中小企業のためのE-ビジネスモデル研究セミナー

2000年5月26日、於:六本木国際文化会館


<Contents>

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『中小企業の飛躍にASPはどこまで有効か?』
中島 洋  慶應義塾大学政策メディア研究科教授 日経BP編集委員(BPIA常務理事)

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ITベンダーからの提言 「中小企業同士のネットバリアフリーを目指して」

柴田 憲伯

日本ヒューレット・パッカード株式会社経営改善推進部 部長兼社長補佐

鶉橋 研治

マイクロソフト株式会社エンタープライズ・シナリオマーケティング統括部
シナリオマーケティンググループ ナレッジマネジメント マーケティング担当

 
 

3 

『ネットワーク社会における中小企業の挑戦:
 設備メンテナンス産業におけるコア技術とネットとの融合』

 
山本 英司  丸石エンジニアリング株式会社 取締役社長 

4 

株式会社アキュラホーム紹介
 
宮沢 俊哉  株式会社アキュラホーム 代表取締役社長



「中小企業の飛躍にASPはどこまで有効か」
中島洋氏 慶應大学政策メディア研究科教授 



●ASPの興隆

 米国では、昨年の秋からIDC(Internet Data Center)の建設ラッシュになっています。インテルは昨年秋、2002年までに2000億円以上の投資を行い、世界26カ国にIDCをつくる、日本でもNECと共同でつくるという発表をしています。AT&T、シスコ、UUネットもこの数年のうちに、世界に20カ所程度のIDCをつくるという発表をしており、米国の大手企業によるインフラへの布石が次々と打たれています。

 IDCを利用してASP(Application Service Provider)も急速に勢力を伸ばそうとしています。ASPの機能として最も期待されているのがSCM(Supply Chain Management)、ECの取引の仲介です。特に多くの企業が参加するSCMでは、それに参加する企業がIDCの中にデータをおけば、セキュリティとスピードの面でメリットがあります。またSAP、オラクルなどのERPの基幹業務ソフトの運用、あるいは業務アプリケーション、会計ソフト、在庫管理ソフト等もASPのサービスの対象になっています。企業の規模の変化、業務・業態の変化の激しいときに、その変化に合わせて情報システムをアップ・トゥ・デートなものにしていくという課題を解決してくれるのがASPです。

日本流の考え方からすれば、ASPは昔のVAN(Value Added Network)がはるかに高機能になったものと考えていただければ、さしあたりの理解はよいかと思います。本質的なところは違いますが、米国に3年遅れているわれわれが、3年先のことを理解することはできませんので、それはあとから気づけばいいわけです。VANも企業同士の取引の交換を行うもので、たとえばプラネットというVANは化粧品や雑貨のメーカーと問屋間の電子商取引を請け負い、いわばECの前身にあたるものです。VANは中小問屋の情報化を助ける仕組みでしたが、ASPはインターネットを使い、単に取引だけではなく、さまざまな業務分野までカバーします。

●インターネットの高速化

 インターネットの高速化はいくつもの可能性があり、どれかが絶対的に有利だという状況にはありません。米国では1、2年前まではケーブルがインターネットのインフラの主役なるといわれていましたが、最近ではDSL(Digital Subscriber Line)が有力だといわれています。これはADSLが代表的ですが、それ以外にいろいろな方式がありxDSLと総称されます。またCS、BSもインターネットのインフラとして考えられています。

 固定無線ではWLL(Wireless Local Loop)がインターネットの高速回線として実用化寸前です。また、いまは高速ではありませんが、ケータイも十分可能性があります。ケータイとカタカナで表記するのは、単に電話ではなく、電子メールも含めた携帯用の情報交換の道具だからです。いまのiモードは大してスピードがありませんが、さらにワイドバンドなものに変わり、もっと高速になります。またNTTの光ネットの敷設も加速しています。こうしたインターネットのインフラの拡充、高速化がASPの前提条件となっています。

