これからはネットワーク社会だ」と宣言、政治的にもネットワーク社会へ向けて前輪駆動へ移行しつつある。企業においてはIBMを見て分かるようにさらに早期のに1995年ころにルイス・ガースナーの指導によってその移行が始動している。日本の多くの企業も、このままではいけないと思っている。しかしなかなか変われないのは、価値観が多様化し、混乱している中でその方向が定まらないからではないか。そこでもっとシンプルに考えるため仕掛けが必要になる。それがフレームモデルだ。
21世紀の企業情報システムに必要な「情報の海」と「フレームモデル」。その関係を端的に表したものが、図「情報の海とその使い方」だ。

情報の海とその使い方

人は情報があれば行動できるわけではなく、情報を解釈する何らかのフレーム(思考の枠組み)が必要になる。そのフレームも3段階で考える。個人の価値観(個人フレーム)、それに影響を与える企業フレーム、さらにそれに影響を与えるや社会フレームの三段階である。フレームモデルの元になっているのが、ダグラス・エンゲルバートのABCモデルである(ABCモデルについては、「第二回「新・ビジネスモデル」研究会 オープンセミナー」の抄録を参照)。
ABCモデルとは個人が行動を決断する価値判断の基準となるメカニズムを表している。Aアクティビティは個人の日常の行動で、Bアクティビティはその行動をよりよくしようとする改良作業。そしてCアクティビティはAやBの行動を支えるフレームワーク自体を考え直す作業である。私が提案するフレームモデルとは、このエンゲルバートの理論を人や組織における決定メカニズムに応用したものである。
行動とは連続した判断の結果である。そして判断には身体的にするもの、暗黙知でするもの、常識でするもの、形式知的にするものがある。これは物理学者のマイケル・ボランニーやデンマークの物理学者、ニールス・ボーアなどの書籍で記述されていることだが、子供の成長を思い浮かべると分かりやすい。赤ちゃんの頃の行動は身体感覚で行われる。大きくなるに従ってしつけや教育が施され、こういうことをしたら罰せられるんだというような社会フレームを獲得していく。これを表しているのが、図「子供の成長とフレームの獲得」である。

子供の成長とフレームの獲得

本研究会で考えていきたいのは、社会フレーム。高度成長期は良いものを安く作れば組織は社会に貢献でき、従業員もそのために一生懸命働けば評価されるという時代だった。つい最近まであるいは今もそのような社会フレーム、つまり「良いものをより安く」が存在してきた。しかし今はその社会フレームが崩れ、終身雇用制度も機能しなくなってきているし、従業員のマネジメントのあり方も変わっている。これが新しいフレームが求められる理由だ。

日本の情報システムは本当に今のままでいいのか?

山田氏は、こうフレームモデルを説明した上で図「変化が状態にあるときの組織モデル」を提示。

変化が常態にある時の組織モデル

「従来型のビジネスモデルであっても、常に目的イメージを意識することが重要だ」と強調した。
これに対して参加者からは、図の構成要素の意味が分かりにくいなどの意見が出た。「現在のビジネスモデルから上に向かっている矢印は何を表しているのか」「フレームモデルが1つしかないのはおかしいのではないか」「左の丸が右の丸に比べてかなり大きく描かれているが、それには何か意味があるのか」などである。初参加の川崎氏は「オープンソースはどこに位置づけられるのか」と質問した。それに対し山田氏は「オープンソースは左側(現状)を新しい流れと調和させる概念と見るのが良い。それ自体が新しい流れを自力で作り出す概念ではないと思う」と回答。この後、ブレーンストーミング的に時間を費やして図に関する質疑応答を実施。それでも、やはり分かりにくいという意見が多かったため、山田氏とともに本会のナビゲーターを務める田口氏は「この図はこれからもブラッシュアップしていく」と答えた。

山田氏は、「オープンソースは左側(現状認識)に位置づけられる」と回答。分かりにくいという意見が多かったため、田口氏は「この図はこれからもブラッシュアップしていく」と答えた。

次に山田氏は図「企業のABCダイナミックス」および「各部門・個人のABCダイナミックス」を提示。青系の線は精神論を、赤系の線は具体論を示しているという。

企業のABCダイナミックス

各部門・個人のABCダイナミックス

Boundary Object
参考文献
http://www001.upp.so-net.ne.jp/niche/promenade/Room-3B/21.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Boundary_object
http://denham.typepad.com/km/2003/10/boundary_object.html

串田氏:AアクティビティとBアクティビティの間に情報の海ががあるのが疑問である。先ほどの説明では、Cアクティビティを起こすためにも、情報の海をうまく使って、コミュニケーションをきちんととろうということだったと理解しているのだが……。

