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基調講演 |
聖学院大学大学院教授 後藤兼一 |
日本でも最近ホワイトカラーの生産性が問題にされますが、ここでは、ホワイトカラーが働く場、つまりオフィスに注目して考えます。日本ではかつて工場の生産性という視点からさまざまな改革を行われてきましたが、今日はオフィス業務改革を考えようということです。 ●オフィス業務とは何か 一般に工場が物を扱うのに対して、オフィスは情報を扱います。オフィス業務で行われていることは情報の収集、加工、そして意思決定です。オフィス業務の特性としては、一つは不可視性、パソコンの前に座っていても、考えているかどうかわからない。もう一つは不確定性、ある程度工数をかけても成果が出てこないものもある。別の特性のとらえ方としては、直接業務と間接業務、定型業務と非定型業務、オペレーション業務とイノベーション業務、ドキュメンテーション業務とコミュニケーション業務などに分けて考えることができます。 オフィス業務改革は、こうした業務の特性を踏まえ、その本来のあり方を追求していくことです。その切り口としては、一つは分業の形態、あるいは協業の形態を考え直す。またオフィスのQCD、品質、コスト、日程を考え直す。あるいは、Plan, Do, Seeをオフィスにあてはめてもう一度見直す。それによって、生産性と創造性の高いオフィスを考える。たとえば人と機械のあり方、情報処理と意思決定という考え方から生産性と創造性を考える。それプラス、責任や権限を明確にしていくということが大事です。 ●なぜ改革が進まないのか オフィス業務改革が進まない理由は、1番目はムダやヌケがあっても手を着けない。これは日本の構造的な問題で、規制や体制、慣行や慣習がある。さらにホワイトカラーの保守性、つまり本社は工場の統廃合は進めますが、自分たちの仕事には触られたがらない。またリーダーシップの欠如、実行責任者がはっきりしないままきている。建て前は言っても、建て前で議論はしない。根回しでものごとを進めてきたということがあります。 日本の構造的な問題というのは、日本はこれまで物生産第一主義で来たという歴史的な背景があります。資源が乏しい、人口も多い日本としては、欧米から科学技術を導入し、早急に物を生産し、経済力をつける必要がありました。つまり国をあげて、プロダクト、何を作るかということよりも、プロセス、いかに安く作るかということで、みんなの目が工場に向かったということがあります。 オフィス業務改革が進まない2番目の理由は、業務そのものにメスが入っていないということです。これは一つは分析と設計ができていない。ファクトリ業務については、時間分析、動作分析を細かくやってきましたが、オフィス業務ではあまりやらない。それはファクトリでは生産技術者が沢山いますが、オフィス業務のコンサルタントがいない。また、オフィス業務を分析するための手法がないということがあります。アメリカは契約主義で、仕事が決まっているので、コスト分のアウトプットで評価しました。しかし、日本では仕事が不明確な場合が多いので評価できない。さらに分析のためのツールもハードウェアに比べると少ない。そしてオフィス改善の事例がまだ少ないということが挙げられます。 業務にメスが入っていないもう一つの理由は、業務というとらえ方をしていないということです。工場の改善では何を作っているのかが重要になります。鉄をつくるのとマイクロチップをつくるのでは、生産管理の仕方も、運搬管理の仕方も違うので、業種別に考えます。オフィスも同じで、鉄鋼業のオフィスと銀行業のオフィスでは違います。ここまではやっていますが、オフィスの場合、業務という見方をしていません。工場では、設計、生産技術、段取り、組立て、検査というように業種ごとにプロセスを見て、そのプロセスに合ったツールをつくってきています。しかしオフィスでは、たとえば銀行の企画室に合った仕事のやり方、ツール、コンピュータをどう使うかということはすべて担当者任せで、業種ごとにオフィス業務をチェックするということがなされていません。 ●オフィス業務の日欧米比較 私は10年前にシアトルのマイクロソフト社の本社オフィスを見て、そのすばらしい環境にびっくりしました。また北欧、スウェーデン、ノルウェーのオフィスは、照明も明るく、スペースも広々としていました。欧米のオフィスでは自由な雰囲気も感じました。日本ではオフィスでも工場でも、他人を気にして発言しますが、彼らは自分の思ったことをはっきり言います。