BPIAセミナー
「ワークプレイス革新は21世紀企業の切り札
 −未来型へのワークスタイル変革と経営コスト削減−」


 日時: 2002年7月19日(金)


参加者講演風景

わが国の多くの企業のオーバーヘッドに占める建物・オフィス賃借料、設備費、家具などのオフィスファシリティのコストは15〜20%といわれます。つまり人件費に次ぐ大きなコストであるのですが、実態をつかみにくいことから、経営管理の上ではほとんど手付かずの分野でした。

一方、ネットワークをはじめとする情報技術の進展により、人々のワークスタイルは、職務特性により、その最も適切な姿を求めて多様化を始めています。機動性を要求される営業職はモバイル機器の活用により、オフィス空間への依存度を下げていますが、効率的業務処理を求められる一般管理業務職はワークフローシステムを利用して、省スペースの共同作業を実現します。

人々のワークスタイルを革新することにより、ファシリティコストを引き下げると共に、社員のクオリティ・オブ・ライフとオフィス生産性の向上をめざすのが、ワークプレイス・マネジメントです。

本セミナーでは、企業戦略としてのワークプレイス・マネジメントの考え方、実現方法、実践ケースなどを専門家・実務家が説明し、将来への道筋を参加者の皆様と議論したいと思います。


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■ 講演

西澤氏
「隠れた大氷山、ファシリティ・コスト」

西澤 脩 氏
(早稲田大学・名誉教授)
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はじめに

 私はファシリティについては素人ですが、たまには専門外の人の話を聞くのも、発想の転換に役立つのではないかと思っています。
 最近、ファシリティ関連の記事を追っていますと、2〜3か月前、朝日新聞に「今、東京都心は大規模ビルの建設ラッシュで、来年には約40棟が完成し、200万平米を超えるオフィスが出現する。過去、最大級の新築が供給過多を招き、賃料相場を引き下げ、ビル会社の経営が悪化する。これが2003年問題だ」とありました。このような問題に対処するためには、発想を転換していくことがぜひとも必要ではないかと思います。
 実は私は会計学が専門です。一般の方は、会計学といいますとと決算会計を連想します。決算会計は、いかにして決算書を作って外部に公表するかという学問ですが、私の専門は管理会計といいまして、マネジメントに役立つ会計をどう行ったらよいかという学問です。今日はマネジメントのうち、ファシリティ・マネジメントを取り上げ、それを会計という面から見るとどんな問題が起きてくるかという話をしたいと思います。
 結論を先にいいますと、会計という面からは、ファシリティ・コストは氷山の一角をなしており、それを削減することによって全く予想もしなかった非常に大きな乗数効果を生み出すことができるということです。


避けよう!タイタニックの悲劇

 5年前の暮れに「タイタニック」という映画が大ブームになりました。この映画の内容は、夢の超豪華船といわれたタイタニック号が、1912年4月10日に氷山に衝突して沈没し、乗客・乗員合わせて1517名もの尊い命が海の藻くずと化したという、あまりにも有名な話です。
 タイタニックが沈没した原因は、設計ミス、過信などいろいろとありますが、一番重要なことは警告無視でしょう。ミスが7つも8つも重なって重大事故が起きたのです。もしタイタニックの悲劇がこのファシリティ・マネジメントの世界に起きたらどうなるでしょうか。いま2003年問題を迎え、"ファシリティ・タイタニックの悲劇"が起きたら一大事です。それを防ぐにはどうするか、その話をすることが、私の露払いとしての大きな仕事になるのです。
 一般の方は、会計というと聞く耳を持たない方が多いのですが、年に1〜2回は決算書が社内に回覧されると思います。決算書には貸借対照表と損益計算書の2つがあります。その中で今日お話しするファシリティ・コストはどこに記載されているでしょうか。
 損益計算書の売上高から売上原価を差し引いたものが売上総利益(粗利益)です。それから売上高を上げるための販売費および一般管理費(俗にいう営業費)を差し引いたものが営業利益です。それに営業外収益を加え、営業外費用を差し引くと経常利益になります。
 営業費の中身を見ますと、給料、賃金、旅費、接待交際費…と並び、下の方に支払家賃・地代という費目が出てきます(費目名は会社によって異なる場合があります)。ですから、ファシリティ・コストは、決算書から推定すれば損益計算書の営業費欄に出てくる支払家賃・地代がすべてであると考えるのが当然でしょう。そして、その金額が小額なので、その管理はよきに計らえと放置されることになります。その結果、先程述べたタイタニックと同様の結末を迎えたら大変です。


JFMAのデータは氷山の一角

 JFMA(日本ファシリティマネジメント推進協会)では、ファシリティ・コストを広く理解してもらおうということで、毎年「FMベンチマーク調査」を行っています。1999〜2000年度を対象にしたその調査結果が、2001年1月に出ています。  ここでは、ファシリティ・コストに支払地代・家賃のほかに減価償却費、税金(施設にかかるもの)、水道光熱費、保守費、警備関連費、運営管理費、清掃費、その他費用も含めて実態調査が行われています。しかし、「工場(生産部門)関連対象者」は含まれず、資本コストも一切計上されていません。
 一般に金利といいますと支払金利が意味されます。支払金利は、会社が銀行から借りたお金に対して支払った代金ですが、自己資本を使ってもコストはかかります。たとえどんなお金でも、使えば必ず一定のコストがかかるのです。これが資本コストです。
 会社のお金がすべて銀行から借りていれば支払金利だけでよいのですが、資本金、剰余金、手形など、いろいろな方面から資本が調達されています。
資本金について金利は支払いませんが、株主から資本の提供を受けた以上、必ず配当しなければなりません。配当は税金を払った後でしか支払えません。例えば1割の配当をするためには、法人税率を50%としますと、2割のコストがかかります。今は金利ゼロ時代などといっていますが、資本金については2割ものコストがかかっているのです。ですから資本コストを全部合計しますと非常に多額な金額になります。このような資本コストを全く計算に入れずに、ファシリティ・コストを計算してはいけません。コストという場合、単に支払家賃・地代だけでなくすべてのコストを対象にしなければ、真の実態は分からないことをまず十分ご理解いただきたいと思います。
 幸い、昨年から経済産業省の委託を受け、『施設に関する費用認識・管理会計に係る調査研究報告書』が2年間にわたり発表されています。今はまだ考え方が決まっただけで、実際のアンケート調査はこれからです。1年ほど待っていただき、きちんと数字がわかったところでご報告いたします。
 先程のベンチマーク調査の結果によりますと、賃借施設は全施設の57%で、その賃借料は賃借施設費の67%となっています。つまり賃借施設についてさえ、全部が支払家賃・地代ないし支払賃借料というわけではありません。実際に支払賃借料として支払われるのは賃借施設費の67%だけで、残余の33%は社内で消費されているのです。
 さらに、昨年度の場合、総施設費は売上高の4.7%となっています。98年に調査したときには3.9%でしたから、この2年間で3.9%から4.7%に上がっています。その原因については、専門家である皆さんにご検討いただきたいと思います。
 以上述べましたJFMAのベンチマーク調査結果も氷山の一角で、まだまだそれ以外にたくさんの費用が含まれています。その1つが資本コストであり、さらに工場関係のコストです。それらを含めたものがいったい幾らかは、これからのお楽しみということになります。


ファシリティ・コスト削減の相乗効果

 では、ファシリティ・コストを1割削減するとどうなるのでしょうか。先程の調査結果から、施設を賃借施設と自社所有施設に分けますと、その割合は57対43です。このうち賃借設備について、外部に支払った賃借料は、賃借施設費の68%でした。従って、残余の33%が社内で消費されている勘定となります。  自社所有施設については、もちろん支払賃借料はありません。一切支払額が無いと申しますと、電気代は払っているではないかといわれますが、支払賃借料で支払うものが無いとご理解いただきたいと思います。自社所有施設については、当然のことながら支払賃借料は0です。ですから、自社施設費は、その全額が社内消費額となります。両施設費を別個に見たのでは収拾がつきませんので、全施設費を100%としますと、賃借施設については賃借料が38%、社内消費額が19%となり、自社所有施設については社内消費額が43%となります。
 かくして、ファシリティ・コストを氷山に譬えますと、そのうち海の上に出ているのが38%で、残った62%がすべて海の中に潜っていることになります。このようにファシリティ・コスト氷山のうち38%しか海の上からは見ることができず、なんと62%が海の中に潜っているのです。タイタニックではありませんが、この38%が施設費のすべてと誤解し、小さい氷山だとバカにして近づいて行ったら、氷山に衝突して沈没せざるをえないわけです。
 それを避けるにはどうすればいいでしょうか。もし氷山であれば、水中レーダーをあてれば海の中に潜っている分を知ることができます。その水中レーダーに相当するものが、いわばファシリティ原価計算です。ファシリティ原価計算について、新しいモデルを作れということで検討した結果が、先程述べた経済産業省のマニュアルで、半ば完成し公表されました。今年もし予算がつけば、実際に皆さん方の会社にアンケート調査をして集計したいと思います。それを見て、多額な金額に達するることに気がつかれるのではないでしょうか。
 いずれにしましても、ファシリティ・コストは氷山のか形をなしており、わずか全体の38%しか目に見えませんが、これがすべてと考えてはいけません。ファシリティ原価計算を行って、この下に潜っている分を披瀝し、総額を把握する必要があります。
 では、把握してどうするのかという話になります。1999〜2000年の調査結果から、ファシリティ・コストは売上高の4.7%でした。これを四捨五入して売上高比率を5%とします。もしファシリティ・コストをその1割削減すると、どうなるかを考えてみましょう。
 売上高と純利益の割合は会社によって変わります。純利益とは、もちろん法人税を引いた後の最終利益です。純利益が売上高の1%である企業が、ファシリティ・コストをもし1割削減すると、どのような効果が出でるのでしょうか。
 その会社の年商が1000億円であると考えてください。先程、平均的なファシリティ・コストを5%としましたから、この会社では50億円のファシリティ・コストがかかっていることになります。その1割を削減すると、5億円です。5億円のファシリティ・コストを削減するということは、他の条件に変化がないとすれば、5億円の純利益が上がることになります。
 5億円の純利益をもし売上高の増加によって賄うとすれば、いったい幾らの売上高を上げなくてはいけないでしょうか。売上高と純利益の割合が1%の会社であれば、5億円を1%で割って500億円となります。この会社は年商1000億円ですから、売上高の5割増ということになります。つまり、ファシリティ・コストを1割削減すると、売上高を5割上げたのと同じ結果が出ることになるのです。
 今、売上高を5割上げることなどとんでもないことです。前年の売上高を維持するだけでも血の出るような努力が必要です。ところが、ファシリティ部門がファシリティ・コストを1割削減しますと、販売部が年商を5割上げたことと同じような利益効果が出るのです。
 平成不況もすでに14年になり、あと何年続くのか分かりません。平成不況を乗り切り、さらに会社が持続的発展を遂げるには、いろいろな対策があると思いますが、その一つとしてファシリティ部門の出番となります。今までは、会社の利益は販売部だけが上げていて、ファシリティ部門は裏方にすぎないというのが各社の状況でした。しかし、いよいよ裏方から檜舞台にのし上がって、自分たちの努力で会社の純利益を上げる時代がやってきましたので、そういった時代をこれからぜひ実現しなければなりません。そのためにはいったいどうすべきか、ひき続いて講演なさる専門家の方々にバトンタッチをし、私の話はこれで終わりたいと思います。


