| 日 時: | 2008年9月17日(水) 16:00〜18:00 |
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| 場 所: | アーク情報システム(市ヶ谷)東プレビル6階会議室 |
過去5回に渡って『21世紀型情報システムを考える』研究会では、データの一元化をテーマに議論してきた。
前回、本研究会のナビゲータであるアールワークスの山田博英氏がこれまでの議論の共通理解として、「データ一元化にかかわる10か条」を発表した。これでデータの一元化に関する議論は一旦終了し、今回から、この研究会のもう一つの重要テーマである「フレーム」について議論をしていくと、今回の会の司会進行を務めるもう一人のナビゲータである田口潤氏は提言。さらに田口氏は今回の会の進め方について次のように説明した。
「フレームについては、第1回目でも多少の解説があったが、抽象度が高く理解が難しい。そこで今回はフレームに関する理解を深めるため、ソフタス社長の田口正則氏と山田氏という二人のスピーカーにショートレクチャーを行っていただく。そして自社の活動に役立つフレーム構築に関する議論の方向性を探っていく。それが今回の会の目的である」
流れに沿う形で、最初にソフタスの田口(正)氏が「私の理解するフレームモデルとソフタス組織図」というショートレクチャーを行った。ソフタスは、山田氏が提唱する新しいフレーム理論のイメージに近い形を実現しつつある企業である。田口(正)氏の話は以下のとおり。
元々フレームの理論に沿って組織改革を行ったわけではない。当研究会の0回で山田氏が「ソフタスの取り組みは私が考える新しいフレーム理論の実践例だ」と紹介されたことで、初めて真剣に組織フレームについて考え始めたのが実際のところである。
当社ではまず、社員の意識を変えるために組織図を大きく変更した(図参照)。現在の組織図では一番下に株主総会、その次に取締役会、代表取締役社長、経営会議、その上に事業本部、事業部と現場の組織が置かれ、最上部は顧客/市場としている。最上部に顧客を置いたのは、当社が目標としている顧客に、組織として向かっていくということを表している。従来の当社の組織図はもっとオーソドックスなものだったため、新しい組織図が社員に与えるイメージは大きく変わったと思っている。
ソフタスの従来の組織は「組織目標の中にある社員」「社員の志向を尊重した上での組織」というコンセプトで形成し、運営していた。社員の中には、既存の組織の枠組みからはみ出すものも出てくる当然出てくるが、その時、既存の組織に収めようとすると、社員の志向を尊重できなくなる。そこで個人の意識のベクトルをなるべく許容し、社員満足度を高める方策を採ったのだ。
具体的な例を挙げると、これまでオープン系システムに携わっていた社員がメインフレームに携わりたいといえば、その意識を満足させるためにメインフレーム事業を新設するというようなことである。このようなやり方では当初は拡大志向でうまく回るし、社員のやる気も高まるが、一方で常に組織開発が必要となるだけではなく、マーケットや社会フレームを無視した組織となってしまう可能性がある。
いつまでもそうした組織運営を続けるのは困難であるので、この状況から脱皮することを決意した。企業としての存在や成長を維持しながらも、「個人を生かす」という企業理念を実現するため、これまでの組織に対するイメージを捨て、新しい組織のイメージを創造することにしたのである。
J相反する可能性のある会社の方針と社員の志向を両立させるような組織は、実現可能なのか? 私が考えた組織の枠組みは一言で言えば、「社員にとって必要」だが「社員の志向の邪魔をしない」ものだ。少し抽象的な表現になるが、「社員は何を行ってもいい。ただし、その時に透明なフレームが存在し、一人ひとりの社員がそのフレームを常に認識できる」というものである。社員が、その組織フレームを常識と捉えて自律的に思考し、行動するようになっていけばいい。そのような組織の枠組み、つまり組織フレームを下記に図示した。
