2004年度BPIA総会・研究発表会・パネルディスカッション

 日時: 2004年11月4日(木)
於:霞ヶ関ビル「プラザホール」
パネル・パネルディスカッション講演風景
<Contents>
■ パネルディスカッション
『21世紀型ビジネスモデルを求めて』
〔パネリスト〕
岡本 太一 氏   鍋屋バイテック会社 代表取締役社長
倉重 英樹 氏 日本テレコム株式会社 取締役 代表執行役社長/BPIA会長
中島 洋 氏 株式会社MM総研 取締役所長/日経BP社編集委員/BPIA常務理事
〔コーディネーター〕
岩佐 豊 氏 有限会社ワイエスマネジメント 代表取締役/BPIA常務理事
岩佐氏
岩佐 『21世紀型ビジネスモデルを求めて』という本日のテーマは、多分あと100年は使えるテーマで、ある意味では日本の会社がこれから数十年、いろいろな形でトライしていくいちばん重要なものだろうと思います。今日はできるだけそのテーマに沿った形でパネルディスカッションを進めたいと考えています。
 「21世紀型ビジネスモデル」というと、皆さんいろいろなキーワードをいろいろな形で思い浮かべられることと思いますので、まずは3人のパネリストのかたがたから、この課題を与えられたときに、一体何が自分にとっていちばん大事かというポイントについて語っていただこうと思います。
岡本氏
岡本 テーマは「100年使えるビジネスモデルを求めて」ということなのですが、モノづくりの立場からいうと、「100人だったら100とおり、1000人だったら1000とおりの価値観を認め、一人一人の自由な動きを許容しながら、企業活動をやっていく時代」という問題提起については、“YES & NO”ではないかと思うのです。というのも、モノを作る場合は、どうしても安く作って利益が出なければいけない。そこのところとの折り合いはそう簡単ではないということを、冒頭申し上げたいと思います。
 もう一つ、私は、東京に来てだいぶ違うなと思ったことがあります。中島さんは日経のご出身ということですが、私どもの工場がある岐阜県関市には、日経の夕刊がないのです。ということは、情報のスピードという点では大変遅れている。それから、メッセンジャーボーイのようなオートバイは1台も走っていない。スターバックスがない。スターバックスより美味いコーヒーがあるからなのでしょうか・・・。
 きょうは、そういったところでどういうビジネスモデルを求めていくかということについて伺いたいと思ってきました。まず、私どもが何をやっているかを簡単に申し上げます。
 私どもの工場は、大変環境のいいところにあります。建築家の槇文彦先生が来られて、「岡本君、これはシャングリラだな」とおっしゃったので、「そんなことはありません、田舎ですよ」と申し上げたのですが・・・。ただ、自然はものすごいです。30年経つとはげ山にも木が生えて、もともとから樹木が自生していたような工場づくりができます。楽しいとか、生きがいがあるというのは、こういう工場づくりができているからだと思っています。
 製品は、約25000種類ぐらいあります。いろいろな機械に組み込まれる要素部品で、これを私どもが開発し、デザインし、作って、売っています。
 私どもは、モノをお客さまにお渡しするコンセプトを「寿司バーコンセプト」と呼んでいます。2時までにご注文いただければ、ご要望の加工や組み立てをして、その日のうちに出荷し、日本中どこでも、オーバーナイトでモノをデリバリーするということです。
 寿司屋のおっさんが、いまや2時を打とうとしている時計を上目遣いにじろっと見ている、というカタログを作りましたが、たとえ1個でも素早く作って、お届けするという形を取っていますので、多品種少量をこなさなければならず、高い機械や高速の機械を買っていては話になりません。そこで、必要最小限の機能と性能とスピードをもった機械を、自分たちで、安く作り、それでモノを作るということをやっています。
 こうした細かい仕事・サービスを素早く確実にやるためには、相当モラルが高くなければいけないので、学校を出たら勉強は終わりというのではなく、「楽しく勉強しろ」「関係ないことでも勉強しろ」「仕事をしながら勉強しよう」ということで、例えば、機械加工をやっている現場の女性が秘書検定を受けて、受かったら毎月幾らずつ給料に上乗せするということをやっています。これを「マイスター制度」と呼んで、月に500円から、中小企業診断士や情報処理管理士に受かると月に5万円、課長になるまでずっともらえる。しかも、いろいろな資格や等級をたくさん取ってもぜんぶ累積が可能だという仕掛けを取っています。
 オフィスのあらゆる窓から緑が見えますし、プールもあります。オフィスの各所には絵が飾ってありますし、恐らく一人当たりの面積は、大変広いと思います。ちなみに、1992年度には、ベスト・ニューオフィス・イン・ジャパンという賞を頂戴しています。また、フィットネスセンターやマージャン部屋、サウナ、ジャグジーなども持っています。  また、ごく最近、少し儲かったので大入り袋を突然キャッシュで配って皆に喜んでもらいました。ほかにも、毎年、夏に、家族・友人も参加して、プールサイドパーティを開いたり、時々コンサートなども開催しています。
倉重氏
倉重 私は、100年後の社会やビジネスのシステムというのは皆目見当がつきませんので、多分まだ自分が生きているであろうという範囲である、これからの10年間、20年間はこんな世界になるのではないかということ、比較的近視眼的な世界について語ってみたいと思います。
 まず、過去を振り返ると、人間は、歩くことに代えて道具を作りました。移動するために作った道具としては自転車が最初だと思いますが、これが1839年。一生懸命こげば時速20キロぐらい出るかなということで、これは歩くスピードの4〜5倍です。その後、1913年に自動車が出てきます。当時の自動車は60キロぐらいですから、これは、自転車に比べると3倍。さらに、64年に出てきた新幹線が歩くスピードの10倍、200キロでした。それから、1973年に出てきたジャンボジェットが、900キロの約45倍。こういう格好で、スピードが何倍という単位で上がると、大きく世の中が変化します。
 スピードの変化によって、人間の活動範囲も活動のしかたも変わってくるわけですが、今、ブロードバンドの世界を見てみると、もう1ギガの世界です。。そうすると、ついこの間までの1メガとか2メガという世界から考えると、1000倍単位ぐらいのスピードアップにいきなりなってしまう。こんな状態ですので、相当大きな断層的変化が起きる可能性は十分に持っているということがいえるだろうと思います。
 また、いったん使うとそれによって生活方式が変わって二度と手放せなくなる商品を「ライフスタイル製品」といいますが、それが世の中に出てきて、普及率が30%に到達するまでにどれぐらいかかったかというと、今は普及率が100%に近くなっているテレビで7年です。自動車だと45年ぐらいかかり、エアコンで20年、携帯で17年かかっています。
 それに対して、ブロードバンドと呼ばれている世界は、3年で普及率30%になりました。ですから、ブロードバンドの世界も、従来のライフスタイル商品に比べると、ものすごく速いスピードで物事が起きているということがいえます。通信屋が言うと「ブロードバンド」になり、IT屋が言うと多分「ユビキタスワールド」ということになるのだと思いますが、そういったことが21世紀のこれから先を考えるに当たって、いちばん大きな影響を与えるファクターではないかと思っています。
 このブロードバンドあるいはユビキタスは、基本的にはどんな社会の動きを加速させていくかというと、いわゆる知識社会、あるいは知価社会と呼ばれている新しい社会を、ものすごい勢いで加速させていくのではないか。  そうすると何が変わるのだろうかということで、まずは情報の世界を見てみると、我々は今までは「百聞は一見にしかず」「見たら一発で分かる」という格言も作ってしまったぐらい、すべての情報を文字情報化したわけですが、これから先は、イメージも、ボイスも、音も、文字情報も混在する、複合情報の時代になってくるということが一つ言えると思います。
 それから、組織の変化を見ると、階層型組織がネットワーク組織に変わっていきます。情報系に関しては、主として今までは、コミュニケーションはface to faceでしたが、これがブロードバンドのインターネットを使ってコミュニケーションされるようになります。また、階層型組織がネットワーク組織になるということは、逆の言い方をすると、オーケストラ型組織がジャズバンド型組織、いわゆる市場対応型になる。お客様の要求を拾って、ぱっと演奏ができるような対応型の組織に変わっていくだろうと考えられます。
 また、人間サイドの変化もこういう環境下で起きるわけで、私は二つとらえています。一つは、「消費者」と呼ばれた人たちが「生活者」と呼ばれる人たちに変わってきます。消費者は、特に日本では横並び意識が強く、みんなが同じものを欲しがるという前提で、そう呼ばれていました。これは作る側にとっては非常に好都合の人たちの集団だったと思うのですが、これから先は、一人ずつが自分のライフスタイルを持った生活者としての存在に変わり、多様化していきます。
 同じことが社員についてもいえるわけで、ドラッカーは、「知識社会はプロフェッショナルが生き残る競争社会」というふうに定義づけているわけですが、かつては「従業員」といっていた社員が、「プロフェッショナル」という世界に変わってくる。言われたことをきちんとやっている時代から、何か新しい価値創造を自分なりの考え方でやっていくような形に、社員のあり方も変わってくると思います。
 当然、人が変わってくると市場が変化するわけで、「ニーズ」から「ウォンツ」の時代へということはかなり古くからいわれていることですが、今度は「付加価値」の世界から「課題解決価値」へ。いわゆる作る側の価値観から使う側の価値観へ、価値観が移動する。