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■ 講演


中津氏 「失われた90年代を取り戻すための経営コストマネジメント」
中津 元次 氏
(中津エフ.エム.コンサルティング 代表取締役)
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1.FMとは

 西澤先生のお話で、ファシリティ・コストをどのように把握するかお分かりになったと思いますが、そのあとコストをどのように分析してやっていくかということをお話ししたいと思います。
 ファシリティ・マネジメントは、「企業・団体などの使用する全ての施設及び環境を総合的に企画・管理・活用して、人・組織・社会に貢献する経営管理活動」と定義されます。簡単にいうと、一番上に資金を提供する株主あるいは債権者・銀行がいて、その下に経営者がいます。経営者が、基本的に株主から預かったお金をいかに上手に運用するか、あるいは人・もの・金の経営資源をいかに効率的に使うかを考える意味では、ファシリティは非常に重要なものです。
 中小企業にとっては、どこに立地するか、建物を買うか建てるかということは会社の命運を分ける仕事ですので、社長自らが行います。ところが、会社がだんだん大きくなると社長自身がするわけにはいかくなりますので、それを代行するのがファシリティ部門です。したがって、ファシリティ・マネジメントとは、ファシリティを切り口とした経営そのものであると理解していいでしょう。そして、ファシリティを利用する方、働く方あるいは訪れてくるお客様があります。ファシリティ・マネジメント部門の基本的な目的は、経営者を代行し、働く人が生産性を上げられる施設を提供することです。
 ファシリティを特にコストの面で見ると、どういう意味があるでしょうか。現在、日本では急速にリストラが進んでいます。しかし、日本のリストラは非常に変則的なかたちで行われています。アメリカでもヨーロッパでも、人がいなくなるとその分だけオフィスを縮小し、ファシリティ・コストを同時に削減します。ところが、日本はほとんどの企業はファシリティ・マネジメントが行われていませんので、人は減ってもファシリティは減らず、空き机がどんどん増えているという状態です。
 会社によって違いますが、施設の運営費は1人あたり150〜200万、人件費の4分の1から5分の1と考えていいでしょう。それをどのぐらい削減できるかというと、先程、西澤先生は10%と言われましたが、私の体験からすると30%は必ず下げられます。ですから、4分の1を3分の1下げると12分の1、人件費の8.6%が削減できます。ということは、人を2割削減しようと思っているところは、ファシリティのコストを徹底して下げることによって人の削減は1割ですみます。日本のリストラで非常にまずいのは、人のリストラが行われてファシリティのリストラが行われていないところです。人のリストラをする前に、徹底したファシリティのリストラをすれば、人のリストラをしなくてもすむかもしれません。同じお金でも、人件費とほかの費用、特にファシリティ・コストとは、価値が違います。同じ100万円でも、人件費は皆さんのサラリーになります。そのうち、かなりの重要な部分が皆さんのお子さまの教育に使われます。ということは、人件費とは日本の未来に対する投資としての値打ちがあるのです。
 ファシリティ・コストは、別の見方をすると、過去の投資に対する現在の支払いといえます。ですから、ファシリティ・コストこそ徹底的に下げて、人件費の削減を一銭でも少なくすることがファシリティ・マネジメントの今の任務であると思います。


2.激変する経営環境

A)日本の国際競争力
 スイスにIMD(Institute for Management Development)という国際調査機関があります。そこが毎年4月に、世界(現在は約49か国)の国際競争力を314の項目から調査して総合評価を発表します。1985〜19993年までの9年間(バブルの時期)、世界中のお金の半分が日本の銀行に入ってきました。このときはジャパン・アズ・ナンバーワンだったのです。ところが、バブルが崩壊してからどんどん下がり、一昨年が17位、昨年が26位、今年は30位です。
 IMDの調査報告の詳細を見ると、ファシリティ・マネジメント関係では、電力コストが47か国中47位、オフィス賃料が47か国中45位です。ほかの項目では、日本の社長の起業家精神が最下位です。ですから、日本の社長は経営者としてやる気がない、ほとんどがサラリーマンの上がりの社長だと評価されているということです。株主に還元する株主価値創造は45位、日本政府の財政運営は46位、金融の財務能力に関しても43位です。
 日本のオフィス賃料は45位でしたが、それを少し変わった見方をしてみましょう。2000年の国際競争力の順位は、1位がアメリカ、日本は17位でした。そのとき、1フィート平方あたりのオフィスの賃料をアメリカドルに換算してみると、日本の大手町の賃料が3万8000円ですから、146ドルになります(当時1US$=¥104.3)。17位までの日本以外の国の平均は48.5ドルですから、ロンドンを除いて日本は世界の相場の3倍なのです。
 FMの観点から、あるいはテナントの立場から考えると、日本の企業は3倍の賃料のハンディキャップを背負っています。これが是正されないかぎり、日本の競争力はもっと下がっていきます。賃料が下がって初めて日本の企業の国際競争力を回復できるのではないかと思います。

B)人口減少社会
 日本の人口はあと5〜6年のうちにピークを迎え、1億2700万人になります。2010年まではバランスしていますが、そこからは毎年0.8〜1.2%ずつ減っていき、100年後の次の世紀には今の半分の5000〜6000万になります。この調子で減っていくと、2300年を過ぎるころには純粋な日本人はいなくなるという話もあります。
 特に15歳から64歳の労働人口は95年がピークで、それを過ぎてすでに今は7年目に入っています。オフィスのワーカーがどうなっていくかは、これに比例して考えられます。ポイントは、日本の人口はこれから右肩下がりであるということを認識する必要があることです。
 日本は今まで、明治からずっと人口が増えてきました。例えば戦争が終わった1945年、日本の人口は7000万弱でした。したがって、戦後の繁栄にはもちろん努力もあり、いろいろな幸運もありましたが、一つは人口が増えるという追い風があってのことでした。人口が減ることは、ビジネスにとっては向かい風になると認識せざるをえません。
 そこで、日本の不動産市場を長期的に展望すると、情報化によるモバイルオフィス化によって、あるいは人口減少によって、オフィス需要は減退していきます。そして、人口減少によって住宅需要あるいは住宅関連産業の需要が下がらざるをえません。さらに、グローバル化によって日本の製造コストは非常に高くなり、製造拠点の空洞化も避けられません。
 そうすると、今のところ日本の不動産需要が増える要素はなく、下がっていくと認識せざるをえません。したがって、不動産価格もプラスになる要素は何もありません。先程も言ったように、オフィス賃料も今の3分の1になって初めて世界の相場となります。そこに減損会計という、簿価と時価を比較して時価が低ければその分だけ減損して資本を減らすということが出てくると、ますますその下落に拍車がかかります。したがって、今後はファシリティ・コストだけでなく、FMの資産評価が非常に重要になってくると思います。


3.FMによるコストマネジメント

 それでは、ファシリティ・マネジメントのコストをどのように分析して削減すればいいのでしょうか。今の人口のパターンを使って、日本の経営のあり方、それがFMにどのように影響を与えるかを見てみたいと思います。戦後の日本は、焼け跡で食べるものも、住む家も、着るものもない中で、いかにものを作るかということで官主導の護送船団方式というものづくりのシステムを作りました。そして、ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれる工業化社会の最後のチャンピオンになったのです。
 しかし、バブルが崩壊し、いつのまにか社会が高度情報化社会に移っていくと、ものはあふれるようにあって、いかに消費者のニーズに合ったものだけが生き残るかということになります。銀行も4つもあればいい、最近は2つでいいという話さえ出ています。自動車のメーカーも2〜3つでいいということで、トヨタやホンダは大丈夫ですが、日産は日本人の経営者ではどうにもならなくて、カルロス・ゴーンというフランスの経営者が来てやっとプラスに転じました。
 構造改革の中で、経営も拡大経営から効率経営・付加価値経営に変わっていきます。拡大経営とは大きければいいということですが、効率経営とはいかに筋肉質であるか、付加価値経営とはいかにスマートであるかということになります。評価法も、ROE、ROA、EVAという、今までの含み益や成長率とは異なったものが導入されてきます。
 そういう中で、今までFMはどういう役割をはたしてきて、そしてそれがこれからどのように変わってくるのでしょうか。1990年までのFMの役割は、企業が成長する、人が増える、拠点が増える、工場が増えるといった成長をいかに支援するかということで、施設の確保が一番のミッションでした。その中では、どうしても施設単位あるいはプロジェクト単位になります。
 しかし、右肩下がりになるとリストラを行います。本来、FMの役割は経営を支援することですから、改革を支援しなければいけません。そのためには、従来の施設単位やプロジェクト単位のやり方ではマネージできなくなります。右肩上がりのときは、例えば都心に4つ建物があるとして、2割人を増やすとすると1棟を新規に拡張すればいいわけです。施設単位であり、1棟を確保するというプロジェクト単位です。右肩下がりになって、仮に20%リストラが行われたとすると、従来の施設単位で管理しているのではどうにもなりません。
 では、どうするかというと、1つ上のレベルで総括的に、長期的に見ることです。ある建物のうち、会社にとって最も価値があるのはどれかと優先度をつけていき、一番優先度の低いところから人や施設を移し、これを空けて、持っているものであれば売り、借りているものであれば返します。このように、全ファシリティを総括的・長期的・戦略的に評価し、価値の低い施設を利活用・処分することが必要になってきます。
 では、どのようにしてコストを分析すればいいでしょうか。ここからは少し難しい分数とROAの知識が必要になりますが、基本的にROAとは資本分の利益です。これに売上という要素を入れると、売上分の利益×資産分の売上と因数分解できます。
 ファシリティ・マネジメントは売上には貢献しませんが、人件費に次いで2番目に大きい施設運営費を徹底して削減することによって、売上分の利益に貢献できます。すなわち、売上分の施設運営費をどれだけ小さくするかということです。
 もう1つ、資産を下げるには、初期投資のコスト、保証金などを徹底して削減します。あるいは、持っている施設を需要度から見て、要らないものは売るという戦略が必要になってきます。
 まず、売上分の利益をどのように下げるかということで、MNコストチャートというものがあります。MNというのは、これを考案した私のイニシャルです。
 売上高分の施設運営費に、施設面積と入居人数という要素を加えると、売上高分の入居人数×施設面積分の施設運営費×入居人数分の施設面積に因数分解できます。まず、Y軸に売上分の施設運営費を、X軸に1人あたり面積を持ってきます。さらに、面積あたりの施設運営費、1人あたりの売上も同様にしてチャートを作り、それらがつくる四角で見て、その四角が小さければいいというようにデザインしてあります。
 最終的には、売上分の施設運営費を下げるのですが、その要因として面積に問題があればスペースを割き、コストに問題があればコストを割きます。売上が少ないのは生産性の問題ですから、FMは直接の責任はありませんが、経営者に対してこの分析を通じて、我が社はここに問題があるという生産性改善を提案する任務が生じます。
 スペース、コスト、生産性のそれぞれについてFM戦略施策の定石を挙げておきます。ワークプレイス対策としては、面積標準の見直し、スペース配分の見直し、特殊部門面積の見直し、モバイルオフィスの採用、利用度の改善(空き机・会議室)を行います。施設運営費削減対策としては、立地の変更、所有形態の変更、賃借条件の交渉、集中・分散、LCCの削減、施設運営費の削減を行います。これをすべてすると、コストが30%は確実に下がります。そして、経営的施策としては、生産性向上プログラム、ライトサイジング、リストラクチャリング、リエンジニアリングを行います。
 例えば今、日本でリストラが行われていますが、ファシリティ・マネジメント不在のために、人がいなくなって机だけが残り、そこへファックスやプリンタが乗っています。空き机率とは、そのような机がどれぐらいあるかということです。これが10%以下であれば管理状態にあるといえますが、右肩上がりのときは0〜5%だったものが、今は2〜3割はざらです。
 これ以外にも会議室があります。日本の企業は、オフィスそのものは狭いのですが、会議室がやたらにあります。1日8時間のうち、会議をしている時間はおそらく20〜30%でしょう。ということは、100人いるとすると会議室の椅子の数はせいぜい30か40あれば足りるはずです。しかし、会議室の椅子の数を人数で割ってみると、最高記録は280%です。これなどは削減の宝の山といえるでしょう。