青山氏:競合関係にある人が協力関係に持ち込むための上位概念であるBoundary Object(仮想の目的)。このBoundary Objectに変わるものが、Cアクティビティだと思う。エンゲルバートのABCモデルは難しすぎてよくわからないが、Aアクティビティは今の何をやっているのか、そしてBアクティビティはAという行動をどういう風にやっているのか、Cアクティビティは間違ったことを正しくやっていないかを考える行動だと捉えている。日本では間違ったことでも正しくやれてしまうので、そのままやり続けてしまう。そこに課題がある。Cアクティビティは結局、間違ったことを正しくやっていないかということを意識的に考えることだと思う。

さらに田口氏は次のように補足した。「ここでもう一度、本研究会の趣旨を整理したい。本研究会では、情報システムを根本的に改善しないといけないということを主眼に、21世紀の情報システムとはどうあるべきかを議論している。まず必要なのは、必要なときに必要な人が必要な鮮度で日々の情報を取り出せる仕組み、つまり情報の海である。これは過去の議論で明確にしたことだ。同時に必要なのが、情報システムの役割、あるべき姿に関する議論である。少々の誤解を承知で言えば、これまでは「安く品質のよいものを大量に生産して販売する」という社会フレームに基づいて、情報システムを構築してきたと言っていい。現場の業務を忠実にサポートし、ベテラン社員の業務効率を高めるようなイメージである。例えば、ERPパッケージを導入する時、現場の細かなニーズに合わせて大金をかけてカスタマイズしている。それがERPが本来意味するところの「リアルタイム情報の一元化」「ビジネス実態の可視化」を阻害するものだとしても、現場優先だったのだ。しかし今や、その社会フレーム自体が通用しないから、当然、情報システムの役割も変わるべきである。では、どう変わるべきなのか。それを探るためにフレームモデルは有用である。21世紀の社会フレーム、企業フレーム、個人フレームは何なのかを議論したい」。

この後、再び、自由ディスカッションに移った。少々、分かりにくいが参加者の主要な発言を列挙する。

安光氏:エンゲルバートが書いたある書籍にはこんな話が載っていた。今から約570年前、グーテンベルクが印刷技術を実用化した。その結果、これまでは人口の1%しか読み書きが、現在は100%に近く上がっている。だからといって識字率の向上=知的レベルの向上」とはいえないと、エンゲルバートは指摘している。これと同じでコンピュータやネットワーク技術が発達し、知的レベルが向上したといわれるが、果たしてそうか。情報の海もフレームモデルも必要だが、情報の海を活用するという明確な会社の意識がなければ、世界は変わらないのではないか。

鈴木氏:情報の海はデジタル化された情報であり、知識。知恵の創造はアナログであり、それを支えるのがフレームモデルだと理解している。そして知恵の創造するフレームモデルを活性化するツールは声や画像、映像だろう。情報の海というデジタルな世界からフレームモデルのアナログ世界に行くものもあれば、フレームモデルから情報の海にいく情報もある。その関係をシンプルに分かりやすく表現すればよい。

田口氏:21世紀システム研究会なので、システム技術にこだわりたいが、日本の企業は、本当に情報技術に必要性や可能性を感じているのかだろうかと思う。例えば本研究会では情報の海が必要だという結論になっているが、その具体像であるデータウェアハウスは多くの企業が構築しているわけではない。ビジネスプロセスマネジメント(BPM)やサービス指向アーキテクチャ(SOA)という概念を実践するための製品も同様だ。欧米では活用されているといわれるが、日本では売れていない。“売れない”背景には、日本と欧米の情報システムの役割に何らかの違いがあるからだと考える。その違いとは、日本の企業情報システムが未だ、従来から合理化、省力化という役割を超えていないからではないか。例えば人の意識を目覚めさせる、企業間のコラボレーションを促進する、企業と顧客の連携を密接にするという役割を担うものになっていけば、情報の海、そしてそれを活用するためのフレームの必要性が認識されるのではないか。

安光氏:情報の海やフレームモデルと、BPMやSOAのツールの話はまた別。SOAベンダーが提供している製品は、ソフトウエアをサービス化するという概念を本当に実現しておらず、端にコネクターでしかない。だから使えなくて当然。

山田氏:日本では社会フレームがきちんと整備されていないから、これらのツールが使えないのではないか。

徳永氏:BPMツールもSOAツールも米国で生まれている。日本は現場の視点でモノを見るが、、階級社会の米国はそうではない。だからこれらのツールがうまく使えないのかもしれない。

古木氏:先ほどの鈴木氏の発言「情報の海はデジタルで、フレームモデルはアナログ」というのは、日本的な考えだと思う。海外の企業フレームはアナログではなく、デジタルに近いのではないかと思う。

山田氏:アナログにするのは情報の解釈だと思う。つまりデジタル情報がの解釈されることにより行動と結びつきがアナログとなると思う。それを戦略的に行ってビジネスの武器にするには、一定の形が無いといけない。

安光氏:フレームモデルを考える上で、世界を視野に入れて考えると混乱するのではないか。米国の場合、会社は資本家のものという考えが一般的。しかし日本の場合は、従業員のものか資本家のものか明確ではない。むしろ企業も従業員の方が大事だと思っている。まずこのあたりのことを議論することが先決だと思う。

山田氏:今の日本のあり方が世界の新しいネット時代の潮流にあっていない。日本のあり方を世界とリンクするにはどうするかも検討していかなければならない。

■ 企業の考え方、働き方も変わっていく中で求められるシステムとは?