 ビジネスは、「物的な資本」が「知的な資本」に変わる。これは、知価社会、知識社会そのものです。そして「効率性」が「創造性」の世界に変わってくる。1990年代からついこの間までは、基本的に全体の最適化、あるいはサプライチェーンの最適化が追求されてきましたが、それがより創造性を必要とする世界に変わってくる。特に、課題解決価値ということになると、一人ずつのお客様の課題にチャレンジしなくてはならないということになります。
 また、市場が多様化してプロダクトライフが短くなる、いわゆる短命化する世界では、何かを計画してものを作るとか、計画的に配送していくということができなくなり、お客様の需要の変化に即対応するという、「Planned」から「On-Demand」の経営体質に変えていかなければなりません。 以上をサマリして、ビジネスモデルはどのようになってしまうのかというと、まず一つのポイントは、「ビジネス・オンデマンド」です。いわゆる計画をしてじっくり対応することよりも、デマンドに対して対応していくという考え方です。そして、そういうビジネスモデルを作ろうとすると、どうしても企業内の情報はデジタル化しなくてはならない。仕入れ先、ビジネスパートナー、あるいはお客様も含めてオンラインでつないで、ビジネスプロセスが全部オンライン化されているという状態を作らなければなりません。それから、多分これがいちばん大きなチャレンジだと思いますが、マネジメントがリアルタイムに物事を判断できるような環境を作っていく必要があると思います。
 二つめは、課題解決価値を追求していくためには、当然、お客様の課題が何であるかをつかまなければなりません。そういった意味では、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、お客様との関係の管理がとても大事になります。それから、「真実の瞬間」といわれるように、やはりお客様の満足です。特にソリューションということになると、物とサービスがドッキングされた格好になってきます。サービスは物と違って、生産と消費が同時に行われますし、100−1=0になる世界なのです。一発何か気にくわないことが起きるとそれで終わりということになりますので、社員の持っている知識レベルと心のレベル、いわゆるモチベーションがとても大事になってくるわけです。逆の言い方をすると、企業が社員を大事にする環境が、この部分のところからも必要性として叫ばれてくるのだろうと思います。モラルが高い社員でないと、本当にいいサービスは提供できないということになります。
 三つめは、「コラボレーション」という言葉が、昨今我が国では「協働」という文字で表現されるようになりました。従来、企業間の取引は、「ネゴシエーション」だったと私は思っています。高く売りたい、安く買いたいという立場の違う人が、接点を探すのがネゴシエーションです。コラボレーションは、立場の違う人が目標を共有化して、活動を同期化することによって、より高い価値を両方の持っている能力をぶつけ合って作りあげていこうという考え方になります。社員間のコラボレーション、あるいはビジネスパートナーとのコラボレーション、最終的には、お客様とのコラボレーションが、新しい時代のビジネスモデルになっていくのではないかと思っています。
中島氏
中島 最初に、21世紀のビジネス社会のモデルを考えるうえで何に注意したらいいか、ここに五つ挙げていますが、このうちの二つだけを強調したいと思います。第1番めのポイントは、支配的技術が何になるかを見通すことです。それから、第5番めのポイントは、これは意見が一致しているわけですが、社員のやる気をどのように起こすか。そういう仕掛け、仕組みをどう作るかというのがポイントになるだろうと思います。
 支配的技術とは何かということですが、先ほど倉重さんから、ネットワークのビジネスの人は「ブロードバンド」と言い、ITの人は「ユビキタス」と言うとおっしゃいましたが、私は最近宗旨替えをして、「ユビキタス・ネットワーク」という言葉のほうが相性がいい。「ユビキタス・コンピュータ」というのは、坂村健さんが日本に紹介した言葉ですが、そのコンピュータというところに力点を置くのではなく、ユビキタスはネットワークのほうにくっつけたほうがいいというのが私の意見です。
 支配的技術は、コンピュータ技術からネットワークへ移りつつあります。したがって、ユビキタス・コンピュータではなく、ユビキタス・ネットワークに足場を移して、そこから次の新しい社会体系、企業体系を構築していくべきではないか。社員のやる気を起こすというビジネスモデルもそこから作るべきではないかということです。支配的技術と、やる気を起こさせること、技術と人間というところについて、少しお話をしたいと思います。
 なぜ私がユビキタス・ネットワークと言うかというと、「情報通信技術」と呼ばれていますが、日本ではいまだに「IT」という言葉のほうが中心です。欧米では、ITという言葉はとっくに「ICT」になっています。つまり、インフォメーション・テクノロジーだけではなく、プラスコミュニケーションである、情報と通信が一緒になって革命を起こしているというのが欧米の認識で、日本は今日に至るまで「IT」という言葉を使っていますが、ごく最近、総務省や経済産業省のかたがたは、「ICT」というネットワークを意識した表現になってきています。
 それはなぜかというと、情報通信技術の進展の速度が実は不均衡で、現在はパソコンからネットワークへと移りつつあるからです。昔、我々が情報技術というのはすごいなと感じたのは、大型コンピュータの価格性能比の向上です。かつて価格性能比は、大型コンピュータの場合は1年間に平均で15%程度のコストパフォーマンスの上昇でした。これは、複利計算をすると5年間で大体2倍になる。10年たつと4倍になる。大体5年で2倍になったころ、同じ値段で性能が2倍のライバルが出てきてしまうので、次のシリーズに切り替えたというのが大体のところでした。
 ところが、そのあとにパソコンが出てきて、パソコンはどうなったかというと、これはムーアというインテルの創業者がよく言っていたとおり、18か月で価格性能比が2倍になった。つまり、価格性能比が2倍になるとシリーズを新しくするので、パソコンは18か月で次のシリーズが出てくるという状況でした。18か月で2倍というのを複利計算すると、10年で約100倍という価格性能比の向上になった。パソコンは、10年で価格性能比が100倍になった。当然ながら、最初はメインフレームよりもパソコンのほうが能力が低かったのが、時間がたつにつれて、パソコンとメインフレームの能力が均衡して、ある分野ではパソコンのほうが効率がよくなるということで、パソコンのほうに処理が置き換わっていくという形で、社会により影響力の大きい支配的技術は、大型コンピュータからパソコンに変わったわけです。
 ところが、そこに通信が出てきました。その通信について、ビル・ジョーイ(サンマイクロの元CTO)が言ったのは、「通信ネットワークは12か月で価格性能比が2倍になる」ということです。これを複利計算すると、10年間でネットワークの性能向上のスピードは1000倍になります。当初、パソコンに比べれば、電話は大変機能の低い商品でしたが、10年もたつとそのネットワークは1000倍になりますから、いつの日かパソコンやメインフレームの能力を超えて、支配的な情報通信のインフラは通信ネットワークになる。それに依存していれば、どんどん能力が上がり、コストが下がってくる。したがって、それに依存するような仕組みに切り替えたほうがいい。
 そこで終わりかと思ったら、さらに最近、ブロードバンドが出てきました。ブロードバンドと通信ネットワークは、考えてみると随分違ったものです。CATVや電力線の光ファイバーを使うという、今までの電話の延長線上のインターネットではなく、ネットワークをベースにして新しい体系を作りあげていく。電話はそのごく一部になり、最近では、電話料金はただ、おまけという状況にもなってきています。
 価格性能比の向上のスピードには別の計測方法もあるのですが、測ってみると平均して半年で2倍です。これも複利計算すると、10年で約百万倍ということになりました。ブロードバンドの性能向上のスピードは、先ほど倉重さんがおっしゃったように、断層的な変化を引き起こしてくるという状況に今現在なっているわけです。
 当初は、インターネットはせいぜい電子メールぐらいでしたから、電子メールなんて電話に比べれば大したことはありませんでした。ところが、10年で百万倍という性能向上があったおかげで、ブロードバンドがこれからは通信も包摂してしまうことになります。双方向の音声情報交換を「電話」と呼び、テレビ会議、テレビ電話、あるいは1対多数の一方通行の映像を「テレビ」と呼ぶというように、新しく変わってきています。このようなネットワークをベースにしたカンパニーが、21世紀型の企業モデルです。
 では、断層的な変化が起きたときに、一体どのような勤務形態、就労形態が考えられるでしょうか。全部がそうなるという意味ではなく、こういう形態も考えられます。単にこういう仕組みができるというだけではなく、そういう仕組みを要求する社会環境(プレッシャー)がある。そのプレッシャーとは、1947〜50年生まれの団塊の世代が、2007年以降60歳の定年を迎え、ビジネスの世界からどんどんいなくなるということです。
 問題はいろいろあります。オフィスビルが空になるなど、不動産業界にとっては、2007年問題は大変な問題です。それから、COBOLの技術者がいなくなります。依然としてメインフレームで、レガシーのシステムが、社会の基幹システムとして残っていますので、そこにCOBOLを分かる人間が大量にいなくなってしまう。これが、コンピュータ業界の2007年問題です。いずれも、団塊の世代が仕事の場からいなくなることを問題にしていますが、いなくなる団塊の世代は死ぬわけではありません。外に出て行くけれど、元気もいいし、期待していた年金がほとんど期待できそうもないということになると、自分たちも働きたい。働きたいけれど、会社の中にそのまま残っていると部下がみんな嫌がる。早くいなくなってくれと皆が心待ちにして待っているのに、そこにまた定年延長だと言ったら、モラルダウンもいいところです。では、どうするか。ここから先が、恐らく3〜4年が企業のアイデアの勝負だと思います。
