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『21世紀型情報システムを考える』研究会
─20世紀型アプローチからいかに決別するか──
第16回 第3フェーズ「情報の海をどう作るか」

ケース紹介:シグマクシス

講 師: 倉重 英樹
株式会社シグマクシス 代表取締役会長
戸田 輝信
株式会社シグマクシス パートナー
日 時: 2010 年12月10日(金)17:00〜19:00
場 所: 株式会社シグマクシス(SIGMAXYZ Inc.)

 今回の研究会で事例として取り上げられたのは、21世紀システム研究会が理想としている「社員一人一人が創造的、かつ自律的に働ける」環境を実現しているシグマクシスである。

 田口潤モデレータも、「今回、取り上げたシシグマクシスは、私たち研究会が目指すべき方向であり、一つの理想像。しかしあまりにも最先端を走っているので、すぐに真似られないこともたくさんあると思うが、たくさんのヒントがもらえるはず」と簡単な説明をして、今回の講師であるシグマクシス代表取締役会長であり、BPIA会長も務める同社代表取締役会長である倉重英樹氏にバトンタッチした。

 

倉重会長の講演内容は以下の通り。


社員が楽しく働ける環境を作る 

 シグマクシスの設立は2008年5月。同年、9月に現在のオフィスをつくり、10月の末には社員が150人位になったところで、リーマンショックが起こった。そのため、会社のテイクオフには時間がかかったが、現在はこの環境下で経営も軌道に乗っている。そこには何か秘策があったわけではなく、社員一人一人が頑張ってくれた。経営者である自分の役割は社員がモチベーション高く仕事ができる環境を提供することだと考えている。

 これまでコンサルタントの世界では、お客さまのことをクライアントと呼んできた。これは医療の世界と同様、お客さまの事情に合わせて、サービスや処方箋を提供するという関係を築くことが求められていたためである。しかし、私たちが目指すお客様との関係は、サービスや処方箋を提供するだけではなく、お客さまと目標を共有し、活動を同期化し、結果を共有するコラボレーションの関係である。このようなお客様との関係を私たちは「Xpartner(クロスパートナー)」と呼んでいる。Xpartnerとして我々が実現したいことは以下の4つである。

1.社員には楽しさを
2.お客さまには感動を
3.株主には満足を
4.地球には優しさを
 届けることである。

 「社員には楽しさを」を一番に挙げているのには理由がある。株主を満足させるためには、お客さまから売り上げを頂いて利益を出すことが必要となる。お客さまからきちんと売り上げを頂くためには、お客さまが感動するレベルの価値を提供し、お客様をハッピーにすることが必要となる。人をハッピーにするには、自分もハッピーでなければ難しい。つまり、お客さまをハッピーにするには、社員もハッピーでなければならない。社員をハッピーにするには、社員が楽しく働ける環境にすることである。ここに私たち経営者の役割はあると考えている。

社員をハッピーにする要素「イノベーションとモチベーション」 

 Xpartnerとして究極なる価値と喜びを創造するためにはイノベーションとモチベーション必要となる。
 辞書には、イノベーションとは、新商品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・資源の開発、新組織の形成などによって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念と記載されているが、私は、イノベーションはダイバーシティ(多様性)のシナジー効果によってもたらされるものだと考えている。つまり多様性がコラボレーションすることによってシナジー効果を発揮し、イノベーションが生まれてくるのである。
 イノベーションを生むダイバーシティには程度によって段階がある。
・ダイバーシティ1.0:ほとんどの社員が日本人、管理職のほとんどが男、阿吽の呼吸が通じる環境。異質を嫌う組織で、従来の日本の組織。画一性の組織で、効率を上げるには向いているが、創造することには向かない。
・ダイバーシティ2.0:ダイバーシティに関する明確なビジョンがあるとともに、ダイバーシティを有効活用する環境が整備されている。具体的には、異質が尊重され、容易にコラボレーションすることができること、またプロフェッショナル人事制度の採用、ナレッジマネジメントである。ビジョンについては、ほとんどの企業が掲げてはいるが、大半は、会社の名前を変えても通じる内容となっている。ビジョンはあるべき姿ではなく、何をやりたいかが明確になっていることが重要である。
・ダイバーシティ3.0:女性管理職25%以上、外国人管理職10%以上など、ダイバーシティ2.0がさらに進んだもの。
 シグマクシスは、ダイバーシティ2.0は達成しており、現在3.0を目指しているところである。
 次に、モチベーションであるが、アル・ゴア米副大統領の首席スピーチライターを務めたダニエル・ピンク氏は「モチベーション3.0」という著作の中で、モチベーションには次のような段階があると述べている。
・モチベーション1.0:働く目的は食べるため、生活のためなど、生存的動機による。
・モチベーション2.0:当たられた動機、および目標達成による金銭や名誉の獲得など、信賞必罰により働く。
・モチベーション3.0:自己実現などの自発的動機から生じるワクワク感をもって働く。

