1.講演に付け加えて―ぜひ言っておきたいこと
(近藤)
先程の講演に付け加えて、これだけは絶対に言っておきたいということがあればお願いします。
(柴田)
今から15年ぐらい前、大企業の中で大きなリエンジニアリングの波がありました。そこで一番難しかったことは、人なのです。これからの時代、先のことがわかる人はほとんどいないのではないでしょうか。
チェンジは、わかる人は別に教育しなくてもピンとわかりますが、わからない人にはわかりません。その本質は、私も含めて人はそもそも変わりたくないというネイチャーをもっていることにあります。それを無理やり変えてしまうことの是非に思い悩んだ時期もありました。しかし、情報技術は絶対にやらざるをえない、そのことと自分との葛藤なのです。
これまでの日本は部分最適化であったといわれます。すべての会社が同じプロセスを持っていたときには、既存のプロセスの部分を磨いていけばおのずと全体最適になりました。ところが、ITによって全く違う新しいプロセスを構築しなければいけない時代に突入し、いままでTQC,TQMを中心に日本が効果をあげてきた製造業のこのやり方(物流を中心)では効果が上がらずジレンマに陥っています。今、日本がぶつかっている問題は、そのような過去の文化や成功体験が大変なバリアになっているように感じられます。
変化とは一人一人が自分で変わることであり、だれかがやってくれるあるいは助けてくれるというパターンでは絶対に変われません。その辺のところが日本は非常に大変な変革時期を迎えているのなだと思います。
(宮沢)
お客様に向けて各工務店の持ち味を出したいのは、小ロットでできるということです。コラボレーションとしてそういう部分で手がつなげますし、さらには全国どこの人とでも手がつなげる時代になりました。我々中小企業が本当にチャレンジしていけば、まちがいなくつながっていける時代が来たと感じています。
(田島)
中小企業のIT化で私が一番気をつけていることは、社員、得意先、仕入先が三位一体となり、インターネットの利用をいかに教育していくかということです。新製品の情報をメールで配信しても、それをクリックして見ることすらできない状態が中小企業の現状です。ですから、昨年11月から仕入先や得意先に対して、アンケートを取りながら当社のインターネット構想を一軒ずつ話しているところです。
(木全)
中小企業が少ない予算の中でどの方向に進んでいこうかというときに、ちまたに情報があまりに氾濫しすぎていて、いったいどれが自社にふさわしいのか理解できないのが実情です。
当社がこの出版システムを立ち上げたときにも、それをどういうかたちで進めていくかという絵がはっきりと描けませんでした。その流れの中で、たまたまネットコンサルタントと契約し、今もいろいろな相談をしています。また、機械の導入でゼロックスとのかかわりができ、そちらからも会社を挙げて支援していただいています。中小企業には、そのような信頼できる情報を与えてくれる人材が必要ではないかと感じています。
2.中小企業がコンピュータを使いこなす方法
(近藤)
中小企業には社内にITがわかる人がいないことが問題です。パネラーの皆さんは、柴田さんを除いて特にコンピュータの専門家ではないようですが、どのようにしてコンピュータを使いこなしているのでしょうか。
(宮沢)
私どもはインターネットでホームページを作るところから入ったのですが、初めは何から手を着けていいのかよくわからなかったので、結局ホームページ製作会社に任せました。
しかし、そのうちに単なる宣伝だけのインターネットに物足りなくなり、自社でサーバを持ちたくなるのです。しかし、そうなるとシステム管理者が必要になってきます。さらに、社内もLANから今はWANを構築するとなると、そのサーバも管理していかなければいけません。それにはかなりのお金がかかってしまいます。ですから、サーバの管理をしてくれてWeb上からも使えるASPとの組み合わせでやっていかなければきりがないと思います。
(近藤)
社員にITの専門家は何名おられますか。
(宮沢)
100名の社員数で、2名の完全なプロフェッショナルと未熟な人が2名います。
(田島)
私は1996年にウィンドウズ95が出たころに、青年同友会でパソコンを一から勉強していきました。
当社のホームページも最初は製作会社に頼んで作りました。そのときに、私がワードしか使えないので、ワードで更新できるように教えてもらうというかたちでリニューアル代を払ったのです。そこからいろいろな本を読んだり、詳しい方にお聞きしながら徐々にスキルを高めていきました。
ですから、実際には当社にはコンピュータに詳しい者は私しかいません。当時はダブルクリックすらできない社員がほとんどだったので、私が時間のあるときに社員一人一人についてゲームで遊ぶところから始めました。今では全社員がメールアドレスを持ち、仕入先からの新製品情報などをメールで配信できるように社内配信から徐々に慣れさせていっています。このままでは1月に間に合わないと思い、一生懸命スキルアップを図っている最中です。
(木全)
当社は社内での専門家はゼロです。私も基本的に苦手で、ほとんどわかりません。必要なことだけは理解していますが、基本的にはアウトソーシングで外部の方に相談してやっています。
とにかく費用がかからないことが前提条件ですから、したいことを外部の人にぶつけて、一番費用がかからずにそれができる方法を提案してもらい、それだけを勉強し、技術的にこれならできるということをしているのが実情です。
当社でも自社サーバの話がありましたが、それには費用がかかるので、今は全部レンタルサーバでやっていますし、それで十分できます。
(近藤)
レンタルサーバとは?