4.これからの日本とFM

 今まではコストの見方のキーポイントと見所をお話ししましたが、日本とFMの世界をどのように展開するかを最後にお話しします。
 私はこのFMの普及活動に関係して10年以上になりますが、日本でのFMの普及は遅々として進んでいません。あるべきファシリティ・マネジメントの姿としては、ファシリティは経営資源であり、徹底して削減し、いらない資産は持たないことです。  これに対して、日本ビジネス慣行の課題を挙げてみると、経営体質については、まずコーポレートガバナンスの欠如です。社長にコストを下げるつもりがないのです。もう1つは、土地本位制です。土地を持っていれば値上がりするからと、いらない資産を持ち続けています。いまだにこの麻薬に毒されているのです。
 事業部制度(縦割り)が2つ目の課題です。基本的に、会社の資産は社長が所有責任を代表し、FMの部門はそれを代行しているのであって、事業部は入居者にすぎません。ところが、日本ではなぜか事業部が実質的な所有権を保有しています。ですから、事業部が自らファシリティを下げていくことがなかなか行われません。
 3番目は、日本特有の戦略特性です。FMには、全社のデータをとって戦略的に分析し、長期的視野をもった戦略志向が必要ですが、日本にはそれが非常に希薄です。これは今始まったことではなく、第二次大戦の陸軍・海軍時代からそうですし、今の金融問題の処理についてもいえることでしょう。
 すべての新しいビジネス、テクノロジーは、アメリカで芽を吹いて成長し、それが日本に5年遅れぐらいで来ます。それからさらに5年遅れで中国、香港、シンガポールと普及するのがかつてのパターンでした。
 私は、FMの世界に来る前、1980年ごろには日本IBMでパソコンの製造責任者だったのですが、そのときに何台ぐらいつくるかという予測をしなければいけませんでした。当時はだれもパソコンを作っていませんから予測のしようがないのですが、アメリカのパソコンの普及のしかたを見て、その5年遅れで日本の人口に適用するとぴたりと当たりました。したがって、私はいろいろなテクノロジーについてアメリカの動向には注意を払っていましたが、それはFMの世界でも同じです。
 アメリカの動きを見てみると、1980年前半、レーガンが大統領のころに景気刺激策でバブルが起き、1987年にバブルが崩壊して1991〜1992年にはバブルの底になり、大リストラが行われました。そのあとに回復し、特にITのフォローがきて1990年代、アメリカでは108か月も連続好景気が続きました。
 それを受けてアメリカの経営目標は、バブルのころには売上利益率だったものが、バブルの崩壊とともにROA、ROE、EVAと変わっていきました。キーワードは、スマートビルディングから、JV、アウトソーシング、フレキシビリティと移っていきました。
 日本は、アメリカでいえば1990年代前半のバブル後処理のところにいす。本当は5〜6年前からこの段階になっているのですが、遅々として進んでいません。しかし、日本も底を打って、やるべきリストラをすれば、再び成長路線に入ってくると期待しています。
 情報化社会になってからのFMのキーワードは、AGILITY(俊敏・機敏)であるといわれています。ドラッカーが「Managing the Next Society」という新しい本を出し、工業社会から知識社会に移っていると言っています。これからは変化のテンポが速く、何が起きるかの予測が困難です。したがって、俊敏に対応しなければいけないわけです。
 その対応のしかたは、EntryとExitの2つです。Entryとは新しく起きたことに対して素早く対応すること、Exitとは逃げるときには素早く逃げるということです。それをFMに転用し、不動産資産は持たないというのがアメリカ企業の基本的な考え方になっています。なぜかというと、不動産は売ろうと思ってもすぐには売れませんし、長期契約するとすぐに返却できないからです。
 では、これから先、FMはどのように展開するでしょうか。これまでの運営費主体のFMからコストを下げる戦略的FMになると言いましたが、その次はファシリティだけではマネジメントに貢献できなくなり、IT(情報通信)、ヒューマンリソース、総務などと一緒にマネジメントをするようになります。それをCIRM(Corporate Infrastructure Resource Management)といいます。
 Infrastructureは「都市基盤」がもともと語源ですが、コアビジネスに対応するノンコアを意味しています。人事、IT、FM、財務は、ビジネスではノンコアのインフラストラクチャーに相当するということで、このような言い方をします。BIF(Business Infrastructure Management)、IM(Infrastructure Management)ともいいます。これに関してはプライスウォーターハウスの事例が、世界の最先端をいっているといっていいでしょう。
 最後に、1853年、今から150年前のペリーの来訪以来、日本は今回で3度目の危機的時代を迎えています。しかし、ペリーが1853年に来て15年後の1868年には明治維新を成就し、それから富国強兵で工業化を果たしました。そして、1945に敗戦を経験し、15年後の1955年には戦後は終わったとして高度経済成長期に入っています。したがって、日本人は目標さえ共通認識できれば、15年でモデルチェンジできる可能性があるということです。
 その意味では1990年バブルが崩壊し、本当はあと数年で日本は再躍進のシナリオに乗ってもいいのですが、ちょうど失われた10年があったので、あと何年かかるかわかりません。しかし、FMなどの手法を勉強し、目標をもってやることによって新しい時代が開けてくると私は確信しています。
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■ 講演


小山氏 「ソニーのワークプレイス戦略」
小山 義朗 氏
(ソニーファシリティマネジメント株式会社 執行役員常務 ファシリティ戦略センター長)
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ソニー株式会社概要

 ソニーは、昭和20年に一種のベンチャーとしてスタートしましたが、年々大きな会社になり、現在では連結ベースで7兆5000億円、単独ベースでも2兆6000億円近い売上の会社になりました。しかし、昨今のデフレの安値競争にソニーのコンシューマー製品等も巻き込まれており、必ずしも売上が利益に貢献しなくなっています。
 ちなみに、ソニー(株)そのものは、東京近郊の品川、御殿山、大崎を中心とした事業所で本社機能やR&D機能を抱えています。国内の連結会社を含めた不動産の規模は、土地で130万、建物で250万平米です。
 7月1日にソニーの経営プラットフォームの改革が行われました。ヘッドクォーターの機能はグローバル・ハブと呼ばれており、グループ会社を含めて横断的にマネジメント、コントロールをしていきます。各事業、関連会社、ソニー本体を支える法務、知財、広報、財務、経理、総務、人事などは、昨年の7月から「経営プラットフォーム」と呼ばれています。さらに、この中身を今年の7月に再見直しし、総務では「総務センター」というものがソニー(株)の組織の中にあります。この中にFS(Facility and Safety)戦略部、本社総務部、厚木総務部、仙台総務部と4つの部があり、ここはソニー(株)としてグローバルにガバナンスを効かせる部分と、サイトマネジメントをソニーとしてコントロールする機能を持っています。
 実際にここでワークするのは兼務の人、あるいは主務でもSFMも兼務している人が多いのですが、せいぜい5%ぐらいの仕事しかしません。ソニー鰍ニして必要なガバナンス業務以外の企画、戦略を含めた実務のほとんどはソニーファシリティマネジメントが行っています。戦略的に機能分社の会社に移したわけです。ちなみに、私はFS戦略部の部長でもあり、ソニーファシリティマネジメントの役員でもあります。


ソニーファシリティマネジメント(株)の概要

 SFMの位置づけは、ソニーグループをきちんとプラットフォームとしてマネジメントしていくことです。総務、ファシリティ、セーフティ、環境の部分を統合的に企画して、実践して効率化を図るという機能を持っています。
 HPJ社のアウトソースは、マネジメントそのものをソニーファシリティマネジメントがやります。これは、アウトソースというよりHPJ社とソニーのいいところをお互いにシェアできるというところに基本的な部分があって、ただ単に仕事を受けた、出したということではありません。そういうパートナーであれば、一緒に仕事をしていってもいいというのが外販といわれる部分の位置づけです。


ソニーのオフィス戦略

 一方ソニーのオフィス戦略のポイントは、経営戦略という部分で考えると、自社ビル・賃借ビルの使い分け、社内家賃制度、戦略的オフィスリロケーション、ファシリティコスト削減の4つです。
 一方で、社員は働く場所が何らかのかたちで必要です。それをルール化したものがオフィススタンダードであり、これからキャンパススタイルオフィスやサテライトスタイルオフィスを考えています。


オフィススタンダード

 今から10年以上前、野放図になっていたオフィスの管理をきちんとしようということで、スペーススタンダード、什器(じゅうき)のスタンダード、環境のスタンダードを作りました。これは、ソニーに入った社員が、あるレベルにおける環境で仕事ができるものはミニマムとして確保するべきであり、むだをしないこと。つまり、会社の資産である空間と社員を適正、かつ有効に活用するという理念の下にできたスタンダードです。


<スペーススタンダード

 スペーススタンダードについては、標準1人10平米で見ていますが、実際には8平米あれば十分です。働き方によってスペースをうまく使うために2平米が盛り込まれています。裏を返せば、この2平米は、そこで25%人が増えてもレイアウトを変えることによってスペースを増やさないことにも使えます。標準的なレイアウトは、1人8平米を切っている島型対向式のレイアウトで、従来はこれを基本に進めています。
 一方で、オフィススタンダードの中には、喫煙のルールやリフレッシュコーナーのルールがあり、リフレッシュコーナー、喫煙室なども造ってきました。


湘南テクノロジーセンター

 昨今、ソフト系のシステム開発を含めた業務がソニーの中でもどんどん増えてきて、新しいコンセプトでオフィスをつくることになりました。湘南の藤沢にあったテレビの工場が、生産をやめたあとなんと2万平米近く空いていました。都心に近いということで、ここを有効活用したいと検討を進めました。なかなかうまく使われない中で、一昨年の9月から、コンセプトを明確にして、新しい働き方のスタイルを実践できる場所としてここを使っていこうということになりました。
 湘南テクノロジーセンターは、藤沢と辻堂の間にあります。敷地が約2万5000平米、延床で4万5000平米の規模です。ここで「湘南キャンパススタイル」という新しいコンセプトを作り、コクヨにアドバイザーとして入っていただきました。
 ここでは、クリエイターのための魅力ある新しいキャンパス環境ということで、クリエイティブな発想ができる環境、24時間型の対応キャンパス、サポート機能の充実などを考えています。