逆三角形にしたのには理由がある。第一に、現場の人たちは目標である顧客や市場(上方)に向かう限りは、どこに向いてもよいということを表している。第二にボトムアップやエスカレーションというような環境をも払拭するということ。つまり現場がもっと責任をもち、経営決裁にも影響するような情報を得る環境を作りたいという意図も含まれている。このイメージをより強く社員に持ってもらうため、実際の組織図でも組織をつなげている実線を消すなど、命令系統をイメージさせやすいものを消そうと考えている。
誤解していただきたくないのは、冒頭で示した組織図を見て、「顧客重視のスローガンに近いもの。ひと頃、流行ったものと同じではないか」ということだ。これに関しては明確に違うと言っておきたい。組織図はあくまでも社員に対してのメッセージである。
田口(正)氏のショートレクチャー後、意見交換が行われた。
このような組織図を作ったことで、会社は何か変わったかという山田氏の質問に対して、田口(正)氏は、「具体的な行動パターンは大きくは変わらない。具体的な結果はまだ出ていないと言ってもいい。ただ組織のあり方に対する意識が高まったことと、従業員発信の情報が流れてくるという兆候は見えてきた。これは一つの成果といえるのかもしれない」と答えた。
ナビゲータの田口氏は、「これまで日本の多くの企業では『会社のいっていることに従う』という上意下達のフレームで社員の行動を規定してきた。そのようなフレームに社員も閉塞感を感じている。そんな社員の意識を改革しようとソフタスでは組織図を逆転。それを示し、その意図を言い続けることで組織の閉塞感を打破し、成長できる会社になる戦略と捉えることができる」とまとめた。
アトリスの安光氏は「私が知っている伊勢丹の現場の人たちは、かなりの決裁権限が与えられており、自分たちの感性で売場のレイアウトなどを変えるという。そのように現場が自律的に動くことで集客力を高めている。伊勢丹やソフタスに限らず、サービス業には逆三角形の組織フレームがフィットするのではないか」と話した。山田氏もそれに応じて、「三角形の組織フレームは製造業、逆三角形は流通業やサービス業の会社で実際に取り入れられているイメージがある」という。
一方、ソフタスでは決裁権限をどう考えているかという質問に対して田口(正)氏は、「決裁権限を現場に持たせるようなところまで、まだ改革できているわけではない。現在はそれ以前の従業員の意識改革を行っているところだ」と答えた。
日本ヒューレット・パッカードの三隅氏は「従業員が自律的に動くようになると、顧客へのサービス品質は個人に依存してしまうことになるのでは」と、疑問を投げかけた。これに対しては安光氏が次のように、自動車メーカーの例を紹介した。「トヨタ自動車は生産現場の一担当者が、何かおかしいと感じたら全体のラインを止める権限があり、それが品質向上につながっている。生産現場の一コマのような仕事でも、そのような権限があることでやりがいのある仕事になる。ほんのちょっとしたことで、従業員の意識が変わるという例だろう」(安光氏)
ナビゲータの田口氏は「組織図を逆転するというのは、ちょっとしたことかもしれない。しかし明確な意図を持ってそれを行い、従業員の意識を変えることができれば自発的な組織へと生まれ変わることは期待できるはず。ソフタスの取り組みに関する残りの議論は後半に回すことにして、次に進みたい」とまとめた。
次に山田氏による「Thought as System」と銘打ったショートレクチャーが行われた。内容は以下の通り。
「Thought as System」は日本語に訳すと「システムとしての思考」ということである。これはデビット・ボームという米国の物理学者の書いた本のタイトルで、情報の海を使って自律した組織人がその責務を果たすための行動の元になるデシジョンをどのように行うのかを解明するのにまことに適切な概念である。