(木全)
自社にサーバを置くのではなく、契約した外部にサーバを置き、電子入稿もすべていったん外部のサーバに入ったものを当社が取ってくるというしくみです。
そのレンタルサーバに専門的な知識がある方がいて、その方にいろいろな相談をしたのが最初です。また、先程言った機械の導入で接点があったゼロックスに相談することもあります。当社は名南経営のイーコールでドメインを取得しましたので、そちらの方にいろいろ相談をする中で話が飛躍していきました。ほかのレンタルサーバがどのような体制をとっているのか知りませんが、我々はそのレンタルサーバの流れの中でたまたまそういう人材とめぐり会えたということです。
3.人をどう育てるか―IT教育の問題
(近藤)
人の問題は一番大事ではないかと思うのですが、ITの人材育成の問題はいかがでしょうか。
(柴田)
ITの専門家といっても、ビジネスがわかる専門家はほとんどの会社にいないでしょう。ビジネスのわかった人とは、今日でいえば宮沢さんであり木全であり田島さんです。
情報技術は技術革新が早く、常に技術の陳腐化が起こっている世界で、方法論もしっかりとは確立されていません。しかし、常識で考えてみると、ビジネスも技術もわかるということ自体が無理なのだと思います。ですから、分業化した中で、ビジネスの話はこの3人の方のように、何をしたいかを情報技術者に言っていただきたいのです。
ところが、ビジネスをわかっておられる方にはITがよくわからないものですから、ITで何かうまくできるというウソ〈錯覚〉もたくさんあると思います。私はIT関連に勤める者として、コンピュータ文化を健全に育てたいと心から思っています。ITは人間のためにある道具ですから、何を変え、何を変えなくていいのかという一番大事なことをまずきちんと議論することから入っていくべきでしょう。
会社の中でITのエンジニアを育てるのには限界があります。それよりも中小企業はとにかく自分の実業を深めてください。そのうえで、これからは道を究めたエンジニアと一緒にコラボレーションする時代です。その線引きができていないために無用な不安を起こしているようにも思えます。
4.コラボレーションを成功させるには
(近藤)
新たにコラボレーションする場合に人数が多すぎるとうまくいかないのではないか、その調整をどうしたらいいかという質問がきていますが。
(柴田)
価値観の合う人(DNA)たちが会話をすると、1つのアウトプットが出てきます。基本的に思惑がないということはないはずで、WIN-WINとはそういうことなのです。我々の研究会にも、来たらもうかるのではないかという人が結構いました。ただ、そういう人は自然と去っていきます。残っている人たちと議論していくと、何か心地よい世界が生まれてくるのです。それは100人に10人もいないかもしれません。
その人は自分のビジネスに対して絶対に危機感を持っている人です。現状に危機感をもっていない会社は絶対にチェンジは成功しません。今日お話いただいた実例にもありましたように印刷業界はこれから危ないという危機感を経営者がもつこと、これがITの原点です。自分たちの危機感から変わろうとして、サバイブできることをやっていくことが非常に重要で、それには語り合える場が必要です。
人数には関係なく、目的意識を持っている人がたまたま会って偶然に1つのアウトプットが出てくる、日本にはそんな場が非常に少ないのです。これが私がBPIAを始めた理由のひとつです。
(宮沢)
私はあまり難しく考えずに行動しています。今、ビジネスをやっているところで、ここがもう少し業務効率を上げられればという問題意識を持ったときに、まず自分がITのことを知っていなければしようがありません。その中で、その会社の強みがあった場合、それをITとつなげられないかというところから入っていきます。それが1社で無理だとなれば、もう1社加わって3社になることもあるし、または1対1でやるケースもあります。
また、当社で作り上げようとした工程管理のシステムがあるのですが、1社で作ると何億円もかかるところが、その技術をすでに半分持っているところと組むとそれが1億になり、もう1社加われば3000万になってしまいます。そのように自分たちで何もかもするのではなく、問題意識をもって強みを持つところを探すという視点で私はやっています。
(田島)
先程の質問は、いろいろな人が集まって考えると、すべてのことをプラスしていかなくてはいけなくなるということだと思います。