 私自身を振り返ると、40数年前に「食べるため、生活するため」というモチベーション1.0で入社した。しかし入社した会社(日本アイ・ビー・エム)はモチベーション2.0であった。そこで働いているうちに、自らモチベーション3.0に目覚め、その世界を実現する環境を作ってみたいと考え17年前に日本IBMを退職した。その後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(PwCコンサルティング)、日本テレコムなどで培った経験の集大成が当社の経営モデルに活かされている。

「やるべきこと」「やりたいこと」「できること」

 モチベーションを考えるための要素は以下の3つである。
・やるべきこと
・やりたいこと
・できること
 この3つの円の重なりが大きければ大きいほど、人の、モチベーションは上がる。一方、重なりが小さくなると、ストレスが生じ、モチベーションも下がる。つまり3つの円がすべて重なると最もモチベーション高く働けるようになるわけだ。
 ではそれを実現するにはどうするか。先ずは「やるべきこと」を「やりたいこと」に変えることである。社員自らが企画提案を出し、会社から「ぜひやってくれ」と言われるようになると、「やるべきこと」を「やりたいこと」に変えることができる。

質問:「やるべきこと」を「やりたいこと」に変えると良いことはわかるが、日本の企業においては現実的には、なかなか難しいのではないか。

倉重氏:それは過去のパラダイムで考えるからである。大量生産の時代の経営モデルでは、「やるべきこと」は決まっていた。しかし今はサービス化と多様化の時代。競争相手もいっぱいある中で、多くの会社では「やるべきこと」が決まってはいない。多くの会社が二の足を踏んでいるのは難しいからではなくて、過去のパラダイムを踏襲しているからである。本当に難しいのであれば、当社もできないはずだ。
 
 「できること」と「やりたいこと」を重ねるにはどうするか。例えば「やりたいこと」が今の自分の能力ではできないこともある。その場合、自分一人で「できる」ように能力開発するには、大変な労力と時間がかかるが、それができる人と組むことができれば、容易に「やりたいこと」ができるようになる。要はコラボレーションできる環境を作ればいいのである。このように自分で企画書を書き、プロジェクトを進めることができる環境、即ちプロジェクトワークスタイルにすれば、これらの3つの要素を重ねることができる。
 つまりダイバーシティ3.0とモチベーション3.0を可能にする経営プラットフォームとは、
「プロジェクトワークスタイル」を採用しており、
「ライフワークバランス」が確保され、
「プロフェッショナルな人事制度」が用意され、
「ナレッジマネジメント」が活用されており、
「モバイルワークスタイル」により、いつでもどこでも誰とでも仕事ができる環境なのである。

質問:その考えは創業時から持っていたのか。
倉重氏:先にも述べたように、これは17年前から考えていたことである。なぜ、当社でこのような経営プラットフォームが可能なのかを理解してもらうために、当社のビジネスを説明したい。

 当社のビジネスは次のようなプロセスから成る。
1.お客さまとの関係を構築して経営課題を見つける→2.解決策を提案・契約→3.契約内容を実現すること=価値創造→4.プロジェクトが終われば、お客さまに当初の価値が届けられたかの価値確認を行う
 このプロセスを動かすために、「クライアントマネジメント」「プロジェクトマネジメント」「品質/リスクマネジメント」「ビジネスマネジメント」という4つのマネジメントエリアを持っている。
 これら4つのマネジメントエリアのすべてにつき、個々のプロセスが今どうなっているかを見られるシステムを構築している。このシステムについては、後に説明させていただく。

