| 日 時: | 2008年8月7日(木) 17:00〜20:00 |
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| 場 所: | アーク情報システム(市ヶ谷) AKビル2階「大会議室」 |
冒頭で、『21世紀型情報システムを考える』研究会のナビゲータであるインプレスビジネスメディアの田口潤氏により、本日の会の進め方について説明がなされた。
「これまで情報の一元化に関して様々な議論を展開してきた。本日で情報の一元化に関する議論は一度終わりにし、次回以降は情報の一元化と対をなす重要テーマであるフレーム論の議論にコマを進めたい。もちろん、その先には、情報の一元化を実現する情報システムとはどんな特性を持つべきか、をどう構築するのかといった議論もある。ともあれ今日の会議は、情報の一元化のまとめである。
さて、これまでの議論で情報の一元化は21世紀型情報システムに欠かせない要素の一つであることが浮かび上がった。しかしそれを実現したシステムを有する企業は現実には数えるほどしかない。では具体的には、どんな企業なのか。IT記者会の佃均氏に、具体的に話をしていただく。「データ一元化している企業の事例と共通課題」というタイトルどおり、どんな企業がどのような形で情報の一元化に取り組んだのかが明らかになるだろう。その後、この研究会でこれまでに議論された内容を山田博英氏に総括していただく予定だ」。
早速、IT記者会・佃氏が「データ一元化している企業の事例と共通課題」というショートレクチャーを行った。なおIT記者会は2004年4月に発足した、全国メディアに所属、もしくはフリーランスで活動するIT報道関係者の集まりである。最近は地方紙の記者のほか、電気、自動車、農業、環境などを専門とする記者も参加している。佃氏は大学を卒業後、日本情報産業新聞社で記者として経験を積み、2003年に独立。IT記者会発足と同時に代表幹事に就任した。IT記者会は、今年の12月に社団法人化される予定だ。佃氏の講演要旨は以下の通り。
事例を紹介する前に、この10年間の間に企業情報システムで起こったことを整理する。最も大きな変化が生じたのは、コンピュータ2000年問題が表面化した1997年が転換期。本格的な見直しが始まったのは2001年以降である。視点が部分最適から全体最適に移ったが、それは予算とITリソースの最適化を目指すものでもあった。
具体的に起こったのは、IT調達プロセスがこれまでのベンダーに丸投げするアウトソーシング型から、ユーザー企業自らが取り組む本業回帰型へと変わったこと。その背景には、レガシーからオープンシステムへの移行や、サーバーの乱立による管理コストの増大化、システムトラブルの多発、ITベンダーに対する信頼性の喪失など、様々な要因が関係している。最近では、個人情報保護法の施行や9.11同時多発テロの発生、投資家への説明義務の強化など、ITの世界とは関係がなかった環境の変化も大きい。これらがIT調達プロセスのあり方に大きな変化をもたらす要因となっている。今日お話しする企業の多くも外部依存ではなく、自ら率先して新しい情報システム構築に取り組んでいる。
2001年以降、ユーザー企業では以下のようなことに取り組んできた。第一がCRMなどのフロント系を充実させるため、基幹系システムを塩漬けにしたこと。次にデータの整理。これに積極的に取り組んだのが、大和証券や紀文、東レなどである。第三はIT調達の一元化。川崎製鉄と日本鋼管の合併によるシステム統合の事例は、この典型例である。第四はシステムの要求仕様の作成のあり方。ベンダー任せにするのではなく、現場部門も参加させるようなスタイルになりつつある。第五は社内共通基盤を構築するための工学的アプローチの採用。第六はIT予算の位置づけの変更。従来までの投資からコストへと位置づける意識改革が起こっている。
次にデータの一元化に取り組んだ企業の事例を紹介する。
紀文では従来、各工場、各部門の都合に合わせてシステムを調達していた。その結果、2001年時点でアプリケーションやデータベースサーバーが50台以上存在していた。それを解決するため、企画本部経営戦略部の中に情報システムを改革するための専門チームを新設。そこのトップに魚肉製品の生産ラインのマネジャーを充てた。紀文には元々、紀文フレッシュシステムという情報子会社があったが、ここにはメインフレームの運用管理だけを任せることにした。5年かけてプロジェクトに取り組んだ結果、2007年には全国に50数台あったサーバーをわずか2台に集約。同時にデータベースの一元化も実現した。特にデータベースを一元化した効果は大きい。例えば肉団子30個のオーダーであれば3時間以内に出荷するという、より迅速な生産・出荷体制が整った。