 つまり、こういう人たちはスキルもあり、十分に熟練をした能力を持っているのですが、かといって今までの企業の中で、組織として暮らしたいとも必ずしも思っていない。でも、仕事はしたい。スキルは生かしたい。この人たちに一体どういう仕事の方法論があるかというと、多分、ブロードバンドネットワークをベースにした在宅型の勤務形態もありうるのではないかと思います。
 あと3年、今のブロードバンドがさらに普及してくると、テレビ会議、テレビ電話が一般化します。何のために会社に行くのかというと、ほとんどの人たちは、パソコンがあるから会社に行くというわけです。オフィスに行く理由はそこにパソコンがあるからです。ところが、ブロードバンドがあり、セキュリティがきちんとしてくると、そこにオフィスがあるというのではなく、どこでもオフィスになる。これがユビキタス・ネットワークです。どこでもがオフィスになりうるとすれば、今までのオフィスの環境の中で仕事をしないという方法論もありうるのではないか。それが実は、経営の側にとっても、非常に生産性の高い仕組みであるわけです。
 というのは、多分60歳を超えてから、今までどおりの給料をくれと要求する人はいない。通勤もしなくてすむ。もしかすると、ゴルフ場にいても同じ仕事をやっているかもしれない。どこにいるか分からない。横にいる同僚に聞くことはできないけれども、ブロードバンドのネットワーク環境があれば、隣に人がいるのと同じような環境ができる。今は、文字だけのメーリングリストでも全然違います。隣に自分の同僚がいるかのごとく、いろいろな相談にのってくれます。それが、テレビ電話、テレビ会議の方法でできる。そうすると、今、部長クラスの人たちも、そういう方法で仕事をしたいという人たちが出てくるかもしれません。コアになる人たちはだめだということになるだろうと思いますが、そうでない人たちは、そういうスタイルの仕事の方法ができるのではないか。
 以上をまとめると、ユビキタス・ネットワークをベースにした、新しいワーク・プラットフォームができ上がってきて、企業システムはどこにいても業務の質を保持できるし、テレビ会議を使いながら基幹業務が進行できるのではないか。スキルは、資格をe−ラーニングを使って取ることで上げられる。テレビ会議、テレビ電話などいろいろあります。それから、チャット型の環境ができる。
 家庭やサテライトオフィスでは、通信コストが劇的に下がります。10年間で百万分の1ぐらいに下がっていきますから、コストが低下してくると、自分の行くところどこにでも、通勤コストに比べるとはるかに安いコストで引ける。そして、通勤に伴うストレス、会社に行ってかつての部下から白い目で見られるストレスを避けて、仕事を快適にできる環境を自分で設計していく。仕事と生活とが混在するので、ワークとライフをいかにしてバランスをとって、自分の場所、空間を作るかということになるのではないか。私の個人的な願望も含めて、このような勤務スタイルの新しい形態もありうるのではないか。これをどのように企業、組織の側が取り込みながらやっていくのかが、次の課題ではないかと思っています。
岩佐 3人のかたから、それぞれのお考えをお聞かせいただきました。お話の共通項としては、スピードに対する考え方が20世紀と21世紀では全く概念が変わるだろうというのが1点。それから、いろいろな意味で付加価値を作ることが重要であるという話の中で共通していたのは、やはり付加価値を作るは最終的には個人であるということです。100人の社員が一糸乱れず隊列を組んで行進すれば付加価値を作れるという時代から、固有名詞が付加価値を作っていく時代に入っていくだろう。そうすると、会社と個人、またはその個人のライフスタイルに対してどう折り合いをつけていくのか。先ほど倉重さんがおっしゃったサービスということを考えると、モラルという部分で会社にとって非常に重要なポイントになるということだろうと思っています。
 そういう意味で、まず岡本さんから、鍋屋バイテックの経営の一端、ご自身の経営観について教えていただければと思います。
岡本 実を言うと、あまり深く考えていないのです。私どもには売上計画もないし、設備投資計画もありません。社員に「たくさん売れ」と言ったこともありません。私がいつも言っているのは、「問題がどこにあるのかを考えろ」ということです。根本的に個人個人の心ばえがよくないと、うまいことになっていかないのではないか。いいオフィスがあって、気楽な格好をして、モノが少しだけ安く作れて、少しだけほかよりもいいモノができて、少しだけ高く売れるような仕掛けができる、そういうことがいいのではないか。そう思っているだけなのです。
 私は今、21世紀型のビジネスということでここに座っておりますが、多少の違和感があります。さきほどから議論になっていることはすべて正しいことなのですが・・・。少し大げさに言いますと、スペインやポルトガルは中南米から金銀を強奪してきて、今もそれを少しずつ使ってうまくやっている。イギリスの場合も同じことをやって、お金の処理については世界的な人材がいるので、いわば世界的なマージャンがうまい。ところが、日本では、そういう蓄積が無い。人間が減って、モノづくりが衰えてという中で、日本語をしゃべり、かなりおいしいものを食べて、いい環境で、いい気候である、そういう国がどうやってこれからうまくやっていくのか。そういう議論がなされるのかと思っていたからです。
岩佐 いろいろと厳しいお言葉もありました。今の岡本さんのお話を聞かれて、倉重さんから何か一言お願いできればと思います。
倉重 非常に難しいですね。1993年まで、日本の国際競争力は世界でトップだったのです。93年をピークに落ちはじめて、昨今は20位とか30位です。統計の方法が少し変わったので、今のランキングは11位という数字になっていますが、いずれにしても、私は今の経済規模や今までの実績を考えると、どうしてもトップ5の中に返るべきだ、返したいと思っているのです。そのきっかけは何かというと、僕はブロードバンドにおける我が国の国際競争力、あるいはリーダーシップではないかと思っています。
 そういう意味では、幸い今、ブロードバンドに関して日本は世界でいちばん速くて、いちばん安いインフラを持っている国になったわけです。大体アメリカやヨーロッパのブロードバンドが2メガとか3メガ、5メガといっているときに、日本の平均は10メガで、それが今、高速のADSLや、光に変わっていっていますし、その値段もずば抜けて安い。このインフラを個人の世界とビジネスの世界とで使い切る能力、使い切る知恵のようなものを今我々が本気になって考えれば、世界のリーダーシップを取れるのではないか。そうなってくると、もう一回、5番目くらいに返っていくのではないかという感じがします。
 それから、経済的な発展について、先ほどの岡本さんの最後の話に一言付け加えれば、やはり人口が減っている国、老化している国で、経済発展などありえません。やはり今、日本が国策として本気で考えなければならないのは、子供を増やす施策と移民の施策という二つで、人口が増えていく環境をどう作っていくかが、ほかのプライオリティを全部投げても考えなければならない大事な話なのではないかと思っています。
岩佐 ありがとうございます。同じ質問を中島さん、よろしくお願いします。
中島 先ほどの最後のところで、僕が死んだあとどうなるかというのはあまり想像がつかないので、私が生きている間、あと50年ぐらいの状況を考えるとどうなるかということです。僕は1947年生まれですが、僕らの世代の連中は、そろそろ仕事を離れてきています。ごく恵まれたエリートだけはいまだに仕事をしていますが、それ以外の人は大体最後の着地のところに入り込んで、仕事を若い人たちにほとんど委ねて、高い給料で顧問のような形で社内にいます。中には、給料を減らされたと文句を言っている人もいますが、そういうような状況です。彼らは、今一生懸命勉強をしていて、気がつくと、ものすごい個人的なスキルを持って、独立していく。60を待って独立する。自信を持った人は、60を待ちきれずに独立する人もいます。
 この人たちは、シナリオ2として自分自身の新しい生活スタイルを模索しているのです。ゴルフが好きな人はゴルフをベースにするのかもしれないし、レジャーが好きな人はレジャーを主体にする。ふるさとに帰りたい人はふるさとに戻ってもう一回新しいものをやる。田舎暮らしの本が結構この年代には受けているし、その後ろには別荘の広告が出ている。また、沖縄に住もうという雑誌が結構売れて、実際に沖縄に移住している人たちもいる。中には、仕事で移住してそのまま居着いて独立して有限会社を作った人たちもいる。このように、大々的、組織的にワークライフ・バランスを作り出すところまではいっていないのだけれども、個人的にワークライフ・バランスを考えて、個人でマネジメントできるところにいこうという人たちがいる。恐らく、5年前だったらちょっと無理だったし、今もあと少しだねという感じだと思います。
 これは、やはりブロードバンドなのです。倉重さんのおっしゃるとおり、ブロードバンドがすべての面を劇的に変えることについては、まだイマジネーションが十分にできないのですが、しかし今、五月雨的に起きている、我々の年代の人たちの働くことに対する考え方があります。大体この年代の人たちは、全力疾走をずっと続けてきたのに、ふと気がつくとそれがあまり評価されていない。自分たちは自分たちを褒めるけれども、若い人たちは褒めてくれないし、上のほうからも褒められない。特に、団塊の世代は、あと3年間は保険料を払い込む側にいて、60になった途端にそこを境にして保険料をもらう側に入る。ものすごく大きな集団が、分母から分子へ回るという非常なアンバランスが今待ちかまえているので、自分たちが描いていたような21世紀ではない。何か変えなければならない。自分たちには趣味もあるし、スキルも一生懸命磨いている。でも、どうやって発揮するのか分からなかったところに、ブロードバンドという極めて強力な、10年間で百万倍ぐらい能力が大きくなるような新しいインフラが待ちかまえている。これをどうやって利用するのか。ここをベースに次の価値観を生み出す。価値観というのは、力づくで生み出すものではなく、自動的に自然に醸成されてくるものだと思うのですが、その自然に醸成される雰囲気をどうやって作っていくか。その言葉の中に、最近はワークライフ・バランスという言葉が出てきた。つまり、そこにライフが入り込んできたのです。