プロフェッショナルを評価するには

 次に事業運営体制である。当社のプロフェッショナルは「生活産業」「製造業」「サービス産業」「情報通信・メディア産業」「金融サービス産業」という5つの産業領域、および「戦略」「パフォーマンス」「テクノロジー」という3つのサービス領域のマトリクスから構成されている。
 プロフェッショナルを評価するための人事制度も構築しているが、設計コンセプトは社員のプロ化とダイバーシティ。
 例えばプロ野球の場合、うちのチームには3割バッターが2人、10勝ピッチャーが3人いるというようにどんな能力の選手が何人いるかすぐ答えられる仕組みとなっている。これは選手資産が可視化できているからである。一方企業の場合は、男性社員何人、女性社員何人、役員は何人ということは明らかにできるが、3割バッターが何人いるのかということはなかなか言えない。これは社員資産が可視化できていないからだ。
 社員資産の可視化に欠かせないのが、客観的な評価である。そこで当社では次のようなプロセスで社員を評価している。
 年初に「1年かけてどの能力をどれくらい開発するか」という能力開発計画を立案する。その計画に基づいて仕事をし、年度末にどのような部分の能力が増強されたかを評価する。例えば「どんな提案書を書いたか」「どんなプロジェクトをマネジメントしたか」「どんなシステムを設計したか」という実績に対して、レベルをつけていくのである。この能力評価によって、翌年度の役割と給与が決まる。能力評価とは別に貢献度(個人がどれだけチームの業績に貢献したか)の評価とチーム組織業績の評価によって、当年度のボーナスが決まる仕組みとなっている。
 能力開発を支援する仕組みも整備している。以下のように一人の社員を最低4人(パートナー、プロジェクトリーダー、アセッサー・パネル、コーチ)が見るようにすることで評価の客観性を担保している。

パートナー:本人から見るとラインの上司。開発計画を作るサポートし、かつ同意された開発計画の実施を支援。貢献度評価と能力評価のうちのコア能力(コミュニケーション能力やリーダーシップ、忍耐力などの16項目)を評価する。ちなみにコア能力は2段階で評価している(半人前か一人前か)。

プロジェクトリーダー:本人の役割遂行をサポートするとともに、プロジェクトにおけるパフォーマンスを評価する。

アセッサー:年に一度の、マーケット能力評価(戦略立案の能力、プロジェクトマネジメントの能力、システム設計能力など5つの能力のレベルを5段階で評価)を行う際に、人事からアサインされるのがアセッサーである。一人のアセッサーが絶対評価した結果を相対評価する場がパネルである。パネルでの相対評価の結果は全社員に公表されるため、評価は厳正に行われる。

コーチ:コーチは仕事上、キャリア上の相談に乗る役割を担う。コーチイー(コーチされる側)はコーチを選ぶことができるが、コーチ側の負担に鑑み一人のコーチが受け持つコーチイーは8人までとしている。

質問:コーチは組織をまたがることもあるのか。またその役割を引き受けることは本人にとってどんな評価が与えられるのか。
倉重氏:コーチイーは組織に関係なく、全社員の中からコーチを選ぶことができる。コーチをすることは、貢献度評価において評価される。

質問:コーチとプロジェクトリーダーが同じ人物になることはあるのか。
倉重氏:プロジェクトによってはあり得るが、意図的にコーチ・コーチイーをアサイン時に考慮することはない。

「どこでもオフィス」の仕組みを用意しワークライフバランスの強化

 ダイバーシティ3.0とモチベーション3.0を可能にする経営プラットフォームの要素にワークライフバランスがあるが、なぜワークライフバランスが必要なのか。その背景にはビジネスのスピードは年々早くなっていることがある。企業が競争に勝つためには、ビジネスのスピードをどんどん上げていかねばならないが、ビジネスのスピードが速くなればなるほど、スピードは恐怖となり、人にストレスを与える。それを軽減するには、私生活を充実させることが重要になるからだ。
 そこで当社では、社員は自分の働く場所と時間を、役員や人事の許可を取ることなく自由裁量で決められるようにしている。アサインされたプロジェクトのチームメンバーから了解が得られれば、例えば17時から19時は子育て時間、というようなこともできる。私生活が充実すれば、気持ちにも余裕ができて仕事へのモチベーションも高まり、組織やチームへの貢献度も上がるという良いサイクルが生まれる。
 次の経営プラットフォームの要素としてナレッジマネジメントがある。当社ではナレッジを蓄積するため、コミュニティサイトとプロジェクトサイトという2つのライブラリが用意している。そしてすぐに欲しいナレッジが見つかるよう、サーチエンジンを導入している。また当社の場合、研修は人事ではなくて、ナレッジマネジメントに位置づけている。