キャンパススタイルオフィスの概念

 ここでは、「自分流のワークスタイル」「良質なホスピタリティ」「次世代の技術を生かしたインフラ」「交流する空間」という大きなキーワードの中でいろいろな仕掛けをしていくことになりました。
 エレメントとしては、プロジェクト対応の部屋、チームワーク、コラボレーション、コンファレンスという位置づけになります。カフェ、ライブラリーなどはリフレッシュメントです。サポートのエリアは「コンシェルジェ」と呼び、働き方が24時間型に変わったときに、何らかのかたちで24時間必ずワーカーをサポートしようという考え方です。
 今までとの違いは、従来は定型型、均一型の働き方やマネジメントでしたが、湘南ではキャンパス型のワークスタイル、要は大学のキャンパスのようにある程度自由な発想、自由な空間の中で仕事をしてもらおうということです。
 特徴は、プロジェクト型のワークサポート、サービスやルールに縛られない勤務形態、必要なときに必要なサービスが受けられる、どこでもオフィスになれる、いつでもだれとでもコミュニケーションがとれる、パーソナルスペースの充実、異なる価値観や才能との交流、ライフスタイルのこだわり、仕事と遊びのボーダーレス化といった部分です。
 ソニーは、皆さんが思っているソニーらしさと多少イメージが違い、全社員のうち7割はかなりコンサバティブで、新しいことをしようとすると抵抗勢力になる人は結構多いのです。そういう中で新しい仕掛けを進めるには、社員の協力も必要になります。


キャンパススタイルオフィス検討の視点

 キャンパスオフィスの仕掛けは、究極のノンテリトリアルは可能なのか、コラボレーションを最大限サポートするためのツールやソフトとは何なのか、ブロードバンド時代に対応する仕掛けは何か、会社が楽しくなる魅力的な仕掛けは何なのか、24時間稼動できるオフィスに必要なインフラやサービスは何なのかという視点で考えていきました。その結果、女性から育児スペース(託児所)が欲しい、マイカー通勤をさせてほしい、高速のLANを導入してくれなど、いろいろなアイデアが出てきました。


キャンパス構想対象エリア

 今回、フェーズをいくつかに分けて1万9000平米の遊休スペースを活用するプロジェクトをスタートさせました。まずは湘南キャンパスPh−1ということで、2600平米の規模の建物を、IT関係のビジネスを受け持っている部門に展開していただいています。Ph−2はサテライトオフィス、Ph−3は営業系のサポートオフィス、Ph−4がある程度の大きいカンパニーを想定した1万2000平米の展開ということで、現在はPh−4の仕掛けに入っています。
 Ph−1は、3号館3階の細長い建物ですが、こちらに約100名のIT技術系の部隊を昨年の3月から展開しています。入居部門に打診をかけたり、きちんとコンセンサスをとったりして作業を進めてきましたが、これを進めるチームにはファシリティのメンバーがプロジェクトマネジャーとして入り、ユーザー代表、プロジェクトのワーキンググループ、工事をするグループ、現地でマネジメントをするグループと連携をしながらプロジェクトを進めています。
 Ph−1の段階では、新しいオフィスに移って何が変わるかというトライをしたわけです。現状についてどのような課題があるかインタビューをしたり、当然、入居前と入居後の評価を比較して分析もしました。
 入居前の結果を少しご紹介すると、「きちんと休憩ができていれば生産性が上がるかもしれない」「喫煙者は喫煙室が情報源となっている」「本当はフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションをとりたいが、すぐメールですませてしまう」「書籍や雑誌といった一般的な情報メディアの入手がしにくい」「社内のどこにいても、社内のネットワークに接続できる環境が欲しい」などがありました。


ワークプレイス基本方針

 それらを整理し、問題解決の方向性をまとめたものがワークプレイスの基本方針です。
 これまではほとんどの仕事を自分の席で行う完結型で、会議をする場合には会議の場所へ移っていましたが、この湘南キャンパスの中では、仕事の中身によってもう少しフレキシビリティを持たせました。
 自席での仕事、集中したいときに使えるシンキングコーナー、アイデアや刺激を探すブラウジングコーナー、複数のメンバーとの協業のためのコラボレーションコーナーと、同じオフィスの中をゾーニングし、仕事がどう変わるかという検証もこの中で進めてきました。
 また、企画立案型、シッタータイプの専門特化型、トラベラータイプ(席にはあまりいない人)に分かれます。ただし、この中でも家具はモジュールを決めて、企画の人は4人のチームの真ん中に打ち合わせテーブルを置き、すぐミーティングができるようにします。シッタータイプの専門特化型は集中をしていたいので、少し外へ出した打ち合わせテーブルがあります。トラベラー型は常時席にいないので、例えば4人でも2つの席でいいのではないかという考えで進めてみました。
 このオフィスは、移転前はテレビの生産ラインがあった場所です。それがオフィスエリア、インフォーマルコミュニケーションエリア、コラボレーションエリアなどに生まれ変わり、明るくて清潔感のあるオフィスになりました。
 専門特化、企画型、トラベラータイプのオフィスは打ち合わせコーナーが外に出ており、専門特化型は業務集中タイプということで、個人用にスクリーンがあって集中したいときにそれを後ろに立てることによって邪魔をしてほしくないというサインにもなります。もっと集中して仕事をしたいときにはシンキングコーナーが4席あるのですが、実はだれか使っていると入りにくいという声が先程のアンケートの結果では出ています。会議室は16人用で、真ん中にITのインフラが来ており、モジュラージャックや電源を差し込めばすぐにソニーの中のネットワークに入れます。
 インフォーマルコミュニケーションエリアはリフレッシュコーナーで、ガラス張りの喫煙ルーム、ライブラリーなどがあり、インフォーマルなコミュニケーションをとる場所としてセットされているものです。禁煙のリフレッシュコーナーには畳があり、非常に人気があります。コラボレーションコーナーは、スクリーンを下ろすとミーティングルームにもなり、多様な使い方ができます。ほかにリラクゼーションのコーナーもあり、昼は使いにくいけれども、夜、残業時間疲れたときに使っているというアンケートの回答がありました。
 1か月たって、皆さん方に意見を聞いてみると、「疲れない」「居住性が高まった」「清潔感がある」「打ち合わせのスペースが十分あるので非常にいい」ということで満足度が高くなっています。あるいは、今回椅子を変えて、本社の部長と同レベルかそれ以上のものを一般の社員が使えるようになったため、デザインも座り心地もいいと評判です。
 一方で、デスクまわりの配線、温湿度、外部騒音、収納スペースへのアクセス、デスク形状等々でいろいろ不満もありましたが、これは小さい問題で、すぐに改善したり、慣れたりすることで問題がなくなっています。ただ、いいと思ってやったことでも、反省する材料はありました。先程のシンキングコーナーにだれかいると入りにくかったり、マッサージ機が日中は使いにくかったりすることです。しかし、採用がしやすくなり、非常にいい人が採れるようになった、明るくて清潔で非常に気持ちがいいという意見が多く出ています。
 社員の行動特性がどう変わったかという分析もしました。これは新しいオフィスに移る前後での行動特性の比較になりますが、1日の時間がどのように使われているかを、2週間、毎日記入していただきました。
 その結果、これはずっと定常業務をやっている方たちではないので非常に判断しにくいのですが、1つは個人席での時間が10%ほど減っています。そして、企画立案型の方たちがコラボレーションのエリアをうまく使い始めています。また、会議室の利用時間が増えています。
 行動についてのここがポイントなのですが、結果として出たのは、従来に比べてなんと一日あたりの働く時間が平均的に1.2時間減っています。これを正しいとするかどうかは、いつも同じ仕事をしている人たちではないので判断が難しいのですが、約10%労働時間が減っています。メールに費やす時間はあまり変化はなく、すべてのタイプでコラボレーションの時間は増えています。
 ワークスタイルに関するアンケートもとりました。「場所を使い分けることによって業務効率が上がったと感じますか」という質問に対して、「どちらかといえばそう思う」も含めると、全体で80%を超える人たちが「効率が上がった」と感じています。業務の種類でいうと、特に企画立案型・専門特化型の業務についてはさらに顕著で、90%近い人たちが効率がよくなったと答えています。定型業務型の人たちは、少しはよくなったという程度のとらえ方をしています。


Ph−1のまとめと今後の課題

  Ph−1のまとめと今後の課題としては、いい仕掛け、すみ分け、アイデアの提供などは継続してやっていかなければいけないし、反省すべき点はきちんと改善していくことが必要になってきます。
 その一方で、ワークプレイスをサポートする人たち(サイトのマネジメントをあずかる人たち)の意識も、同時に変えていかなくてはいけません。あるいはもっと進んだら、もっといい事業をしてもうけてもらうためにサポートする人たち(総務の人たち)に先取りをするような考え方や行動が必要と思われます。
 ユーザーはこの中で、新しいオフィスということでホームページを作っています。会議室には野菜の名前を付けて、この野菜をクリックすると会議室の予約ができる仕組みになります。ここには部屋の大きさ、インフラなどの情報もあります。
 次にPh−2を、サテライトオフィスということでスタートしました。これは50名規模のサテライトで、実際に運用して使われ方がまだまだという部分です。実際には、喫煙ルーム、非喫煙リフレッシュエリア、そして全部サテライトの個別のブースのオフィスがあります。ラウンジはだれが使ってもいいタッチダウンのオフィスとして用意しています。
 これは、ブロードバンド時代の新しいワークスタイルとして、ソニーがそういうビジネスをしていることもあり、いつまでも働き方が変わらないのでは意識改革にならないということで、人事と連携してこのようなオフィスの仕掛けをしています。そして、社員の自立性やワーカーのためのゆとりを求めて、新しい人事制度もこういうトライから見直していこうということです。  Ph−3は営業系のサポートオフィスで、今年の5月に入居し、1500平米に対して270名が展開しました。この部隊は、オフィスそのものは非常に密度の濃いものになっていますが、パブリックの部分はキャンパスのコンセプトを踏襲しているので、一歩自分の席を離れたとたんに空間や気持ちのうえでゆとりを感じられる仕掛けになっています。
 特に営業系の部隊はスペースコストを意識してできるだけ詰め込みたいのですが、それでも社員が気持ちよく働けるかたちは何か、個別最適と全体最適をどのようにバランスをとるかということでトライしています。
 したがって、Ph−3のエリアでは、パブリックのリフレッシュエリア等が充実したものになっており、デスクの形状も多少変化を持たせたものを採用しています。椅子についても、同じようにグレードの高いものを使いました。働く人は、多少効率を求められて小さいスペースになっても、使っているツール、特に椅子などはグレードが高いと、疲れにくく、座っていても気持ちがいいということで評価が非常に高いようです。また、リフレッシュコーナーとコミュニケーションコーナーには広い空間をとり、喫煙できるエリアもガラスで区画をしています。こちらは、詰め込んだわりにはクレームがほとんど出ておらず、働いている人の評判も非常に良いようです。
 現在、残り1万2000平米に対して、カンパニークラス(技術、事務系)の展開を考えています。これは今年度きちんと予算を取り、来年の3月までに展開を終わらせる予定です。
 こちらの最終的な部分のコンセプトは、なにしろ遊休スペースを使い切ることです。そのために必要な投資は、ここは工場の跡地で空調からすべてやり直しを求められますが、都心からこちらに1万2000平米の規模が移り、二十数億円のお金をかけたとしても、7か月ほどで元が取れるだろうと考えています。それから、郊外型のビジネスセンターのモデルにし、次世代のワークスタイルの検証もしようと考えています。
 真ん中の部分は人が集う場所に設定し、それを取り囲んでさまざまなオフィスが展開できます。部屋は1ステップ上がったところにオフィスがあり、下は収納の場所にしてもいいようにします。同じような位置づけで、本部長やプレジデントなどは一段高いところで、皆も見える、皆が見えるという場所に新しいオフィスをつくってもいいと思っています。また、通路部分は湘南というイメージで、サーフボードにアドレスを付けて、アメリカでいうとノーテルの工場跡地のようなイメージを考えたりもしています。
 真ん中に、皆が集う場所としてセンター広場を設け、オフィスの中に広場があるというイメージを持っています。ここでは階段状の段差を利用してプレゼンができたり、反対側ではまた違う仕掛けができたりします。普通のソニーの事業本部あるいはカンパニーになりますが、今までにない環境を提供することによって新しいソニーのビジネスができるようなサポートを、ファシリティの部門が戦略的に仕掛けていく一つのモデルになると思います。
 最後に、ソニーPW(Project Ware)1というキーワードがありまして、これからの働き方として何が考えられるのか、そのために必要なインフラとは何なのかということで、ソニーの本体のR&Dの知的研究をしている部隊を含めていろいろなことを共に検証しようとしています。
 今、芝浦の跡地に実験のためにテント幕を使った450平米ほど建物を造り、この中でソニーのR&Dのメンバーがいろいろな検証を始めています。一段下がっている部分があり、ここはネストと呼んで巣ごもりをしながら仕事をするようなことも考えています。また、テント状に囲われているで、電波の漏えいがどうかという検証もこの中でしていきます。
 ソニーもまだまだ一般的な働き方、一般的なレイアウトが多いのですが、その中でコストをうまく削減しながら、新しい働き方の環境の提供を進めていきたいと思っています。また、先程、中津さんからもあったように、遊休スペースをそのままにしておかないための施策に、新しい視点で取り組みつつあります。
[ Contents ]