●ASPの技術的必然

 技術は劇的に進展しています。かつてムーアは、コンピュータの性能は10年で100倍になると言いました。サン・マイクロシステムズの技術担当責任者のビル・ジョイは、ネットワークの性能は10年で1000倍になると言いました。これもほぼそのとおりに進んでいます。ここで、コンピュータの性能向上よりもネットワークの性能向上のほうが速いので、いまはネットワークによるソフトのダウンロードは非効率ですが、どこかで交差点が来て、ネットワークを使って外部にある資源を利用するほうが有利な時代が来るはずです。

 最近ジョージ・ギルダーは、インターネットの性能は3、4カ月で2倍に向上していると指摘しています。これは米国のインターネット協会のデータを引用して、彼なりに解釈しているものです。仮に4カ月で2倍になるとすると、1年で2の3乗、8倍に向上します。このスピードが10年続くと2の30乗、10億倍になります。もちろんこの通りに続かないとは思いますが、10年で100倍のコンピュータとの交差点はもっと手前で来て、コンピュータで個々に処理しているよりは、ネットワークを利用してシステムを構築するほうが有利な状況になることは、容易に想像がつくことです。そこから先はASPビジネスの分野となります。

●ASPは中小企業のため

 日本でもインターネットの性能が急速に向上しつつありますが、米国に比べればまだまだ劣っています。米国では去年からIDCの建設ラッシュが起き、そのうえにASPが本格的に乗ろうとしています。日本でASPがきちんとできあがるのは2、3年先かもしれませんが、いまからその準備をしておく必要があります。

 ASPは、特に中小企業にとってメリットがあります。まず基幹システムを外部委託することで、巨額の情報投資から開放されます。特にインターネットを基盤にした新しいビジネスの仕組みに切り替えていく必要がある現在、これは大きなメリットとなります。2番目に、オフィスソフトの外部管理によって、社内に情報技術者をおく必要がなくなります。3番目に、自社開発と比べ、開発期間を短縮することができます。4番目に、ビジネスがあたり急速に業務が拡張しても、それに対応することができます。米国のベンチャーがあれだけ早く大きくなれるのはASPがあるからです。ASPは中小企業の飛躍を手助けする大きな機能を発揮するものと期待されています。

 日本ではまだ環境が十分に整っていません。ただし業種、業務によって、交差点が早く来るところがあります。それを見極め、乗せられるところから乗せていくというのが賢い態度です。あまり早くやると空回りしますが、いまから十分に準備をしておく必要はあります。

●ASP事例

 モードを使った例を二つ紹介します。一つは花屋さんの注文システムです。花屋さんは大口の需要を求めて結婚式場、葬儀屋を回っています。「明日大きな葬儀があるから菊の花を7000本くれ」と言われたときに、従来は卸屋からFAXで相場情報を受け取り、FAXで発注していたために、その場で即決ができませんでした。そこで花の卸屋がiモードを使った注文システムを始め、それをASPに任せました。それによって、花屋さんは出先でiモードを使い相場情報を受信し、その場で発注できるようになりました。卸屋も、従来はFAXや電話で受けた注文をコンピュータに打ち込んでいましたが、iモードからの情報はそのままコンピュータに入りますから、入力の手間が省け、スピードアップになります。

 もう一つは、人材派遣会社の例です。従来は、登録している人から来週の予定を電話またはFAXで聞いて、それをコンピュータに打ち込む。そしてクライアントからの要望に応じて検索をかけ、その人たちに電話をして派遣者を決めていました。それをウェブを使って、登録者がiモードから来週の予定を入力できるようにしました。この会社もASPに仕組みづくりを頼んでいます。

 このような仕組みで、ASPは日本でもじわじわと広がっていますが、ある時点から一挙に広がるというのが私の予測です。



ITベンダーからの提言 「中小企業同士のネットバリアフリーを目指して」
柴田 憲伯  日本ヒューレット・パッカード株式会社経営改善推進部 部長兼社長補佐
鶉橋 研治  マイクロソフト株式会社エンタープライズ・シナリオマーケティング統括部
        シナリオマーケティンググループ ナレッジマネジメント マーケティング担当