質問:ナレッジマネジメントの中に研修を位置づけているとはどういうことか。
倉重氏:研修は社員にどういうナレッジを植え付けていくかを狙いとしているため、ナレッジマネジメントの中に位置づけている。研修といっても千差万別。eラーニングでできるものから、その道を極めたプロの講演を聞くというものもある。年に2回、全社員を集めて実績と戦略をシェアする会合も研修の一つに位置付けられている。

質問:外部の研修も受けられるのか。
倉重氏:もちろん、自由に受けられるようになっている。

質問:研修を専門にやっている部はあるのか
倉重氏:ナレッジマネジメント部がある。

 オフィスもダイバーシティ3.0とモチベーション3.0の実現には欠かせない要素である。
 従来のオフィスは社員を収容し、仕事をするための場所という概念で作られていたため、そこに情報を集め、社員も一同に介さなければならなかった。しかし今や紙の情報もデジタル化すれば、どこからでも取り出すことができたり、会議もWebカンファレンスを使えば、どこにいても会議に参加できたりする時代。つまり社員が働く場所は、サイバーオフィスに移っているのである。そのような状況下では、物理的なオフィスの概念もこれまでの社員が働く場所から、交流する場所であり、情報発信をする場所へと変わらざるを得ない。
 その交流する場所であり、情報発信をする場所を具現したものが、当社のオフィスである。このオフィスはスペースがオープンでコラボレーションが可能、機能性と遊び心にも富んでいる。しかもコストが安くてセキュリティが高く、エコにも貢献している。
 当社の社員数は約280人だが、座席数は198席(約73%)。フリーアドレス方式を採用しており、社員一人一人にモバイルPCを支給している。固定電話は秘書のみ用意。それ以外の社員は携帯電話を使用。プリンターは全社で1台しかなく、紙をほとんど使わない仕事スタイルとなっている。
 実はオフィスの設計思想は社員をコストと見ているか、アセット(資産)と見ているかによって大きく異なる。当社は先述したように社員をアセットとして見ている。

質問:社員が企画した提案内容とお客さまがやりたいことと異なる場合がある。その場合はどうしているのか。
倉重氏:当社ではプロジェクとの企画書を作成するのは営業ではなく、プロジェクトを運営するプロジェクトリーダーであるため、提案内容は自分のやりたいことに限りなく近くなる。

質問:営業担当者の役割を教えてほしい。

倉重氏:営業担当者の役割は、新しい顧客を開拓し、リレーションを作り、お客様の課題を見つけてくることである。

価値創造型ワークスタイルを実現するシステム

 ここで倉重氏の講演は終わり。シグマクシスが目指す環境を実現するためのシステムについて、パートナーの戸田輝信氏が解説した。戸田氏の話の内容は以下の通り。

 当社が実現するワークスタイルはこれまでのような効率重視型ワークではなく、価値重視型ワークである。適切な人たちが集まり、課題を解決するという働き方ができること。それを可能にするシステムを設計、実装するにあたり、最初に考えたのは、「どこでもオフィス」を実現することである。
 倉重の話にもあったとおり、実際の仕事をサイバーオフィスでできるようにすれば、インターネットに接続できるところであれば会社はもちろん、家でも海外でもどこでも仕事ができるようになる。そこでモバイルPCを一人一台用意し、持ち歩いてもらうことにした。