■ 講演


鈴木氏 「デジタルワークプレイスの実現」
鈴木 信治 氏
(PwCコンサルティング株式会社 ワークインフラコンサルティング部マネジャー)
講師プロフィールはこちら→
関係資料(6,332KB)→

PwCCオフィス変革の履歴

会社概要


 PwCCが約8年の間にオフィスに関してやってきたことの履歴をご紹介します。
 私どもPwCコンサルティングは、プライスウォーターハウスクーパーズというグローバルな会計監査法人を主軸とした大きなグループ企業の中の一部です。今よくニュースで入ってくる会計監査事務所とコンサルティング会社の分離独立という流れの中で、まもなく私どももコンサルタントの部隊は完全に分離独立するかたちになる途上にあります。
 特長としては、戦略系のコンサルティングからテクノロジーを使ったインプリメンテーションまでトータルに支援している点と、業界ごとに専門知識を持った人間をそろえて、業界特性に合ったサービスをご提供している点です。


組織

 組織図は、私どもの会社のサービスの特長も表しています。製造、金融、情報・娯楽、エネルギー・公共といった各業界に特化した組織が縦軸になります。マトリックス型の組織になっており、ソリューションとして、サプライチェーンマネジメント、人材管理、顧客関係管理(CRM)など、我々が提供するソリューションごとに横軸を切っています。この縦軸と横軸が交差するボックスの中で、1500名強のコンサルタントが仕事をしています。ですから、コンサルタント個々人からみると、縦軸と横軸の2つの属性を持って仕事をさせていただいているかたちになります。


何をしてきたか?

 約8年前に恵比寿ガーデンプレイスという場所に事務所を移しました。オフィスの引っ越しは、いろいろなことをあらためて組み立て直すには非常にいい機会でした。その半年前に役員が大幅に変わり、現在も会長兼社長を務めます倉重が率いるかたちで自社変革路線を歩んできました。
 94年秋、我々が最初にしたのはペーパーレス化でした。当時も、ペーパーレス化というのはなかなか思うようにいかない、少しかびの生えたようなイメージがつきまとう言葉でしたが、私どもの場合は、これを徹底して行いました。ペーパーレス化が徹底したおかげで、その後のいろいろな施策が比較的スムーズにいったのではないかと思っています。BPIAの研究会の中でも、この手順を議論する際に、当社のやり方を事例として分析しながらやってきた経緯があります。
 1994年から自社改革を進めていくうえで、21世紀に向けてこういう企業でありたいというビジョンを示すものとして、「知識企業」と「最高の働き場所」という2つの言葉を選びました。
 今見返すとあたりまえの言葉ですが、私どものようなコンサルティング会社にはメーカーのようにもの作ってそれをヒットさせるという構図がなく、一個一個のプロジェクトに対して人を集めてお客様にサービスを提供するという自転車操業的なところがあります。そうすると、集まってくる人たちの知識のレベル、あるいは人が集まってコラボレートしながらそこで何が生み出せるかが最終的にはお客様に評価されるので、とにかく知識に根ざした企業でありたいというのが1つです。
 「最高の働き場所」は、どちらかというと内向きです。我々コンサルティング会社業界は人の流動性が高く、平均で年間25%人が動くといわれています。つまり、1年間で社員の約4分の1が出ていったり、新しく入ってきたりして入れ替わっているわけです。我々はそれより少し低いパーセンテージで推移していますが、いずれにしても自分のキャリアのある一過程をここで頑張ってみようという人が多いのです。
 それは逆にいうと、この会社にいる間に最高のパフォーマンスを個々人に出してもらうためには、会社としてどういう仕組みを整えていったらいいかということになります。したがって、評価の仕組み、報酬の仕組み、あるいはキャリアを高めていくための機会の提供を中心に、人事や能力評価を変えてきたという歴史があります。
 今日はペーパーレス化、デジタル化、あるいはオフィスに関連して「最高の働き場所」を中心にお話しします。


デジタルオフィス(完全ペーパーレス)

 私どもはかなり徹底したペーパーレス化をしたと言いました。それは、情報を作成し、それを流通させ、それを見て、最後に保存するという行為、この4つの情報とのかかわりの部分をすべて徹底的に紙を排除してデジタルでやっていこうというのが私どもにとってのペーパーレス化、裏を返せばデジタル化でした。
 ただ、もちろんこれはあくまで昔も今も社内のところです。お客様との間では、今でもファクシミリのやりとりはありますし、非常に大量の書類をお客様から預かることもあります。もう1つ例外的なのは、見る行為もデジタルでと言いましたが、長い文字数のメールをいただいて、それをプリントして電車の中に持ち込んで読むことは私もやりますし、それをノーだと言っているわけではありません。ただ、それはあくまで個人でとどめて、共用の情報として戻すときには紙では絶対だめだというのが我々にとってのデジタル化でした。これはかなりトップダウンで進めたおかげで、オフィスを見学された方からは、真っ先に紙が少ないという感想をいただきます。


フリーアドレス(コンサルタントのワークスペース)

 コンサルタントのワークスペースのレイアウトは、6名掛けの長いテーブルがずらっと並んでおり、どこの席についてもいい、逆に個人席がないという、俗にいうフリーアドレスをとっています。
 さらに、席数はコンサルタントの数の30%に設定されています。私どもも年々人が増えてきていますが、増えてきた人×30%よりも席が少なくなりそうになると増床したり、テーブルを増やしたりするというメンテナンスをこの5〜6年の間やってきています。
 なぜこのようなテーブルを使っているのかというと、私どものコンサルティングの活動は100%チームでやっていくからです。今、これだけ複雑化した課題に対して、一匹狼のコンサルタントが対応することはありえません。少なくとも3〜4名、多ければ100名を超えるプロジェクトチームをつくり、メンバーの間でコラボレーションしながら仕事をします。チーム内では情報共有が不可欠です。
 私どものコラボレーションというと、例えば受注前にはお客様に対する提案書を何人かの専門家が一緒に作業して作ったり、実際にコンサルティング活動が始まると、またプロジェクトチームで議論し、作業を分担しながら、それを集合させて皆でディスカッションをして一本にまとめていったりということを、徹底的に紙を使わずにやっています。


電子会議室を使ったコラボレーションのイメージ

 ホームページ、各種指標、日経情報、優良事例、議事録などを画面で見ながらワークショップを行い、その画面に注目しながら議論をし、その場で直していったり、作っていったりするということが、私どもの仕事の中でかなり定着しています。
 例えば、ナレッジスタジオという内部会議のための部屋があり、前面に少し大きめのスクリーンがあって、そこにプロジェクターで何面か投影します。真ん中の方には、スケジュールがあったり、場合によってはAさんが作ったパートとBさんが作ったパートを対比しながら語尾を合わせていったりします。そのようなかたちで打ち合わせをし、成果物を作っていくということが、私どものコンサルティング活動の中のかなりの部分を占めています。
 同じようにお客様との間、あるいは直接のお客様ではなくとも我々の事業所のパートナー企業の皆様との活動も、画面をたくさん使いながらやっていくことが多くあります。そのためのマルチスクリーン会議室が、現在は5部屋ぐらいあります。


電子重役室(eエグゼクティブスペース)

 2000年の暮れには、当社の重役(会長の倉重以下、常務クラスが5名ほど)が働く役員室、トップエグゼクティブの場所を大きく改装しました。もともと個々の役員が皆個室に入っていましたが、トップの役員もある意味でコラボレーションしながら会社のディレクションをしていきます。そうすると、一般のコンサルタントと同じようにスピーディにコミュニケーションしたり、情報をシェアしたりすることが重要になります。そこで、マネジメントチームのコラボレーションをコンセプトに、いわゆる大部屋方式にしました。
 もう1つは、ガラスをたくさん使って非常に透明感のある部屋になっています。これはむしろ内向きに、ここで行っているマネジメント活動は非常に透明だということを社内の人間にも強くアピールする意味もあってのデザインです。この部屋にはドアは付いていますが、部屋に入るときにいちいちアポはいりません。私のような一般社員も、ここを行き来しながら社長や常務と話すことがよくあります。
 役員はオープンなテーブル席に座っており、個室は一切ありません。例えば財務担当役員が自分のパソコンに映し出された情報を何人かで見ながら議論したいという場合には、その席の前に集まることもありますし、パソコンにケーブルをつなげば情報がプロジェクターで前の画面に出てくるので、そのまま画面の前に立って議論することもあります。


何が変わったか:紙消費量

 この7〜8年のトライアルで、数字的な部分でどんな結果があったかをお話しします。最初の出発点である紙に関しては、トップダウンで徹底的に排除したおかげで、95%の削減と極端に少なくなりました。
 しかし、いろいろ調査を継続的にしていたところ、月1人あたり80枚ぐらいで推移していたものが、つい半年前に160枚と倍になっていました。私どもの会社はもともと改革をスタートした94年には180名の会社だったものが今は約1700名ですから、簡単に計算すると9割以上の人間は大きな転換をしたあとに入ってきています。もちろん入社のときに会社の考え方をインプットするのですが、9割の中には前の会社の風習を持ち込む人もあって、紙に関しても少し気がゆるむと増える傾向はあります。
 そういったときには、コピー機やプリンタを減らしました。かなり乱暴だと思われるかもしれませんが、コンセプトがしっかり伝わっていれば、ある意味で器から攻めていくことは必要であり、また非常に効果を出すことがあります。これを皆様の会社にそのままお勧めするつもりはありませんが、綿密な計画の下に、あるときはがんとやってしまうことが必要ではないかと思います。実際、コピー機を減らすと紙は減りました。