例えばイタリアは、上司と部下でセールスに行った時、部下が上司と異なる意見を平気で言い、それを認めるという社会です。 欧米のオフィスは、環境がいいだけではなく、生産性、創造性が高いということを感じました。生産性の面では、スピードが速い。そして一人がいくつもの仕事をこなしている。何をするのか、一つひとつの仕事について会社と契約しています。そして分業が進んでいて、アウトソーシングが発達している。創造性の面では、ディスカッションが盛んに行われる。また短期間で文書にまとめることがうまいということがあります。 労働環境としては、特に米国の場合、オープンであり、流動的で4、5年で会社を変わる人が多い。そして国、宗教、民族、男女にかかわらず、いろいろな人が1カ所で働いている。契約がしっかりしていて、仕事の内容が明確で、業務の責任と権限がはっきりしている。逆にいえば、それは俺の仕事ではないという傾向があって、日本人がいらいらするところです。さらに実力主義で、人の採用でも公平・公開の原則が徹底しています。 オフィス業務の改革を考えるうえで、日本と欧米を比較しますと、日本は帰納的に積み上げていきますが、欧米は業務設計から演繹的に考えます。また日本は作ることからスタートしますが、欧米はまず考えることからスタートします。そしてここではオフィス業務といっていますが、業務より小さい単位に作業、さらに小さい単位に動作があり、業務より大きい単位に事業、ビジネスがありますが、日本は現場からといわれ、動作改善から上がっていくのが得意ですが、欧米は上から下りてきます。また日本は改善的であり、欧米は改革的です。これは日本人は、歴史の中で、自らの力で改革した経験がなく、明治維新も戦後改革も外の力によってなされたということがあります。 生産性と創造性では、日本はこれまで量の拡大のみ求めてきましたが、欧米は量と同時に質も求めてきたというスタイルを今も見ることができます。そしてプロダクトとプロセスという見方では、日本はハウツーに関心があり、欧米はホワットツーに関心がある。今、私の知人であるコンサルタントがイタリアのメーカーで仕事をしていますが、すぐプロダクトの話になるので、何を作るかではなく、どう作るか、いかに安くつくるかが大事だと言っています。 ●これからのオフィスのあり方 これからは高度情報社会であることは異論のないことと思います。そこにはコンピュータ化とネットワーク化があり、それは人とハードウェアとのかかわり合いをどうしたらいいかということに尽きると思います。地球化、国際化という面では人と業務とのかかわり合い、高速化、大量化、同時化という面では人とハードとのかかわり合い、そして多様化と多層化では人とソフトとのかかわり合いをどうしたらいいかということになります。これからのオフィスを考えるうえで、グローバル化、多様化した中で一緒にやっていくためには合理性と人間性ということかもしれません。私の知る限りでは、合理性はアメリカ的、人間性はイタリア的となります。別の見方では、合理性は科学的な追求、人間性は芸術的な追求と見ることもできます。 これからのオフィス業務改革の進め方ですが、かつてファクトリで進めたやり方をもう一度見直してみたらどうかと提案したいと思います。つまりオフィス業務は何のためにやっているか、目的・目標からきちんと分析し、オフィス業務の評価、価値とコストをきちんと把握したほうがいいと思います。そして先ほどお話ししたオフィス業務の仕分けをきちんと行う。たとえばオペレーショナル業務とイノベーショナル業務をきちんと分けていく。あるいは定型業務はどんどん外注化していく、あるいは機械化してオフィス工場ができるかもしれません。それを進めるにあたっては、オフィス業務の分析、時間、工程、価値、原価を分析してみる。そのためには専門家の育成も大事です。 これからのオフィスのあり方としては、一つは開かれたオフィス。老若男女、外国人もいろいろな人が協力して仕事ができる。そのために責任や権限を明確にする。2番目は見えるオフィス。つまり手順や手法、成果、品質などが見えるようにする。3番目はわかるオフィス。方針や方向性、目的・目標、有効性や能率性、生産性や創造性が誰にでもわかる。そして成果を貢献度に応じて配分できる。4番目は明るいオフィス。公平・公正であり、昇進や昇格に納得性、説得性がある。最後に5番目が夢があるオフィス。ビジョンがあり、誰もがそこに生きがいを見いだせるオフィスです。
参考文献 後藤兼一、『オフィス業務改革』、聖学院大学出版会、1999 |