セキュリティは強固に

 セキュリティ面でのリスクを考えると、端末をシンクライアントにするという選択肢もあったが、単純にそうしなかったのは、インターネットに接続できない場所、例えば飛行機や新幹線、列車の中、協業先、お客さま先でも仕事ができるようにするためである。
 ではどのようにしてセキュリティを確保しているのか。多くの企業のセキュリティは「鎖国型」である。業務端末の社外の持ち出し禁止、ワイヤレスLANの利用禁止、ネットワークへの持ち込み端末接続の禁止、インターネットアクセス制限などの制約が設けられていることが多い。
 しかし当社の場合はどこでも仕事ができる遊牧型。ネットワークはパブリックなインターネット。モバイルPCは盗難にあう可能性もある。それを前提にシステムを組み上げた。
 まずはパブリックなネットワークでも安全にデータをやり取りできるよう、エンドtoエンドで通信パケットを暗号化している。モバイルPCに対しても、自由にアプリをインストールできないようにするなど、構成維持のための対策を施している。
 次にデータやアプリケーション格納しているデータセンターはインターネットにさらされているので、VPNによるユーザー認証(+ネットワークセッションの暗号化)、端末認証、検疫ネットワークという3段階の関所を設けてセキュリティを確保している。
 紛失対策としては、ICカードによる起動制御やハードディスクの中にあるデータを自動でバックアップする仕組みを用意。エンドユーザーは何もしなくても差分でバックアップされるようになっている。
 オフィスは「オンネット・コラボレーション」というコンセプトを実現するため、無線LANやWeb会議システムなどをはじめとするさまざまなICTを活用している。例えば、Web会議システムをはじめ、メールやチャットなどのコミュニケーションシステムは外部の会社との相互利用が可能なようにクラウドサービスを活用。このようなシステム基盤をつくることで、社員同士はもちろん、お客さまやビジネスパートナーとコラボレーションしながら仕事ができるようになっている。

質問:情報漏えいは内部犯が多い。それへの対策があれば教えてほしい。
戸田氏膨大なログをとっている。ある情報を見たということだけでもログが残る。ナレッジ面とシステムなどは、誰がどの情報を何回見たということをチェックしている専門の人がいる。大量のダウンロードがあると、アラートが上がるようになっている。USBなどのメディア対策としては、必ずある暗号化をかけないとメディアに落とせないよう、パソコン側で制限をかけている。

質問:セキュリティ対策にどのくらいかけているのか。
戸田氏:パソコンの本体価格のほか、1台あたり年間10万円ぐらい。
 検疫ネットワークや端末認証の仕組みは費用対効果を検討した結果、自社で構築しており、ここにはライセンス費は発生していない。

再利用可能な形で情報を電子化

 どのようなアプリケーションを構築するべきか。その前に情報を電子化する意味について考えてみたい。紙の情報はそのまま電子化すると、備忘録になるだけで、役割が終わると捨てられる。一方電子情報は膨大な量の中から検索ができ、しかも検索したものを分析したり、再利用したりすることができる。従って紙を紙のまま電子化するのはもったいない。例えば熱い営業魂が込められた営業報告書を電子化しても、おそらく一過性のものとなるだけで再利用の役には立たない。情報を電子化する場合は、再利用を前提に設計することが大事なのである。当社のシステムはそういう設計思想の元に作られている。
 スケジューラーもその一例だ。いつ何が予定されているかが記述できるだけではなく、その予定はどのような活動(プロジェクト)で、何というタスクに関わるのかの詳細まで入力できるようになっている。それらのプロジェクトに関するデータは、日報画面にも反映されるような仕組みとなっている。日報画面ではいつ、だれと、どんなプロジェクトのどんなタスクを、どれぐらいの時間をかけて行ったのか、という詳細な情報を入力しなければならないが、このスケジューラーのデータを再利用することができるようになっている。さらにこの日報の集積が月次の勤務管理表となり、これで給与計算が行われる。
 このような事を実現するために当社の情報系システムは、業務を管理している基幹システムと同じプラットフォーム上に構築されているのが最大の特徴となっている。両方のシステムが同じデータベース、マスターを見ている。二重入力を極力社員にさせない仕組みとなっており、これらのシステムは世の中で販売されていないのでカスタム開発した。
 一方、財務会計やデータウェアハウスはパッケージを採用しており、情報系システムからインターフェースされた数値を忠実に処理している。
 事業管理システムはマネジメントビューワーを介して、リアルタイムの数字が見られるようになっている。マネジメントビューワーで見ることができるものは、現在の契約高や売上高、アサイメント状況(社員が100%アサインできるのであれば、そのうちの何%プロジェクトに使えるのか)、パイプラインボリューム(お客さまに今提案している案件の積み上げ金額)、C/P%(提案の成約率)、さらにプロジェクトが終わるたびに行っている満足度アンケートの点数、プロジェクトの状況など。プロジェクトの状況は信号(緑・黄・赤色)で報告。支援が必要かどうか、マネージメントが一目でわかるようになっており、常にどんな状況にあるのかを見られる環境でプロジェクトが進んでいる。
 さらにマネジメントビューワーではレベニューのフォーキャストも見ることができ、「将来」に向かって「今」手を打てるようになっている。