 「ワークスタイル・プラットフォーム」という言葉をあるところで使ったら、そういうのは古いと怒られました。ワークだけではなく、ライフというのは「生活」「生命」などいろいろな意味があると思うのですが、ライフがくっついてこないプラットフォームなんて意味がないではないか。ブロードバンドをいかに「ワークライフ・プラットフォーム」にするかがむしろ勝負なのではないかと指摘されて、考えてみると私の言っていることもそういうことでもあったと気づかされました。
岩佐 実は私も団塊の世代、1947年生まれで57歳です。何年か前に会社を辞めて、年金への準備をしているという状況です。これからの10年、20年、30年、100年を考えたときに、どういう視点からものを見るか、3人のお話を伺っていると、いろいろな形でそれぞれの視点からごらんになっていることだろうと思います。
 いろいろな見方がありますが、企業社会全体でいけば、極めて住みにくい状況になると思います。かつての70年代、80年代というのは、単なる統計ですが、3分の2の会社が利益を伸ばした時代でした。これからの時代は、多分30%の少数派の会社が大勝ちする時代、逆にいうと、今度は多数派である3分の2の会社は、なかなか温度が上がらない、風が吹かないという時代です。ですから、3分の2の会社が利益を伸ばした時代は、何となくみんなでよくなることが味わえた時代でしたが、これからはわずか3分の1の会社が全体を引っ張っていく。3分の2の会社にとっては、よくなったという気持ちが味わえないという時代が、今もう始まっていると思います。
 それを多分加速する意味でも、ブロードバンド、通信の大きな変化についてある研究会でやったときに、こんな話が出ました。インターネットは極めてシンプルで、強者の道具である。つまり、道具として考えた場合には、ブロードバンドもそうですが、強い会社がより強くなる道具であり、弱い会社が道具で強くなるということはありえない。最終的には、もし一人独裁者がいれば、ネットを通じて世界を動かすようなインフラを作るという側面もあるのではないかといわれている時代だろうということです。
 つまり、富も成功もいろいろなことを含めて、少数派のほうにいろいろな形で集中していく時代だと思います。これをよしとするか、ブレーキをかけるか、人生観、世界観込みでいろいろなテーマが出てくるだろうと思います。
 今日は先ほどから岡本さんには怒られているのですが、実は鍋屋バイテックさんに我々の研究会が伺ってみんな感動して帰ってきたことは、ある大手の自動車メーカーとの取引を7年ぐらい前にお断りしたということです。また、「無駄」と「会社」をどうやって両立させるのか。どうしても会社ですから、競争という中で戦って、勝っていかなければ会社として存続できないという中で、自動車メーカーの話も含めて、その辺のお話をお聞きしたいのですが。
岡本 モノづくりの立場から申しますと、これまで我々が暮らしてきた社会では、安く作って、早く作って、どんどん売る、それが善だというふうに教わってきたわけです。しかし今は、どんどん個の世界になってきている。いろいろな要求があって、特注があるという世界で、しかし、モノを作る仕掛けだけは大変なスピードを追及している。モノをどんどん作って安く売るというのが、はたして正しいのか。アメリカのプラグマティズムかキリスト教かは知りませんが、要するに、「イスラエルの谷はミルクあふれて、蜂蜜あふれる谷だ」「産めよ増やせよ」というところから来ているのではないかと勝手に思っているのですが、その辺のところで行き詰まってきた。そういう中で私どもはモノを作らなければなりません。
 そうすると、たくさん早く作って、どんどん売る、安く売るということをみんながやれば、際限なく値段を下げなければならないし、一方、際限なく売れるわけはありません。そういう時代の変化があるわけですが、それに沿うようなかたちで、私どもの会社は、三十年ぐらい前から、「要るだけ、ちんたら」作ろう、というようにもっていったのです。
 世の中にはそういうふうに「要るだけ、ちんたら」モノを作る機械はどこにもありません。自分たちの頭の中にあるシステム、生産設備、管理方法、販売方法、というようなものを、コツコツと自前で作りあげることで、お客さまには、「毎日送りますから、要るだけ買ってください。余分には買わないでください」というようなことまで申し上げるようになってきました。
 そういう中で、社員はあらゆるレベルでいろいろにものを考えなければなりませんから、岡目八目というか、組織がフラット化してきて、いろいろなことを勝手に言いながら、自分たちで考え,自分たちで仕掛けを作るようになっていきました。今、工場の中を回っていると、私の知らないうちに機械がどんどん作られているという形になっています。そんなことの結果として、私どもの会社は小さいながらも六十数年間ずっと赤字にならずにきているのではないかと思います。
 随分以前のことですが、クルマの部品を複数の自動車メーカーさんに供給していました。売上が全体の10〜15%ぐらいになったとき、年間5万個が20万個になり、50万個になるという過程で、「こういう機械を買って、これだけの数を作って、こういうプログラムで値下げをしなさい」ということを自動車メーカーさんから言われました。そのままやっていくと私どもの会社の売上の4割、5割になる勘定です。いろいろ考えた末に、「機械を買うか買わないかを決めるのは私だ。値段を決めるのもあなたではなく私だ。全部できない」と言いました。そうしたら、「こんな世の中に、分かっていないな」というような顔をされて、徐々に仕事がなくなっていったのです。社内では相当動揺があったのですが、今は1000万台という車ができる時代になって、我々のように何十個、せいぜい二〜三百個作るのと、自動車のように何万個、何十万個作るのとでは技術が全然違っていますので、私どものドメインに合ったものを私どもで作る、という選択をしてよかったかなと思っています。その結果として、社員がほかの会社に比べていろいろなことを考えるレベルが、多少とも上なのではないかと思っています。
岩佐 どうもありがとうございます。今の岡本さんの話を受けた形で、倉重さん、お願いいたします。
倉重 私は、多分これから先、企業のサイズは二極分化していくのだと思っています。規模を徹底的に追及して、資本の論理で買収を繰り返して徹底的に大きくなっていく企業と、もう一つは、反対側で家業回帰が起きているのではないか。例えば、レストランを今経営したいと思うと、二つ方法があります。一つは、自分の作る料理が好きなお客さんだけ来てくれればいいという考え方の経営です。このレストランは、自分が作る分しかサービスできませんから、絶対大きくなりません。お店は1軒ですが、その代わり市場調査も何もしなくていい。好きな人がある程度来てくれれば成り立つわけです。もう一つはレストランは、世界に何百軒とか何千軒というチェーンをどんどん作っていくのだという考え方の経営。これは市場調査もしなければならないし、競争のこともいろいろ考えなければならないという世界になります。
 資本主義の世界とブロードバンドの世界では、一つのマーケットの中で本当のゼネラルプレーヤーは3社しかいない。あとは全部ニッチになっていくのだという論理があります。今まではアメリカという市場があり、日本という市場があり、ヨーロッパという市場があったのですが、これがグローバル化により市場が世界で一つになってしまう中で、その論理を極論すると、各業界に世界で3社しかゼネラルプレーヤーになれない。今見ていると企業買収が起きるという世界も、そんな方向を追っかけているのかなという気がします。
 その片方で、家業回帰していく。バイテックさんも家業とはいいませんが、自分たちが付加価値をつけられる部分に、徹底的に集中したモデルを追求されたというのが、今お客さんをつかまれている非常に大きなポイントになっています。これは、自分の料理を好きなお客様だけを相手にしているレストランと似ているような気がします。お客さんのことを分かっている。したがって、お客さんに「時にはこういうものを作ってみてよ」と言われたら、「分かった」と言ってその場でぱっと1品ぐらい作れる。こういうサービスができるようになったレストランからは絶対にお客さんが離れません。このように、お客さんとの接点を縮めた企業と、徹底的に作って売るのだという従来の資本主義をいまだに遂行していく資本論理型企業とに分かれていくのではないかと思います。
岡本 今の議論とは直接関係ないのかもしれませんが、もう一つだけ言いたいのは、モノづくりはSOHOではできない、場所と設備と人間が要るということです。
 あと、私がお話を聞いていて思うのは、ブロードバンドについては、日本という国が、日本語をしゃべる人間集団あるいは組織が,これからどうやって稼いでいくのかということがはっきりしないままに、枝葉末節に入っていくとだめになるのではないか。そういう気がします。稼ぐ方法論ができたらいいですよね。
岩佐 どうでしょう、中島さん、ブロードバンドで稼ぐ方法論は。