●変革の3要素−技術・プロセス・人

 1990年代初頭、アメリカはハードウェアからソフトウェアに国を挙げて転換しました。日本でもいまその転換が起ころうとしています。大きな時代の流れは農業化社会、工業化社会、情報化社会、そして21世紀には、情報を使った創造化社会に入ろうとしています。日本政府は知恵の社会と言っています。いまわれわれは大きな時代の節目にいます。これまでの変化は一つの波のなかでの連続的変化でしたが、いま新しい波への不連続の変化が起ころうとしています。このことをはっきり認識することが重要です。

 新しい波に乗るには、技術、プロセス、人の3要素をうまくコントロールする必要があります。いままでの世の中を変えているのは技術です。いまの新しい技術はIT、情報技術です。技術は、人間の習慣を変えます。逆にいえば、人間の習慣が変わらないものは技術とは言えません。たとえば最近、証券取引所の場立ちがいなくなりましたが、これはITがネットとして進化すると大きな変化が起こることを示しています。

 習慣が変わるということは、プロセスが変わることです。いまの新しいプロセスはリエンジニアリングです。日本ではリエンジニアリングとリストラクチャリングが混同されています。リストラクチャリングは事業の再構築で、採算の悪い事業や工場を売却、閉鎖したり、人員を削減することです。リエンジニアリングは業務の再構築であり、新技術を導入して、最も生産性の高い仕事のやり方に再設計することです。エンジニアリングの語源は、仕掛けあるいは仕組みをつくるということです。この研究会では、リエンジニアリングという新しいプロセスを発足させようという考え方です。

 プロセスのなかには必ず人がいます。ITの変革は具体的に目に見えないために、人に対するコミュニケーションが重要です。

 これからのビジネスモデル構築では、1社あるいは独立組織で何でもできる時代は終わって、価値観の違うパートナーと協力して仕事をする時代に入り、異業種、企業間のコミュニケーションがきわめて重要になります。

●IT革命は中小企業のチャンス

 IT革命により、いま大企業で起こっていることは、技術の面では、グローバルなレベルでの情報技術変革への対応に追われています。世界レベルの大規模なITシステムを持っていることは、その一部の変更にも大変な労力を要します。中小企業は小規模からスタートできるという点で、技術変革への対応という面では有利です。

 プロセスの面では、企業内のプロセスの大変革が起こっています。たとえばHPでは昔、お客様からのオーダーをキーインする人が100人ぐらいいました。ネットの時代になり、お客様がオーダーを入力するようになると、キーインの工程は中抜き、つまり引き算の世界が起こります。それに対して中小企業は、大げさな変革を必要としない、足し算の世界からスタートできる。これは小が大を制する重要なキーワードです。

 人の面では、大企業はプロセスができたとしても、人の再配置に時間がかかるのに対して、中小企業は俊敏性があり、小回りが利きます。大企業はムカデ競走をしている感じで、加速がついたときはいいのですが、変化の激しいときに横飛びや小回りがうまくいきません。だから大企業もいま小さく分けようとしています。

 われわれは半年間、検討してきて、コミュニケーションの場が必要であるという結論に達しました。いままでITベンダーは大企業にフォーカスしてきて、中小企業とのコミュニケーションは希薄でした。今後は、E−ビジネスモデル研究会を通して、ITベンダーと中小企業のコミュニケーションに少しでもお役に立てればと考えています。

●研究会の位置づけ

 E−ビジネスモデル研究会には、何かをやろうとするユーザーがいるでしょう。そこで各業界、既存の業務のノウハウとリアルなネットワークで何かできるかもしれない。ITベンダー、ネットベンチャーはネット技術と情報技術による実践手法を提供する。業界をとりまとめる人がいれば、たとえばまとめ購買、業務代行、ネットセールスが出てきて、ネットコーディネーターみたいな方が出てくる。業界内のリーダーシップをふるえる方が、これからトップリーダーになる可能性があると考えます。