田口氏:企業も従来の社員中心主義から、米国型に近づきつつある。働き方も変わっている。そういう時代の中で、企業の運用する情報システムは今後、どんな役割を果たすべきなのだろうか。

川崎氏:地方の商店街ではITベンダーはHPを立ち上げれば儲かる」という口上に乗せられ、ホームページ(HP)を立ち上げてきた。しかし未だにもうかったという話を聞いたことがない。世間も賢くなった今、そのビジネスが成り立つかというと、成り立たない。今後ITベンダーがHP構築をビジネスするためには、HPを立ち上げるだけではなく、収益を上げる仕組みを提示することが求められてくると思う。つまりツールを与えるのではなくて、ビジネスモデルを与えることが一つのビジネスになる。これが、今後のフレームモデルに位置づけられると思う。

串田氏:なるほど。それは一つの考え方だ。米国の場合はIT投資と世の中の成長が一致しているが、日本の場合は一致していない。このギャップが何なのか、これをこのフレームを用いて考えていこうという研究会だと思って参加した。企業フレームによって情報をどう活用するか、それが仕事のあり方を変える。製造業が従来の大量生産から多品種少量生産に変わったように、企業側が情報を活用しどう賢く変化していくかが重要になる。

田口氏:そのためにITを使えばいい。

安光氏:そこが違う。今までのデータを一生懸命に分析しても、需要予測はできない。今と過去を分析して将来が見えるというのは疑問。例えば丸井は、需要予測はバイヤーのセンスに任せており、分析は補助的ツールとしてしかつかっていない。ITは仮説実証のための手段として使うことはあっても、ITは仮説を生まない。

情報システムが変わらなければならないことに世間も気づいている

山田氏:田口氏と私が言いたいのは、ITによる情報システムの構築の仕方が変わらなければならないことに気づいていないのではないかということ。

徳永氏:気づいていると思う。例えば政府はITコーディネーターなど、これまでとは違う制度を作っている。いろんなところで気づいているんだけど、いきなりは変わっていかないだけだと思う。

山田氏:先ほどの商店街の例ではないが、例えば商店街を復活させようとしたら仕組みから考えないとできない。そこで問題にしたいのは情報の海の基本となるERPである。米国のERPパッケージは財務諸表に合わせてつくられている。株主のものであるという考えをもつ米国企業の場合はそれでフィットするが、日本企業の場合は、実態との乖離がある。日本企業の実態に合わせてシステムをつくる一つの手段がアトリスの開発したPEXAがある。そういう一つの解があることも、発信していきたい。

徳永氏:今の仕事のあり方(実態)が正しいとは限らない。それに合わせても進化しないのではないか。

田口氏:PEXAは業務のあるべき姿を不自由なく実装できるツール。徳永氏がいうように業務のあり方は日々変わる。業務のあり方だけでなく、組織も変われば、取引先や社員も変わる。21世紀の情報システムの必須要件の一つは業務の変化を阻害しないもの。それを実現する手段としてPEXAを発信していくことはできるだろう。

遠藤氏:私はERPを導入する側、ユーザー側双方を経験している。実はERP導入がうまくいかないのは双方の知識が足りないことが原因である。欧米のシステムがうまくいくのは、必要なところをだけをつくって、足りないところは人間が補っているから。日本は細かいレベルまで要件を出し、ITベンダーもそれを実現しようと努力する。欧米のようにすればうまくいくと思う。今日、この研究会に参加して思ったのは、みんな複雑に考えすぎているのではということ。しょせん情報システムは合理化と効率化を追い求めるツール。それを活用して人間がどう考えていくか、つまりフレームの中でうまくつかうということを議論すればもっと明快な意見が出てくると思う。

最後に田口氏は、次のように語り本研究会を締めた。「21世紀情報システムを考える研究会はその名のとおり、情報システムに焦点を定め議論を進めていきたい。“こういう使い方ができるのでは”、“本来システムとはこういう使い方をするものである”ということが発信することが、当研究会の最大のミッションである。これからの研究会でも、何のために情報システムがあるのか、さらにそれをうまく活用するためのフレーム理論の議論を深めていきたい」。

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