中島 それが分かれば私は総理大臣になってもいいと思います(笑)。  一つ感想を言わせていただくと、「考えろ、考えろ、考えろ」というのは、「Think、Think、Think」というIBMのかつての標語とよく似ています。でも、IBMは巨大なグローバルカンパニーになっていますので、個人個人の活動を活性化して巨大企業になる道もあったのだなと。その辺、どこが違うのかよく分かりませんが、出発点は同じかなという気がしたのが一つです。  それから、岡本さんのおっしゃるとおり、物づくりというのは、ある場所に集結してやっていくという側面ももちろんありますが、いろいろな産業分析をしてくると、例えば、農業でいうと、アメリカではどんどんどんどん農業人口が減って、今は3%ぐらいになっています。しかし、農業に携わっている人口は3%かというと実はそうではなくて、荷馬車で運ぶのは農業従事者だったのに、それがトラックに化けた。トラックを作る工場の人は、本当は農業関係の人口に入れていいのに、工業関係に分類されるようになった。というふうにして、実は、農業人口は3%だけれど、農業にかかわる人口は実はもっと大きく、十数%だという分析をした人がいます。
 要するに、物づくりというときに、物づくりの現場そのもの以外に、設計その他、それを支えるような周辺の仕事が多数そこに発生してきているということです。その多数発生してくるものについては、ブロードバンドをベースにしたSOHOが可能であろう。全部がSOHOになることはありえませんが、農業にたとえていうと、物づくりの中心点には人が集中している。「農場」があって、「工場」があって、知識を取り扱う「知場」がある。その少し前に、情報を取り扱う「情場」があり、ネットワークは知識を生産する場所である。農場や工場はなくなりませんが、その機能分担が随分違ってきて、その上にネットワークやブロードバンドをベースにした知識をもとに付加価値を付けていく知場という場所がある。その知場という場所は、SOHOで可能になってきている。全体の産業人口での割合は、知場で働く人たちのほうがシェアとしては増えていくというのが、大ざっぱな見通しです。
 ネットワークのコストが限りなく下がっていくので、これを使って何かをやっていくことは、非常に付加価値が大きく出やすいところです。値段がスピードを持って下がっていくのはインフラのほうであって、その上で仕事をする人たちは必ずしもあくせく働かなくてもよいというようなものができてくるのではないかと思っています。物づくりがなくなるわけでも、現場がなくなるわけでもありませんが、それに付随して新しい産業、あるいは就業形態が増えていくのではないかというのが、私の考え方です。
岩佐 20世紀を代表する後半の20年、70年代、80年代が中心ですが、物を作るということに国民のほとんどがエネルギーを投入することによって、国の価値が大きくなっていった時代を経て、これからの時代は、物を作るかたには怒られてしまう話ですが、かつてのように物を作ることに汗を流しているだけでは我々は生きていけないのではないか。単純に価格だけの競争をするのであれば、やはり中国だ、どこだといったところに持っていったほうが、目先だけでいけば当然安い価格でできるという中で、一体我々は物を作るということに対してどういう形の汗を流せば新しい価値を生むのかということ自体が、考えていかなければならないテーマだろうと思っています。
 もう一つ、物を作るというところから離れたところで、極端にいうと世界ですでに通用するようになったアニメの世界とか、ゲームの世界でもかまわないのですが、新しいソフトという価値を作っていくには、どうも従来型の物づくりのようにどこかに集中して設備を持って、みんなで同じ時間の中で汗を流してというようなパターンではでき上がるものではないだろう。多分こちらは、みんなで集まってうんぬんよりも、SOHOという形で、固有名詞のある個人が価値を作るのではないか。極端にいうと、一か所に集まる必要もないのではないかということが、もしかしたら言える時代かもしれません。
 つまり、それぞれのことを、我々の社会や産業の中で、両立させていかなければならないということです。今までは、一つの基準でほとんどのことを縛っていけば解決できたことが、幾つもの基準でそれぞれお互いに存在を認めながら切磋琢磨して強くしていく。お互いにいい関係、いい影響を作っていくという時代を我々が作っていかなければならない。その中で、企業のあり方というのは一体何なのだろうか。つまり、全員終身雇用で管理できた時代から、多分7割ぐらいの終身雇用のかたと、2割ぐらいのパートタイマーのかたと、1割ぐらいの年俸制のかた、この三つの雇用形態を一つの会社の中で抱えていく中で、どういったマネジメント、またモラルの管理やモチベーションのあり方を進めていけば強い会社ができるのか。または、きらっと光る会社ができるのかというのがテーマだろうと思います。
 最後に、これからのビジネスモデル、会社、企業を考えたときに、いちばん重要なポイントを一つ挙げていただいて、それがなぜなのかということを、お三方から一言ずつお願いします。
中島 一つだけ挙げるとすれば、人が楽しくなる職場であり、その空間を作ることです。それは、個人個人が自分で作ってSOHOをやるのもいいし、ある小集団でそれを楽しく作るのもいい。それから、大きな組織の中で楽しく仕事ができるような仕組みを作るのもいい。人が楽しくなるような職場。これは、必ずしも21世紀型ではなく、20世紀にもすでに鍋屋さんが作っておられる仕組みでもあるので、21世紀型と言うにふさわしいかどうかは分かりません。21世紀はそういうモデルにしていただきたいというのが、一つだけのポイントです。
倉重 二つあるのですが、一つは、岡本さんのところのビジネスモデルは、計画があって計画に対して組織が動いているのではなく、お客さんのニーズや注文に対して組織が動いているわけですから、そういう意味ではすでにオンデマンドの格好になっている。完成形ではないとは思いますが、かなりなっているというのが、成功の重要な要因ではないかと思います。
 今後については、先ほど「強い会社」というのがありましたが、強さとか大きさはどうでもよい世の中になってきているので、女性がかなりパワーを持ってくる世の中になってくると、やはり優しさを追求したほうがいいのではないかと思います。優しさというのは、「人の憂い」と書きます。要するに、人の課題が分かる能力が、これからの企業の成功要因ではないかと思っていて、「人に優しい企業」というのが私のメッセージです。
岡本 人間の赤ちゃんや犬や猫の赤ちゃんは、みんなかわいいです。結局、小さいものは守られなければいけないし、情報をどんどんもらわなければいけない。なかでも人間はいちばん成長期間が長いわけです。そういう「育つ」「育てる、育てられる」という観点からも、絶えず情報を自然にもらえるような人たちがたくさんいる会社がいいのではないか。いちばん大事なのは、笑顔とあいさつができて、みんながグレート・コミュニケーターであるような会社です。そして、私どもが目標としている僅差の実現、少しよくて、少し安く作って、評判がいいので、少し高く売れる、というような組織ができればいちばんいいなと思います。
岩佐 どうもありがとうございます。
 幾つか皆様からご質問を受けたいと思いますので、よろしくお願いします。

Q 2008年に中国オリンピックがあります。このときに、チェスとブリッジがオリンピックの正式項目になりますが、マインドスポーツのスポーツという意味が、8割は「挑戦する」という意味だそうです。また、東大にアニメ科ができたり、学芸大学にもアニメ科とゲームソフトの開発科ができるようですが、教授陣には一般の会社から募集するようなことまで考えなければなりません。
 それから、人口の減り方についてですが、今のロシアは1億4000万人の人口が2050年には6500万人まで減るということで、日本もこういう方向に減っていくのでしょう。移民をしたときに、日本人の単一的な民族のモラルと、他民族を使った場合のあり方も追求しなければならない大きなテーマだと思います。
 それから、アメリカが今2億4000万人ぐらいですが、中国の消費生活者に対抗していくためには、4億5000万人まで人口を増やしていくといいますが、それが単なる人口増やしではなく、インテリジェンスの高い人たちを移民させようということになると、インテリジェンスの高い人たちの取り合いになると思い、今後の大きなテーマだろうと思っています。質問にはならないのですが、コメントとして申し上げたいと思っています。
Q 先ほど岡本社長のおっしゃった「個人の心ばえがよくないと」というのは、ぐさっときた言葉です。個人の心ばえというのは、まず一つ入社をするときの選別と、社内の中でのセレクトとスキルアップというところがあるのですが、岡本社長は具体的にどういうことをされているのか、少しお聞かせいただきたいと思います。
岡本 評価されている、ということをその人が分かるということが、生きているという実感につながると思うのです。その辺のところは、アメリカやヨーロッパに比べて、日本は大変上手だと思います。それを徹底して、小さな会社でも大きな会社でもどんどんやることがいちばん大事だと思います。入社のときにどういう人を選ぶか、それは笑顔のいい人、あいさつのいい人、回答のいい人、ということになるのではないでしょうか。
岩佐 どうもありがとうございます。ここでひとまずパネルディスカッションを終わりにしたいと思います。パネリストに大きな拍手をお願いします。
■研究発表会 1
『勝ち組企業のBPI事例研究会』
岡田 正志氏

岡田 正志
NECソフト株式会社 オフィス効率化推進シニアエキスパート
関係資料(pdf/301KB) →
1.ヒアリングと分析による企業生き残りのポイント
 当研究会では、この協会の関連企業やユーザー企業を事例として研究し、BPIの方向性を導き出していこうということで、15社についてヒアリング、あるいはこの研究会で発表していただくという形で進めてまいりました。
 これらの会社を研究して共通していえることは、企業価値を創造することを大きなポイントとして活動しているということです。これを分割して三つの観点で言うと、一つは、時代の変化や顧客のニーズ等の変化に適応するためのビジネス転換、あるいはビジネスの再編をしている。二つめは、組織を活性化するために業務プロセスの革新を行っている。三つめは、個人の価値を上げるためにプロフェッショナルの養成を非常に一生懸命やっているということがいえます。