ここで情報の海についておさらいしたい。われわれの念頭にある情報の海とは、現場の人たちが意思決定できるようになるためのものである。ちなみにここでいう現場の人とは、全従業員と考えるとあまりにも理想的で、リアリティーに欠けるので、課長職以上のいわゆるホワイトカラーと考えるとよいと思う。経営とは何か考えると、それはそうした組織内の各所で行われる大小の意思決定を企業のミッションに向けて総合的な行動とすることである。つまり情報をどう意思決定に結びつけるかが、企業経営にとって非常に重要な問題になる。情報の海から得られる情報を、人はどう使い、判断し、行動するのか、全体はどのようにしてまとめるのか。この2つのことをうまくバランスを採ることができれば経営の要諦の一つと考えている。
行動とは判断の結果である。判断は身体や暗黙知、意識などに支配されている。これは子供の成長とフレームの獲得を考えることで分かる。子供は最初、身体の感覚で行動する。しかし社会フレームを身に付けている親がそんな子供にしつけや教育を施し、子供は社会フレームを獲得し、次第にその社会フレームに則った行動をするようになる。会社に入ると、社会フレームに会社の組織フレームも加わるようになり、個人の行動が規定されるようになる。このように私たちの心的フレームは形成されてきた。
日本のGDP(一人当たりの国内総生産)は1993年には世界1位でありながら、2007年には19位まで落ちている。この間、日本のビジネスパーソンや組織、会社が怠けてきたわけではない。製造業が作る製品の品質は国際的に見て第一級であり、機能的にも優れているものが多い。なぜGDPの順位がそこまで落ちたのかというと、それは日本の社会や会社のフレームが世界の流れに合わなくなっているからだと考えられる。
このようなフレーム理論の背景には、私自身の経験がある。東芝で10年働いた後、外資系企業を2社経て89年にサン・マイクロシステムズ(サン)に入社した。サンはそれまでに経験した外資系とはまったく異なる、理解したがい、とんでもなく非常識な会社だった。ここでの異常な経験が、私にフレーム理論を考えさせる要因となった。サンでの異常な常識の一例を以下に示す。
これらはごく一部の例だが、このような指令に基づく空気が日常の行動を取り巻くのである。
なんでこんなそれまでの常識と違うことを言ってくるのか、毎日考えながら10年間をすごした。そんなある時にエンゲルバートのABCモデルを知り、サンでの経験に当てはめて観察してみると、それはIT業界の盟主だったIBMによる一点集中モデルのかもし出す企業文化を崩し、まったく新しい価値観を作るために言っているのだということが分かった。国家より強いと言われていたIBMに牽引されていたメインフレーム業界と同じ考えでやったのでは勝てないから、サンは戦いの場を変えようとしていたのである(図参照)。
例えば「上司に許可を得ないで仕事をする」はどのような場面を想定すると納得できる言葉となるのだろうか。沈没しそうな船から人を脱却させるときにいちいち上司の許可で行動しないのと同じアナロジーで、世界を牛耳っているIBMを中心としたメインフレーム文化化ら脱却を図ろうと思えば、確かに上司にいちいち聞くな、と言うことになるはずだ。そうせずに、同じ常識でやっていたのでは、IBMを超えられないのは自明だろう。それが企業戦略として現れたのが情報に対する姿勢である。IBMは情報を抱え込むことで市場を囲い込んだ。対するサンは情報をオープンにした。誰もが平等に情報を入手できるような環境にすることで業界のルールを変え、IBMが支配する構造をぶち壊すことが必要だと考えたのだ。
現在、ネットワークが普及し、情報のフラット化といわれうように、誰もがリアルタイムな情報を入手できるようになっている。コンピュータ業界もIBM時代は、とうに過ぎ去った。日本も表面上は同じようなものだが、誰もが情報を入手できるかというと、そうではない。「情報を伝達するだけの中間管理職はいらない」と問題視されて言われることが、逆説的にそれを証明している。特に行政機関や大企業に顕著だ。言い換えれば、私達は今なお過去のフレームに縛られており、まだ新しい社会へパラダイムシフトできていない。戦いの場を変える、つまり新しいフレームを早急に構築することが重要である。