何が変わったか:インフラコストの低減

 IT、スペース、通信、紙の4つのコスト要素を我々はインフラコストと定義し、これが年間1人あたりどれくらいかということをいつも追いかけています。
 その数字を1994年の秋に移転する前後で比較してみると、1995年の期末は移転直後で金額的にはほとんど変わっていないのですが、大きく変わったのはITとスペースの費用バランスです。ITはかなり増え、スペースがかなり圧縮されています。これは、先程のフリーアドレスによるところもあるし、前のオフィスにあった図書館をこちらには持ってこなかったことなど、いろいろな要素が功を奏しました。つまり、同じ目的で1つの仕事をやっていくうえで、ITに投資するのかスペースに投資するのかというある段階での判断が必要なのではないかと思います。
 そのあとはどんどん減ってきています。その最大の理由は、実はITの部分です。IT投資を削ったつもりはあまりありません。例えば2年に一度パソコンを新しいものに取り換えていますが、どんどん単価が下がってきているので、1人あたりに直すとコストは下がってきています。プロジェクターも8年前と比べると、今は価格が10分の1になっています。代わりに、モバイルの関係で通信費がどんと増えましたが、これも競争が激しい分野ですので、今後もっと落ちることを期待しています。


何が変わったか:生産性

 この約8年の間に、私どもの社員数は約8倍になり、売上高は16倍になっています。生産性にもいろいろな定義があるでしょうが、単純に社員1人あたりの売上という意味では約2倍になっているということです。それ以外にも、いろいろな数字のうえで私どもの仕事のやり方がずいぶん効率化されたのではないかと思います。
 特に、いわゆる人事や経理などのバックオフィス要員は全部で8%、これに2%の役員を足して10%が当社の間接部門で、残り90%が収益目標を持っているコンサルタント職、つまり直接部門になります。


デジタルオフィス実現のステップ
紙資料に頼った会議は、スピード経営に寄与しない!


 今日のテーマはデジタルオフィス、完全ペーパーレスです。どこの企業でも100%コンピュータで情報を作っていると思いますが、私どもの1つの特長として、資料を見ながら議論するようなところをデジタルでどうやっているかということです。
 従来は会議をしていても、状況報告が数週間前の状態を表している、次回までに確認ということが多い、報告で終わるだけで行動計画が立たない、各部署から上がってくる報告書の様式が統一されていないために比較するのが難しい、紙資料が非常に多く準備に時間がかかるなどということがありました。あるいは、会議で何かを決定したとしても、それがスピーディに現場を動かすための力になっていなかったりしました。紙をすべて悪者にするつもりはありませんが、会議や協働作業をデジタル化することによって、この中のかなりの部分が変わっていくことを我々は実体験として持っています。


会議(コラボレーション)のあるべき姿

 会議には、会議の現場の話と、その前工程と、会議が終わったあとの工程があります。比較的伝統的な紙を使ったスタイルの会議のプロセスと対照させるために、徹底的にデジタル技術を使ったときの会議のプロセスを書いています。そして、私どもはコンサルティング会社として、あるべき姿を自分たちも体現したいと考え、後者のプロセスを実現すべくインフラ面でもいろいろな工夫をしてきました(詳細は資料参照)。


マルチスクリーン環境構築の経緯

 今日もこうしてスクリーンを使ってプレゼンテーションをさせていただいていますが、私どもはプレゼンテーションのためにスクリーンを使うだけでなく、内部の会議やお客様との議論、ワークショップなどでも徹底的にスクリーンを使います。
 ただ、最初スタートした時点ではシングルスクリーンで、私のコンピュータの情報が出てくるだけでした。これはページの情報量に限りがあり、例えばA社、B社、C社の株価比較をしようにも、画面を3分割すると小さくなって非常に無理があります。
 そこで、96〜97年から、私どもは会議室にプロジェクターをマルチで使っていく方法を取り入れました。それで今の問題は解決しましたが、私どもは2週間に一度経営会議を開いており、そのつど3つのスクリーンにそれぞれ1台ずつコンピュータをセッティングするやり方では操作性と再現性に問題がありました。  それを何とかしようと考えて、今度は1台のパソコンから1つのスクリーンにエクセルの情報とパワーポイントの情報を分けて表示したり、あるいはパワーポイントの1ページ目と2ページ目を分けて表示したりできるように、あるベンチャーと一緒に開発を進め、今は売り物にもしています。
 マルチになると、情報をどんどんドリルダウンしたり、ベンチマークしたり、あるいはいろいろな角度からのチャートに分けてクロスで見ていくこともできます。また、よくエクセルなどに横長の表があるとスクロールしなければ普通は見られませんが、画面が全部つながっているので、3面分を横長にして1つのスクリーン上で見ることもできます。
 さて、伝統的なビジネスからeビジネス(新しいビジネスモデル)への流れの中で、どんどんお客様フォーカスのビジネスモデルが議論され、またそれがいろいろなかたちでトライ&エラーで構築されてきています。しかし、お客様は気が変わりやすく、お客様にフォーカスしたビジネスモデルを作ろうとすると、会社が非常に身軽に動けなければなかなかお客様に対応できません。
 PwCグローバルは、いろいろなスタディをした結果として、物的資本、運転資本、人的資本、顧客の順に逆ピラミッド型のモデルをつくり、下の方を動きやすい構造にしなければならないことを説明しています。そして、ファシリティの領域は、物的資本の部分(逆ピラミッドの下)に属します。ストックの経済からフローの経済へという流れもあり、持つべきか持たざるべきかという議論もありますが、一番下の部分をいかにスリム化して動きやすくしていくかという議論の中に、ファシリティも位置づけられると思っています。そして、足りない部分はアウトソースするなどの手だてを使って、今までとは違うかたちで入手していくことになります。
 人の動きを見ても、モバイルワークやホームオフィスなどの議論がありますが、これも一つの必然だと思います。昔のように縦割りで商品やサービスラインごとに組織を作っていたのでは、お客様にフォーカスするという課題を解決できません。そうすると、組織をまたいで人を集めて、プロジェクトチームを作って仕事をするという形態になっていきます。  それがさらに極端になると、もともとはエッセンスの人たちしかおらず、そのまわりに衛星的に協力をしていただく会社やビジネスパートナーなどがあって、与えられたお客様からの課題ごとにそのつどプロジェクトチームを作って仕事をするアメーバ的な人の動き方、組み方になります。
 これに合わせて、昔からの島型の固定的なレイアウトあるいは役員の個室といったものから、少しずつフリーアドレスなどの考え方も広まってきましたし、さらにその先にはかなり徹底したモバイル化やテレワーク、ホームオフィスなどになっていきます。すべてがそうではないかもしれませんが、新しいことをどんどんやっていこうとすると、このような組織の動きやインフラのあり方になってくるのではないかと思います。


ファシリティは、変革を加速する「てこ」になる。

 会社の変革の切り口は6つあります。市場・顧客、製品とサービス、これらはどちらかというと会社自体よりも外側のプレッシャーです。そして、内側を見ると、組織、プロセス、人材、ITおよびファシリティです。組織を切り口に、その両側にいろいろな変革を巻き起こしていって会社全体を変えていくということもあるかもしれません。しかし、私はファシリティの立場に立っていますので、方法は非常に慎重にしなくてはいけませんが、器から攻めていくというやり方があると考えています。


デジタルオフィス実現要因と実現ステップ

 PwCはあくまで1つの事例にすぎませんが、徹底的なペーパーレス化、動きのいい組織を実現する1つの手だてとしてのオフィスのデジタル化をどう実現するかというステップを議論しました。
 まず、デジタルオフィスの実現が一番上にあり、「プロセス」の変革、「ワークスタイル」の変革がその下に来ます。プロセスや組織や人など、下に下りれば下りるほど土台の部分の階層になっています。
 私どもがBPIAの中で議論した中では、1つは、会社をどういう方向に持っていくか、どういう会社でありたいかというかなり明確なビジョニングが必要です。そこに社員の共感を得たあと、即効タイプで効果があるのは、ペーパーレス環境や外的変革要因のように目に見えるところを変えてしまうことではないかというのが、デジタルオフィス研究会の中での1つの研究成果です。
 3番目のステップとして、ステップ2に付帯して絶対付いてくるものですが、そうそう簡単には変わらない評価の仕組み、組織のあり方などがあると思います。そのステップを巻き込みながら進めていき、最後にコアの部分のプロセスや組織、あるいは人事の制度を変革していきます。
 なぜデジタルオフィスの話で人事の制度まで出てくるのかと思われるかもしれませんが、最終的に社員の方々が非常に多くの時間をオフィスの外側で使う働き方が定義された場合には、そういう人たちをどうマネージするか、どう評価するかといったところに必ずつながってきます。ですから、最初からそういう領域まで関連するという認識の下にオフィスのデジタル化を考えていこうと研究会の中で議論してきました。


Next...
PwCC Workplace Model


 私どもは秋口に、約8年ぶりにオフィスを東京駅の近くに持っていこうと計画しています。次の私どもの新しいワークプレイスを、このようなモデルで考えていきたいと思っています。
 真ん中に一般的にいう会社のオフィス、コアの部分があります。しかし、私どもでは実際には相当多くの人間がお客様のオフィスで働いていたり、あるいは自宅も活用したりしています。ここまでは今までとそれほど変わらないのですが、今、ブロードバンドの時代になり、それ以外の中間的なワークプレイスが増えてきています。例えばインターネットが自由に使えるようなホットスポットや、さまざまな種類のレンタルオフィスもありますし、オフィスの外側に面としていろいろな働く場が出てくるでしょう。我々は最大限それを活用していこうと考えています。それは、通信の世界が今までのオフィスの物理的な部分を相当カバーしてくれるという仮説に基づいています。
 ですから、コアの部分と、短期のプロジェクトに対応できるレンタルオフィスや貸し会議室といったオンディマンドタイプのもの、そして従来からのホームオフィスやクライアントサイト、これらを総体として我々の次のワークプレイスを考えていきたいと思っています。
 したがって、コアである今度の新しいオフィスは、今まで我々が恵比寿で使ってきたオフィスよりも小さくなります。社員数は増えていきますが、オフィスは逆に小さくなります。その代わり、そのまわりの部分を通信を使ってもっと徹底的に活用していこうと考えています。しかし、これは当社だけではできませんので、このようなビジネス領域にいる方々と組みながら、うちのコンサルタントがいろいろなところで仕事ができるという姿を、徐々に構築し始めています。