システムの調達体制も大きく変わった。従来は紀文フレッシュシステムが発注元だったが、現在は企画本部経営戦略部が発注元となっている。要求定義や詳細設定からプロジェクト進捗状況まで、すべて企画本部が管理。新しいシステムが稼働して3年目に入り、現在は海外の工場とも連携するなど、着実な効果を挙げている。
JFEスチールは日本鋼管と川崎製鉄の鉄鋼事業が統合して設立された会社である。一般に、企業統合の際の最大の課題の一つがシステム統合であり、同社の場合もそれは同じだった。両社は統合の半年前から、情報システム部門同士が合同で合宿して、互いのシステムのことを理解する機会を設けてきた。そんな中でシステム統合プロジェクトを牽引したのが、川崎製鉄で技術部門の長として各種生産管理システムの構築に携わってきた菊川裕幸氏である。菊川氏は統合プロジェクトを牽引するに当たり、情報システムの3分の1の要員を鉄の製造現場にいた人に入れ替えた。これによりIT専門の人材は3分の2となった。またしばらくして非IT部門である総務や経理のスペシャリストをメンバーに加えた。プロジェクトメンバーの半分を非IT人材に入れ替えたのである。これらのメンバーが議論を重ね、システムのあるべき姿を設定してプロジェクトを開始。どちらかのシステムのやり方を単純に継承し、片寄せするという、もっとも一般的な統合方法は採用していなかった。
例えば製品コードの持ち方。川鉄の製品コードは7桁、日本鋼管は11桁だった。システムの負荷から考えると7桁のほうが効率的だが、川鉄のコードはどういう規則性で付けられているのか専門家でなければ分からない、いわゆる「暗号コード」だった。コンピュータが高価で、できるだけ処理負担を下げたい時代であれば、当然、7桁を採用するべきだろうが、今はそうではない。システム的な負荷より利用者に優しい、つまり誰でも一目でコードの規則性がわかる日本鋼管の桁数を採用し、そこに一部、川鉄流のやり方を入れることにした。この結果、マスターデータの統一を実現し、データベースの一元化も実現。現在は、工場の生産ラインシステムの一元化に取り組んでいる。
住友電工では開発・調達の仕組みを本社主導にするため、役員で構成された情報管理推進委員会の下に企画本部を設置、この直下に情報システム部を置いた。この情報システム部は情報子会社と表裏一体の組織であり、住友電工全体のシステム開発における主導権を持っている。各工場には地区情報部門があるが、個別発注は禁止。各工場がシステムを開発したい場合は、情報システム部門に申請する。すると情報システム部門が要求定義をまとめ、情報管理推進委員会へ提出する。システム環境や開発標準について検討するのは、技術評価グループが担当。このような「鶴翼の陣」と呼ばれる仕組みを作り、オープンソース・ソフトウェアを全面に採用した基幹系システムの刷新を実現した。
もう一つ、同社が特徴的なのは、採用する標準ITプラットフォームを厳格に守っていることと、基幹系・情報系の区別をしていないこと。
液晶画面などの部品の素材メーカー、ダイセル化学では10年前からベテラン社員の大量退職が始まっていた。そこで同社は彼らの業務ノウハウを継承するためのシステムを3年かけて独自に構築した。従業員数はピークの3000人から、現在は10分の1の270人に減っているが、システムのおかげもあって生産性は従来の3倍に向上しているという。
システム構築を主導したのは、呉工場の労働組合の書記長を長年務めた小河氏。労使交渉の場面で組織論を展開、それが評価されて社長から同社のメイン工場である網干工場(姫路市)の業務革新・生産革新プロジェクトを任された。メンバーはリーダーである小河氏を含め総勢15人。データの正規化と一元化を進めるとともに、自分たちでシステムを作ることにした。 その際に小河氏が採用したのが、中堅と若手がチームになり、ベテランに徹底的にヒアリングするという方法。ベテランから聞き出した話をすべてメモし、継承すべき知識を抽出してシステムに入力した。社員全員がこれらの情報を共有できる仕組みが整備されたことにより、何か事が起こった場合でも、適切な解決法が提示され、全社員が即、行動を起せるようになった。業務改革も進めており、オフィスはまったく仕切りがなく、工場長以外はまったくフラットな組織。誰が何をやっているか見えるようになっている。2万5000冊あったマニュアルもコンピュータ化され、2000冊になったという。
東レの本社情報システムは、子会社である東レシステムセンターが企画から受発注まですべて担当していた。現在はその調達プロセスを改め、受発注の統括窓口を東レの滋賀工場に置いている。まず運用管理から見直し、運用管理標準に着手した。システムの運用だけではなく、工場や営業などを含め日常業務におけるすべて文書化し、それをふまえた上で開発を考えるというプロセスに変更したのである。つまり運用標準が基本となり、その上に開発標準があるというスタイルに切り変わった。「情報の海」作りに現在、着手しているところだという。
情報の一元化という本題からずれるが、本研究会にはIT企業の方も参加しているはず。そこで筆者の専門でもあるITベンダーのあり方に言及しておきたい。