山田氏のショートレクチャーについて、いろいろな意見が交わされた。ナビゲータの田口氏はまず、山田氏同様以前、サンに在籍した経験のある安光氏に、山田氏が話した「サンでの異常な経験の実際」について尋ねた。安光氏は「確かに、上司からいちいち許可を得るなとは言われていた」と答えた。ヒューレット・パッカード(HP)はどちら側にいるのかという田口氏の問に対して、三隅氏は「古い文化のビジネスには近いが、当社にはHP Wayがあり、従業員の創造力に任せる風土がある。逆に、現在は内部統制などもあって、従業員が勝手にできることは少なくなった。しかしテクノロジーが進んだときに、組織のフラット化を同時に行った。中間層をできるだけ少なくしたことで、風通しもよく、意思決定も早い組織となっている」と回答。山田氏も「HPは、新しい社会に向けて、古い文化を継承しながらサンのように極端に新しい破壊的な文化ではなく、その中間の非常によいポジションにいるように見える」と続けた。
その後、山田氏がショートレクチャーで提示したABCフレームに議論に移った(図)。
山田氏は、これからの企業にとって必要なのは新しい思考フレームをつくることだ、と提案する。「企業のTQC(統合的品質管理)活動をABCモデルに当てはめて考えると、TQCに参加する個人の思考フレームは日常の行動(Aフレーム)から抜け出して、一つ高い会社全体の視点(Bフレーム)から議論を行っている。それが日本で大成功して、米国で賞賛されているように、日本ではBフレームはもうしっかりできている。その上で、エンゲルバートが大事だといっているのは、Cフレームである。それは、Bフレームでの議論を起こしている会社のフレームそのものは、社会のためになっているのか、会社そのものの在り方を考えるフレームである。今会社が言ったりやったりしていることは社会の中で正当性があるのかを考えさせるためのフレームである。そのためには社会がどのような流れで動いていて、その流れにどのように考えて会社のフレームをあわせ、それを経営してゆくかを考え議論する場が必要である。そのようなことは当然今まででも行われてきたのだが、それは組織のA、Bフレームの中に入れ込まれてあまり意識しないでやっていたものを、これからははっきり意識的にCレベルのアクティビティーとしてモデル上独立した位置を与えようということである。そのような議論が社内的な日常にダイナミックに組み込まれた仕組みとして行われるような組織運営のフレームワークとして提案しているのが、図のSIDAモデルである」(山田氏)
これに対し、参加者からは、「ABCフレームの図はおぼろげには理解できるが、まだ分かりにくい」といった意見が出た。例えば三技協の仙石氏は「山田氏の提案する図やソフタスの田口氏が書いた組織フレームの図には、2つの次元の異なるモノが入っているため分かりにくいのではないか」と指摘。「おそらく両者とも社会構造がサイクルになっていることを理解して行動すればいいということを言わんとしているのだと思うが、それがフレームと一緒になっているので分かりにくいのではないか」(仙石氏)。
また串田氏は「意識改革が大事だという話だが、改革しなければならない意識は2つあると思う。一つは組織のビジョンを達成するために考えるようになること。もう一つが、個人が5年、10年先を見たときに今何をするかを考えること。この2つを一緒に考えているような気がする」と指摘。それに対して山田氏は、「先に述べた必要な意識改革とは前者。しかしこのような意識になるためにも、後者の個人の将来を考えて行動するという意識改革も不可欠である」と答えた。
最後にナビゲータの田口氏は、「情報システムを例にすると、旧来は合理化・省力化のツールだった。今、それは増力化やイノベーションのツールに位置づけられることが多い。ではそれらは、具体的にはどういうことなのか。それを考える上でフレーム論は参考になると思われる。ただ、フレーム論を生かすためには、それをもっと分かりやすくする必要がある。山田氏の説明をリアルに聞いている参加者にはある程度理解できても、図を単独で見た場合はそうでない。今後、我々が目指すべきフレームとはどんなものか、一目で分かるような図を作成し発表できるよう、議論を深めていきたい」と語り、会を締めくくった。