2.ビジネスの転換や再編
 調査した会社の中から、特徴的なポイントを紹介したいと思います。一つめのビジネス転換や再編ということでいうと、D社は、総合印刷業から情報加工業、あるいは情報コミュニケーション産業という形で転換をしてきました。これが一つの成功のポイントということで、時代の変化、あるいは社会の変化、産業構造の変化に合わせてビジネスモデルを変更しています。
 それから、P社では、比較優位を発揮できる分野への経営資源の集中ということで、そのために従来やってきたものを切り捨てるということまでしています。また、S社は商品販売という観点から、ビジネスのノウハウを売っていくということで再編をしている例です。
3.業務プロセスの継続的革新
 業務プロセスの革新のポイントは、やはり顧客満足ということがいえるかと思います。そのツールとしては、情報共有あるいはプロセスの効率化が共通項として見られます。
(1)顧客満足
 顧客満足という点で各社がしてきたことは、一般的に発注から納品までのリードタイムを少なくしたり、顧客へのレスポンス、作業品質を向上させたりしています。例えば、OC社では、文書の電子管理というものをキーワードにしながら、それを直接業務変革に結びつけていることが一つのポイントではないかと思います。
 また、Y社の顧客近隣エリアでの密着親和型サービスは十分ご承知かと思います。それから、S社では、自社の基準に適合した商品しか扱わないということで、専門知識のある社員を養成しています。
 そのほか、TM社では顧客とのコミュニケーションを強化していくとか、あるいは顧客の資産価値を高める(MM社)などがあります。これは不動産会社ですが、いわゆるプロパティマネジメントを別会社にすることでサービスの質を向上させている例です。
(2)情報共有
 その方法の一つとして、情報共有があります。生産管理データの一元化や、世界的規模での情報の可視化、共有化です。これはグローバル企業の例ですが、連結経営の前提のもとに業務革新を行っています。
 それから、顧客先でのデータ入力とリアルタイム処理ということで、これはスピード経営が一つのキーワードです。また、企業ポータルを構築するとか、関係会社とのコード体系、あるいはそのコードの意味を共通化していく。このようなことがあるわけですが、共通していえることは、基本的にペーパーレスとナレッジマネジメントを使いながら、これらを実現しているということです。
(3)プロセスの効率化
 効率化ということでは、最初の会社は、結果重視からプロセス重視。これは、いわゆるISO9000の品質を一つの社内的なコンセンサスとして業務改革に結びつけている例です。
 また、可視化については日本にも相当ツールがありますから、こういうものを使って業務プロセスを可視化しています。また、それらをいわゆる業務のマニュアルという形で使っている例です。
 それから、同業者との共同化。例えば、共同の購買システムを作った例があります。それから、サプライチェーンによる在庫削減。これは、一般的に行われている話です。
(4)プロフェッショナル社員の育成、重視
 プロフェッショナル社員の育成、重視は、近ごろ非常に重視されていることで、製造関係でいくと専門職(マイスター)制度を非常に重視し、こういう制度の中できちんとした評価を行っているということが一つのポイントではないでしょうか。
 それから、スーパーでは食文化についての専門知識を持った社員を養成したり、会社にはいろいろな職種がありますが、そのタイプ別、職種別に評価制度を作るというようなことをしています。また、専門性を発揮できるような組織への転換ということで、一つの例でいうと、分社化ということになります。
 基本的に大きな問題として、評価制度が一つのポイントになると思います。目標設定をして、それをどう評価するか。こういう点が非常に重要かと思っています。
(5)その他のポイント
 何社か調査している中で、非常に大きなポイントとなった言葉として、「企業文化、企業風土」というものがあります。一つは、事業ビジョンと企業文化を上手に結びつけている会社です。そして、風通しのよさですが、これは評価や経営の情報をリアルタイムで公表していることです。それから、企業規模や企業の特質にあった事業モデルを確立していること。そのほか、ブランドの問題などがあると思います。
4.BPI(ビジネスプロセスイノベーション)
 BPIとは、戦略的に企業価値を向上させるアプローチであるといえます。やはり情報技術とネットインフラの二つが非常に進化していることが大きな要因になっています。
 そういったことで、変化のスピードが非常に大きくなっているとともに、顧客の要望が非常に高度になっていることが大きなポイントです。当然、情報系が進歩するということは、企業リスクも非常に大きくなっているという点を、これからきちんとやっていく必要があるでしょう。
5.BPIのキーワード
 BPIのキーワードの一つは、スピード、あるいはリアルタイム性ということ。それから、変化をきちんととらえること。木を見て森を見ずではなく、森も見るということ。攻めの経営革新ということ。リスクへの万全な対応。こういうものではないかと思います。
 これらを一冊の本にしようということで、今、出版の準備をしています(『ビジネスプロセスイノベーション 企業価値創造の15事例』)。記号で書いてあった会社は、この表紙にある15社です。本の中では、基本的にこれらの会社がどういうことをしてきたかということをまとめる予定で、12月初めに発売ということにはなっていますが、若干遅れるかもしれませんので、その辺はご容赦いただきたいと思います。

■研究発表会 2
『ライフスタイルとワークプレイス研究会』
小田 毘古氏

小田 毘古
ワークプレイスリサーチセンター 代表
関係資料(pdf/221KB) →
1.本年度テーマ
 我々は昨年、「オフィスワークの生産性」ということで取り組んでまいりました。これの続きになりますが、今年はちょっと観点を変えて、「ワークライフ・バランス」という形で、働く人の視点に立って生産性というものを取り上げてみました。どういう環境ができたら、働く人は生産性が高く働いてくれるだろうかということです。
2.BPIAセミナー「ワークライフ・バランス」
 「ワークライフ・バランス」とはなじみのない言葉ですから、最初に一体どういうものか、いろいろと調べたり聞いたりしました。その集大成が5月20日の公開セミナーです。そこでは経営者の観点から、会長の倉重さんに、「知識社会に必要なスローライフな働き方〜経営者から見たこれからのワークスタイル〜」と題して、これからは知識社会といわれるが、どのようなワークスタイルが必要なのか、あるいは、社員はどうやるべきか、経営者はどう考えるべきかというような話をしていただきました。
 もう一つは、専門家の話として、ワークライフ・バランスのコンサルタントに、ワークライフ・バランスが、特にアメリカでどういう形で浸透してきて、働く人を大事にするということが、結果的に会社の生産性にどうつながるかという話をしていただきました。
 さらに、いろいろ海外取材をされている伊藤美保さんに、コクヨの 『Eciffo』 という雑誌を中心に、ワークライフ・バランスが具体的にワークプレイス、働く環境とどういう関連があるかという海外の事例を話していただきました。特に、欧州では、ワークライフ・バランスを国を挙げて支援しているというようなことも分かりました。
3.創造的オフィス環境〜ホワイトカラーの生産性を刺激するファクター
 4月の例会では、関西学院大学の古川先生に、ホワイトカラーの生産性を刺激するファクターとは何かというテーマで、最新の調査を発表していただきました。そこでは、時間でどのくらいの成果をあげられるかといった効率性ではなく、有効性(働いたことによって生み出す成果)に焦点を当てました。ホワイトカラーの、特に知識ワーカーといわれる人においては、個人のアイデアの創出度、あるいは他部門との情報の交換度、従業員のモラルの高さの変数の値が高いと生産性が高いということをまず仮定して、クラスター分析を行いました。
 その結果、Vクラスターに一つの特徴が見られました。ここの人たちは、コミュニケーションが非常に活発であって、なおかつ信頼感が非常に強い。柔軟な組織でやっている。新たなことに挑戦しようという革新的な気持ちがある。それから、帰属している組織へのコミットメントも高いということで、このような環境を作り出せば、ホワイトカラーの生産性の向上につながるのではないかということが分かりました。
4.事例紹介
 幾つかの企業を見てまいりますと、それぞれの企業でやり方は違いますが、非常に関連性があるということも分かってきました。
(1)鍋屋バイテック会社
 鍋屋バイテックは、岐阜県にある創業440年、1560年の桶狭間の戦いの年にできた会社です。この会社が、今や鍋屋からハイテクの先端の会社に生まれ変わっているのですが、どのように変わってきたかをいろいろ調査しました。  「いい製品はいい環境から生まれる」というのがモットーとなっています。いい製品とは、当然のことながら世界に秀でた非常に技術力の高い製品を生み出すこと、常識ではないことにまずチャレンジしていくこと、考える職人の集団でなくてはならない、失敗を許容する、こうした環境からいい製品が生まれてくるといっています。
 いい環境とは、働く環境、物理的な環境と、もう一つソフトの環境があります。ソフトでは、楽しく働いたり、自分の仕事に生きがいを持たせるためにはどうしたらよいか。また、細かい配慮として、結婚記念日や誕生日には、必ず社長自らお祝いを渡すというようなことをやっています。物理的な環境としては、エンジニアは、必ずしもオフィスに朝から晩まで閉じこめることでよい技術力が生まれるわけではない、エアロビクス、フィットネス、サウナ、ジャグジー、プール、マージャンなどを仕事の合間にやることで、はじめて頭が活性化していい技術が生まれるということで、楽しい空間を作りました。