我々の業界でも業界データベースを構築していますが、すべての問屋の言うことを聞いていると1つの商品に対して必要以上の項目を入れなければならなくなります。それをすると、おそらく莫大な費用がかかるでしょう。ものごとはもっとシンプルに考えなければいけません。そのためにはシンプルに考えられる人が必要で、それがリーダーであり社長の役割だと思います。
先程3億が1億でできたという話がありましたが、すべての業務をインターネットでやってしまう構想をIBMや富士通に依頼すると1億かかります。当社の規模でそれは無理ですから、業界ですでにできあがったものをうまくアレンジして、2000〜3000万で抑えたいと思っています。やはりそういった業界での協調路線もある程度は必要なのではないでしょうか。
(木全)
私はインターネットビジネスがビッグビジネスになるとは思えないので、あまりたくさんの人が集まってもまとまらないし、だれかが狭いところで、ここはおもしろいそうだということを実現する方がいいのではないかという感じがします。
5.ITを利用するための秘訣
(近藤)
去年はアメリカでネットバブルがはじけてナスダックが急落しました。しかし、着実にITを利用していく時代になったので、その使い方についてご意見があったらお聞かせください。
(柴田)
IT業界では、ドットコムのバブルがはじけるのは時間の問題だといわれていました。しかし、ものが進化するときには少なからず本物が生き残っているはずです。
今日お話しになった皆さんは大変ニッチな世界の方で、その世界に行けば日本一というプライドを持っておられる人が集まっています。このように、今自分が持っているコア・コンピタンスを生かし、そこのところでネットを組んでいけば必ず成功するというのが私のドットコムにおける期待です。
(宮沢)
ITには落とし穴があるように思います。確かに便利ですから、これで業務効率が上がるはずだと思うのですが、実際にはそれをうまく使いこなせない人が結構いるのです。
ただ、私はそれに果敢にチャレンジして、まずはとにかくメールだけでもしよう、パソコンでホームページだけでも見られるようにしようということで、一方通行でもいいからと配信していきました。そうしているうちに、だんだんアイデアも浮かんでくるし、使える人たちも増えてきました。
(田島)
やはり自社の商売の延長線上で考えるのが一番リスクが少ないのではないでしょうか。アマゾン・ドットコムなどは確かに発想はすばらしいのですが、在庫を持ち、物流もすべてやり、ネットだけで商売をしているからいまだに赤字なのです。当社の場合、たまたま在庫があり、代理店のためにコンペカタログを作っていたので、本当にノーリスクでできました。
要するに、本業の部分で効率化のために何ができるかということです。コンペの景品のように、お客さんの手間のかかっている部分を請け負ってシステム化すればビジネスになるのではないかと思います。
(木全)
印刷業界では、今後B to Bが確実に進化していくだろうと思います。現実問題としてインターネットは非常に便利ですし、これから徐々に広がっていくでしょう。当社も社員のほとんど全員にアドレスを渡したのですが、わからない中でも世の中の変化に対応し、自分で努力して理解しようとする姿勢は感じます。
インターネットは1つの生活革命的なニュアンスで動いていくでしょう。そちらに見合うビジネスという発想をしていけば、十分ビジネスはできると思います。
6.流通の中抜き現象について
(近藤)
流通の中抜きは中小企業にとってかなり大きな問題があると思いますが、これについてご意見をお伺いします。
(柴田)
中抜きができるかできないかという次元ではなく、せざるをえないところにきていると考えています。
我々の企業の中でも、リエンジニアリングをするときに工程の中抜きをする場合、なぜ変わらなければいけないのか、何を変えるのかについて人とのコミュニケーションをとり相当議論をしなければいけません。おそらく中抜きをしなければ、我々の国を次の世代に渡せないのではないかと思います。日本が生き残るには、あるいは今の生活レベルを維持するためには、少ない人数で効果をあげる必要があります。その理由は、やはり人口構成が社会構造が変わるにつれて少子化に向かっていることです。これを自然現象として受けとめ、そのことに気づいたら、自分から先にその世界に飛び出していくという姿勢が我々には求められている気がしてなりません。不連続な変化で一番難しいところだと思いますが、そうならざるをえないだろうと思います。また中抜きの決心をするのは、会社側〈経営者〉の決心ではなく、これからのNETを中心とする世界では、お客様が情報を容易にアクセスできることから、ここから買うと安いとかいう実に簡単な理由で、お客様が中抜きの工程〈安い〉をもった会社の方を選んでしまうのです。ですから言葉を変えれば、お客様がそのことを決めるということなのだとおもいます。