これまでの、あるいは現在においても、ITの調達モデルは情報企画部門が情報子会社やつきあいのあるメインフレーマなどに丸投げし、そこからまた随時契約の1次下請けに委託し、最大で6次下請けくらいまでソフト会社がつらなっている形態。ユーザー企業はどこがどんな業務を委託されているのかを把握しようとしないし、しようと思ってもできない点が問題だった。このモデルから脱皮しようと経済産業省が提唱しているのが、信頼性を高めるためのモデル契約だ。本社の企画部門や情報システム部門が設計・開発標準、品質評価手法などを確立するのはもちろん、要求仕様の確定を行う。その上でプライム・コントラクタと請負契約を行い、プライム・コントラクタは複数のサブコントラクタとSLAを交わし業務委託するというモデルである。ここまでの業務委託についてはユーザー企業も承知しているため、責任あるIT調達が可能になる。
一方、ヤマト運輸や紀文など、先進的なユーザーが実施しているのが、本社情報システム部門が中心となって要求仕様を確定し、パートナーシップを結んだプライム・コントラクタとともに技術・品質評価を行ったりするモデル。詳細設計はプライム・コントラクタが行う。プライム・コントラクタはリソースを提供するベンダーにRFPを投げ、その回答によってユーザー企業に合うベンダーに業務を委託する。経産省のモデル契約をすでに実践しているわけである。
これが示すように、これからのユーザー企業が相手にするのは、「作れる技術」をもったITベンダー。住友電工や大和証券の取材でも、「当社のことをわかってくれる20社ほどがあればいい」といっていた。これからどんどん、ユーザー企業のIT調達の形は変わる。外注率の高いITベンダーは、今後ビジネスが厳しくなっていくと思われる。
佃氏のレクチャーに対して活発な質疑応答がなされた。
安光氏 (アトリス代表取締役社長) 野村総研をはじめ、多くのITベンダーではどんどん中国にアウトソーシングする流れがある。そのような会社も厳しくなっていくのか
佃氏 そんなことやっていればダメ。役割分担は確かに出てくるが、安い労働力というだけで中国へのアウトソーシングを加速するのはよくない。野村総研もメリハリをつけてオフショア開発をしており、国内オフショアに方向転換している面もある。情報の海を提案していく会社は、このことを意識すべきである
大岡氏 (バーズ情報科学研究所取締役副社長) ダイセル化学では従業員数が従来の10分の1となったにも関わらず、生産性は3倍に向上しているという。あまりにも劇的過ぎないか
佃氏 ダイセルが驚異的な成果を挙げたのは、生産ラインそのものの考え方を変えたことが大きく影響している。これまでは製品ごとに管理していたものが、化学生成プロセスごと管理することにした。データ項目を大幅に削減したただけではなく、工場の要員配置もシンプルなった。受注窓口も本社から工場に変更。受注が入ればすぐに生産が開始できるようにした。また工場に出荷拠点を新設し、そこから直接集荷する仕組みもつくろうとしており、流通のあり方も変えようとしている
山田氏 (アールワークス監査役) 情報の一元化を行った紀文では、どのような効果が出ているのか
佃氏 従来3カ月ごとにしか需要予測ができなかったが、現在は1週間単位で行えるようになっている。急な注文も30個から受注、3時間後には配送できるようになっている
田口氏 今回、佃氏が紹介した事例の共通に共通するのは、ユーザー主導という点。システム開発自体はスクラッチ開発やERPパッケージなど様々だが、強い問題意識の元に取り組んでいる点は共通だ。20世紀型アプローチから決別するためにも、このことを頭に入れておかないといけない
と発言し、山田氏による総括へとつなげた。
我々を取り巻く現状から、情報の海の実現に向けて変革していく流れを作るには、ターゲットとなる何らかのイメージを共通認識として描き出す必要がある。情報の海に関する今までの議論の背景には、「情報の海の実現には、データの一元化がまず必要だ。それさえできないようでは情報の海には到達しない」といった仮説モデルがあって、そのモデルの修正、補完、補強をこれまでの議論を通じて行ってきたと言っていい。
そして、一部のメンバーの力を借りて、これまで議論してきたことの中から参加者全員の共通認識になっていると考えられることを整理して、表にまとめた、
情報の一元化をめぐって
「情報の海」とは
「情報の一元化」とは
「情報の海」の現状
情報の一元化に向けた考え方
情報の一元化に向けたシステム構築
これには、「我々が目指す情報の海とは、正確な一次情報(基幹システムの情報:伝票情報)や状況情報(情報系の情報)を、いつでも必要なときに、一気通貫で見られるような仕組みおよびその状態のことをいう」といったことが書かれている。ここに示した各項目をもって、総括としたい。