 もう一つ、厳しさの点では、NBK(鍋屋バイテック会社)スキルボードというのを各職場に張り出して、それぞれがどういう技術を持っているかを一覧表にしています。これによって、自分の欠けている技術、例えば、TOEICは点数まで全部出ているので、自然に自分の弱さ、あるいは強さを分からせるような環境にしています。自己啓発が自然に盛んになるということをやっていました。
 ですから、鍋屋バイテックは、付加価値経営が強みです。よい製品というのは付加価値が高いわけで、これによって業界のある分野ではトップシェアを取っています。もう一つは、顧客満足を追求しています。午後2時までの受注は当日出荷、ねじ1本から受注するような体制を取っています。2万5000点すべての在庫を持っているので、ある意味では非効率的ですが、面白いのは、効率経営の優であるトヨタさんと同じ中部経済圏にあります。トヨタさんは、在庫をミニマムに減らすのに対して、こちらは在庫をいっぱい持つという形です。これは、付加価値が高ければ、在庫を持って、効率経営をある程度犠牲にしても成り立つという構図です。
 もう一つは、人を大切にする経営ということで、例えば、社員を信頼して守衛がいない。休日の施設解放。かぎがかかっていない。スポーツ施設、文化施設は家族も使える。このようなことをいろいろやっている結果、定年退職以外は離職率はゼロです。
 ここでの感想は、付加価値が大きければ、ある程度の効率は無視できるということ、それはゆとりの経営につながっていくということです。また、社員を大切にするということは、働く環境をよくするということで、施設環境、あるいはワークプレイス環境に自然に配慮がいくようになっています。結論としては、社員を大切にするということが、まずワークプレイス環境もよくする出発点だということが分かりました。
(2)アルソア本社
 アルソア化粧品は、訪問販売の化粧品、健康食品を作っている会社で、1998年に渋谷から全社をあげて小淵沢に移転しました。200名以上の社員を、まず小淵沢に強制疎開的に移らせたわけですが、そのときのスローガンは「あなたにとって豊かな生活とは何ですか」というものでした。東京のごみごみしたところで生活することが豊かとは思えない。自然との調和、健康で充実した体、創造的な職場環境、それが結果的に幸福な家庭生活を築くのだというような形で移りました。
 しかし、これがなかなかうまくいかないことも分かってきて、最近はここからさらに発展して、「知価社会に役立つ発想を生み出す環境」は何かということで、金銭的な豊かさだけではなく、心の豊かさをどのように広げていくかを考えようということになっています。
 ここでは、実際に東京から移ってきた3人の社員に感想を聞きました。企業として努力した点は、自然食とか、地元との密着ということで、地元のイベントに協力しているということです。
 小淵沢移転による効果と問題点については、移転によってある意味でモチベーションが高くなった人もいるし、逆に低くなった人もいます。酒を飲む機会は激減して、クラブ活動が盛んになり、コミュニケーションがよくなった。たまに来るゲストを大切にするようになった。これはどうも人恋しさから来ているようだと言っていました。ただ、前よりは離職率が高くなったというのです。特に都会型の人間を無理やり持ってくると、都会型から脱却できない人がいるのです。話を聞いた3人はすべて自然の環境に適合していったので、そういう人たちはうまくいった。しかし、都会型から脱却できない人は徐々に辞めている。問題は、そのあとに補充しなくてはならないわけですが、補充する人材が山梨と長野県に偏ってしまうということで、いろいろな考え方の人が集まらなくなったというのが一つ問題点になっている。同時に、新卒の学生に受けないという問題があるというようなことを言っていました。
 移転目標の自然との調和には成功したのだけれども、業績への貢献となるとどうなのか。都会志向の社員には向かない。都会から地方へ移転したときの一つの宿命があるような気がします。先ほどの鍋屋の場合は、創業440年と地元に密着で離職率ゼロですが、アルソアの場合、自然へのワークライフ・バランスを試行すると、こういう形にもなります。このような問題点もありますが、しかし、総合的には、うまくいっていると感じました。
(3)IBMビジネスコンサルティングサービス
 ここは皆さんご存じのように大きな会社です。まず、「風土と文化を変える」「知識社会に生き残るために人をどう活性化させていくか」ということで、いろいろな策を打っています。スキルワーカーからナレッジプロフェッショナルへの転換をやってきておることは、皆さんよくご存じだと思います。
 要は、個人が最高のパフォーマンスを発揮できる仕組みと組織をどうやって作っていくかです。そこで、市場価値ベースの報酬のための仕組み、キャリア形成の支援、あるいは個人の生活に対するワークライフ・バランス、働く月数、曜日、時間、場所の自由、スローライフの勧めということをしています。オフィスは、コラボレーションの場、自分の仕事は、家でやりなさいというくらい割り切っています。
 感想としては、会社として明確な「知識社会における企業のあり方」の指針があり、その実現のための組織、制度、ワークスタイル、ワークプレイスがしっかりしていて、それらがたゆまぬ変革を続けています。社員の視点に立ったいろいろな制度が作られ、機能的な人事制度、サポート体制が構築されています。ですから、経営者が替わってもそれが維持されています。これは、大きな企業のやり方の一例だと思います。
5.2004年度活動のまとめ
 今年は、ワークライフ・バランスの一般的な意味が理解できてきました。欧米、特にヨーロッパでは、国の施策となっているところが多いということも分かってきました。日本でも、一部の、今ご紹介したような企業では、ワークライフ・バランスとは気がつかないままに、それが自然な形で取り入れられています。
 訪問した範囲から共通項をまとめてみると、経営者の「社員を大切にする」という考えが、いろいろな形で具体策として現れているというのがまず一つのポイントです。もう一つは、上場していません。IBMビジネスコンサルティングは、株主は今のところIBM本体一つなので、そういう意味では非常に少ない。つまり、株主の目を気にしないでいろいろなことにトライできるわけです。もう一つは、社員の働く環境に配慮をすると、自然にワークプレイスにも目がいき、そこをきちんとすることが社員の生産性につながるというふうになります。IBMBCSは、組織、制度、施設をシステムとして確立しています。大企業になればなるほど、このような仕組みと構築が重要になってくるのです。
 今年の活動のキーワードは、やはり「楽しく働く」「自分の仕事に生きがいを持つ」「心の豊かさ」「個人としての自立」「人と人とのネットワーキング」「スローライフ」です。こうしたことを大きく掲げなくても、そういう配慮をしていけば、自然に社員は活性化していきます。これらは、古川先生の研究で明らかにされた知識ワーカー活性化の条件と、ほぼつながることが分かってきました。
6.2005年度に向けて
 今年はさらに企業訪問を行って、日本型のワークライフ・バランスの追求と検証をやっていきたいということで、12月2日には新橋にある中沢乳業に伺うことになっていますし、1月にはゼロックスにお願いしています。このような形で、大きい会社、小さい会社を組み合わせながら検証していきたい。
 もう一つは、今年はできなかった海外事例の研究をぜひ実現したい。それらを今年度はまとめて、知識/技術立国(知価社会)を目指す日本企業へ発信をしていきたいと考えています。ぜひこの活動にご参画いただけますようにお願いいたします。

■研究発表 3
『顧客別・プロジェクト別収益性管理研究会』
松村 俊英氏

松村 俊英
株式会社ABM 代表取締役
関係資料(pdf/39KB) →
1.活動目標
 「顧客別・プロジェクト別収益性管理」という言葉は、管理会計上非常に難しい問題をはらんでいます。「収益性」というからには、売りのほうをどうするのかとか、もちろん費用の問題も押さえなければなりません。費用の中には、最近いろいろなリスク問題がいわれていますので、リスクをどのようにマネジメントするのか等々、非常に広範な論点があります。それを一つ一つやっていくと論点も拡散しますので、私どもでは、その幾つかある論点の中でも、コストのところをきちんと見てみようという問題意識で取り組みました。
2.活動報告
 当然、企業活動においては、財務会計上も管理会計上も、経常費用のところをいろいろな形で管理していると思います。特に私どもが意識しているのは、直接製造費よりも、むしろ昨今のように製造業は非常に多品種少量化し、間接経費が非常にかかってきています。そこのところのマネージングをどのように考えればよいかということで、ABC(Activity-Based Costing)という考え方を全面に取って、これがどのように適用さていくかを見てみたいということです。まだ実際に企業におじゃまして事例をというところには至っておりませんが、今その準備段階を進めているところです。
3.ABC(Activity-Based Costing)
 ABCとは、あまりお聞き及びないかもしれませんが、80年代から米国でいわれている手法で、日本のトヨタさんの原価管理や原価企画のような発想に材料を得ているというような言い方もあります。理論についてはハーバード大のキャプラン・クーパーが書いた有名な”Cost and Effect”という本に詳しく述べられております。日本でABCが報告され始めたのは90年代になってからですが、金融業や一部大手製造業での導入事例が報告されています。銀行業では、「ABCなどを使ってセグメント別の収益管理をやりなさい」という当局のご指導があって、すでに相当な事例の蓄積があります。銀行業は、海外の大手銀行と比べると、やはり圧倒的にリテールということになっていますので、多くのお客様との反復的・継続的お取引の中から、どのように利益をあげていくのか。あるいは、発生する費用を、どのようにお客様に分担いただけるのか、いただけないのか。私どもで負担するのか、しないのかという論点が、非常に大きな問題になってきています。