人材のアサインが容易にできる仕組み

 便利なのは、アサインメントが適切かつ容易にできるよう検索機能が用意されていること。例えばシニアマネジャーやアシスタントマネジャーという役職からはもちろん、マーケット能力やコア能力という会社で評価された能力レベルや特定のプロダクトなどに精通しているというようなスキル項目からも探すこともできる。さらに必要な資格などの条件があれば、追加していくこともできる。
 検索結果は完全にマッチした人だけではなく、条件が3つあるとすればより多く満たす人から表示されるようになっている。もちろんそこからより詳細な人材情報も見ることができるようになっている。スキル項目のメンテナンスをするのは社員自身である。
 最後にナレッジマネジメントの仕組みを紹介する。プロジェクトリーダーがプロジェクト管理システムにプロジェクト情報やWBS(Work Breakdown Structure:プロジェクトをタスクごとに分割した構成図)を入力すると、自動的に文書ライブラリの中にWBSに相当するディレクトリが作成され、そのディレクトリにプロジェクトのすべての情報が継承されるようになっている。従って社員はその決められたフォルダに成果物を入れていくだけ。これにより従来必要だったディレクトリを申請したり、階層を作ったり、公開するために様々な属性をつけたりという手間が必要もなくなるというわけだ。
 検索方法は全文検索。必要のないものまで幅広く引っかかってくるという全文検索の問題点も解消している。検索結果を単に表示するだけではなく、カテゴリー別、WBSのタスク別、インダストリー別、ソリューション別という切り口でも表示できるようになっているのである。
 各プロジェクトの情報は、基本的にはプロジェクトのメンバー以外は見られないようになっている。守秘義務が発生するような情報はアクセス権がなければ、検索には引っかかってこないようになっている。ただ提案書のようなものは、簡単なサニタイズを行ったあと、全社公開フォルダに入るようにしている。このように社員が苦労することなく、ナレッジを共有できるようになっている。

質問:プロジェクト進行中に何らかの問題が発生したときにアラートを上げる仕組みについてもう少し、教えてほしい。
戸田氏:たとえ、プロジェクトリーダーがアラートを上げても、評価にかかわることはない。私たちの考え方は、現場にいる人より上位の人は、現場を支援するためにいるのだと考えている。つまりアラートが上がると、「自分の出番が来た」と捉えるようになっている。アラートを上げる側も「こんなことをしてほしい」と具体的に支援内容を書くようにしている。

質問:プロジェクトの進捗状況は誰が入力しているのか。
戸田氏:リーダーが入れる。

質問:このシステムが動いているインフラと規模、費用について。
倉重氏:このような考えに基づいたシステムを作り始めたのは、94年、PwCCの時代から。OSはLinux、オープンソースも多用している。DBにはライセンスドプロダクトを使っているが、将来的にはオープンソースにしたいと考えている。プロジェクトサイトやコミュニケーションサイトは、コンテンツ管理システムとしてオープンソースの「Alfresco」、検索エンジンにはファセットを多用しているためにライセンスドプロダクトを採用している。

 最後に田口モデレータは「このような仕組みができるのは、シグマクシスだからというわけではない。一般事業会社である日本テレコムの時からも取り入れていたという。したがってどんな会社でも適用できるはずだ」と語り、今回の研究会は終了した。

(文・中村仁美)

<株式会社シグマクシス>
http://www.sigmaxyz.com/

<研究会ページ>
http://www.b-p-i-a.com/research/21cntinfosys.html

<研究会レポートログ>
http://www.b-p-i-a.com/study/index.html

ご参照(これまでの記録)