(宮沢)
住宅建築の場合、工務店ビルダーがものを買うときの中抜きを考えます。例えばユニットバスで考えると、我々が住設機器会社から仕入れるまでにいくつもの問屋が介しています。その先の製造元も、アッセンブルでとりまとめているだけというケースもあります。
先日、バスタブ、壁、床、ドアなどを作る会社とコラボレーションを組み、1つのユニットバスを作り出したのですが、ずっと大手メーカーの下請けをしていた彼らは、それをするのに大変勇気がいったそうです。それでも、今の状態ではいけないというので決断したと聞き、私は非常に共鳴しました。そういう人たちのチャレンジが水面下で少しずつ始まっています。
ただ、ペーパーマージンだけの無意味な中間は抜いても、与信管理や物流の問題もありますから、一気に全部抜くのは難しいでしょう。私どもはそういう役割の人とネットワークを組むことから始めたいと思っています。
(田島)
中抜きに関しては業界によって違うと思います。例えば文具業界などは、以前は日本全国に文具の小売店が約3万8000軒あったのですが、2〜3か月前に調べると約1万9000軒に半減しています。これは完全にアスクルやカウネットによる中抜き現象の結果でしょう。
ギフト業界の場合はいまだに共存共栄で、小売店はそれなりの商圏を持っており、メーカーが直接小売りをしても物流の問題で不可能な面があります。ただ、企業に対しての直販が少しずつ増えていく時代になり、小売店自体が少し厳しい状況にあるとは思います。
(木全)
我々の業界にはいろいろな印刷があり、機械によって全く違う印刷物が上がってきたりします。ただ、横のネットワークがしっかりしているので、どんな仕事でも受けてそれを仲間うちでこなすというシステムが確立しています。
しかし、ネット受注ということで入札システムのサイトに参加してみると、まさに中抜きでした。自社が持っている機械で印刷のできて、しかもどこよりも安くなければ仕事は取れません。
ただ、デザインやプランニングなどの面では、ネット上でのメールのやりとりだけではニュアンスが伝わらないのではないかと思います。ですから、フェース・トゥ・フェースのビジネスも確実に残るだろうという気がします。
7.これからのIT導入のポイント
(近藤)
最後に、ITを導入してもうかるポイントを一言ずつと、将来こういうことをしたいということがあればお伺いしたいのですが。
(柴田)
今日の3社のお話を聞くと、皆さん非常にフォーカスされており、お客様が何たるかを知っています。この一社一社がお客様から見てベストな会社であり、このような人たちが世の中をドライブしていくのです。ですから、もう総花的に広くインターネットの論議をするのはやめた方がいいでしょう。自分のコア・コンピテンスを磨くことが、ITを導入するよりも先だということを確信しました。
(宮沢)
皆さんから支持され、ビジネスになるには、これなら便利なはずだという勝手な供給者論理を押しつけるのではなく、ユーザーに得だと思ってもらわなければいけません。それには、わかりやすいことがキーワードです。難しいのはよくありません。わかりやすいものから入って、徐々に次の段階に進んでいくのです。
先程言われたようにITは道具ですから、それをいかに使うかということです。昔、鉄砲が伝わってきたときに、織田信長は上手に使いこなしました。今はそういう状況だと思います。言い換えれば、これは我々ビジネスをやっている人間にはチャンスの時期が来ているのですから、これからも頑張りたいと思います。
(田島)
ITはデジタルですが、対応はアナログであるべきです。人間くささがサイトに出ていなければ信用できません。
その意味で、宮沢さんも言われたようにわかりやすくなければいけません。つまり、自分の商売を一言で表現できるかどうかということです。例えば当社には「コンペ景品をゴルフ場まで宅配する会社」というキャッチフレーズができていますが、このわかりやすさがポイントだと思います。
もう1つ、これは私の師匠である有限会社イージーの岸本さんから教えられたことですが、メールと電話は同じ感覚でなければいけないということです。彼の場合、メールを出すと日中であれば2〜3時間以内で返信がきます。私もそれにならっていますが、それがやがて信頼につながるのです。
(木全)
同じように、私も体験の中からメールでのやりとりが大事だと実感しています。何度もメールを交換する中で、不思議と信頼関係が生まれてきます。ここの発想は、結局アナログなのだろうと思っています。