 経済学や経営学の教科書でいうように、儲からないからそのお客さんをやめてしまうとか、このマーケットが儲からないから外に出ていけばよいというのは、現実の問題としてそういう選択肢を取るケースは多くないと思います。もうかっていないのは分かっているけれども、従来からのお取引の中で止められない。では、どうするか。儲からないまま永遠にお取引を続けるのではなく、きちんとこのようなコストの発生の仕方をしていますということで、それを詳らかにお客様に申し上げるかどうかは別にして、その分を何がしかの形でご負担いただけるのか、いただけないのかというようなことを、営業サイドもやっていかなければならないという状況になっています。
4.コストを測る
 なかなか製造業等にこうしたお話を聞ける機会がないのですが、昨今は内閣府などが主導してやっている例の市場化テスト、民でできる仕事は全部民のほうにやってもらおうという取り組みがあります。これも、皆様がたにとっても非常にビジネスチャンスではないかと思いますが、そのときも、やはり徹底的にコスト問題が重要になってきます。そのときのコストを測る方法として、従来の人件費であったり、物件費というような形でコスト情報が見えていても仕方ないので、それを掛った作業ごとに、例えば、デリバリー1回幾ら、顧客訪問1回幾らという形で見えるようにして、それをどちらが負担するかという議論をしていくというような機能が、この原価計算の手法にはあります。ですから、それを使ってみて、どのような形で皆様方の収益管理に役に立つのか、立たないのかということを研究させていただきたいと思っています。
5.いろいろな切り口で
 もう一つは、やはりコストを見るときの切り口です。例えば、多店舗展開しているような企業においては、営業店別、支店別というような切り口に、また、さまざまな部門を抱えていれば部門別というような切り口に非常に関心があろうかと思います。最近は同じ商品でもデリバリーチャネルが非常に多様化していますので、従来同じ商品としてくくっていたものが、インターネットで供給するのと、従来のような店舗で供給するのでは全くコストが違ってきます。同じ1,000円の商品をお届けするにも、その前後左右、いわゆる間接費として認識されている部分のコストが随分変わってきています。したがって、商品別、チャネル別といった切り口も、企業においては非常に関心があるのではないか。それから、営業担当者、あるいは損益担当者別のコスト・収益といったようなもの等々、いろいろなセグメント情報で見たいということかと思います。
 例えば、コスト情報の把握のし易さとかし難さ、コスト情報は取れても収益情報が取れないとか、いろいろな制約条件もあろうかと思いますし、実際に使っていただけるものにならないと、理論上分かったからいいよということではないと思いますので、その辺の難易度等々も実際の研究会の中で、事例を通じて標準化できればと思っています。
6.アンケート活動サマリ
 そこで、かなり早い時期に研究会を立ち上げたのですが、私どもの不手際もあって、実際にどう進めるかというところで時間がかかってしまいました。ようやく秋口に入って、企業に今のような関心を実際にぶつけてみようということで、アンケートを配布させていただいているところです。すでに、500社にアンケートを配布して、実際に今回収作業を行っています。年内には一度その結果を取りまとめて、研究会を開催したいと考えています。場合によっては、再度のヒアリング、あるいはアンケートのお願いをしなければならないかもしれません。今日、もしこのようなお話にご関心をお持ちの企業様に実際にご参画いただけましたら、私どもが一緒になって、実際の計算を切り口やらせていただきたいということも考えています。
 最終的には、年明けになるかもしれませんが、一応の取りまとめをして、今後実際に多くの企業に導入させていただくときの事象や問題面をいろいろと検討していきたい。来年以降の構想ですが、そのようなことで今やらせていただいています。ぜひ、ご関心をお持ちのかたは、ご協力・ご指導等をお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

■研究発表 4
『プロセス統合基盤研究会』
濱田 隆一郎氏

濱田 隆一郎
ウェブメソッド株式会社 プロフェッショナルサービス本部 本部長
関係資料(pdf/18KB) →
1.「EAI研究会」から「プロセス統合基盤研究会」へ
 昨年、どのような活動をしてきたかというのは、お手元の最後のページにあります。昨年までは、「EAI研究会」という名前でやってきましたが、今年の春先に「プロセス統合基盤研究会」というような形で、まず会の名前を変えて行っています。その意味合いは、EAI研究会というと非常にプロダクト的なところがあって、研究会の性格自身は、ほかの研究会よりもよりシステム的なところの研究に中心を置いているのですが、EAIよりもプロセスの革新、もしくは変革についていくシステム基盤とはどういうものかをもう少し広くとらえていこうということで、今年は取り組んでいます。
 いろいろな勝ち組企業の研究があり、先ほど発表された勝ち組研究会は、よりビジネスに近いところでやられていると思います。しかし、それを実現するためには、人や企業・文化だけではなく、やはりそれを支援するシステムがあるだろうと考え、そういうシステムとはどのように構築していくものなのかを研究しています。
2.セミナー活動
 春先からいろいろな議論はしているのですが、なかなか思った方向にはまとまっていません。では、今年どういうことをやるかといいますと、まず一つには、セミナーの活動です。皆さんビジネスの話になると、どこの企業はどういうことをやったということには非常に興味を持たれるのですが、では、システム的にはどうだったのかというところは、なかなか興味を持っていただけないということがあります。そこで、そういうものを広く普及していこうということで、一つにはセミナーの開催です。昨年まではBPIAのメンバーだけで閉じた形でスピーカーを募っていたのですが、今年からは、外部のスピーカーによる基調講演等をやっています。
 実施の頻度はクオータリーで、今年の1回めは7月16日に、BAM(ビジネス・アクティビティ・モニタリング)というセミナーを行いました。これは、リアルタイム経営に当たってのシステムをどのように組み上げるか、もしくは、どういうもので作っていけるかというようなところと、このときには参加したメンバーにEAIベンダーが5社ほどいますが、ベンダーによるパネルディスカッションを行いました。
 11月から新年度になるのですが、12月7日に、最近よく話題になってきているSOA(サービス・オリエンテッド・アーキテクチャー)に関してのセミナーを行おうと思っています。ここでは、オアシスというオープンの標準化団体の代表のかたに来ていただいて、世界的なそういうビジネスとシステムの標準化の現状というようなことをお話ししていただきます。そういう先の話と、現在のユーザー事例を組み合わせながら、広く皆さんのほうにお知らせしていきたいと思っています。
3.ユーザー調査
 セミナーだけではなく、もう一つはユーザー調査があります。これは、去年からいろいろと議論は出ていたのですが、こういうビジネスやシステムの統合を考えている企業が今どのような現状にあるのかというところのユーザー調査をしていきたいと思っています。ほかの研究会でもそうでしたが、基本的にはどこかの学術、ここでは金沢工業大学との連携ができないかということを検討しています。また、ベンダーはたくさん来ているのですが、やはりなかなかユーザー情報を出していただけないということがあり、ホームページから洗えるようなユーザー企業のリストアップをしていきたいと思っています。現在は、アンケート方式でやるための調査項目の作成をしています。調査結果に関しては、いろいろと意見はあるのですが、基本的にはBPIAの方針でいけば、かなりオープンに結果を公表していますので、そういうような形での公表を考えています。
4.その他
 セミナー活動とユーザー調査だけでなく、基本的に、研究テーマとして、プロセス統合基盤による生産性の調査・研究を検討をしていきたいと思っています。ITシステムの生産性については、大学でもいろいろ調べられているようですが、ITシステムがどれだけ生産性に寄与したかというような研究は学術的にもあまり残っていません。ただ、DELLのモデルやシスコのモデルが、ITなくして実現できたかといったら、これは絶対ありえないわけです。そこで、今の企業において、このようなプロセスの基盤をどのように考えていくかというような調査をしていきたいと思っています。ここはぜひ、ユーザーの企業のかた、今実際にそういうことをやられている企業のかたの参加を求め、研究対象としてやっていきたいと思っています。それらの調査と同時に、プロセスの統合やイノベーションをうまくやるためのアプローチとはないのか、もしくは、ほかのところはどうやっているのか、というようなところを検討していきたいと思っています。
5.まとめ
 基本的に、今年は以上のような研究方針です。ITのインフラは非常に評価しにくいところではあるのですが、企業が例えば海外進出をし、その海外のどこに拠点もしくは工場を作るかといったときに必ず見るのは、その国の社会インフラです。その社会インフラがきっちりしていれば、その企業がちゃんとビジネスをやる基盤があるというような認識と同じように、ITというものも、企業内においてきちんとした基盤として、企業インフラとして確立することによって、非常に生産性を高めていくことができるのではないかと考えています。その辺をうまく洗い出せるかどうかは非常に難しいのですが、洗い出せるようなアプローチをとってやっていきたいと思っています。ぜひとも、ベンダーだけではなく、ユーザーの企業のかたの参画をいただきまして、より現実的な調査を行いながらレポートをまとめていきたいと思っておりますので、何とぞよろしくお願いいたします。