 研究会における新ビジネスモデルの検討、実現支援、マッチング、これに各業界にITを加えると、プラスアルファによる差別化ができるはずです。BPIAの土壌を借り、こういうコミュニケーションの場ができればいいと考えています。ITベンダーの問題として、何でもカタカナや英文字略語で表現しますが、こういう言葉はまず忘れ、またわからない言葉はその場で聞こうというルールでやりたいと思います。

●研究会の目的

 いろいろな業種・企業から、さまざまなアイデアを持った人たちが集まり、ネットワーク技術と結びつけ、参加される専門家の協力を得ることによって、新しいビジネスモデルを構築し、実践したい。アウトプットは、新しい価値の創造、その活動を通して新しい方法論を確立したい。それが新たな社会基盤の創出と日本社会の発展につながるのではないか。こうした大きな志を持って、研究会をスタートしました。

 研究会の進め方としては、何をしたいのか、具体的なケースをもとに議論をスタートしたい。そして産業を超えた再構築とは何かを明確にしたほうがいいだろう。研究を進めていくプロセスとしては、対象顧客を明確にして、リスク分析もやりたい。現実的ビジネスモデル、ビジネスプロセスへ転換して、そこではじめてIT応用の可能性を検討してみたい。ビッグピクチャーやビジョンも議論したいし、ゴールを共有したい。夢を語っても仕方がないので、現実を認識し、ゴールに向かって進むための戦略を検討する。そしてビジネスプランを作成し、ビジネスプランのレビューと参画者の募集をしたい。
 私はBPIAを港と考えています。港の前に酒場があったと思ってください。新大陸を目指す夢を持った人たちが集まり、いろいろな知恵を集める。BPIAの港からナビゲートさせていただきたい。冷やかしで来る人もあるかもしれませんが、ある程度志を持って来ていただきたいというのが、われわれの希望です。ビジネスプランの実施後、活動結果の報告とレビューを行い、成功・失敗のなかから方法論を導きたいと考えています。

●研究会のテーマ

 テーマは、できれば先ほどの新しい波へ移るところとしたい。不連続な変化の時代の将来計画は仮説が重要です。これをシナリオプランニングと呼んでいます。夢のシナリオ、基本シナリオ、最悪のシナリオの三つを考え、リスク回避をしてみたいと考えています。リスクを取ることができるためにはベンチマーキングが必要です。欧米のビジネスプロセスのベストプラクティスを探求、参照し、それを導入することによって最高のパフォーマンスを得る。ベンチマーキングによって、「成功の確信」を持つことができます。

●ビジョンと共有の価値観

 研究会内部のビジョンとしては、5年後、10年後に振り返ったときに、「昔は何と愚かなやり方をしていたんだろう」と言えるような成功例をつくりたいと考えています。共有の価値観の基本マインドはWin-Win-Winです。研究会に参加される人たちもWin、ユーザーもWin、ITベンダーもWin、特に重要なのはその価値の恩恵を受けるお客様のWin、顧客中心主義でいきたいと思います。

 研究会に集まっていただきたいのは、世の中を変えられると信じている方、将来に強い危機を感じている方、自分の実業に自信のある人、急進的なアイデアはあるが、現在の体制に限界を感じている人、ボーダレスに動ける人、皆の知恵と力を合わせれば、何でもできると信じている人、これらをまとめて言えば、俺がやらなきゃ誰がやるという、企業家精神に満ちあふれた方々に集まっていただきたいと考えています。

 研究会運営のキーワードは「変加」、Tradition+eというかたちで考えています。日本にはこういう場が非常に少ないので、何か変えたいと思っている方々にお集まりいただきたいと思います。