この表でひとつ指摘しておきたいのは、最後にある一行、「既存の業務の流れを分析記述し、そこからターゲットとするシステムを設計して稼動させるシステム開発フレームワークも出現している。」だ。情報の一元化といっても、今まではERPパッケージを使うとか、非常に出来の良い人たちが個別にうまくそれを何とか作るといった、いわば職人作業で作られていて一般化した手続きによって実現するための手法がなかった。
しかし、この研究会に参加されている安光氏の会社(アトリス)でそのような方法論「PEXA」が開発、実用化されている。これは業務の流れを分析記述し、そこからターゲットとするシステムを厳密に定義する手法だ。情報の海の実現に向け、このような方法論があることは非常に心強いし、いずれこの研究会で詳細を議論する機会があると思うので明記しておいた。他に同様な方法論があったら、ぜひ紹介願いたい。
さて本研究会では、情報の海とともに、その存在が可能にする21世紀におけるビジネスパーソンや企業、社会の新しい在り方を規定するフレームづくりを目指している。研究会というと、議論の結果得られた研究成果を自分のところに持ち帰り、各メンバーがそれぞれの立場で活用するパターンが多い。本研究会はそこが全く違う。本研究会のメンバー各位は、すでにそれぞれの組織における責務の中で、情報の海に向けて大変な努力の中でそれを再編成しようとされているはずである。そのような中から、組織を超えて有用な概念を抽出し、それを我々の間での共有概念とすることによって社会の流れを変えてゆくのが本研究会の目的である。
例えていえば、町中が火事になっているときに、まずは自分の家の火を消すが、その中で他の人たちにも役立ちそうな事を抽出して、町の人の共通概念として町の火事を消そう、ということである。それには自分の考えていることが、自分を取り囲む組織内だけでなく、それを超えて外の人たちにも理解共感を得るような何かが必要である。そのような「なにものか」は、一般に「バウンダリー・オブジェクト」と呼ばれる。
山田氏によるレクチャーの後、総括に対する質疑応答や各メンバーの意見表明が行われた。オリンパスの石橋氏から「情報の一元化の定義について。一元性の意味は、同じデータがいろいろな名前で呼ばれたり、同じ名前がいろいろのデータを意味したりしないことであるとある。だとすると、弊社の場合は複数のコードを辞書で変換して一元化しているので、この定義から外れてしまうのか。それとも当てはまるのか」という質問が投げかけられた。田口氏は「集まった情報は一元化されているので、一元化と呼んで全く問題ないと考える」と応答。佃氏も「大事なのは、誰にとって一元化されているかということ。経営者や利用者にとって欲しい情報が一元化されているのなら、それでよい」と続けた。一方、佃氏からは「今回のまとめはデータにこだわりすぎているのでは」という指摘があった。それに対して安光氏は「情報の一元化をするための必要最低限な情報を提示したものとして理解するとよいのでは」と答えた。
大岡氏は「情報の海に関する資料は、よく整理されていて参考になった」と前置きした上で、「一つ知りたいのは、『PEXA』について。これはIBMメインフレームの開発・保守の生産性向上ツール『Sapiens(サピエンス)』と同じようなものか」と問いがあった。アトリスの安光氏は以下のように回答した。
「Sapiensを正確に知らないので答えにくいが、それがある種の制約の下で条件や項目を設定していくとコードを生成するものだとすると、PEXAとは異なる。PEXAは基幹系のデータ(伝票)や業務の流れに着目し、業務全体をas-isで明文化できるようにした方法論だ。データ項目やデータの処理主体、処理のルールなどを、一定の手順やフレームワークに則って詳細に定義していく。それを支援する開発ツールもあるが、ツール自体は特殊なものではない」。
PEXAの研修を受けたことがあるおきぎんエス・ピー・オーの山口氏は、PEXAについて「業務分析のメソドロジが提示されているため、エンジニアとして迷いが生じにくい。分析から定義に至るロジックが明快で、一度理解すれば使いやすい」と感想を述べた。
最後に田口氏は今後の会の進め方について次のように語った。
「今日の企業情報システムは、既存システムがあるという前提で、パッケージなどを部品として活用しながら、経営ニーズに合う時間とコストで作っていくことが求められている。しかしながら経営に合うToBeモデルをつくる方法論兼ツールが見つからないため、旧来のV字モデルをいまだに適用している。このままではうまくいくはずがない。安光氏が紹介したPEXAもなど、21世紀情報システムにふさわしい開発方法論などについても、今後、当研究会で議論を進めていきたい。ただ次回以降はしばらくシステム論から離れ、フレームについて議論する。フレームの議論が、またシステム論に跳ね返ってくるので、次回以降も時間を調整して、ご参加いただきたい」と述べ、会を締めくくった。