PwCC次のオフィス/ワークスタイル展開

 恵比寿に移ったときには、ペーパーレス、分散、モバイル、情報共有を目指しました。今度は、ペーパーレスでなく会議室レス、会議室を持たないコアオフィスを考えています(移った当初はまだそこまではいきませんが)。そして、分散は超分散、モバイルはユビキタス、情報共有から情景共有(モバイル・フェース・トゥ・フェース)という考え方をとっていきます。
 情景共有とは、テレビ会議を思い浮かべていただければいいでしょう。我々もテレビ会議を一部使っていましたが、なかなかフラストレーションが解消されない技術レベルにありました。これがブロードバンドの時代になって、あたりまえのようにテレビ会議が使える時代になってくると我々は踏んでいます。そうすると、クライアントサイトにいるプロマネとオフィス側にいる役員が、プロジェクトレビューをテレビ会議をとおしてできるようになります。
 さらに、実は私どものオフィスを使うコンサルタントは、本当に一握りなのです。だんだん分散の程度が広がってきて、3か月に一度しかオフィスに来ない人もいるので、何とか一緒に働いているという感覚をバーチャルにも作っていきたいと思っています。そこで、今考えているのは、オフィスの遠景をカメラに撮り、そのビデオ映像を私どものイントラネットのページに張り付けておくことです。そうすると、自分たちのオフィスの様子が、遠隔にいる人も常にリアルタイムで情景として共有できます。そうすることによって、「一緒」という感覚を少しでもサポートしていければと考えています。
 もう1つは、私どもも2000人規模の会社なろうとしている中で、いわゆるパーソナルケアとして、マネジャーが心身の問題などで1対1の面談をすることが非常に増えてきます。これはプライバシーを要する話ですから、つい個室の増設という話になりますが、個室を増やすのは我々のオフィス・コンセプトに反しています。
 個室に代替するものとして、これは実験ですが、ノートPCで映像を共有できれば、自宅にいるスタッフと、出張先のホテルにいるマネジャーが電話だけでなくテレビ映像も介してプライベートなコミュニケーションを図り、スタッフケアの問題が一部解消していくのではないかという期待も持っています。
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■ 講演


小田氏 「企業が実践するワークプレイス改革」
小田 毘古 氏
(ワークプレイスリサーチ・センタ 代表 ワークプレイスコンサルタント)
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日本の国際競争力

 先程、中津さんも言われましたが、1985〜1993年まで1位だった日本の国際競争力は、2002年は30位にまで落ちています。官民ともに構造改革が進まないことが一番の問題です。ほかにも、変革へのチャレンジ精神不足、過去へのこだわりが強いなど、いろいろ問題があると思います。中津さんは、もう一度日本はカムバックする、過去の経験からいくと15年周期だと言っていました。しかし、もう10年過ぎており、5年以内にカムバックできるかどうか非常に疑問があります。
 また、別の見方に、日本はオーストリア化するというものがあります。第1次世界大戦の前まではヨーロッパ最大の国家でした。当時はハプスブルグ家がまとめており、オーストリアは非常に裕福な国だったのです。ハンガリー、チェコ、スロベニア、イタリアの北部に及ぶ広大な領土を持っていました。しかし、第1次世界大戦でその領土がなくなり、今のオーストリアだけになりました。ですから、第1次世界大戦の前まではウィーンは国際都市で、ヨーロッパの会議といえば皆そこに集まってきて、ウィーンは国際舞台の中心であり、オーストリアはヨーロッパ最大の国でした。それが今、だれもオーストリアを大国とは言わなくなりました。
 しかし、オーストリアの国民は、第1次世界大戦で領土を失いましたが、国民の生活そのものは何も変わりませんでした。日本が第2次世界大戦で負けて、廃虚から立ち上がったという環境とは違います。オーストリアが第1次世界大戦で領土を失ったと同じような状況が、今、日本にあるのです。国は30位まで落ちても、国民はだれも痛みを感じていません。ほどほどに豊かなのです。
 国民の生活は少し下がるかもしれないけれども、食うに困るということはまずありません。ただ、国の評価としては、だれもが日本を大国とは見ません。G7の中でも、日本に代わって中国が登場してくるでしょう。そのようにして、日本はオーストリア化してしまい、今から数年後にはアジアの大国とはだれも言わないだろうという見方もあります。そういういき方もいいかもしれません。しかし、国としてはかなり落ちぶれていくかもしれません。どういういき方をするかは、これからのお楽しみという感じもします。


業種別スペース/費用

 1998〜1999年のベンチマークのデータを、産業別、業種別に分類してみます。Y軸の縦は1人あたりの面積、横のX軸は1平米あたりの年間のファシリティ・コスト(施設運営費)です。
 1人あたりのスペースは、平均して約15平米、金額は1平米あたり10万円ぐらいだと思ってください。当然XY軸で、左上の象限は広くて高い、左下は狭くて高い、右上は広くて安い、右下は狭くて安い、というグラフになります。  そこに機械・電機、建設・設計、金融・保険、商社・流通、サービス業をプロットしますと、機械・電機が一番広くて安いポイントにあります。1人あたりのスペースは約17平米、金額にすると約7万5000円です。ところが、狭くて高いサービス業、あるいは商社・流通は、値段が1平米12〜13万円、スペースも約14平米です(サービスはもっと少なくない)。
 本当は広くて安いことが一番いいのですが、鈴木さんのお話では、これからはスペースの使い方を変えていき、広くて安いから、狭くて安い方向に持っていかなくてはなりません。建設・設計は狭くて安いの中に入っていますが、コストとしては機械・電機ほど安いところにはいません。ですから、機械・電機は一番進んでいます。
 しかし、IFMA(International Facility Management Association)の1年前ぐらいのデータを見ると、アメリカは1平米あたり年間3万6000円、1人あたり25平米です。機械・電機がかなりいい線にいったとしても、まだコストではアメリカは2分の1なのです。さらに平均では、ほぼ3分の1です。先程の中津さんのデータと非常に相関性があります。
これは国際競争力にも置き換えられます。この中で、ソニーをはじめ松下など、いわゆる機械・電機業界には国際競争力がまだあります。しかし、金融・保険、商社・流通に国際競争力はないといわれています。まさに国際競争力のなさは、ファシリティ・マネジメントの世界においても全く同じような図です。電機の競争のこれまでの相手は、アメリカやヨーロッパでした。今は韓国、中国です。国際競争力がスペースとコストの管理にもきちんと現れているのです。


関心度の高いデータ

 2000年に、「皆さんはどういった項目に関心がありますか」「どういったことにこれから会社として取り組まなくてはならないと思っていますか」という関心の高い項目を調べています。、平米あたりの年間施設運営費、平米あたりのオフィス(作り)費用、1人あたりの年間施設運営費、全経費に対する施設運営費と、コストに大変関心があることがわかります。


企業経費に占める施設運営費

 このとき147社が参加してくれて、「全社の面積が把握できますか」と聞くと、147社のうちの102社は「できる」と答えていますが、できないところも何社かあり、意外とできないのは大きい企業に多いのです。それでも147社のうちの70%はできると答えています。しかし、施設運営費となると、実際に全体の経費に占める施設運営費のデータを出してくれたのは48社しかありませんでした。147社のうちの48社(3割程度)しかコストが把握されていなかったのです。
 この48社のデータの平均を見ると、全体の経費(販売管理費あるいは一般管理費)に占める施設運営費は、日本企業と外資系で若干差がありますが、全体の平均は12.5%です。その前の1998年は13.2%ですから、若干よくなってきています。平均的には12〜18%で、20%の企業はあまりありませんが、15%ぐらいの企業が多いことも今までの調査でわかっています。
 15%といってもそれほど大きくないではないかと思われるかもしれませんが、実際には、人件費の次に大きいのです。人件費が平均65%ですから、それに15%足すと80%です。あとの残りの20%強が、宣伝広告費、情報コスト、出張費、交際費などになります。ですから、我々がよくいう経費のうちの大半は、あとの20%の中に入っているのです。どの企業も人件費を除くと、その次に大きいのは施設運営費なのです。西澤先生のおっしゃっているように、ここにメスを入れることは非常に重要です。しかし、メスを入れようにもデータが取れなければどうにもなりません。


経済産業省の憂慮

 「ファシリティ・コストの把握はファシリティ・マネジメントの基本」といわれています。中津さんのお話でも、ファシリティ・マネジメントのコストが出て、それを使って管理チャートやEVAなどを出すわけです。そのもとになるデータが出てこなければ、中津さんの話にはつながりません。それを3割程度の企業しかつかんでいない事実があります。財務会計が主体の管理だからです。管理会計というかたちでの経営管理の必要性を経済産業省はいっています。
 なぜこうなったかというと、「運営」と「マネジメント」が乖離しているからです。ファシリティ・マネジメントの主体は、ほとんどどの企業では総務部門です。総務部門は、コストの管理は経理の仕事だと今まで思っていました。逆に、経理の人はファシリティ・マネジメントという言葉を知りません。ですから、ファシリティ・マネジメントの重要性がわからないのです。それぞれのシステムが、ファシリティコストをきちんとシステムから自動的にとれるようなかたちになっていないのです。これを変えなければいけません。
 アメリカのファシリティ・マネジメント機能は、財務部門に属しているところが多く、ファシリティ・マネジメントは基本的に経営のかなめだと考えられています。そこにずれがあります。
 また、経営のグローバル・スタンダードは「キャッシュフロー経営」にだんだん動いています。今まではボリュームでやっていたものが効率経営になっています。資本コストやEVAが企業の活力・パフォーマンスを測る物差しだといわれ、最終的には資本コストを考慮しても収益を上げている会社がよい会社だといわれています。単に純利益が出るのではなく、資本コストを差し引いてもさらに利益が出ればいいわけです。
 そういったかたちで管理会計の重要性を訴えて、その仕組みを作ると同時に、効率経営、付加価値経営がわかるようなシステムに変えていく必要があります。これが経済産業省の憂慮から、JFMAが委託研究を受けて西澤先生を含めて活動してきた話です。


キャッシュフローと資本コスト

 例えばファシリティの場合であれば土地・建物・設備の固定資産の投資、借りているものであれば保証金や敷金が資本コストです。保証金、敷金は長期で寝るという性質がありますので、これに対して資本コスト率をかけて、金額をきちんと施設運営費のコスト計算の中に含めるということをやる必要があるのです。これがここで言っているポイントです。覚えておいていただきたいのは、管理会計ではキャッシュフローと資本コストを重要視してきているということです。


ファシリティ・コスト把握方法の原則

 考え方として、財務会計・税務会計では1円まできちんと出さなくてはなりません。管理会計は、マネジメントするためのコスト管理のツールですから、完璧な数字を集める必要はありません。大勢がわかればいい、8〜9割の数字が押さえられればよいという考え方です。
 今まで我々は難しいと言っていたのですが、8〜9割わかるようにすればいいのなら、いろいろなやり方があります。損益計算書から持ってきたり、平均値を持ってきたりもできます。それを「新確定申告書方式」と名付けて、これに基づいて計算することにしています。


機能別ファシリティ・コスト集計表

 機能別ファシリティ・コスト集計表中には、家賃、減価償却費、保全費などいろいろありますが、その中に資本コストという欄が1つ入っています。もう1つ、減価償却費には定率法と定額法がありますが、管理会計上のマネジメントでは定額法をとるべきだという考え方があります。定率法は必ずしもオペレーションの実態が反映されず、どんどん下がったりします。
 このようなかたちで、今までの財務会計とは別な見方で、効率経営に役立てるようなファシリティ・コストを集めていくのが我々の課題です。これによって、土地や建物に固執する考え方を脱却していかなくてはなりません。
 実際に何社かに出してもらいました。そうすると、バブルのときに土地を買ったり、建物を建てたりしたところは、資本コストが大変高くなっています。こういうところにもバブルの弊害がはっきりとに出てきているわけです。


施営費/有効面積

 1998年に、東京地区の都心の平米あたりの施設運営費を調べました。このときは5社でやり、HPのデータだけは実際のデータを入れています。先程10万と言いましたが、このときHPは平米11万円だったのです。ですから、世の中よりも少し高いかもしれません。
 2000年には、10万1000円まで8%下げました。A社、B社も同じように下げました。D社だけ少し上がっています。ベンチマークとはこういうことなのです。
 要は、何が自分のところは問題なのかを認識したら、それを次のベンチマークのときまでにどうやって改善していくかということです。一番大きく下げているのはB社です。1998年は平米あたり17万円と一番高かったわけです。2000年には13万2000円と、22%下げています。B社は98年の実態に愕然とし、自分たちの何がそんなに悪かったのだろうかということで、2000年までに相当努力をしたということです。


有効面積/人員

 逆に、1人あたりのスペースは、HPが一番広く18平米でした。2000年に12平米まで33%下げました。先程の鈴木さんの話にあったようにスペースの使い方にチャレンジしているわけです。まだまだプライスウォーターハウスまでにはいっていませんが、こういうかたちで着実にどの会社も努力されています。ベンチマークとは、いいところに学ぶということですから、こういう活動を定期的にすることがベンチマークの重要性なのです。


ハイテク・ベンチマーク・コンソーシアム 2001

 A、B、C、Dという会社だけでなく、2000年には10社に増やしたところ、98年にやっていたA、B、Dという会社は平均よりも下にいます。このことから見ると、ベンチマークをきちんとやっていると、10社になっても平均以上にはなりません。
 縦軸は平米あたりのコスト、横軸は1人あたりのコスト、丸の大きさは1人あたりのスペースになっています。丸が大きければ大きいほど1人あたりのスペースは広いということですから、丸が小さいほどいいということです。ベンチマークをきちんとやっていくと、自分たちの弱さがわかり、そこを次のベンチマークまでに一生懸命直していくということで、ファシリティも改善する気があればよくなるということが、ここで言いたいポイントです。


2010年問題

 オフィスワーカーがだんだん減っていきます。東京23区は、2002年には340万人ぐらいになっています。2010年には330万人ですから、15万人ぐらい減ります(ニッセイの研究所のデータ)。これを2010年問題といいます。2010年までに東京のオフィス人口が約10万人減るということは、370万平米のオフィスが余ることになります。
 大きな理由は、団塊の世代の定年退職です。定年退職があっても今はどの企業も新たに増やしませんから、オフィスの人口は減っていくでしょう。それから、少子化による人口の減少もあります。
 もう1つは、情報化の進展によるオフィスへのこだわりの緩和、プライスウォーターハウスさんなどが一番いい例です。今度東京駅の方へいくときには、今の6掛けのスペースに同じ人数が入ります。オフィスに集まるのではなく、分散化するということです。
 そうなりますと、当然会社の機能が分散化していきます。全部1か所にいる必要はないわけです。例えば都心は営業のお客さん向けだけで、バックオフィスはすべて郊外に行くというかたちになっていきます。オフィス人口はどんどん減り、オフィスが余ってくることになります。
 オフィスビルが生き残る条件は、まず運営管理の刷新による賃料・共益費の削減です。たぶん先程の日本の家賃が3倍高いというところがだいぶ収れんされると思います。3分の1にはならないまでも、半分ぐらいまで下がる可能性があります。  もう1つは、大規模な改修によってビルを近代化していくことです。最近ビルで非常に重要なのは、電源の二重化です。コンピュータが止められなくなっていますから、停電が困るのです。瞬発的な停電だけでなく、1年に一度、ビル全体の点検日があります。あれがコンピュータを使っている会社にとっては非常に問題なのです。点検日には非常用電源を回すビルが多くなっています。
 例えば建設中の六本木ヒルズという非常に大きな建物は、コ・ジェネを使ってガスでビル全体の電気を供給し、ガスが止まったときには東京電力から電気をもらうかたちにするという逆のパターンになります。ビルの電気供給は昔と考え方が様変わりしています。
 オフィス人口は黙っていれば減っていきますから、さらに増やすためには、オフィスビルを住宅用途へ転換していき、そこに郊外に散らばった人たちをもう一度戻す方法もあります。さらに、女性の就業者を増やすことで、託児所に切り換えていくことも必要です。使えないビルは住宅用途か託児所に切り換えて、オフィス人口を増やすようにすべきです。
 一番いいのは、構造改革断行による経済活性化です。しかし、日本がオーストリア化してしまうとできないかもしれません。この1〜2年はその岐路に立たされているということです。これらの問題は、ファシリティ・マネジメントの今日の話の中に全部あります。


情報化と働き方の変化

 情報化と働き方はどんどん変わってきます。情報化の前の段階は、島型対向でPCも何人かで1台の時代でした。情報化の第一段階には、1人1台PCを持つようになり、事務処理が全部PCでできるようになりました。情報化の第二段階には、ナレッジシェアリングやコラボレーションです。ブロードバンドなどのIT化が進めば、事務処理は必ずしもオフィスでなくても、どこでもできるようになります。
 そうなると、オフィスの目的は情報化の第二段階では、コラボレーションあるいはチームワークが主体になります。フェース・トゥ・フェースでしなくてはならないからです。今日のお話のようにそれも全部テレビ電話的なものでやってしまうと、本当に会議室はいらなくなるかもしれません。そのように確実に変わっていくことは事実です。


次世代オフィスのGOAL

 これに合わせて、我々も改革していかなくてはならないということで、次世代オフィスのゴールを挙げてみます。
 ここでのポイントをいうと、働き方が変わっていかなくてはいけません。オフィスを変えるということは、働き方も新しい先程の情報化第二段階に合うようなワークスタイルに変えていくことです。ワークスタイルを変えるということは、当然ワークプレイス、働く場所も変わってきます。
 コストもどんどん下げていきます。絶対額のコストも下げていきますが、例えば1人あたりのコストを25%以上削減します。先程のプライスウォーターハウスの場合、二百何十万が今は百何万になっています。ファシリティのコストだけで見ると、70万円なのです。HPは120万ですから、プライスウォーターハウスは非常にコスト管理もうまくいっているといえます。
 最終的に我々が目指すのは、売上を伸ばして、コストを下げ、勝ち組みに残ることです。ファシリティのコストは即利益につながりますから、利益を上げて、勝ち組に残ることを我々の世界でも考えていかなくてはならなりません。
 BPIAにはオフィスワーク生産性研究会という研究部会があります。今年のテーマはまさに今日の話の、生産性が高いワークスタイル、ワークプレイスのかたちは何なのか、ベンチマークによるベストプラクティスを追求することです。
 プライスウォーターハウスのように非常に生産性の高いところもありますが、業種が違えばまた違ってきます。それぞれの業種に、それぞれ違うベストなワークプレイス、ワークスタイルがあるはずです。それがどのようなものなのかを追求していって、そこでかかるファシリティ・コストを見ていきます。これからはITのコストも重要ですので、ファシリティ・コストとITのコストの2つに焦点を絞って、そのバランスはどう変わっていくかという検証も行っていきたいと思っています。
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講師プロフィール(敬称略)

西澤 脩(にしざわ・おさむ)
  早稲田大学 名誉教授
早稲田大学商学部助手・講師・助教授・教授を経て、現在は早稲田大学名誉教授、商学博士。この間、早稲田大学商学部学部長・同エクステンションセンター所長。同システム科学研究所・同アジア太平洋研究センター所長を歴任。学外では、現在、日本学術会議会員のほか、米国IMA日本支部会長などを兼務。1997年4月、会計学研究功績により、紫綬褒章を受章。主な著書は「原価の会計と管理シリーズ」(白桃書房等)、「会計管理入門シリーズI〜IX」(税経理協会)。


中津 元次(なかつ・もとつぐ)
  有限会社中津エフ.エム.コンサルティング 代表取締役
日本アイ・ビー・エム(株)に1961年に入社し主に開発製造部門で勤務した後、1985年より同社のファシリティの統括責任者である不動産建設担当部長に就任。1990年よりアイ・ビー・エム・アジア・パシフィックの不動産担当理事としてアジアパシフィック諸国の施設を統括した。
1993年にアイ・ビー・エムを退社し、1994年(有)中津エフ.エム.コンサルティングを設立し、ユーザの立場に立つFMのコンサルティングを行っている。
一方、(社)日本ファシリティマネジメント推進協会、IDRC(米国のFMの推進団体)等でのFMの普及活動に参加し、ファシリティマネジメント・ガイドブック、FM財務評価ハンドブックの編集発行を推進してきている。認定ファシリティマネージャー。


小山 義朗(こやま・よしろう)
  ソニーファシリティマネジメント株式会社
  執行役員常務ファシリティ戦略センター長
ソニー株式会社入社後、国内、海外建設プロジェクト(オフィスビルから半導体工場まで)の企画・施工監理を中心に担当。
1987年からはFMを中心にオフィス管理、スペース計画、再配置計画、リニューアル計画業務を担当しオフィススタンダードの構築や社内家賃制度の確立を行う。現在は、ファシリティ戦略センター長として不動産戦略を含めグローバルなFMを推進している。


鈴木 信治(すずき・しんじ)
  PwCコンサルティング株式会社 ワークインフラコンサルティング マネジャー
1982年大手スチール家具メーカーに入社。1990年、米国コーネル大学ヒューマンエコロジー学部に留学。ファシリティ計画管理を専攻して修士課程を修了。帰国後は、先端オフィスの計画およびファシリティマネジメントの分野で企画/コンサルティング業務に従事。現在はPwCコンサルティング株式会社にて、オフィス/ファシリティ計画管理のコンサルティングを展開中。訳書に『ビジネスエキスパートシステム』(ダイヤモンド社)、『ワークプレイス戦略』(日経BP社)、『変革するワークプレイス』(日刊工業新聞社)。
日本ファシリティマネジメント推進協会認定ファシリティマネージャー。日本ファシリ日本ファシリティマネジメント推進協会機関誌編集委員。電子通信情報学会オフィスシステム研究部会専門委員。国際フレックスワークフォーラム幹事。テレワーク99国際会議実行委員。


小田 毘古(おだ・ひこ)
  ワークプレイス・リサーチ・センタ 代表
早稲田大学商学部卒。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)で12年間にわたり、ファシリティ・マネジメント(FM)に従事。日本HPのファシリティ立地戦略、建築、賃借、次世代オフィス、ライフサイクル・マネジメント、アウトソーシングなどに実績をあげ、ファシリティ・コストの大幅な改善を実現。通産大臣賞を含む、日経ニューオフィス賞を4回受賞。1992年1月からは、総務、施設管理業務をソニーにアウトソーシング移管。企業の枠をこえた大胆なFM構造改革で注目を浴びる。日本ファシリティマネジメント推進協会・ベンチマークデータ・センタ長、同協会「ファシリティ・コスト特別研究チーム」委員。京都工芸繊維大学非常勤講師。「ファシリティ・マネジメント・ガイドブック」(共著)。